奥屋敷の奥の間、幼少期
真っ白な刺繍着物を着た母の月華と母とは色違いの薄桃の着物を着た幼子の少女の心咲が、仲良く縁側で寄り添い並んでコソコソ話をしているように小さな声で笑顔で楽しそうに会話して座る。
月華が庭で積んだシロツメクサで編んだ花冠を手渡されると、心咲は小さな両手で自分の小さな頭に乗せた。
心咲「かーさま、どう?似合う?」
心咲は花冠に両手を乗せたまま、月華へ少しはにかんだ笑顔を向けながら見上げる。
月華「ええ。とてもよく、似合っているわ」
心咲「そう?えへへ・・・なら、とーさまにも、見せたいな・・・」
頬を薄ら桃色に染めて照れながら嬉しそうな笑顔を浮かべていた心咲は、【とーさま】と言葉に出した瞬間、顔色が曇り寂しそうに言う。
月華「・・・海里さんとは、月に一度の式礼の儀でしか会えない、しきたり・・・心咲も分かってるとは思うけど・・・自分の父親ですもの、会いたいわよね・・・私には・・・どうしてあげることもできなくて・・・不甲斐ない母で、ごめんなさいね・・・」
御役目と言っても心咲はまだ幼く、父親が恋しい時期である。それを考えると居た堪れず、月華は悲しそうに心咲を見つめる。
心咲はそんな月華を見てぎゅっと一度、どこか心中察したように花冠を強く握りしめた後、さっとその両手を月華の腕にしがみついて顔を隠すように埋める。
月華はやるせない気持ちで、反対の手で心咲の頭を優しくゆっくりと撫でた。