65(5−21)
今回も、読んでくださってありがとうございます。
結構な時間が経った。窓のない中央制御室の中では外の様子は分からないが、中央のモニターで時刻が分かる。もう深夜だ。一番のエネルギー供給問題はクリアしたのだが、彼はシステムの全てを把握したいという。あれからぶっ続けで端末にかぶりつきだ。しかもエリオット氏は、あろうことか彼の横から端末を見つめ、「ユウキ、これはこういうことですか?」などと質問を始めた。そして和気藹々とプログラミング講座が繰り広げられている。君はSEでも目指すつもりかね。
いざという時の為に残ったものの、特にすることもない私は、腕輪から時折軽食を差し入れしたり、その辺をウロウロしたり。都合の良いことに、中央制御室の隣には、宿直室のような数人が寝泊まりできる施設があった。備品などは何も残っていなかったが、寝台と少しの家具、何より水回りが生きていたのは嬉しい。先ほどのエネルギー注入で復活したようだ。ヴィンちゃんと交代でシャワーを浴び、寝袋なんかを用意して、もう寝ようと声を掛ける。彼らは「後もうちょっと」と粘るが、作業効率を鑑みると、一度睡眠を取った方がいい。幸い、宿直スペースは二つに分かれていたので、彼らはシャワーを浴びてから。私たちは先に休ませてもらった。
「そういえばヴィンちゃんさあ、私が死んだら、一緒に消えちゃうの?」
昼間の水龍のことを思い出す。
「消えちゃう、という表現は正しくないな。我は既に人の輪廻の輪に入った。後はアリスと共に巡るだけだ」
「消えちゃうわけじゃないんだね。でもそうしたら、風神さんがいなくなって、この星って大変になるんじゃない?」
「我らは現象であり、現象が意識を持ったものが我らだ。現象そのものがなくならない限り、また別の意識がどこかで生まれる。水のがここで眠りについている間も、水そのものは変わらず存在し続けたであろう。今頃既に、次の意識が生まれているはずだ」
ほえー。神様の世界にも、いろいろ事情があるんだなぁ。…あ、そういえば。
「あのさあ、神様と人間の混血とかも、アリなんだ?」
「そうだな。この国の者は、ほとんどがあの水と人の子の子孫になるだろう」
「ヴィンちゃんも、人間の女の子をカノジョにとかしたいわけ?」
「いや?人の子に興味はないが」
「じゃあ、神様同士で付き合ったりしないの?」
「せんな」
龍ってどうやって繁殖してるんだろうか。
「ふぅん。じゃあ何で私と契約しちゃったの」
「面白そうだから」
「寿命めっちゃ減るのに?!」
「我はずっとああして漂っておった。どのくらいああしていたかは自分でも分からん。だがそなたが現れて、他の龍が言っていたことが分かった。これが我らの寿命というやつだ」
「なに、ヴィンちゃん割とお年寄りなの?」
「心が動く、とは、意識が目覚めるということだ。我には意識はあったが、今から振り返れば、あれは眠っているようなものだ。目覚めてしまえば、もう戻れんということだ」
「ふぅん…?」
言葉が古いせいか、ヴィンちゃんの言うことはよく分からない。
「そなたが問いたいのは、番のことであろう。我が番に望むとすれば、そなたしかおらん。だがそなたには既に番がおるようだ。無理にそなたを求めることはせんよ」
「は?私に番?!」
「ほれ、あの赤いのと黒いの。あれらはどちらもそなたを番だと申しておるが、違うのか?」
「初耳なんですけど?!」
てかヴィンちゃん、他の竜としゃべれるんだ?!そんなん、他人の思考を盗み聞きし放題なのでは…
「まあよい。我はそなたを番に望むが、そなたが望まぬなら無理にとは言わん。どうせこの先、輪廻を共にするのだ。人の子の生涯の一度や二度、百年や二百年くらいならいくらでも待とう」
「は?いや、生まれ変わったら誰だか分かんなくない?」
「何度生まれ変わろうと、我はこの先ずっとそなたに付き従う。魂の契約とはそういうことだ」
なん…だと…。
快適な空の散歩を楽しみ、怪しいお兄さんをとりあえず「ヴィンちゃん」と呼んだだけで、このような事態を招いてしまうとは。裕貴くんにめっちゃ怒られたことを思い出したが、後の祭りである。…この話したら、また怒られるんだろうなぁ…。
翌朝、のろのろと起き出した時には、既に彼らは端末の前でキャッキャウフフやっていた。
「そうそう。エリオット、本当に飲み込みが早いね」
「そんな…ユウキの教え方が上手なだけで…」
ああ、割り込みにくい。お邪魔しますよ、お茶入りましたよ…。
「あ、アリスさんおはようございます。ちょっと見てください、面白いモン見つけたっスよ」
裕貴くんは、スーパーハカーがアレしそうな文字だけの画面に何やら打ち込み、新しいウィンドウを開いた。そこにはこの船の見取り図と、いくつかのコマンドが表示されている。
「アリスさん。例のブレ○イごっこ、リベンジしたくないっスか…?」
悪魔の囁きが聞こえた。
「おっはよ!アリスちゃん、調子どう?」
デイヴィッド様がやって来た。様子を見に、ついでに迎えに来てくださったらしい。フェリックス氏、デイモン閣下、ブリジットも一緒だ。
「あ、いや、あはは」
彼らが見たのは、壁面の巨大モニターに映し出された、例の魔導兵器。そしてあの兵器に今まさに勝利しようとしている、エリオット・セシリーペアである。二人とも後衛キャラではあるが、裕貴くんがバフ盛り盛りで剣を持って突っ込み、エリオット氏は後方から延々と魔弾の射手で百発百中の狙撃を見せている。ちなみに最後の発狂ビームは、裕貴くんのスキルで無慈悲に全反射、自らの光線に灼かれ、兵器は消滅して、最後に刀身が光る槍が残された。槍を拾った彼らの姿がモニターから消失し、同時に制御室の中心に彼らが現れた。
「タイムどうでした?」
「2分32秒。ニューレコードだね!」
「あんまり伸びてないっスねぇ」
「いやいや裕貴くん、さっきより剣術スキルのキレが全然違うよ!」
あっはっは。
「…エリオット。あれ、何なの」
「…ご覧の通りです、デイヴィッド様」
エリオット氏が、申し訳なさそうに告げる。だが皆、彼が割とノリノリで参加していたのを目撃した後だ。お前結構楽しそうだったじゃん。
「お嬢…これ、あん時の」
「そうなんだよぉフェリックス氏!裕貴くんが、復活させてくれたんだよぉ☆」
裏ボスの魔導兵器は、作中では一度出現したらそれで終わりなのだが、裕貴くんは船の機構を完全に把握して、遺構の中なら好きな場所にあのマシンを出現させることができるようになった。ただし、あれを出すには、かなりのエネルギーを消費する。ヴィンちゃんはエネルギーを分けてくれると言うのだが、
「アリスさん。これ、エネルギーの高いものをここに接続して、エネルギーに再変換出来るっスよ」
例えば、こないだ中途半端に使った光の剣や光の盾など。皇国のダンジョンで産出されるアイテム類は、もれなくエネルギーに戻すことができる。それどころか、
「あ、これもイケる!」
ダダ余りしていた属性装備やアダマンタイト、スキルの種子なども、結構なエネルギーに変わった。おいそれと売却できずにひたすら死蔵されていたコイツらを、全部吐き出すチャンスなのでは?!
「というわけで、大体アイテム1個で1プレイできちゃうんだよぉ〜☆」
しかも裏ボスのドロップアイテムは、全て「当たり」のヤツ。ハズレシリーズのように、耐久度が設定されておらず、使用者のMPを若干消費して自動修復する、不朽不壊のヤツだ。性能もいい。さっき裕貴くんたちが拾ったのは、魔槍ゲイボルグ。彼女が手にしているのが、魔剣クラウ・ソラスと聖盾エギーデ。そして今やエリオット氏の愛用品である魔弾の射手、この4つが、「ラブきゅん学園2♡愛の龍王討伐大作戦♡」の最強装備である。
「これでゲイボルグ2本目だよね!私次、二槍流でやっていいかな?!」
「お、アリスさん。天○絶槍ですね!」
「行ってくる〜☆」
制御室中央、かつて龍が繋がれていた場所からアリスが消え、代わりに中央モニターに現れた。
「…僕たち、何を見せられてるんだろうね…」
モニターの中では、アリスが敵の攻撃をひょいひょい躱しながら、二本の槍で器用に戦っている。中盤から中型機が攻撃に参加してきたが、まるで意に介していない。
「あれ、俺ら要ったか…?」
学園でのボス戦、決死の覚悟で彼女に加勢したデイヴィッドとフェリックスは、何とも言えない表情で見守っていた。
「あ、そこ上手い!やるなぁアリスさん」
裕貴は画面にかぶりつきだ。エリオットも、何気にぶつぶつ言いながら、次の戦いをシミュレーションしているようだ。
「まったく、何をしているかと思えば。なあブリジット…」
デイモンがブリジットを振り返ると、彼女は目を輝かせてモニターを眺めている。どうやら彼女も参加したいようだ。間もなく、アリスは二槍で三機を呆気なく沈めた。ボスの最期の発狂モードは、ビーム乱射の前に猛ラッシュで削り切った。
「はーい、クラウ・ソラスもう一本落ちたよぉ。次やる人〜☆」
ブリジットが勢いよく手を挙げ、デイモンと共に制御室中央のステージに上がった。
結局その後、デイヴィッドもフェリックスもボス戦に参加し、みんなで欲しいだけの武器防具を手に入れた。余った分は、遺構に寄付しておいた。ついでにこれまでの死蔵品も全部押し付けて帰ろうかと思ったが、エネルギーの取り込みには限度があるようで、属性装備10個ほど入れた後は、受け取り拒否されてしまった。残念。また遊びに来よう。
やっとここまで書けた…。
もうちょっとだけ続くんじゃ…。( ´_ゝ`)
ちなみに
剣の当たりは魔剣クラウ・ソラス、ハズレは光の剣。
槍の当たり魔槍ゲイボルグ、ハズレは光の槍。
銃の当たりは魔弾の射手、ハズレは光線銃。
盾の当たりは聖盾エギーデ(※)、ハズレは光の盾です。
他の種類は考えるのがゴニョゴニョ。
(※)ネットでイージス(アイギス)のドイツ語を調べたら、イージス、アイギス、エギーデを見つけたので、最後のにしました。
今回も、読んでくださってありがとうございます。
評価、ブックマーク、いいね、とても励みになります。
温かい応援、心から感謝いたします。




