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第一章 捕らえられた小鳥
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――5月27日
星羽会カナリア心療病院、外来病棟、第三診察室。
診察室の壁かけ時計の針は午後1時ちょうどを指し、加湿器が自動でぴたりと蒸気の噴き出しをやめた。
当病院医局員、成瀬川栄作医師56歳は机の上で指を組み、二人の話にじっと耳を傾けていた。
入院についての説明は終え、あとは患者本人の同意を得るのみなのだが、説明を終えて数十分が経過し、一度は決心していたはずのその外来患者が、急に気を一転させ、入院を渋り始めたのだった。
この日の成瀬川医師の午前の診察は、この患者で最後だった。直前になって入院を渋り始めたのは、県外から来た25歳の入江梨沙という患者だった。
「ねぇ、涼太。私、やっぱり入院なんて嫌」
「あのねぇ、梨沙。入院は、二人でさんざん話し合って決めたこと。そうだろう?」
「だけど」
「梨沙。僕はこれから、真面な君と、真面に付き合っていきたいんだ」
梨沙の脳裡に、つい一週間前の光景が過った。