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今回も、読んでくださってありがとうございます。
翌日。皇宮行きの竜車の中で、私はこってりと絞られていた。いや、正確には昨夜から。
「あの機械兵器戦に!初見二人ブッ込むとか!」
「ごめん、ごめんって裕貴くん」
ダンジョンから寮の三人部屋に戻り、戦果をワイワイと話す、私と裕貴くん。約一名、お花畑で役に立たないブリジットを放置して、お互いどんな戦いだったかを情報交換していた。一階は、エリオット氏と裕貴くんで余裕の完封。二階は、デイモン閣下とブリジットが死守してくれたっぽい。彼らは二人とも、多数の敵を一度に相手するのが得意なタイプじゃないので、殊勲賞である。そして三階は、フェリックス氏の増援により、裏ボスと愉快な仲間たちをほぼノーミスで。時々光線にちょっと掠るくらいはご愛嬌。
その話を、最初は裕貴くんは楽しんで聞いてくれた。まずフェリックス氏が増援に駆けつけて来てくれたことに、「ひゅー、アリスさんやるぅ」と冷やかし、蓋を開けたらそこにブレ○イの機械兵器みたいなヤツがいて、リアルブレ○イごっこしたことに「うわ、俺も三階行きたかった」と身を乗り出し、そして光の剣と光の盾を二人に渡して、こう、切った張ったの大立ち回りをしたという辺りから、
「…それ、二人に初見でやらせたんスか?」
と、雲行きが怪しくなって来た。
「まず、その裏ボスなんスけど、普通大体どんくらいで挑むモンなんですか?」
「えーと、大将級6枚フルで、あの隠しダンジョン周回して、正規品を全員分用意して…かな」
そして裏ボスを倒すと、トゥルーエンディングが見られるのだ。
「で、普通は、どうやって倒すんスか?」
「そりゃ、2だもの。竜にスキル使わせて、自分は時々正規品で殴りに行く的な」
「じゃあ、アリスさんは、その大将級6枚で挑む相手に、中将級2枚、竜なし1枚、ハズレ品持って、竜使わず倒してきたと」
「そうそうそう!もーね、超たのし」
バン!
「死ぬとこだったんですよ?!馬鹿ですか?!」
机を叩き、裕貴くんが身を乗り出した。
それから地獄の説教タイムだった。
「だってあん時は仕方なかったって」
「言い訳しない!だいたい三人ともAGI極、装甲はペラペラだしライフは少ないし、ハート3つで初見で機械兵器に突っ込ませるとか、死ねって言ってるようなもんですよ!」
一つ言い訳したら、お説教が十増える。まるで叩くとビスケットが増えるポケットのようだ。散々叩かれて、私のハートはビスケットのように粉々である。
竜車の中で、まだぷりぷり怒っている裕貴くんに、エリオット氏は
「ユウキは心配だったんですよね」
と甘々モード。デイヴィッド様は
「ハハっ…そんなヤバかったんだ。道理で」
と若干引き気味。なお、デイモン閣下とブリジットは、並んで座ってもじもじと、二人だけの世界だった。うう、頑張って倒したのに、ちょっとくらい褒めてくれたっていいじゃないか。昨日はあんな楽しかったのに、どうしてこうなった。
皇宮に着いてからは、早々にいつもの皇妃様の応接室に通された。何が起こったかの説明は、あらかたフェリックス氏から済んでいた。彼は気配を隠しながら一階も二階も通過してきたわけで、皇妃様もグロリア様も、ダンジョン内の様子をかなり正確に把握していた。
「かなり危ない橋を渡ったようじゃが?」
グロリア様からお小言を賜る。そりゃそうだ、ご長男と家臣を危険に晒してしまった。あの時は、「ウッヒョー、ブレ○イごっこ胸熱ぅ!」としか思ってなかったが、裕貴くんの言うとおり、初見であれは申し訳なかった。この世界には、回復スキルもあるにはあるが、ゲームのようにコンティニューボタンはないのだ。
「すみませんでした…」
「母上、しかしあそこではああするしか」
「奥方様、我らが魔導兵器を倒さねば、かの混乱は収まらず」
「よい、それは分かっておるのじゃ。お前たちはよく働いてくれた」
「あのうグロリア様、二人は怒らないであげてください。その、私が調子に乗ったのが悪いので…。二人がいないと正直厳しかったので、お叱りを受けるのは私だけで…」
私が叱られるのは仕方ないが、私のせいで、二人まで咎められるのは申し訳ない。
「妾はそなたたちを咎めたいわけではない。ただ、報せを受ける身にもなって欲しい」
デイヴィッドだけではない、そなたたちは妾のかけがえのない家族なのじゃからな、ということだ。本当にごめんなさい。
「して、その方らを呼び立てたのは他でもない」
皇妃様が引き継ぐ。今回のダンジョンの氾濫は、この国の歴史上類を見なかった出来事であり、私が書いたレポートにも、そんなイベントは見つからなかった。これはどういうことなのだと。
「それが、私にも分からないんですよ…」
このゲームも、隅から隅までプレイした筈だが。だが、あの大型魔導兵器は、ラスボスの後の裏ボス、あれを倒すとトゥルーエンドというか、この物語の背景が全て明らかになる。それはノートにも書いてある。
「ってことは、もうこの問題は解決ってことですか?」
裕貴くんが口を挟む。
「いや、この魔導兵器と戦った後、遺跡の中心部に入らないといけないの。主人公と攻略対象の親密度が80%以上で、中心部へのゲートが開いて、そこでこの皇国を守るシステムのエネルギーの枯渇と暴走を止めないといけないんだけど…」
肝心の、主人公と攻略対象が、分からない。
「そんな…」
「ちなみに、その暴走まで、どれくらいの時間が」
「1ヶ月」
応接室は、静寂に包まれた。
話は何も進まないまま、とりあえず私たちは寮に帰ることにした。帰りの竜車は、みんな無言だ。とはいえ、デイモンとブリジットは相変わらずお花畑、エリオット氏と裕貴くんも肩を寄せ合い、デイヴィッド様は時折私に笑顔を向けて、黙って頭をポンポンしてくる。私を安心させようとしているのか。くそう、この男、こういう時まで。そういうとこだぞ!
なお、後日あの戦闘がどれだけ危険だったか、改めて裕貴くんに聞かされたグロリア様からは、標準語でにこやかにお叱りを受けた。これまで遊んだどのホラーゲームよりも怖かった。
5章が思ったより長くて詰んでます。
大分ゴールは見えてきたのに、場面がなかなか進まない…。_:(´ཀ`」 ∠):
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