3話 立地が悪い
まだまだ続けます
俺はシャワーを浴びて、髭を剃り、下着を履き替えて制服を着ると、仕事場に向かう。
レジには既に人がごった返していた。俺に気づいた美坂が声をかけてくる。
「あ、店長、早くそっちのレジに入ってください」
俺は分かったと返事をすると待っていた客をさばき始めた。
それからしばらくして、客の数も減ったのを見計らい、美坂が声をかけてきた。
「お疲れ様でした、店長」
「ああ、お疲れさま」
俺は彼女にそう返す。
「今日も多かったですね~。店長、午前中だけでも、もう少し人増やしてもいいんじゃないですか?」
たしかに二人で対応するには朝の客の数は多い。
ここの店員は彼女だけではないので、シフトによっては三人で対応できる日もあるが、夜も入ってもらう必要もあり、ほとんど日が二人で対応する状況が続いていた。
「募集は出してるよ、ずっとね。ただね、あまり人が集まんないんだよね、ここ」
彼女にそう言いながら、コンビニの自動ドアの遥か向こうを眺め見る。
すると、彼女も俺の視線の先を見て、納得したようにひとつ嘆息する。
「はあ、ま、そうですよね。ここ、異界の入口の前ですし」
そう俺たちの視線の先には、今しがたコンビニで買い物を済ませた探索者が次々に入っていくダンジョンが見えていた。
そう、このコンビニはダンジョン前店なのだ。
あのダンジョンは、そこそこ初期にできたダンジョンらしく、中は広く、危険度も上から数えた方が早いらしい。
そのため、中級から上級の探索者が対象にするダンジョンで、中には、けっこう有名な探索者も入っていくのだとか。
まあ、俺は調べたことないので誰が誰だか分からないが(このコンビニに寄っていくらしく美坂が教えてくれる)。
「まあ、前にあるからといってそんなに危険なわけではないんだけどな」
「そうですね~。給料も他のお店より良いのに……」
そう、探索者が買っていく売上に加え、探索者を支援する店を対象にした補助金や、異界近郊補助制度といった国からの支援金も出るので、このコンビニの財政状況はかなり良い。
このため、働いている店員やバイトには、危険手当として、他の店より賃金を多く割り当てることができるのだ。
危険手当は付いているけれどモンスターが溢れ出てくると言うことも頻度は多くない(週に一回あるかないかだ)。あったとしても、探索者が多く通いつめるここでは、すぐに倒されるので、店の危険はほとんどない。
ただ、普通はダンジョンの近くにあると言うだけで働き口としては避けられてしまうのだった。