インセパトロの槍 ~テイワグナ民話
昔々。ある旅人が、小さい村の側を、通った夜のこと。
やけに静かで、野原にいた旅人は、何かおかしいと思い、近くへ行きました。
すると村には、化け物が大勢いて、一軒ずつ家に入っては、すぐ出てきます。
小屋に隠れた旅人は、小屋続きの母屋で、化け物が村人を殺すのを、見てしまいました。
その殺し方は、悲鳴を上げそうな村人が石のように固まり、それから藁でも束ねるように、くしゃっと潰れるのです。そして、村人の体は消えました。化け物は、指一本、触っていなかったのに。
化け物の群れは、強そうな大きい体の者が、大きな槍を握りしめて命令し、命令された他の化け物が、村の家を全部回りました。大槍を持った者は、槍を振っては、家や井戸や納屋を壊しました。
人間も家畜も消され、家も壊され、化け物の集団は全てを破壊すると、影に溶けていなくなりました。
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旅人は、村の悲劇を他の人たちにも伝えました。化け物に、一晩で破壊された村の話は、町では、あっというまに広がりました。
でもそれは、村の悲劇だけではなく、見ていたのに助けなかった旅人も噂になり、後に、『この旅人が、化け物を連れてきたのではないか』と言われました。
それまで、名前もなかった小さい村は、この話の後『エロー・ク・インセパトロゥ』と呼ばれるようになりました。でも誰も、この意味が分からず、誰が名付けたかも知りませんでした。




