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三士と紛れもの

 月華永「とーさま、そういう訳で、私は白蛇龍神へと今宵、嫁ぐこととなりました。今まで、ありがとうございました」


 月華永は自宅へと帰り、剣義に全てを話した。

 剣義は月華永が出て行ってしまった時点で覚悟は決めており、むしろ元気な姿で帰ってきたことに喜び涙を流した後である。


 剣義「・・・そうか・・・お前は、母と似て動物達と話ができる不思議な力が小さい頃からあったな・・・俺が絶対に誰にも話してはならぬと・・・お前のために固く禁じてきたが・・・白蛇様と話を・・・な。お前なら、うん・・・そうか・・・寂しくなるな」


 姿勢を正し正座のまま頭を深々下げる月華永に、剣義はそう云ってまた目を真っ赤にする。ただ、涙は溢さずにしんみりとぽつり、ぽつりと言葉を選ぶように語る。

 親として一人娘故に月華永の嫁入りは止めたいが、このクニのリーダーとして必死に我慢して自分に言い聞かせるために、膝の上にある両手で膝を思い切り掴んで爪を立て痛みで感情を抑えた。



 それから暫く時間が経って、剣義から大々的に民へと説明があった。勿論、今までひた隠しにしていた月華永の力についても説明を加えてだ。

 それを聞いた民達は、一時、姫が可哀想だと嘆き涙し大騒ぎであった。


 そこでその騒ぎを収拾したのは、あの祈祷師、火鳥(かちょう)であった。


 火鳥「皆さん!これは、喜ばしいことですよ!私も今まで各地を祈祷してきましたが、残念ながら神様へ贄を差し出さないとこの状況は変えられなかったのです。心苦しさでいっぱいでした。ですが!私は、ある日、予知夢を見たのです!この地に、この不運を打破する不死鳥のような存在が現れると。だからこそ、私は急いでこの地へやってきたのです。神様に見初められるなど、奇跡としか云いようがありません!きっと、大切に大切に神様に扱われて幸せに暮らしていけることでしょう!そして、この地の憂いも、きっと晴れるでしょう!皆さん、寂しくはなりますが、姫の門出を盛大に祝って送り出しましょう!」


 長々とした火鳥の演説は本来なら演技めいた胡散臭さを感じても良いのに、何故かこの火鳥が両手を天に広げ、声高らかに云うとそうだと何故か思わせる不思議な力があった。


 月華永が神へ嫁ぐための準備をして忙しく動いている女衆に対し、男衆は困惑した顔でヒソヒソと集まって話す者達もいれば、月華永の最後の宴くらいは盛大にしたいと狩りに出て行く者達と様々だった。

 

 その中で大忙しで賑わう場所から少し離れた森の中に隠れるように、ヒソヒソといつになく暗い雰囲気で話していたのが、炎勇、星将、夜行の三人であった。


 炎勇「このままで、いいと思うか?」


 三人が丸い円を描くように顔を突き合わせ、片手を口の前に添えていつになく小さな声で話すのは炎勇。苛立っているように片足で、小さな音だがタンタンタンと小刻みに動かしながら背を丸め腕を組み、眉間には皺を寄せ険しい顔である。


 星将「良い訳がない。あの胡散臭い女に皆、騙されているんだよ。調子のいいことを云って、姫を犠牲にしようって算段なんじゃないのか?」


 背の高い星将は目立たないように目一杯背を丸め腕を組んで静かな小さな声で話してはいるが、目が血走って余裕がなく苦痛で険しい顔をしていて怖い。

 それもそのはず、この中で同じ歳で一番姫を慕っているのは星将だからだ。


 夜行「そう、怒るなよ。何にしても、決まったことを覆すのは難しいよ」


 一番冷静で飄々とした態度で姿勢も良く腕を組んでしかいない夜行だが、その無表情の顔と目の鋭さは尋常ではない。


 炎勇「何か、良い手立てはないか!」


 夜行「しっ!声が大きくなってるよ。誰かに聞かれたら困るんだから、もう少し冷静になってくれる?」


 つい苛立ちが出て少し大きめな声を出した炎勇に、夜行はいつものあの明るい感じは一切なく、やけに冷たい。


 火鳥「お困りの、ようですね」


 三人はあまりの驚きで声も出ないまま、その声の方向を恐怖に似た顔で向ける。


 音もなく現れ近づいてきたのは火鳥で、上は白下は赤の唐装漢服のような服装に真っ白なフード付きのマントのフードで顔半分まで被っていつもは顔が見えない状態であったが、フードを下して顔が顕になっている。

 元々背の低い女子で、声も少し幼さがあるのでもっと幼い女子かと思われていたが、目の周りに引かれた赤いアイシャドウと真っ赤な口紅、背中まで伸びた艶やかな垂れ髪がやけに大人なびいて見え貫禄さえも感じさせる。


 夜行「・・・何か?」


 自分の中の得体の知れない恐怖を抑えながら、夜行は必死にその言葉を投げかける。


 火鳥「・・・皆さんは・・・お仲間と一緒に姫のために、祝って差し上げないのですか?確か・・・幼馴染、なのですよね?・・・もし、お困りのことがあってのことでしたら、手を貸しますよ?」


 後ろめたい三人は視線を落とし少し俯き加減になって、火鳥の話を黙って聞いてはいるが何も答えず、話が終わるとただ気まずそうに各々に目配りしながらも、チラチラと火鳥を見ている。


 火鳥「・・・もしや・・・姫を止めたい・・・そう、思っているのですか?」


 音もなくまた一歩近づいた火鳥は、薄らと口元に笑みを浮かべているが目は全く笑っておらず、隠しことを云い当てられたのもそうだが、その表情が薄ら怖さを感じた三人は顔が引き攣っていく。


 火鳥「・・・ここだけの話、姫にだけ重荷を負わすにはまだ、麗しく若すぎると・・・私も思っていたところなのです。なので・・・私も誠かどうかは分からないのですが・・・この山には白蛇様以外に、山神(さんしん)と呼ばれる天狐様、山口霊神様、鴉天狗様が住まわれていて、白蛇様を煙たく追い出したいと思っているらしいのです。山神様方のお力になれれば、もしかしたら・・・白蛇様を追い出しさえすればこの地は救われ・・・わざわざ姫が嫁がなくても、よくなるかもしれません」


 三人は火鳥がどこかすえ恐ろしさを感じ疎ましく思っていたのに、語り出すと何故か不思議に聞き入ってしまい、聞き終えるころには洗脳されたように高揚した目で火鳥を見ている。

 はっと同時に三人は我に返った後に、ごくりと溜まった唾を飲み込む。ほんの僅か沈黙があり、三人はお互いの目を見る。その眼差しは強く、何かを決意したそういう目である。


 炎勇「どこへ行けば、会える」


 炎勇が火鳥に向き合って、見下ろした火鳥を見て目を細めるといつになく静かに問う。


 火鳥「ここより中腹に、大きな道が二つあります。一つは山頂へ、一つは獣道でその先を行くと、鎮守の森と呼ばれている樹海に辿り着きます。そこへ入れば戻って来れぬと、ここの方々は禁域としている場所です。その樹海の中に何千年も生きた大杉が、一つだけあるらしいのですが、そこに満月の夜になると月光浴をしに集まるというのです。月明かりは、神様とっては良いエネルギーとなるようなのです。今宵は丁度、満月・・・今は宴に大忙しで、誰もあなた達が消えたとしても気づく者はいないでしょう。仮に聞かれたら、私が上手く誤魔化しましょう・・・どうしますか?」


 三人はもう覚悟は出来たという凛々しい顔付きで、頷き合っている。


 火鳥「ですが、彼らは神様。そうやすやすと、人間の云うことなどに耳を傾けないやもしれません。なので・・・これを持って行くと、良いでしょう」


 火鳥は腰にぶら下げていた麻袋から、小さな丸い水晶玉を三つ取り出す。


 星将「これは?」


 火鳥「私を救ってくださり、お世話になっている方は、とても不思議な力がある方で・・・その方が下さったものです。この水晶と呼ばれる球に、神様の血を浴びせ、それを体内へ飲み込めば神様お力を貸して頂ける・・・そういうものらしいのです・・・ただ・・・神様を少しでも傷を付けなければ、血など手に入りません。三本の槍と謳われたあなた方の父上様ほど、あなた方は槍の腕はよくない。ですから、私が万が一何かあった時のためにと、その方から頂いた、妖刀を授けましょう。こちらへ」


 森の影からするすると出てきたのは、黒子頭巾を被った二人の男。一人は背が高く屈強そうな身体付きの男で、もう一人は火鳥よりは少し背が高いくらいの少し痩せ型の男。

 ここらでは珍しい黒い忍装束を身に付け、背の高い方の男は、両手にどこか禍々しい刀を両手に持ち、背の低い男も片手にこれも禍々しい刀を手に持ち、火鳥を中心に両側に分かれて真横に来ると片膝を地面に付き、手に持った刀を三人に差し出す。


 火鳥「さ、好きなものを選び持っていきなさい。そして、姫を救うのです。そう、姫を救えるのは、あなた達以外にはいないのです。今が、絶好の時です。行きなさい!」


 火鳥にいいように云いくるめられた三人は、球と刀をそれぞれ手にすると白蛇山へと駆けて行った。

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