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山神と三士と新妖

 三人が大杉に着いた頃には夜も更けて、夜空には輝かしい満月が登り始めていた。

 帯に刀を差し、水晶玉を落とさないように硬く握り締め、一心不乱にここまで走ってきた。汗だくで、着ているものも少し乱れ汚れ、ここにどうやって辿りついたのかさえ分からないまま三人はここへ辿り着いた。


 目の前の月明かりに照らされた大杉のなんと神秘的かと、見惚れ立ち止まって暫く見上げている。


 その大杉には、既に山神がいた。

 山神は、ルビーのように輝く目をした闇色に染まった大鴉と、エメラルドのように輝く目をした目の後ろ足二本で立っている闇色に染まった大狸と、サファイアのように輝く目をした九本の長い立派な尾を持つ闇色に染まった天狐。

 山神は仲が良く、大杉の太い幹に横並びに座りながら、やって来た三人を見下ろしている。


 鴉天狗「んー?なにやら・・・紛いもの臭くないかい?アレ」


 山口霊神「かぁー俺は、あいつらの臭いがでぇきれぇなんだ!神聖な森に、あんな腐ったのを紛れさせるとは、いい度胸だな!!」


 天狐「まぁ〜まぁ〜。(りゅう)が、紛いものがあの人里に紛れ込んだと、云ってたじゃないか。それに今日、姫鳥筋の花嫁をもらうことにした、と、報告を受けた、だ、か、ら、こちらに刺客を仕向けるかもしれない・・・そうも、云ってただろう?元は人間だったのだろうけど、奴と血を交わしたら穢れ、こんな聖域には来れやしないさぁ。今や親が、邪神(じゃしん)悪鬼(あっき)の頭領、酒呑童子(しゅてんどうじ)なんだからねぇ・・・で、誑かしはお得意中のお得意ときてるし・・・そこで、花嫁に執着している下の人間を遣した、と」


 山口霊神「はぁ!そういうところも、気にくわねぇなぁ!!黙って寝ぐらの地獄で大人しくしてればいいものを!ちっ・・・今日は、良い月光浴日和だというに!おっ、そうだ・・・ここは一丁、派手にビビりらかせて追い払うのが良かろう?いつも通りな!」


 本来なら山神は輝く毛色をそれぞれ持っているが、少し遠くから見上げている三人にはそれが見えるほどの能力はなく、もやがかった黒い獣にしか見えていないため、宝石のような輝かしい目だけがかろうじて捉えられているという状態だった。

 それは普通の人間であれば普通のことで、神の姿をその目で捉えることができるのは、人間で云えば姫鳥の血筋ぐらいのものなのである。無論、山神の声など聞こえはしない。


 炎勇「おい・・・あの何かが光輝いて、黒いもやが掛かったようなのが、山神様か?」


 星将「・・・どうだろう・・・でも、あんな輝きは見たことがないから、そうかもしれない・・・どうする?」


 夜行「ここまで来たら、後戻りできないでしょ。先手必勝、行こう!」


 いつもはちゃらけている夜行は元々好戦的で、狩りも先陣を切ることが多く今も一人颯爽と大杉へと走り出す。後の二人もチラリと目配りして、真っ直ぐ大杉を見据えると夜行を追いかけて走り出す。


 各々が同時に仕掛け出て、山神は人の姿に化けると三人目掛けて大杉から勢いよく飛び降り、三人はそれに気づいて力を振り絞って懸命に走り続ける。


 ただ山神の方がやはり素早く、天狐は星将に、山口霊神は炎勇で、鴉天狗は夜行へと襲い掛かる。神の指には鍵爪のよう鋭い爪が伸びていて、三人へと勢いよく降り下される。


 三人は不意を突かれたが日頃の鍛錬もあり既の所で攻撃をかわし、地面を思い切り蹴り飛ばし後へ飛び退きながら、水晶玉を口に含み、刀を鞘から抜いて両手で持って構えると、山神へと向ける。


 山口霊神「は!一丁前に、歯向かうか!面白い!少し痛めつけてやらねぇとなぁ!!」


 鴉天狗「やれやれ・・・ほどほどに、しなよ」


 天狐「でも、久々にワクワクするねぇ〜」


 山神はニヤっと笑みを浮かべると、身軽な動きで三人に飛び掛かる。

 鋭い爪が容赦なく至る方向から降り注ぎ、三人はその素早さに刀でやっと受け流すのが精一杯。一瞬でも気を緩めれば、ヒュッと風を切る鋭い音と共に振り下ろされる鋭利な爪で自分の身体が切り刻まられるかのような、ギリギリ辺りを通り過ぎる。


 三人は劣勢のせめぎ合いに、身体は緊張と恐怖で冷や汗が止まらないはずが、どこか本能といえばいいのか血が騒ぎ、逃げる選択より、好戦的に刀を振い続けることの楽しさに、狂気めいた笑みが薄らと浮かんでいる。


 天狐「ほ〜う、なかなか。紛いものの力もあるだろうが・・・これは一筋縄ではいかなさそうだねぇ〜」


 鴉天狗「と云っても、いつまでこんな茶番。全く、いつまでも付き合ってられやしないよ。我らは、こんな形では人を傷つけられないわけだし。あくまでも、脅ししかできまい?」


 山口霊神「なら、昊神に委ねようではないか!天罰が下れば、騙されておめおめとやってきた奴らが悪い、ただそれだけよ。いちいち、めんどくせぇ!始めようぉぜ!」


 鴉天狗「待て待て、何もそこまでする必要もあるまい?結果どうあれ、それほどの罪ではないよ。我が、結界を張れば弾き出せる。それでよかろう?さ、その間、どうにかお二人さんで防いでくれ、よっと!」


 鴉天狗は夜行が怯んだほんの一瞬の隙を狙って、思い切り体当たりして弾き飛ばす。その間を狙って、思い切り地を蹴って天高く飛び上がるとその背には鴉のような翼が広がる。

 鴉天狗は両手を胸の前に合わせ目を閉じると、ぶつぶつとお経のような呪文を唱え始める。


 まさにそれが始まった瞬間、矢の如くスピードに乗った刀が鴉天狗目掛けて飛んでったいき、結界を張るのに集中していた鴉天狗の右肩を貫く。

 刀から禍々しい赤紫の妖気が出てくれば蛇が獲物に巻き付き喰らうように、鴉天狗の傷口を抉る。鴉天狗はあまりの痛みに意識が飛んでそのまま地面へ落下していく。

 それを吹っ飛ばされて泥だらけになった夜行が死にものぐるいで走ってきて、倒れている鴉天狗に跨ると傷口から流れる血に向け、水晶玉を吐き出し浸す。球が一気に真っ黒に染まり夜行の手さえも飲み込みそうな勢いで侵食してくるので、夜行はパニックになって無我夢中で球を口に放り込んでゴクリと飲み込む。


 ドクン


 夜行の身体が大きく跳ねて、内に電撃でも喰らったように口からプスプスと黒い煙を吐き、目は空虚、横倒しに倒れる。


 その光景があまりにも衝撃的で、一瞬の隙ができた。


 ただ炎勇と星将はこの時には自分の意識はなく誰かに操られている状態で、仲間の夜行が酷い状態になっても気にならず、寧ろ山神の二人の方が仲間に気を取られてしまった。

 今が好機と、両手に持った刀を強く握り締めると力技でそのままその刀を突き出す。


 そんな単純な攻撃であれば、本来の山神の二人なら最も簡単にかわせるはずが、何故か身体が金縛りにあったように動けなくなり、心臓の上を刀が貫いた。


 後の顛末は同じ、自我を失い気が触れたような炎勇と星将は山神に乱暴に馬乗りすると、口から出した水晶玉を傷口を抉るように押し付け、高笑いしながらその球を飲み込む。


 そして、皆、意識が途切れて地に倒れ込む。


 ドクン ドクン ドクン


 大きな心臓のような音が三つ重なり聞こえ、山神の身体が全て妖気に飲み込まれると、口を開いて意識を失って倒れている三人の口の中へとスルっと吸い込まれるように入っていった。


 「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」


 その時、三人の目が同時にカッと見開き、目は充血し、頭痛がするのか両手で頭を抱え、実に苦しそうに身を捩らせながら大きな呻き声を挙げる。


 禍々しい真っ黒な妖気が、身体から立ち込めて全身を包み込む。


 ドクン


 身体が大きく跳ねて、うつ伏せになった三人は地面に顔を埋めて小さく唸り声を暫く唸った後、ふっと妖気が消る。

 すると三人は顔を上げ、よろよろと立ち上がる。


 炎勇「あぁ・・・ちっ、あいつ魂混(こんこん)しやがったな・・・うぇ、きもちわりぃな」


 見かけは炎勇であるが、口調といかにも態度がでかいという点では、炎勇と異なる部分がある。


 星将「はぁ・・・人間と神の魂の融合・・・これを狙ってたってわけんかぁ・・・まさか、自分の魂の一部を分離して自分の力を何年も注ぎ込まないとできない、魂球(こんきゅう)を作ってあったとは、逆に恐れ入ったなぁ〜」


 ため息混じりに、やれやれと腰に両手を添えて気だるそうに星将もとい、天狐がぼやく。


 夜光「・・・随分、根気がいる作業を・・・随分前から企んでいた・・・と。はぁ。でもまさか、神が怒りて荒神に転じるのを鎮めるために考えられた結界術・・・天昊が姫鳥に授けたとされる秘術。まぁ、本来のとはだいぶ違い、呪い掛かってるけどね」


 頭痛でもするのか夜光もとい、鴉天狗は、片手で頭を押さえ右目を閉じて逆手は腰にあて、少し苦痛そうな表情である。


 星将「神の血を要するなんて、契約ぐらいのものだからねぇ〜。通常の魂混は、(しゅ)を唱え、ぞんざいな扱いを受けるとなってしまう荒神を、その球に一時的に封印し、祓舞(ふつまい)を三日三晩飲まず食わずで舞い続けることで鎮静し、球が自然と砕けて元通り・・・だが、まぁ〜、これはそういう類いとは違うだろうねぇ〜。まぁ、そもそも、昊神が姫鳥に甘くて、荒神は天罰であるからそれを受け入れなければ本来いけないものを、自分の民がその影響で苦しむのが耐えられないとか訴えて、与えられた術だったか・・・はぁ・・・今となっては、我らとしては傍迷惑なことだねぇ〜」


 炎勇「かぁぁ!!そんな説明は、どうでも良いわ!!そんなことを淡々と言い合っても、我らがこの人間から出れるわけもなかろうが!!」


 炎勇もとい、山口霊神は、苛立ったように地団駄を踏んで、踏ん反り返ったような偉そうな態度で腕を組み喚く。


 夜光「と云っても、ことを分析し、冷静さを保っていないと、我ら、自分を保てぬよ。そうでなくても、この人間とせめぎ合いで、頭が痛く痛くて、仕方ないというに」


 炎勇「それは、お前が軟弱だからだろうが!!我は!!」


 星将「・・・どうしたぁ〜?いつもの威勢が・・・」


 夜光「・・・なかなかに、厄介な術と、いうわけか・・・」


 三神は急に意識が途切れその場に倒れてしまう。


 丁度その時、満月が雲で陰っていた。

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