表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

継承の炎

 心咲は重たい瞼を上げて、目を覚ます。少し気怠けなのは、春の陽気だが少し風が肌寒く、縁側の板の上でうとうとと眠ってしまったからだ。


 心咲『もうすぐ、狂櫻も色付く頃ね』


 床に寝っ転がったまま、心咲はふと狂櫻に視線を向ける。


 心咲は成長して、青年と呼ばれるくらい成長していた。顔も幼さよりは大人っぽくなって、無邪気さより落ち付いて見える。


 床に手を付きながらゆっくり上体を起こし、視線が落ちて足元が見えると夢がよぎりもやっとし眉を顰める。

 小さくため息を漏らし気持ちを落ち着かせてから、グッと上を向いてまた狂櫻に視線を戻す。

 

 うたた寝をしていた時に昔のことを思い出していた心咲は、月華から昔話を聞いて初めはワクワクしていたのに、最後はあまり快い話ではなかったなと思い出したのだ。


 心咲「・・・まさに、狂櫻っていうだけあって、狂ってる・・・狂わされた?・・・のかも」


 そんなことを、ぼんやり狂櫻を見ながらポツリと呟けば、奥の部屋から声がする。

 するすると着物の擦れる音と共に、月華が奥の部屋から縁側へと顔を出す。


 月華「・・・あら・・・寝ていたの?こんなところで・・・珍しいわね」


 よいしょっと小さく呟きながら、月華はにこにこ笑顔で心咲の横に座る。


 心咲「かー様、用事は済んだのですか?」


 狂櫻から月華に視線を落とし、少し複雑げな顔をして心咲は月華を見る。


 月華「あら嫌だ、この子ったら・・・ふふ・・・ええ、筒がなく。まぁ・・・今回は、継承の儀があるから、何かといつもより口煩い感じはあったけれど、いつものこと。聞き流してたわ。今後は心咲が引き継ぐだけで、何も・・・気にすることはないわ」


 月華は優しく微笑みながら片手を伸ばし、心咲の寝癖を撫でて髪を整える。


 心咲「・・・なら、いいのだけれど・・・」


 月華「・・・あの話を聞いてから、心咲は大婆様を嫌うようになって・・・継承の儀が筒がなく終われば、今度は心咲が大婆様と直接やりとりしないといけないのよ・・・今からそんな状態で、大丈夫?」


 撫でていた髪から手を離すと、今度は心配そうな顔で心咲の手の上に月華は手を重ねる。


 心咲「・・・役目を引継ぐ覚悟は、できてるわ。いくら、あの方が、火鳥の成れの果てとしても、今の白蛇家を牛耳ってるのは大婆様ですもの。歯向かうつもりは・・・ないわ」


 月華「・・・そう・・・でも、まさか・・・大婆様の秘密まで、知られてしまうとは思わなかったわ・・・」


 心咲「え?話す・・・つもりはなかったの?」


 月華「ええ。あなたは、昔話の月華永様に似ている所があって、そういうのを毛嫌いするかもしれないと思っていたの。一応様子を伺って、大丈夫そうなら話そうとは思っていたのだけれど、まさか、鴉天狗様とお話ししているのをうっかり聞かれてしまうとは・・・夢夢思ってもいなかったわ・・・」


 心咲「・・・あの日は何故か・・・急に目が覚めて、目が冴えて眠れなくて・・・そういえば、白蛇様は何故、大婆様を放置のみならず、この家に取り込んだままにしたのかしら?」


 心咲は少し怒りを露わにムスッとした顔をして、語気が強くなる。


 月華「・・・さぁ・・・それは私も、知らないの・・・ただ、そもそも、白蛇様は月華永様が亡くなられてから・・・どこへ消えてしまったのか・・・話によれば、二人の間に出来た子共をお二人はたいそう、可愛がられていた・・・らしいとは聞いているのだけれど・・・」


 月華は心咲に対し少し困った顔をしながら、重ねた手をポンポンと軽く叩く。月華はその手に一度視線を落として、小さくため息を漏らすと平常心が戻ったのだが顔は渋いままである。


 心咲「・・・謎ね・・・はぁ・・・でも、あんなに綺麗で美しく、誉れと思って誇らしく思って舞っていた舞が、結界強化のためって・・・しかも・・・」


 心咲は静かなものいいではあるが、声を抑えてボソッと吐き捨てるように呟き、言葉にしたくもないと口を閉じて眉間に皺を寄せる。


 月華「・・・拝神ノ舞から変化して巫女舞になって、星、北極星、北斗七星、北辰の力を呼び込むための舞になった・・・ただ、月華永様の代でそれがガラッと変わって・・・あまりにも月華永様の力が強かったのが原因だったらしいけど、まさかその力を継続させるために結界陣の要として月華永様の人骨を、北に頭、東に右手、南に両足、西に左手の順で埋めたなんて・・・人道に反しているけれど・・・この日本の地の穢れを守るためと考えると、一概に否定もできない・・・できれば月華永様には、安らかに眠って、欲しいとは思うけれど・・・」


 月華も声を抑えてはいるが心咲のように感情を抑えた感じはなく、特段、普通に話しているが、その顔は少し曇っている。


 心咲「・・・できないものね、そんなこと・・・そもそも国が許さない・・・私達が籠の鳥なのも・・結界が年々少しずつ脆くなって・・・それを補強するためにこの血筋と舞が必要って・・・でも、徐々に負担が大きくなってる・・・ねぇ、かー様!本当にこのままでいいの?」


 心咲はぽつり、ぽつりと溜まっていたもやもやを吐き出すように話していたが、月華の方にバッと身体を向けてもう片方の手を、重なっている手の上に乗せて強く握り、訴えるような強い眼差しを向ける。


 月華「・・・・・・口を慎みなさい。私達は役目を負って生まれ、運命に準ずるだけよ。私達には結界を強化し、穢れを浄化するしかできない、他に特殊な能力があるわけではないわ。どうしようもないの、それは心咲、あなたが一番、分かってるでしょ?」


 月華は強く握られた手に視線を落としてから

心咲の視線にスッと合わせ、真っ直ぐで揺るぎない視線と静かな声で、諭す。

 心咲は、その月華の強い眼差しにグッと感情を飲み込み眉を顰め、視線を外すとスルっと手を離し正面を向き、膝の上に両手を置きぎゅっと手を強く握り締めた。



 狂櫻が薄紅色の桃の色づく、四月一日。


 狂櫻大祭が盛大に執り行われていた。

 固く閉じたれた演舞の間が、開かれている。入口には御簾(みす)が掛かっていて、室内は見えないようになっている。


 室内には既に(みそぎ)を終えた月華が、正装に着替えて舞を待っている。


 片手には朱で描かれた下界を見下ろす龍と、麒麟が両前足を高々と天に掲げ、金の桜の花びらが舞う白地の尺舞扇子を開いて持ち、白蛇山を描くように上から下へ右へくるりと回り、桜の花びらが舞うように波を描きながら上から下へ左へくるりと回り、順逆双方交互に周りながら、北へ、東へ、南へ、西へと風を送るように靡かせて旋回し、徐々に徐々に舞う速度が早くなっていく。


 朝から何も飲まず食わずでも息は上がらず、一心不乱に踊り続けて山のよう汗が吹き出しては流れていく。激しい舞であるのに、静寂を身に纏いつつも華やかで美しい。

 ただひたすらに舞うことで、年季の入った黒ずんだ板の間が床鳴りでキュッと鳴り続ければ、鳥のさえずりのようにも聞こえる。


 それをただただ、その音のみで、舞い続けている。


 月華には、自分の僅かな漏れる息と心臓の鼓動だけが耳へと届く。


 それもそのはず、この間は、入口が開いているのに外部の音が一切入ってこない、特殊な部屋なのだ。


 丸窓から外の陽が差し込んでいるはずなのにどこか薄暗く、その部屋は月華が舞って熱気があるのにひんやりと冷たい感じがするのである。

 床は年季が入っているだけではなく、白蛇の模様が丸く渦を巻いているように描かれている。

 月華が持っている扇子の龍は白蛇で、麒麟は月華永を意味した扇子であるが、この扇子に描かれた神々しい龍と床に描かれた念が籠ったような白蛇とでは似つかわしく同一とは思えない。


 それもそのはず、この演舞の間の中心は、白蛇が封印された場所。月華永の結界を完成させるには、白蛇そのものを核として据え置かないと完成しないものだったからだ。

 ただここに、白蛇が贄として封印されていることを、大婆と御付きの者、山神以外は知らない。

 山神は白蛇と月華永の結界術を阻止したかったが、魂球に封印された時点で大婆に逆らえない状態であった。

 飲み込んだ当事者は山神の力を一部手に入れることはできたが所詮人間、他の人間よりは長生きというだけで死は免れず、血筋の相性が良い者の魂形成時に取り込まれるを繰り返し、山神として表に出ることも容易にできず、手も足もでないまま苦渋を舐めている状態であった。

 山神としての意識ははっきりしているのに、取り込まれた人間の意識の方が強くなっていて、今では大婆の駒に成り下がっている。


 だが、満月の夜は、山神も弱まった力が全てではないが強まり表に出られた。


 狂櫻大祭のこの日、なぜか夜空には満月が登っていた。

 狂櫻大祭の日は、異変が起こるのは特段、不思議なことではない。

 結界で封印しているが地獄の門であり、そこが開かないように、北の白池(はくち)、東の海池(かいち)、南の龍巻池(りゅうけんち)、西の血池(かいち)を月華永の人骨で封印している。

 今は清められ温泉池となっているが、白池は白の炎が、海地は緑の炎が、龍巻池は青の炎が、血池は血のように赤黒い炎が大地より火柱のように燃え上がる。

 空にその火柱が届くと、空を侵食していき火柱同士が混ざり合うとどす黒い雲が覆う。

 中心はとぐろを巻いて、そこから地獄の門が召喚され扉が開くと地獄から悪鬼が溢れ、まさに地獄と化す。


 四月一日は天中殺、天の力が陰る赤い月となり空間が歪み人の心を乱し、負の感情に堕ちやすく、負のエネルギーが増殖する日。

 狂櫻は普段、負のエネルギーを吸い上げ浄化しているのだが、この日が近くなればなるほど処理しきれずに負のエネルギーに侵食され薄紅に染まっていくのだ。

 その原因は、年々結界力が弱まっているからだ。


 時空が歪むその日だからこそ、異変が起こるのは不思議なことではなく、ただ今回は天が味方したかのように満月になり神にとっては都合がよく、狂櫻大祭の今日、山神達は表に出て動き出した。


 かねてより計画していた、今がその時というように。


 夜が深まり窓から入る月明かりを感じると、月華はそう感じて舞をピタっと止めた。


 月華は窓から差す月明かりに、視線を上げ目を細める。舞を止めた途端にドッと疲労感が押し寄せて今にも倒れそうなのを、眉間に皺を寄せグッと奥歯をキツく噛み、片手で反対側に腕を掴んでぐらつく身体を支えながら視線を床へと落とす。


 深い、ため息が漏れる。


 息を吐き出し終わると静かに目を閉じて、暫し沈黙する。


 海里「計画通り、準備は出来てる・・・花月(はなつき)、行こう」


 演舞の間を結界で閉じ込めていたのは御簾で、静かな真っ赤な炎で燃えている。


 中世的な顔付きで少し細身の真っ黒な、それこそ鴉のように艶やかな着物を身に付けた長い黒髪を後ろで縛った男が、演舞に間の入口の前に立ち、呼び掛ける。

 この男が海里、月華の夫であり、今は鴉天狗である。昔から、鴉天狗の時には、今の月華が捨てた名、花月で呼ぶのだ。

 

 月華は呼ばれると、一度静かに深呼吸をしてから静かに目を開ける。

 

 開かれたその目は、先ほどのように少しの迷いもない、強い意志が宿ったようである。


 すっと羽織っていた重たい打ち掛け、装飾品をその場に捨て、身軽な真っ白な着物姿になると、すり足だが足早に演舞の間を後にした。



 月華「他の方々は?」


 鴉天狗に背負われ、人とは思えぬ速さで移動しながら、月華はふと心配そうに問う。


 海里「大丈夫、何も問題ないよ。この日だけは、大祭だと浮かれ酒を浴びるほど飲んでいる者ばかり、なにも気づいてはいやしないよ。大婆は天狐が見張っているし、山口霊神はかどわかしの術で、他の者達が邪魔しないように夢へと誘っているよ・・・お前の娘のためにも、結界を破壊するのは今しかない・・・お前が云い出したことだ・・・覚悟は・・・出来ているだろう?」


 月華「勿論(もちろん)よ。ただ、少し胸騒ぎがして・・・それが、ただの身震いであるならいいけど」


 海里「弱気になる必要は、ないよ。我らがついている。お前の覚悟に、我らも覚悟を決めたのだよ。差し違えてでも、この異常な儀を終わらせるさ。信じろ、我らを、自分を」


 月華「・・・ええ」


 海里「この壁さえ乗り越えれば、もう心配ない・・・行くよ!」


 海里は奥の間の厳重な壁を難なく乗り越え壁の真上に立ち、その掛け声で外へと飛び出そうとした、その時である。


 心咲「きゃぁぁぁぁぁ!!」


 心咲の悲鳴が、響き渡る。


 月華「え!!」


 海里「な!・・・燃えてる・・・」


 足を止めて、心咲の声がした方に二人は顔を向ける。


 月華「計画は中止よ!あそこは、心咲が!急いで!!」


 海里が呆然と燃え盛る方を見て動かないので、月華は真っ青になって今にも泣きそうな顔で海里の背中を叩いて懸命に訴える。


 普段冷静な月華を背負いながら、海里は火が燃え盛る桜の間へと向かった。



 月華「降ろして!」


 燃え盛る桜の間の近くの庭までくると、月華は血相を掛けて今にも発狂しそうな感じで叫ぶと乱暴に海里の背から降りる。

 桜の間と呼ばれる由縁になった、中の襖に描かれた真っ白で美しい狂櫻は、今にも焼け落ちてそうな勢いである。

 普段は黄金に輝く豪華絢爛で狂櫻の襖が映える美しい部屋で、奥の間と長い廊下で繋がっており、縦長の大広間になっている。

 白蛇家、御三家の上層部、大婆、国の一部の重要人物と限られた人間しか入れず、大婆は巫女装束、他のものは黒の束帯と正装して入る。

 一番奥は御簾で区切られ巫女が一段高い所へ座り、御簾の反対側にはそれ以外の者が両側一列ずつ並ぶと、大婆のみ中央に座り言伝は大婆から月華へと伝えられる形式張ったそういう謁見の場所なのである。


 今日は御簾は上げられ、いつも通り立会い人として大婆が付き添い、四方拝ノ舞が終わった後、継承の儀が執り行われる手筈となっていた。


 月華達の計画が進行しても、普段通りであればここで静かに待っているだけである、例え勘付かれても、天狐が心咲を連れ出せば済むと踏んでいたのだ。


 それが今は、桜の間は燃え盛り、心咲のあの悲鳴だ、月華は冷静ではいられなかった。

 今にも燃え盛る火の中へ入りそうな月華を、必死で海里は後ろから抱き締めて引き留める。


 海里「こんなに火が上がってるのに、お前が飛び込んでも、お前が火傷するだけではすまぬ。死ぬぞ、よせ!」


 月華「馬鹿を云わないで!心咲が、心咲が、まだ、この中にいるかもしれないのよ!!」


 心咲「こ、来ないで!!」


 そんな時だ、桜の間から少し離れた奥の間に近い庭で恐怖した心咲の声が上がる。

 月華と海里は互いに数秒視線を合わすと、海里は月華を離し片手を取ると、その声がした方へと二人は駆けて行った。



 着いた先では、少し頬が煤汚れた月華が、数人の男に囲まれて後退りしながら短刀を両手に持って男達の方へ突き出し、男達の片手には松明が握られていてジリジリと心咲に迫っていた。


 それを見た瞬間、月華は青ざめ言葉にならない悲鳴をあげ、海里は月華の手を離すと素早く動いて男達を蹴散らしに掛かる。

 今の海里であれば、鴉天狗の力で人とは思えない力で一瞬で意識を失わせ薙ぎ倒せるのは容易なはずなのだが、男達は蹴り飛ばそうとしてもびくともせず岩のようである。

 変だと海里は勘付いてよくよく見れば、半開きになった口から涎が垂れ、歯が獣のように鋭い牙になっている。それだけではなく、目は血走り覇気がなく、顔色も悪く茶けている。


 海里「な!何故、鬼人がここに!!ちっ」


 海里はわらわらと群がる鬼人を投げ飛ばし、最後の一人を回し蹴りし、口元辺りで右手をグッと握り締めてから、人差し指と中指を二本スッと立て下唇に当てる。


 海里「蜘蛛切!!」


 そう叫んでから天へとその手を広げて掲げると、大きく息を吸い込みその手目掛け、息を思い切り吹き掛ける。

 海里の口からは息ではなく、火炎が噴き出されて手が真っ赤に燃える。その燃えた手で横一文字に空を斬り裂けば赤く燃え盛るように光る日本刀が現れ、それを掴み取ると両手で握り直して構える。


 海里「毒蜘蛛!!」


 海里は刀を天高く振り上げると、そう高らかに唱え思い切り振り下ろすと同時に、火炎光が刀より半月を描くように飛び出て鬼人へと向かう。

 火炎光は鬼人へと当たると花火のように弾け、小さな火炎の蜘蛛となり、他の鬼人へと飛び散って行く。鬼人が毒蜘蛛に襲われて地面にバタバタと倒れ悶えている隙に、祈るように手を合わせじっと見守っていた月華は、恐怖で短刀を両手にガタガタと小刻みに震わし顔を俯かせている心咲へと全力で走り出した。


 月華「心咲!!」


 心咲「・・・かぁさ・ま・・・」


 心咲は自分を呼ぶ声で月華に気づいた途端、ほっとし気が付け手に持っていた短刀がするりと手から溢れ落ちた。


 カラン


 短刀が地面へと落ち音を立た、その時、倒れずに毒蜘蛛を振り解いた一人の鬼人が奇声を上げ、松明を振り上げながら物凄い形相で一心不乱に走ってきた。


 月華と鬼人が丁度同時、心咲へと近づく。錯乱したように松明を振り回す鬼人に、意識が朦朧としている心咲、考える暇もなく月華は一心不乱に手を伸ばして心咲を覆うように抱き締める。

 鬼人が振り回していた松明が、月華の背中に容赦なくガッと当たり、月華の着物が火でジリジリと焦げる。鬼火は松明を月華の背中に何度も何度も叩きつけ、ついに月華の着物に引火する。

 月華はこのままでは心咲共々焼けてしまうと、

心咲なるべく自分から遠ざけるために突き飛ばし、すぐさま鬼人へ全力で体当たりする。鬼人はひっくり返りそうになり、月華の手を掴む。


 二人は同時にひっくり返り、地面に倒れ火の手が一気に上がる。


 心咲は地面に叩きつけられた衝撃で、意識が戻り、目の前で月華が火に燃える姿を目にする。


 心咲「い、いやぁぁぁぁぁぁ!!!」


 心咲は地面に叩きつけられた衝撃であちこち痛みを感じながらも、月華をどうにかして助けようと苦しそうな顔で立ち上がり、足を引き摺りながら月華へと近づいて行く。


 空知「ダァァメだぁ!!お前ぇまで、火に巻き込まれるぞ!!」


 頭から血を流しながら、海里と似た黒い着物を身に付けた空知(そらち)、今は山口霊神が現れて、苦しそうな顔をしながら心咲を止めるために後から強く抱き締めて止める。


 心咲「いやぁぁぁ!!離して、離して!!かー様!!」


 空知「・・・ちっ、こなん時にあんのバぁカ狐、どこ行きやがった・・・心咲!!無理だ!!諦めろ!!」


 心咲「いやぁぁぁぁ!!!」


 心咲は泣きじゃくながらも、目一杯の力を出して月華の元へ行こうとジタバタと暴れるが、空知の方が断然力が強くびくともしない。それでも諦めきれず、最終的には空知の腕を思い切り噛む。


 空知「がぁぁ!!オメェ・・・ったく」


 空知は手刀でスッと心咲の首を打撃し、気絶させる。空知は目の前で燃え盛り何がなんだかわからなくなった紅蓮の焔を、眉を顰め悲しい顔をするとフイッと顔を背け一筋の涙を流し、心咲をしかと抱えるとその場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ