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AGI極子爵令嬢の逃亡劇  作者: 明和里苳


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17/73

44(4-10完結)

本日2回目の更新です。

今回も、読んでくださってありがとうございます。

 三組の式が終わり、皇国への出発を間近に控えたある日。


 私とフェリックスうじは、場内の礼拝堂で、ひっそりと式を挙げた。式って言っても、聖職者の立ち会いのもと、婚姻届の書類にサインし、指輪を交換し、誓いの言葉を述べるだけの、ごく簡単なものだ。


 参列したのは、辺境伯、デイヴィッド様、アンナさんだけ。男爵が一人誕生するので、一定数の関係者が見届けて証言する必要があるからだ。とはいえ、アンナさんがアリス・ダッシュウッドを名乗るように、フェリックス氏もフェリックス・ダッシュウッド男爵を名乗るだけ、今のところはそういう風な感じらしい。


「君が一生を添い遂げる気になれば、そのままフェリックスには男爵位に留まってもらう。君の気持ち次第だ」


 と、辺境伯。


「アリスちゃん、僕はいつでも待ってるからね」


 と、ウィンクと共にデイヴィッド様。アンナさんはそれでいいのか、と聞くと、


私共わたくしども、影の仕事とはそういうものですから」


 とにこやかに答えられた。当のフェリックス氏は、


「俺は元々お貴族様って柄じゃねぇが、お嬢の気が済むまで、付き合ってやるよ」


 だそうだ。




「それではここに一組の夫婦が誕生しました。両者、誓いの口付けを」


 ちょっ、そういうの打ち合わせになかったじゃん!


 実は聖職者さんは、隠密次席の水属性のお兄さんだ。普段表向きは、ダッシュウッド城の聖職者兼保健室のお兄さんみたいなことをしている。年齢から言っても、本来は彼が現筆頭になるべきともくされていたのだが、人の上に立つのは好まないとして、フェリックス氏にお鉢が回って来たのだそうだ。彼はなかなか面白い人物なので、彼の話はまた今度。


 って、口付けとか勘弁…ほら、デイヴィッド様の目が笑ってないよ!


 そんなことはお構いなしに、フェリックスうじが私の手を取り、一歩前に進んで来る。ヤバい、と思ってぎゅっと目を瞑る。


「アリス・アクロイド・ダッシュウッド様。俺は生涯かけて、あなたをお護りします」


 恐る恐る目を開けると、彼は私の足元にひさまずいていて、指輪の上に軽く口付けた。これは、あるじを辺境伯から私に移す儀式なのだそうだ。ここから彼は、私の専属の隠密兼パートナーとなる。ダニエル様が大きく頷いている。最強級の切り札を一枚、私に預けてくださる。辺境伯家の信頼と温情に、背筋が伸びる思いだ。


 てか、誓いの口付けって、両者じゃないじゃん!デイヴィッド様がいたずらっぽく笑っている。多分、次席のお兄さんと共謀して、ドッキリを仕掛けて来たんだろう。


 なお、この場には両親や他の親族は、敢えて呼ばなかった。フェリックス氏といつまで名目上のパートナーでいられるか分からないからだ。更に、隠密の人事は辺境伯家の最上級の機密情報でもある。両親には、身分保証上致し方ない措置として、婚姻という形を取ったことは、伝えてもらっている。


 ちなみに、次期筆頭の座はしばらく空席のまま、先代がその責を代行するそうだが、多分三席が繰り上がるとのこと。ある程度引き継ぎと修行が終われば、間もなく代替わりするそうだ。そもそも、筆頭が少々抜けようが交代しようが、回らなくなるような層の薄い組織ではないそうだ。確かに、今でも先代やフェリックス氏、アンナさんなんか、私がしょっちゅう暇つぶしにダンジョンアタックにお借りしているし。




 翌日すぐ、デイモン閣下とフェリックス氏は、王都まで叙爵式のために旅立って行った。爵位はダッシュウッド家が持っていたものだが、実際の任命や実務は辺境伯家を経由するにせよ、名目上は王家に臣従する形となる。余談だが、騎士爵のエリオットうじは、辺境伯家の直接雇用となるようだ。


 辺境伯夫妻、デイモン閣下、フェリックス氏と爺やさんは、領都の外れの砦まで馬車で移動し、そこから馬だけを砦に預け、爺やさんが飛翔フライ加速アクセラレイトを使う。そして王都近くで、辺境伯家のタウンハウスの馬と合流し、馬を馬車に繋いでそのまま王都へ。超級アタックの応用である。最近は爺やさんの手が空いている時は、王都との行き来に駆り出されているらしい。辺境伯夫妻、とりわけ移動の多いグロリア様に、大いに喜ばれている。現在、移動要員の育成のため、風属性の隠密が、超級アタックのパーティーに入ることが多くなった。




 その超級アタックも、もうすぐ終わり。皇国から書簡の返事があり、私たちは遊学という形で半年ほど滞在することが決まっている。今回の辺境伯の王都訪問も、その承諾を取りに行くことを兼ねている。事前に打診はしてあるので、彼らが戻り次第、皇国に旅立つ予定だ。


 なお、土のダンジョンに限っては、今の段階で既に、隠密の皆さんだけで周回することが可能である。みんながもう少し強くなって、必要なスキルが揃ってきたら、火のダンジョンも攻略可能になるだろう。お留守番の辺境伯には大変申し訳ないが、グロリア様がいらっしゃらない間、皆さんでモリモリパワーレベリングを楽しんでいただきたい。


 旅立つメンバーは、私、フェリックスうじ、デイモン閣下、ブリジット、エリオットうじ裕貴セシリーくん、グロリア様、デイヴィッド様。そしてデイヴィッド様のパートナーとして、アンナさんも加入。合計9名の、にぎやかな旅である。


 あちらは厳格な男女分離の学園生活。たった半年のことではあるが、回れるダンジョンは回り尽くし、取れるアイテムは取り尽くし、回収できるスチルは回収し尽くす予定である。なんせレジェンドイケボの豪華声優陣が待っているのだ。オッスオラウキウキすっぞ!


 アリス先生の次回作にご期待ください。

もうちょっとなので、キリがいいとこまで書いちゃいました。

明日から皇国編に入りたいと思います。

タイトルが本編からの通し番号と後日談(44(後日談10))のようになっていますが、長くなってきたので、これも近いうちに改めたいと思います。


本来は本編12話だけの短い話の予定でしたが、難しいことを考えずに気楽に書けることと、こうして皆様が読みに来て下さるお陰様で、楽しんで連載を続けております。

皆様、本当にありがとうございます。


今回も、読んでくださってありがとうございます。

評価、ブックマーク、いいね、とても励みになります。

温かい応援、心から感謝いたします。

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