奥屋敷の奥の間 母と子の一時
月華「その後、山神様は、その若者達の中に封印されてしまったらしいの」
心咲「え!!じゃ、死んじゃったの?」
月華「うふふ。死にはしないわよ、神様ですもの。それに時折・・・身体を乗っ取って、人間界を楽しんでるみたいよ」
心咲「・・・あぁ・・・満月になると、たまぁ〜に、夜空を飛んでるのは・・・」
月華「ふふ、そういうこと」
心咲「で!結局、白蛇様と月華永様は、結婚できたの!?」
月華「ええ、勿論よ。そうでないと、私達、ここにいないもの」
心咲「あ、それもそうね・・・ん?でも、四方拝ノ舞と狂櫻は、全然、話の中に出てきてないよ、かーさま」
月華「あら、気づいちゃった?なーんて、その後ね、結局、山神様が若者三人の中で眠ることで邪気が追い払われたのか、改心したらしいの。だから結局、みんなに祝福されながら、月華永様は白蛇様のところへと継いだの。それから契約して、やっぱり熱が出てしまったらしくてね・・・でも面白いのが、白蛇様が軟弱者めと悪態つきながらも、飲ませてくれたのが桜茶で、そのお茶に入っていた桜の花びらが狂櫻だったの。月華永様が少し長めにうなされ続けて、桜、桜ってうわ言で云ってらしくて、見たいのかと思った白蛇様がわざわざ、月華永様が住んでいたところに生えていた桜の木を一本引っこ抜いて、元は鎮守の森、ここだけど、そこの守り木である大杉も抜いて交換して双方を逆に植えたんですって。それが、そこにある狂櫻なの」
心咲「白蛇様って、案外、月華永様想いなのね!」
月華「そうね・・・本来、神様へ嫁ぐと、俗世と縁を切るという意味で、名を変えないといけないそうなんだけど、白蛇様は、なら、永の字を切り捨てて、月華にって。でも、元の月のように永く美しく花のように可憐な子になるようにと付けられた元の意味と変わらないから、芸がないって、月華にしたそうなの。それがね、その名にした理由を尋ねたら、お前は、月の光そのものだって!云ったらしいの」
心咲「えぇえ!!それって、告白みたいなものよね?」
月華「そうね。神様にとって、月の光は元気の源。なくてはならないもの、だから、そういう意味なんでしょうね」
心咲「えぇえぇ!!意外と、ロマンチックな神様なのね」
月華「そうね・・・そうそう、それだけじゃなくて、月華永様は桜の花がとても好きだったの。普通なら、桜は春しか咲かないでしょ?でも、白蛇様は月華永様のために、ずっと桜が満開に咲き続けられるようにしたのよ」
心咲「わぁ!素敵!」
月華「でね、私達が毎日練習している四方拝ノ舞は、その時、呪われ穢れた地を浄化のもので、元々は白蛇様が伝授した舞なのよ」
心咲「へ〜ぇ・・・えぇ!!白蛇様が!?」
月華「そうよ、だって、月華永様は狩りはお得意でも、姫鳥の血筋ってだけで、巫女としては育っていなかったらしいの。元々、月華永様のお母様は、身体が丈夫ではなかったって話したでしょ?」
心咲「うん」
月華「そもそも姫鳥は、巫女としてはトップクラス。だから、その血筋のものは栄えていた各クニの力がある人物に、嫁ぐのが慣わしだったの。穢れは、人が多いほど溜まりやすいのは知ってるでしょ?」
心咲「うん。人の負の感情が、地を穢す源なんだよね」
月華「・・・そう。だから、本来なら、こんな山奥に、嫁ぐなんてことはないのよ。でもね、月華永様のお母様は、さっきも云ったように身体が丈夫ではなかったから、巫女として巫女舞を舞って各地の穢れを定期的に祓うことができなかったの。心咲も練習してて分かると思うけど、結構体力が必要でしょ?」
心咲「うん。練習が終わった後はクタクタになっちゃって、お風呂入り終わったらすぐ眠たくなっちゃうもん」
月華「そうよね。練習は日が落ちてからだから、余計にそうかもしれないけど、本来、姫鳥の拝神ノ舞は天昊様・・・今はアマテラス様の方が人の間では浸透してるけど、そのアマテラス様へ感謝の気持ちを表す舞だったの」
心咲「・・・あれ?それだと、地の穢れを祓うっていう、今とは意味合いが違うわよね?」
月華「そうよ。姫鳥様の時は、そうだったけれど、姫鳥様は元々、今で云う王族の姫様で、特段、巫女という役割だったわけじゃないの。ただ、そのクニは、アマテラス様への信仰深く、特に姫鳥様はアマテラス様に憧れと尊敬があって、祭の時に感謝の気持ちで自ら考えた舞を舞っていたのを、アマテラス様の目に留まって、気に入られたことからことが始まったの」
心咲「え!じゃぁ、アマテラス様が授けた舞じゃないんだ!」
月華「そう。それが、姫鳥様の民の一部の人々の強欲すぎる欲から、地が穢れて天罰として天災が起こって人々が苦しんだわけだけど、姫鳥様は兎に角、お優しい方だったから、その天災を軽減して欲しいとお願いしたの。さっきも、山神様の話の中であったでしょ?でもね、アマテラス様はそんなにお優しい方ではなくて、普通であれば三日三晩飲まず食わずで舞うなんてできないだろうと、無理意地を強いたの。でもね、姫鳥様はとても心が強い方で、三日三晩、舞ってしまわれたのよ」
心咲「えぇぇ!!す、すごい!!今なんて、祭で舞うのは、一日だけだもの。それだって、舞終わったら気を失って倒れてしまうぐらい、大変なのに・・・本当に凄い方だったんだね・・・」
月華「ええ、本当に。それだからこそ、アマテラス様に気に入られたのでしょう。それがきっかけで、感謝のために舞っていた舞が、穢れを祓う舞になって・・・うぅん・・・」
心咲「・・・どうしたの?かー様、難しい顔して・・・」
月華「・・・あまりこの後の話は、いい話ではないから・・・でも、いずれは知っておく必要があるから・・・伝えるわね」
そう云った月華の顔は心が痛んだように悲しみの表情へと変化し、一度言葉に詰まったけれど、重い口を開いた。