4話 有名人
どうぞ
ある日の夕方、店番を美坂とバイトの楠木くんに任せて、俺はバックヤードで作業をしていると、店の外、表側が少し騒がしいことに気づく。
店の中を覗いて、ちょうどレジの前で立っていた楠木くんに何かあったのか聞いてみる。
楠木くんは高校3年生で、中性的な顔立ちのおとなしいけれどしっかりものの青年だ。
「楠木くん、なにかあったのか?」
すると、彼は人だかりができている店の外を見ながら。
「なんでも、最上級パーティの一つ、白銀の戦乙女が外にいるらしいですよ」
「なんか中二な名前だな、それ」
聞いてもすごさがわからない俺はそんなことを返す。
そんな興味無さげな俺を見て楠木くんはこちらをチラッと横目で見たあと。
「もう、店長は。なんでもリーダーが銀髪の美少女で、パーティーも女の子だけで構成されたアイドル並みに有名な人達ですよ」
「へー」
とりあえず生返事を返す俺。
「まったく店長はもう少し探索者の有名人について勉強したほうがいいですよ。この店、ダンジョンの前にあるからお客さんはほとんど探索者の人達ですし」
「いやいや、俺は階級に限らず来店されるお客様はみんな平等なんだよ。……いや、ご贔屓にしてくれると、売上が伸びるか?」
そんな俺の言葉を聞いて、楠木くんは、はあ、と嘆息した。
「それより美坂はどうした?」
俺は美坂がいないことに気づいて、周りを見渡す。
「美坂さんは外に見に行きましたよ。サインをもらうんだとか」
「まったく、あいつは。……なあ、楠木くん、外に出て、営業妨害だから集まるなと言うと、空気読めてないかな」
「え!?」
楠木くんは、何を言うんだこいつは、と驚いた顔をした後、こちらに体を向ける。
「店の敷地内なので言っても良いんでしょうけど、まあ、空気は読めてないでしょうね。こんなことは滅多にないですし、この時間は客の入りも多くないですし、ほっといたら良いんじゃないんですか?」
「ま、そっか」
その通りかと思った俺は、そう言って、バックヤードに引っ込んだのだった。