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AGI極子爵令嬢の逃亡劇  作者: 明和里苳


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43(4-9)

今回も、読んでくださってありがとうございます。


※ちょっと胸糞入ります。ごめんなさい。

 その後、程なくしてデイヴィッド様の挙式が執り行われた。お相手は、アリス・ダッシュウッド子爵令嬢とか。誰?そんな人いたっけ?と思ったら


「私でございますよ、お嬢様」


 ハニーブロンドのストレートヘア、緑の瞳の可憐な令嬢。その声はアンナさんだった。いつもは黒髪黒目、前下がりのボブ、切れ長の瞳の美女なんだけど、隠密の特殊メイクってすごいな。てか、この名前といい外見といい


「言ったよね。僕、ずっと君のこと諦めないって。いつでも君のこと、待ってるから」


「それ、花嫁の前で言うセリフじゃありませんよ!」


 ははは、と陽気な笑い声を残し、新郎新婦は別の席へと挨拶へ向かった。


「兄上のアリス嬢への執着は、凄まじいな…」


 弟のデイモン閣下が、若干引き気味に感心している。


「いつでもお嬢様と入れ替われるように、ですよね。きゃー、お嬢様、すごくないっスか?」


 ブリジットは相変わらず恋愛小説脳だ。こと色恋沙汰にのみ、ポンコツっぷりを発揮する。


「絶対逃さないマンってヤツですよね。その気持ち、分かるっス。俺がデイヴィッド様でも、多分同じことするっス」


「ヒッ」


 最近裕貴くんが偏執傾向を隠しもしないもんだから、エリオットうじが怯えっぱなしだ。


「私は一体どこで、何を間違えたんでしょうか…」


「エリオット氏、猛禽っていうのは、小動物を捕まえて食べるモンなんだよ。諦めなよ」


「そうだよぉ、ダァは後で私が美味しく頂いちゃうんだよぉ♡フフフ」


 やめたまえ、他人の結婚式でそういうのは。後にしたまえよ。




 その後、程良い日程を開けて、デイモン閣下とブリジットの挙式も行われた。他領からの来賓も招かれたデイヴィッド様の式とは違い、こちらは領内向けの比較的小規模なものだった。これでデイモン閣下は正式にダッシュウッド子爵となる。詳しい様子は割愛するが、この日誰よりも美しい花嫁になったブリジットを見て号泣し、私はずっと目が数字の3のようになっていた。忘れていただきたい。


 更に後日、エリオットうじ裕貴セシリーくんの式も行われた。こちらは完全に身内だけの、ごく小規模なものだ。


 エリオット氏は子爵家の次男。普通は、両親がどこかの貴族と縁談を結び、婿入りするように働きかけるものだが、ここの父親はちょっとアレっていうか、闇属性のエリオット氏を徹底的に冷遇して来たらしい。兄のアーネストうじが子爵位を継げば、エリオットは平民になってしまうというのに、他の貴族と縁談を結ぶどころか、存在自体を無かったことにしたいというか、全くのお構いなしだったそうだ。学園でそれなりの成績を収め、高レベルでないと取得できないスキルを獲得したと知った後、手のひらを返して連絡を寄越して来たそうだが、デイモン閣下の側近としてダッシュウッド家に迎え入れてからこの方、既にダッシュウッド側で、彼を手厚く遇する準備は整っていた。今更エリオットを良いように利用しようとすることは、エリオット本人にとっても、あるじのデイモンにとっても、ダッシュウッド家にとっても、利に反する。


 セシリーをダッシュウッドの養女にしたのも、そのためだ。この婚姻は、エフィンジャー子爵家が主体となって結んだものではなくて、あくまで養女のために、ダッシュウッド家が結んだものであり、養女の配偶者として、エリオットには騎士爵が与えられることになっている。式は、城下の大聖堂ではなく、城内の小ぢんまりとした礼拝堂で執り行われたものだが、盛装したエリオット氏といい、シンプルなドレスのセシリーといい、それは眩しいほどのお似合いのカップルであった。




 問題は、その後の披露パーティーで起こった。


 本人たちの希望で、天気が良ければ中庭でガーデンパーティーをするということだったのだが、春うららかな花咲き乱れる美しい庭に、招かれざる客が訪れた。


「おお、エリオット。今日は皆で集まって、随分と楽しそうじゃないか。ええ?」


 夫人を伴って、エフィンジャー子爵が襲来した。今日、城内でどういう催しがあるのか、知ってのことである。なお、現在の彼の勤務地は、領都から最も離れた砦の一つであり、勝手に離れて良いものではない。だが、彼は一応辺境伯軍の筆頭魔術師であるため、強引に入城してきたようだ。


「父上、母上。お久しぶりです。お元気そうで何よりです」


「ふん、平民の女を連れ込んで、ダッシュウッド家に取り入って、上手くやったものだ」


 少し離れた場所に、辺境伯も夫人もいるのに、衆目の中で平気で暴言を吐く。


「あなた…」


「うるさい!お前ごときが口出しするな!…ほう、息子をたらし込むだけあって、なかなかの器量だな。どうやって咥え込んだんだ?その体でか?」


 子爵が下卑た笑みでセシリーに近づこうとするが、エリオットが彼女を隠すように前に進み出る。


「何だエリオット。父に楯突くつもりか。なぁに、お前に相応しい女か、この父がじっくり味見してやろうぞ」


「エリオットちゃん、ごめんなさいね。お父様の言うとおりにして。お父様に逆らわないで…」


 この数分だけで、お腹いっぱいになりそうだ。この事態に、周りもどう制止して良いか気色ばんできた、その時


「…父上、母上。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 エリオットうじの瞳が淡く光った。


「…おお。そうかそうか。そうだな。エスター、では帰るぞ」


「はい、あなた」


 一瞬動きが止まったのち、彼らは来た時とは違い、手を繋いで仲睦まじげに帰って行った。


「皆様、お騒がせいたしました。引き続き、ご歓談をお楽しみください」


 エリオット氏とセシリーは、その後お互い「大丈夫?」と声を掛け合い、そして微笑みあって、招待客の中に溶け込んで行った。




 その姿を、アーネストが眩しげに見つめていた。曲がりなりにも、父は筆頭魔術師。性格に多少問題があっても、卓越した魔力で、その座をほしいままにしてきたのだ。その父を、いとも容易たやすくねじ伏せ、一瞬で人格まで改竄かいざんし、放逐ほうちくした。何より、互いに心から想い合い、支え合うパートナーがいる。自分の片翼へんよくを、お前は見つけたんだな。


 そんな兄の視線に気づいたのか、弟夫婦がやってきて、声を掛けた。


「兄上、この度はありがとうございます。ゆっくり楽しんで行ってください」




 私は見てしまった。エリオットうじが事を収める寸前、背後で控えていたセシリーが、後ろ手でホーリーレイの印を組んでいたことを。彼の幻惑が一瞬でも遅れていたら、彼の父親は今頃、魂ごと消されて、この世どころか輪廻のことわりからも削除されていただろう。


「俺のエリオットに暴言を吐くようなヤツは、存在しちゃいけないんス」


 んもう、ダァは優しいんだからぁ♡だそうだ。ヤンデレ怖い。

お父ちゃんだけじゃなくて、お母ちゃんもちょっとアレっていう…。

でもこれから先は、辺境の砦で、お二人とも人が変わったように仲睦まじくお暮らしになりますので、許してください。

なお、お母ちゃんの名前(Esther)も、人名辞典から適当にEで拾ってきました。


今回も、読んでくださってありがとうございます。

評価、ブックマーク、いいね、とても励みになります。

温かい応援、心から感謝いたします。

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