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AGI極子爵令嬢の逃亡劇  作者: 明和里苳


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38/73

62(5−18)

今回も、読んでくださってありがとうございます。

 皇都は大パニックだった。即時出国しようとする竜車で大通りは大渋滞、かといって周囲は砂漠なため、旅の準備はしっかりと整えて出なければならない。市場もまた、旅の準備をしようとする者でいっぱいだった。皇国の騎士団が安全無事を呼びかけ、パニックを収めようとしているが、焼石に水。


「ヴィンちゃん。あのさあ、もう一回外に出て、「僕みんなのこと食べないから大丈夫だよ」とか言ってあげてくんない?」


「我はヒトなど喰わんのだが…」


「お嬢様、「食べない」って…」


 お子ちゃまかよ、というツッコミが入る。とりあえず、裕貴セシリーくんの台本通り、空から皇国民に向けて、一言メッセージを送ってもらうことにした。


「我は風神なり。皇国の民に祝福を与えん」


 そして、神々しくペカーっと光を放ち、消えてもらった。


 これを見た民衆は、ただちに出国ラッシュをやめ、代わりにお祝いムード一色となった。そして渋滞はさらに激しくなった。




 大渋滞の皇都をなんとか竜車で抜けて、私たちは中央制御室のある、例の皇都外れの岩山まで。霊廟のわきから入る、前回周回した隠しダンジョンではなく、今回は祭壇からである。ここで然るべき人物が、然るべき祈りを捧げると、中央制御室への入り口が開くことになっている。


「もう!さっきの大渋滞!信じられませんわ!」


 ゼニメが激おこだ。いや、この竜が、怪しいと君が言ったから。今日はヴィンちゃん記念日である。字余り。


 とりあえず、竜車の中で説明した通り、四人で祭壇に祈りを捧げてもらう。もう誰が本当のパートナーとかどうでもいいんで、みんなでいっぺんにやってもらった。すると、ちゃんと入り口が開いた。これは行けるかもしれない。


「それ見たことか。わらわがジュリアンのつがいなのじゃ」


「馬鹿ですの?私に決まってるでしょう?」


「私だ」


「助けて…」


 ああもうそういうのいいから。




 三日前、裏ボス戦を終えてから、この国のダンジョンは全て沈黙しているという。あのボスが出て来たということは、皇国を支える旧文明のエネルギーが、相当枯渇してきているということだ。学園長、というか、この遺跡を守るホムンクルスは、現在エネルギー源にしている竜の代わりになる新たなエネルギーの獲得に、なりふり構わなくなってきている。からの、あの裏ボスの暴走である。私たちが無印で魔王を一年も早く倒してしまったせいか、それとも何か他の要因でもあるのか。イケオジボイスとスチル回収を目的に、物見遊山気分で訪れた皇国だが、私たちがこうしてここに来るのもまた、必然だったのかもしれない。


 一応、この先は裏ボス戦があったはずの場所なので、道順とイベントを知っている私が先行する。その後ろにはいつメンいつものメンバーとデイヴィッド様、四人組、そしてグロリア様と隠密二人。幸いボス戦はなかったが、ここが中央制御室。果たして、ドアは開くのであろうか。


「ではまず、ジュリアン様とジュリエット様、こちらに手を」


 二人手を繋いで、ジュリアンが左、ジュリエットが右のタッチパネルに手をかざすように促す。


「何で妾ではないのか!」


 ちびっ子皇女がプンスコしている。可愛いけど後にして。正直、作中のこの場面では、既に悪役令嬢はお役御免なので、今回連れて来たのは保険に過ぎない。


「ほほほ、これぞ正妻のなせる技。行きますわよ!」


「帰して…」


 二人してパネルに触れる。扉はうんともすんとも動かなかった。


「んまあ、何故…!」


「それ見たことか!やはりわらわがジュリアンのつがいなのじゃ!行くぞ、ジュリアン」


「もうお家帰りたい…」


 二人してパネルに触れる。扉はうんともすんとも動かなかった。


「何故じゃ、何故なのじゃ!」


「やはり真実とは一つ。さあジュリアン、我と」


「誰か助けて…」


 二人してパネルに触れる。扉はうんともすんとも動かなかった。


「何故なのだ!」


 やはりダメだった。お詰み申した。




 とりあえず、一旦休憩して対策会議だ。私はグロリア様と裕貴セシリーくんと一緒に、女子三人を集めた。アンナさんが用意したお茶を前に、三人はキイキイといがみあっていたが、私がジュリアンの攻略情報を知っていることが分かると、途端に大人しくなった。


「いいですか。皆さんに、このノートをお渡しします」


 無印「ラブきゅん学園♡愛の魔王討伐大作戦♡」の、ジュリアン攻略法をまとめたノートだ。3冊とも、同じことが書いてある。昨日から私と裕貴くんとブリジットで、必死こいて書き上げたものだ。


皇妃アグネスが言うたであろう。この者は、皇国の未来を知る預言者じゃ。この霊廟を、一切の迷いもなくここまで来た。それが何よりの証拠であろう」


 グロリア様の一言に、一同はグッと表情を引き締めた。


「この中の、どなたでもいいのです。どうかこの一月の間に、ジュリアン様を籠絡して、このドアを開けていただかないと」


「皇国の未来が、かかっておるのじゃな」


「開けて見せましょう。この公女たるわたくしが」


「私とジュリアンの愛が、この国を救うのだ」


 なんかみんな好き勝手言っているが、まあ頑張ってもらうしかない。


 一方のジュリアンは、向こうでデイヴィッド様にチクチクいじめられつつ、エリオットうじにグサグサ痛いところを突かれつつ、フェリックスうじかくまわれている。女子組から引き離せば安全かと思ったが、そうでもなさそうだった。確かにムカつくお子ちゃまクソガキではあるが、三日前のダンジョンでのフルボッコ劇から、女三人のキャットファイトまで、もう彼のライフはゼロである。やめたげて。


 そういえば、デイモン閣下とブリジットは、と思えば、彼らは二人の世界に浸っていた。何やら壁際でヒソヒソやっては、ブリジットが真っ赤になって顔を背けている。おいおい、そういうのは別でやってくれ。特にその、運命の二人ごっこで手を繋いでタッチパネルとか




 シュウウ




 ドアが、開いた。




 何だよそれ、親密度80%以上って、主人公と攻略対象じゃなくてもいいのかよ。

クララが立った。

ありきたりな展開で申し訳ありまテン。


今回も、読んでくださってありがとうございます。

評価、ブックマーク、いいね、とても励みになります。

温かい応援、心から感謝いたします。

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