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遅くなりました!
今回も、読んでくださってありがとうございます。
「いやぁ、フェリックスがダッシュウッド男爵の影武者を降りたいって言い出してね。じゃあ本人がやるしかないじゃない?」
おっしゃる意味がわかりません。
「ダッシュウッドの男爵位、今、保持してるの、僕なんだ」
「は?」
「君が貴族の奥方は嫌みたいだからって、影武者を立てたんだけど、僕が現・ダッシュウッド男爵。まあ、ゆくゆくは父上から辺境伯位を引き継ぐんだけど、そうしたら、僕らの子供が男爵位を継ぐのかな」
色々理解が追いつかない。ダッシュウッド男爵って架空の人物って言われていた気がするんだけど
「そう。僕は辺境伯の後継で、そっちの方が正式な立場になるね。だけど、それとは別に、男爵位を保持しているのは僕。父上が子爵位も保持しているようにね。君がフェリックスを選んだ場合、その位はフェリックスに譲ろうかと思っていたんだけど…どうも彼、君のお眼鏡に適いそうにないみたいだからさ」
デイヴィッド様は、ずっとにこやかなままだ。にこやかなままなんだけど、なんだか目が笑ってない、気がする。
「そうなったら、僕と結婚するしか、ないよね?」
「あーいやー、その…」
「前にも言ったけど、僕は君に辺境伯夫人としての役割は求めていない。家の采配は僕や部下がやるし、女主人としての役割も、影武者を立てればいい。後継にしたって、デイモンとバートン嬢なら、優秀な子孫に恵まれるだろう。もし彼らの間に誕生しなければ、エリオットとクラム嬢の子孫でもいい。エフィンジャー家も、もとはダッシュウッドの分家筋だし、クラム嬢もダッシュウッドの養女にしてある。学園を首席で卒業し、優秀な光属性の使い手とあらば、民衆の受けもいい。彼女には既に治療院や孤児院での慈善活動を依頼して、了承を得ている。彼らの子孫なら、ダッシュウッドの後継に据えても問題ないだろう。世継ぎの問題も含めて、君は本当に、貴族としての役割は、一切担う必要はないんだ」
「あ、えーと…」
満面の笑み、明るい声色、軽い口調。なんでもないように言ってる内容がエグい。もうずっと前から周到に、着々と包囲網が築かれていたことに、今更ながら戦慄する。
「正直言うとね、もうダッシュウッドで切れるカードって、限られてるんだ。今や国内外からマークされている君を、確実に護ろうと思ったら、僕かフェリックス、後はアーネストくらいなものかな、他の勢力からの縁談を防ぐための人材といえば。他はどうしても…例えばバートン家の子息、彼らでは少し荷が重いだろう」
この男、どこまで私のことを調べたんだろう。
「ああ、そんな顔しないで。君を追い詰めたいわけじゃないんだ。僕はただ、君といれば、誰よりも強くなれる。君といれば、誰も到達し得なかった高みに手が届く。こんな気持ちになったのは、本当に君が初めてなんだ。だから、君の答えがどうであれ、」
彼の顔から笑みが消えた。
「…僕はずっと君を諦めるつもりはない」
「あー、えーと、質問いいですか」
右手を挙げる。
「どうぞ?」
「えー、デイヴィッド様のお話を伺う限りですね、私は辺境伯夫人としての務めは不要だと」
「そうだよ?」
「それは子作りも含めて不要だと」
「子作り…まあそうだね。そうだけど?」
苦笑された。だってそういうことだろう。
「で、私を選ばれる目的っていうのは、強くなりたいからだと」
「そうだね」
「ってことは、普通にパーティー組んでパワーレベリングすればいい、ってことでオッケーですか?」
デイヴィッド様はあははと笑って、
「うんそうだね。そうだけど、それだけだと、他からの横槍は防げないよ?」
「私、フェリックス氏がいいです!」
「おや…」
「だってフェリックス氏は弟枠だし、弟なら大丈夫だって分かったし、まだ昨日のこと謝ってないし、くだらないことでも笑い飛ばしてくれるし」
私、何でこんな熱くなってるんだろう。
「そして何より、踏んでくれって言わないし!!!」
執務室の中が、静まりかえった。
「あっはっは、だってよ、フェリックス」
どこからともなくフェリックス氏が現れた。最近レベルが上がって、スキルを使うと私でも気配が掴めなくなった。やるな。
「ったく…お嬢。本気か?」
「うん!だって踏まれたい男なんて無理だもの!!!」
「うーん、「踏まなくてもいい」も条件に入れておくべきだったな…」
デイヴィッド様はぽりぽりと頭を掻いて苦笑している。そこは譲れないのかよ。
「俺が無理なら、アーネスト坊ちゃんだっているんだぜ?」
「アイツは舅が最悪だから、ヤだ」
誰も反論しなかった。
「まあ、そういうことなら、これからもフェリックスとパートナーってことで、いいのかい?」
「はい!是非お願いします!」
消去法だけど!
「ふふ、分かったよ。だけど僕、君のこと、ずっと諦めないからね」
デイヴィッド様はウィンクを寄越した。いや、パワーレベリングはちゃんとやるんだから、諦めるも何もないだろう。
「だがよ、お嬢。俺、お嬢について遠征に行くのはまだ…」
「その点についてご提案がございます」
「ヒッ」
どこからともなくアンナさんが現れた。彼女もレベルが上がって気配が読めなくなった。
「失礼ながら、アリスお嬢様の運転技術にはいささか問題がございます。ですから、馬車と同じように、お嬢様は飛翔と加速のスキルだけお使いになり、コントロールは筆頭が行われれば良いのでは」
その発想はなかった。
その後、裕貴くんとともに、フェリックス氏に正式に謝罪。そして試しに飛行訓練をした結果、フェリックス氏が主体になって低空で飛行すれば、問題なく移動できることが分かった。彼は腐ってもAGI極、加速のスピードにもすぐに適応し、ものの数分で光のダンジョンまで到着した。どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのだろう。
なお、あの時着陸した渓谷地帯は、目的地から大分離れたところにあることが分かった。私には運転不適合者に加えて、ノーコンのレッテルが追加された。悔しいが、反論できない。
結局、コクー○もトラ○セルも、再現されることはなかった。
前回に引き続き、書き上がりのほやほやな状態でUPしましたので、また後から修正があれば書き込みたいと思います。
今回も、読んでくださってありがとうございます!
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