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剣士の世界
山中の森の中、一人の男が佇んでいる。
腰の刀に軽く手を添え、静かに目を閉じじっとその場でただ立っている。
木々の隙間を抜ける風に僅かばかりの冷たさが混じる、先刻まで頭上にあった太陽が思いの外早く西に傾き始めていた。
そんなのどかな昼下がり、不意に喧騒が来る。
地を踏みしめる獣の轟音、追い立てる鈴の音色、それらが近付くに連れ風に乗った臭いが鼻に纏わりつく。
前方を見やれば、己に比べ二回りは優に超えるであろう大イノシシが追い立てられながらこちらへ迫っていた。
"これは骨が折れそうだ"内心そう思いつつ刀に手を掛け姿勢を低くとる、迫る獣に止まる意思などあるはずもなく、その瞳は眼前の矮小な生き物一匹己の牙で蹴散らしてやろうという自信に満ちていた。
息を吐き視線を合わせ神経を研ぎ澄ます、