7話 実は素直ないい子
自動ドアから外に出た俺は店の周りを見て回る。
ふと目をやった先に、さっきの二人が気まずい雰囲気で立ってこちらを見ていた。
すると、意を決したように、ふたりが歩いてきた。
俺は何事がと身構える。
二人は俺の前に立つと。
「……さっきはごめん」「ごめんなさいでした」
そう言って頭を下げたのだった。
拍子抜けした俺は。
「あ、ああ。……いや、こっちも気にしてないからお前らも気にすんな」
そんな気の抜けた返事を返す。
「えーと、言い訳がましいんだけど、私ら二人、今日、ダンジョンの中で嫌なことがあったり、最近、調子が悪かったり、いろいろ重なっちゃって……。イライラしてたんだ」
「おじさん、その、コンビニを出て冷静になったら、悪いことしちゃったなって思って。……だから、ごめんなさいでした」
そう言って、再度、頭を下げる水色の子。
まあ、二人とも、根は悪い子じゃないんだろう。
わざわざ謝りに来るなんて、大人でも中々できることじゃない。
「あー、気にすんな。誰でもそんな日はある。それにな、どっちかと言うと、おじさんと言われることの方がダメージがでかい。俺はまだ20代だ」
二人はキョトンとした後、年相応の可愛らしい笑顔を見せる。
「ぷっ、何それ。あはは、きも」
「だったら、おにいさん、かな」
そう言って二人笑う。
あ、そうだと、赤髪(名前が思い出せん)が思い出したように。
「おにいさん、さっき言ってたのってマジ?」
「さっきてのは?」
「ほら、私達のこと知らないっての。あれって冗談だよね?」
すると、水色が。
「ミナ、私も気になってたの」
二人してこちらに顔を向ける。
俺は気まずくなりながら、目を横に逸らすと。
「あー、マジだ、すまん」
そう答えたのだった。
「「えー!?」」
それを聞いた二人は同時に声をあげる。
「マジなんだ……」
と、赤髪が落ち込んだ風に言えば、
「地味にショックなんですけど~」
と、水色の子。
俺は二人に言い訳する。
「すまん、あのコンビニかなり忙しくてな。店長をしてるもんで、世間に疎いんだ。それに店にいた二人は知っていたから。な」
二人は少し考えるように黙った後。
「たしかに忙しそうね。あのコンビニ」
さっきの様子を思い出したのだろう。赤髪がそう呟いた。
「ていうか、ミナ。ダンジョンのあんな近くにあるコンビニなんて、他になくない?」
「たしかに無いわね」
「そうなのか?」
他のダンジョン、というか、ダンジョン近くのコンビニが気になった俺はふたりに聞いてみる。
すると、水色が教えてくれる。
「そうですよ、おにいさん。だってあんなに近くにあったら中からモンスターが出てきたら危ないじゃないですか」
確かにそうなのだが。
「まあ、ここは探索者が多いから出てきてもすぐに倒されてるしな」
「「あ~、たしかに」」
そう納得したようだが、水色が続けて。
「あ、でも、ここのダンジョンは危険度高いし、ランクの高いモンスターが出てくるかも知れないですから、気をつけてくださいね」
そう注意をしてくれた。
「用事も終わったし、サナ、そろそろ帰ろっか」
「そうだね。あ、おにいさん、私は止水サナカ。ちゃんと覚えておいてね」
「私は貴崎ミナ。あ、覚えにくければ名前呼びでも良いよ」
「それは遠慮しとく。俺は榊田ユウジ、あのコンビニの店長だ。まあ、今後とも贔屓にしてくれ」
「「は~い」」
二人仲良く返事をした後、帰っていった。
見送った後、コンビニの中に入ると、美坂が寄ってくる。
「店長、お楽しみのようでしたね。もう、興味なさそうにしていたのに。あ、犯罪者になったらダメですよ」
獲物を見つけたように目を輝かせ、口をにやにやさせながら俺を見ていた。
「黙れ、仕事するぞ」
「むー」
乗ってこない俺に拗ねたように声をあげる。
俺は、歩きながら、あの二人ぐらいは覚えておくか、そう思うのだった。