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奥屋敷の奥の間、少女期

 心咲は中学生から高校生ぐらいに成長し、母のように美しく成長していった。少し幼さが残るが、身の振る舞いもお淑やかで美しく、どこかの姫君のようである。


 相変わらず奥の間には、以前と変わらぬまま美しい姿の月華と二人だけでひっそりと住んでいる。


 この奥屋敷は本来、白蛇(びゃくだ)本家の始祖が千八百年前に住んでいた由緒正しい場所で、山奥深くにあるにも関わらず豪華で壮大などこかの大名が住むような江戸屋敷である。

 勿論、江戸時代に極秘ではあったが徳川家康の庇護下にあったため、家康の命で作り替えらえた当時の作りのまま、当時伊勢神宮を最初に建てた特殊な宮大工が専属について、伊勢神宮の式年遷宮(しきねんせんぐう)と同時期に建物だけ新しく建て替えているので美しいままなのである。


 多くの使用人がこの屋敷に住んでいるが、この奥の間は同じ屋敷内にも関わらず長い廊下の先、離れにある。

 この部屋の外だけ特別、大男でも登るのが困難なほど高く頑丈な塀が囲っていて、入口は大きな鉄の金細工が施された豪華で厚い扉に閉ざされ、金の緻密な細工がされた頑丈ながら美しいからくり錠が掛かっているのである。

 ここだけは厳重に守られていて、扉の前には正座をした、屈強な男が一人と、背が高く頑丈そうな女が一人、黒い忍装束を身につけ黒子頭巾で顔を隠し闇に紛れるようにひっそりと守っている。


 それだけではなく、結界師という専属の者がおり、平安時代からこの屋敷を護り、祝詞(のりと)で人には見えにくくしている。


 ここはある意味、牢獄と云ってもよい。


 それには理由があり、歴史上の重要な人物の庇護下にあった、今もあるというのが原因である。


 それほど陰では名の知れた一族であり、権力者でいえば、孝徳天皇から天皇家、平清盛、源頼朝、足利尊氏、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と続いて今もなお、天皇家を筆頭に各有力者と繋がっているのである。


 ただ牢獄風であって、日常生活に困らない程度には整っており、豪華絢爛な調度品、湯殿、厠、小さいが庭すらある。

 身の回りのことは全て、使用人が行うので不便ということは生活する上ではない。

 ただ、御役目以外ではこの部屋から出ることは、一切禁じられているというだけである。

 

 日本には元来、巫女というものが存在する。今の世で言えば、神社で働く巫女をイメージするだろうが、卑弥呼のようなシャーマンのことである。

 ただ、普通のシャーマンと違うところは、


 【異形のものとの混血】


であること。

 人と、人ならず者、人は時としてそれを神と呼び、妖とも呼ぶ。

 白蛇(びゃくだ)と一般には呼ばれる、穢れなき真っ白な大蛇、正式には、白蛇龍神と云う異形が昔から日本には住んでおり、人身御供として穢れなき人間の気娘を嫁がせることでこの地の安寧を誓約したのが始まりとされ、その直系血族の娘は、日本の安寧を守る御役目として生まれた時から巫女となる定めを課せられたのが、この二人なのだ。


 その中で白蛇龍神の血を引く子は、子が出来にくく、女児が極端に少ない。

 一人女児を産めば、次に産むことも禁じられているのも要因と云え、不思議なことに、男児のみ、女児と男児が産まれることはあっても、双子の女児が産まれることは一切なかった。

 過去に女児を二人もうけた事例はあるが、後に生まれた子は病弱で短命、母体の母はその子が亡くなると同時期に衰退して亡くなっている。

 そのことが原因で、女児は一人のみと決められたのである。


 だからこそ、巫女の一族は、一夫一妻に対し、女児は一人なのである。


 巫女は継承の儀が終わると俗姓を捨て、【月華】の名を引継ぐ。

 月華は、白蛇龍神が名付けた名として力があり、白蛇龍神の加護と能力の一部が与えられるからだ。


 月華にはまた、対になる守人(もりびと)が必ず存在する。

 世間で云う花婿である。


 巫女一族を守る、守護職の御三家という存在が昔から存在し、この御三家もまた、天狐、山口霊紳、鴉天狗、それぞれの混血の一族なのである。


 守人は、その御三家の中の一番力が強い者を、巫女の婿に据えるというのがしきたり。


 守人は巫女と同じく不思議な力があり、波動という普通の人間には見えないものを出すことができ、敵から護るだけではなく、殺傷できるほどの力を持つものもいる。

 基本は、不殺生を重んじているが、時として、巫女の力や巫女の人とは違う妖艶さから意地でも我が者にしようとする不届者がおり、害をなす鬼人(おにびと)として、闇へ葬り去るのも仕事なのである。


 実際、白蛇龍神がいるように、他にも妖は見える者以外には見えないだけで身近におり、人を害する妖もまた存在し、人に取り憑いて悪事を働くこともある。

 害をなす妖は、穢れ、人の負のエネルギーを浴び続けた後に魂が汚れ堕ちる、祟神となったものである。

 祟神には、巫女の血は力となり芳醇な甘い香りで魅惑的であり、襲われるのもそれが要因ともいえる。


 だからこそ、厳重に守られており、他との接触を極端に制限されているのである。

 

 だが、巫女の御役目は、信託、予言はあくまでもついでであって、本当の御役目は、日本の地の穢れを祓うこと。

 人の憎悪、嫉み、怨みは国そのものを蝕む。

 年に一度、四月一日、巫女が住む奥の間の庭に、一際大きく散ることのない通常は真っ白な桜の木が桃色に染まったその時、年の切れ目として穢れが溢れ出し地獄の門が開き鬼が湧く天中殺とし、狂櫻(きょうおう)大祭と称して、年に一度しか開かず、屋敷のど真ん中にあり厳重に鎖で扉を閉ざしている、演舞の間にて舞うことで穢れを払うのである。


 この舞は、自分の能力を注ぎ込むので、いくら混血で人よりも長生きだとしても、命を削るものなのである。


 月華は引き継がない限り、代わりを立てることはできず、生前に引継ぐ時と、死後、強制的に力が引き継がれる場合の二つがある。


 通常は、成人、月経を迎えている十八になった気娘が条件だが、月経を迎えていれば幼子でもなれる。

 ただ、身体が力に耐えられる器にならないうちに引き継がれるので苦痛を伴うのだ。

 時には力を使い過ぎ、吐血し、熱にうなされ寝込むこともあるが、滅多なことでは死なぬ身体、気が触れた巫女も過去、数名出たのも事実。


 だからこそ、監禁というよりは軟禁状態で、厳重な監視状態であるが、大事に大事に、それこそ一国の姫のように育てられているのだ。

 


 心咲「かーさま見て、私もかーさまと同じように、花冠が編めるようになったわ」

 

 満開に咲く真っ白な桜の木の下に咲く群生するシロツメクサを、しゃがみながら摘んで花冠を完成させた心咲は、くるりと身軽な動きで母の方へ向き花冠を両手で掲げてから見せると、自分の頭に乗せ小走りで近寄り縁側に座る月華の横にちょこんと座ってから擦り寄り横から抱き付く。

 

 月華「よくできてるわ。もう、私が編んであげる必要も、なくなるわね・・・」

 

 心咲を抱くように片手を背中に回し、もう片方の手で花冠をそっと触れ眺めながら、心咲の成長に、月華は嬉しさと少し寂しさを帯びたような笑みを浮かべる。

 

 心咲「そんなことないわ!まだまだ、かーさまほど、綺麗に編めないもの。私はかーさまよりもずーっと、上手に編めるようになるまで、ずーっと側で教えていて、ね!」

 

 母に優しく抱きしめられながら、母の胸の中で心咲は目を閉じてどこか願うようにそう甘えたことを云い、後手に回した手をぎゅっと強く、一度だけ掴んだ。

 

 月華「・・・ふふ、まだまだ心咲は、甘えたさんね・・・この調子だと、まだまだ私が教えてあげないと、いけないわね・・・」

 

 月華は穏やかに優しい顔付きで心咲を見つめ、優しい声音でもう片方の手も背中に回すと優しくぎゅっと抱きしめてから、片手で優しく背中をポン、ポンと叩く。

 

 心咲「うふふふ・・・あ!そうそう、もうすぐ四月も近くなって、狂櫻が少し、桃色っぽくなっていたの!」

 

 小さな子供のように心咲は月華に寄り掛かって甘えていたが、急に思い出したのかパッと目を見開いてするりと月華から離れると、月華と両手で手を繋ぎ、喜々としてそれは嬉しそうに月華の目を真っ直ぐ見ながら話す。

 

 月華「・・・そう・・・もう、そんな時期なのね」

 

 ずっと満開に狂い咲きしている桜の方へ視線を向けると一瞬、月華の顔色が曇る。

 

 心咲「・・・どうかしたの?」

 

 ほんの一瞬だったはずだが、心咲は見逃さず心配そうに月華を見つめる。

 

 月華「いいえ、なんでもないの・・・ただちょっと、大祭も近くなるから大変だわって、思っただけよ」

 

 月華は視線を戻し、繋いだ心咲の手を寄せて更に自分の両手で覆うと、心配そうな心咲を見つめて優しく微笑む。

 

 心咲「あ〜・・・まだ陽が出てもいないうちに水垢離(みずごり)して、通常時の巫女装束とは異なる豪華絢爛な舞装束を身に付けて正座したまま日の出を待って、日の出と同時に舞い出して、陽が落ちるまで一心不乱に踊り続けるんだもの。見てるこっちも大変って、思うもの・・・でも、一寸の乱れもなく舞う姿はすっごく綺麗で、私は好き!あんな風に舞えたらなって、いつもお稽古の時に思うわ。それに、その時のかーさまが、一番綺麗に見えて大好きよ!」

 

 少し興奮したように嬉々と話す心咲に、月華は少し照れてゆるりと少し首を傾けて、恥ずかしさと嬉しさが混じったような笑みを浮かべる。

 

 月華「そう?それは、嬉しいことを言ってくれるわね・・・あっ!・・・そうだわ、心咲にはまだ早いかと思って・・・話していなかったのだけれど、あの四方拝ノ舞と狂櫻にまつわるお話、いい機会だからしようかしら」

 

 心咲「え!何々、気になる!気になる!聞きたい!聞かせて、かーさま!」

 

 心咲はそれはそれは興味津々の子犬のように食いついて、目をキラキラと輝かせてせがむ。

 その嬉々とした姿を、月華は愛おしそうに見つめながらゆっくりと語り始めた。

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