5話 絡まれる、人によってはご褒美です
どうぞ
誤字報告いつもありがとうございます。
少しして仕事に区切りをつけた俺は店の中を覗いてみる。中は客の数が増えて、賑わいを見せていた。
この時間にしては少しだけ珍しい。
このコンビニは朝、ダンジョンに向かう探索者で溢れかえるのだが、彼らに定時はないので、帰る時間はばらばら、固まることは少ない。
まあ、レイド戦がある時は皆、帰る時間が一緒になるので、客の数も多くはなるのだが。
今日はレイド戦でもあったのか?
そう思いつつ見てみると、若いきれいな女性がぱらぱらといてその周りに男性達が集まっていることに気づく。
その一つ、一際目立つ存在をしている銀髪の見た目クール系の美少女がいた。
銀髪、ああ、あれがさっき楠木くんが言っていたパーティーのリーダーの。
そう思い出しながら、ボーッと見ているとレジに立って客の対応をしていた美坂から声がかかる。
彼女はこちらをジト目で見ながら。
「あー、店長。今日の獲物を狙う犯罪者のように美少女を眺めるのはそれくらいにして、手が空いているんだったら、レジ入ってもらえませんか?」
そう言って彼女のレジの前に並ぶ客の方を見た。
俺はそれに気づくと。
「お、すまん。って誰が犯罪者だよ」
そう軽口を叩きながら、慌てて空いているレジに入った。
「次のお客様、こちらにどうぞ」
そう言って、美坂のレジの前で次に並んでいた客を誘導する。
やってきたのは、赤い髪を横に束ねた勝ち気そうな女の子と肩まである水色がかった髪のおとなしそうな女の子の二人組。銀髪の女の子に負けず劣らず美少女、年は十代だろうか。
俺は彼女達から商品の入ったかごを受け取る。
商品を一つずつ確認していると、赤い髪の女の子が少し睨みながら俺に話しかけてきた。
「ねえ、あんた。さっき、リーダーのことをずっと見てたでしょ」
「え? 」
どういう意図か分からず、戸惑う。
「たしかに、リーダーは女の私からしても見とれるほどの美少女だから仕方ないけど、あんたみたいな零細コンビニ店員からしたら高嶺の花なんだから、見るだけにしときなさいよ」
「え?」
って、どういうこと?
いきなり、なんか言われてるんだけど。
ていうか、この店、零細じゃないし。
もしかして、けんか売られてる? これ。
その時、水色の女の子が、もう、と言いながら口を挟んできた。どうやら窘めるために間に入ってくれるようだ。
「ちょっと、ミナ、止めときなさいよ。仕方ないよ、店長さんとは言え、コンビニ店員さんだし~」
更に煽られているのか、これは。
いやいや、大人な俺は冷静に対処しないと、そう思い、愛想笑いを返す。
「は、ははは……」
「きも」
赤髪がボソッと呟く。俺は笑った顔のままで顔がひきつり、ぎりっと奥歯を噛む。
「もう、ダメだって、そこまで言ったらさすがに気の毒だよ~」
うふふ、と言う水色の煽り。
目を瞑り、ガキどもなんか無視して冷静になれ、と自分に言い聞かす。
「ふーん、言い返せないんだ。ま、いいわ。ほら、さっさと会計してよ」
「仕方ないよ、トロいのは。ミナ、我慢してあげて」
てめえらが俺の手を止めてるんだろうが。
……いいよね、一言ぐらい言い返しても、もう良いよね。
そう思い、笑顔で一言、言い返す。
「……申し訳ありませんでした、お客様。……まあ、パーティー名はまったく存じ上げていませんが。あ、お会計は」
そう続ける。
最初は分かれば良いのよ、なんて言っていた赤髪と水色髪は最後まで聞いて、二人揃って驚いたようにこちらを見る。
「「え?」」
うんうん、この顔を見ただけで、してやったりだな。
そう思い、ほくそ笑む。
「ちょ、ちょっとあんた、嘘よね。私達、知らないって」
「そ、そうですよ、おじさん。私達、白銀の戦乙女ですよ。アイドルよりも有名ですよ」
「はいはい、嘘じゃないですよ。それより、お待ちのお客様がおられるので、お会計をお願いします。」
さらりと言い返す。ただ、心の中では、
まだ20代だし、おじさん、じゃないよな、……いや、おじさんか。
などと、おじさん、と言われたことに地味に心にダメージを受けてはいたのだが。
言われた赤髪は慌てて探索者カード探しつつ、
「え? えっ、あ、はい」
そう言ってをレジの端末にかざした。
そして、二人、何か言いたげに何度か振り返りながら、店から出ていった。