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◇7

 今日もセーファス様はご機嫌だった。

 いや、昨日よりも嬉しそうだったかもしれない。

 日増しに幸せそうになっている。この人は本当に結婚したかったんだな、と改めて思った。


 もしかすると、相手が私でなくとも結婚できたらそれでよかった?

 血筋を絶やさなければ、それで。


 あんな妙な募集のかけ方をするから、女性たちは警戒して寄りつかなかった気がする。普通に夜会に出て結婚相手を探していたら、もっといい人が見つかっただろうに。

 アプローチが間違っている。



 ほんの数日をここで過ごしただけのくせに、セーファス様のほんの一面を見ただけでわかったような気になっていた。

 これから先、私が踏み込むところこそが重要なんだと気づいていなかった。


 ただ甘いだけの生活に暗雲が立ち込めたのは、私が至宝の情報を探りに屋敷をうろついていた時だ。


 重要なものはすべてセーファス様の書斎にある。そして、セーファス様はそこからなかなか出ない。

 夜はベッドから抜け出せないし、いつどうやって書斎を探ろうかと私は思案しながら書斎のそばをうろついていた。

 すると、書斎の中からレティスの甲高い声がした。


 彼女はメイドだから、書斎の掃除のために入れてもらえるみたいだ。ただ、中にいるセーファス様に対し、必死で何かを訴えている。

 ただならない気配がして、私は扉のすぐそばまで近づいた。盗み聞きははしたないなんて言っていられない。


 グレアム様のために何か手掛かりがほしい。それは私の切実な願いだった。


「――あんな女、全然セーファス様に相応しくないもの!」


 いきなりだ。どうやら私の話題らしい。

 感情的にまくし立てるレティスに、セーファス様は子供を宥めるような落ち着きで対応していた。


「そんなふうに言わないでくれ。僕は彼女のことが好きなんだ。でも、レティスのことも大事だから、仲良くしてほしいと思っている」

「ひどい! わたしはセーファス様のことをこんなに想っているのに、あの女が好きなんて言って、ひどすぎる!」


 私は、この場から早く立ち去らなければならないような気分になった。

 これは至宝の情報ではなく、人間関係がより複雑になってしまう雑音だ。体中に冷や汗が噴き出る。


「レティスの気持ちは嬉しいけど、ごめん」


 セーファス様が困ったように言った。そうしたら、レティスは明らかに泣いていた。

 あの気の強い子がこんなふうに泣いてしまうくらい、セーファス様のことが好きなんだと思ったら、私の心臓は罪悪感でキリキリと痛み出した。


 そして、二人の事情は私が思った以上に悪かった。


「わたしをこんな体にしたのはセーファス様なのに……」

「それに関しては事前に何度も確かめただろう? レティスも同意したはずだ。それとも、後悔しているのかい?」

「後悔なんて……。わたしはセーファス様のおそばにいたかったんです」

「レティスたちがいてくれたから、僕は孤独から救われた。本当に感謝しているんだ」


 ――こんな会話を聞いて、私はどうしたらよかったんだろう。

 怯える私に手を出さないで待ってくれている誠実な男性だと思っていたけれど、本当は他に捌け口があったというだけの話だった。レティスが私を嫌いなのは当然だ。彼女が可哀想すぎる。


 私は、そっと足音を立てずにそこから逃げた。

 そして、私の心は硬くなり、セーファス様を受け入れる柔らかさを二度と持てそうになかった。



 でも、これでよかったのかもしれない。

 罪の意識は驚くほど薄れた。

 さっさと仕事を終えてここから出ていきたい。


 この日、私はセーファス様よりも先にベッドに入り、さっさと寝たふりをした。何を呼びかけられても答えず、背を向けたままでいた。セーファス様の声が段々寂しそうな響きを帯びてきたけれど、全部無視した。


 私はもう、騙されない。


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