99 生徒会でお茶会
昼食後、私とレグリスはラグナル様とルイスお姉様のお二人と一緒に説明を受けながら校内を回る。
色んな社交会の催しはとても賑わっているようだ。
中には新入生が来てくれなくて嘆いてるところもある。
どの社交会はどのような活動をしているのか、ラグナル様は詳しく説明を行ってくれるので、とても分かりやすく、色んな集まりがあるので説明を聞いているだけで楽しい。
そんな時、何か先で揉めているような声が聞こえてきた。
「何かあったようだな。見に行こう」
そうラグナル様の言葉で私達はその声の方へと急いだ。
その場所に着くと、男女が言い争っていた。
男子の後ろには⋯⋯何故かヒュランデル様がいらっしゃり、何故か泣いている。
あぁ、何故だか安易に想像出来てしまう⋯⋯。
「何を言い争っているのですか?」
「あっ! 生徒会の⋯⋯」
「別に争っている訳じゃない。マレーナ、彼女が一年生にきつい物言いをしていたので、もう少し優しく出来ないのかと注意していたんだが⋯⋯」
「きついって、貴族として、人として当たり前の事が出来ていないから、上級生として正していただけでしょう⋯⋯。それなのに注意しているそばから貴方にしなだれかかるから!」
お二人は婚約者同士なのかな。
確かに婚約者のいる方にしなだれかかるのはよくないわ。
というか、まだ十歳なのにそんな事するのね。
「なるほど⋯⋯上級生として間違いを正すのは当たり前の事だからマリーナ嬢の行いは間違ってはない。だがもう少し広い心で注意するように。何度も同じ事を繰り返せば叱責するのも致し方ないが⋯⋯」
「今一番事態を悪化させているのは、貴方が叱られている一年生を庇うのが問題ね。理由は分かっているのでしょう? 何故庇ったのかしら」
確かに。
不当な注意ならば庇うのも分かるがそうでないならばルイスお姉様が仰ったように悪化させるだけだ。
「まだ十歳だし、そこまで叱らなくてもいいんじゃないのか?」
「そのまだ十歳という考え方があまり良くないかと。学園ではマナーは一年生から習うのだし、何より彼女は公爵家でしょう? どちらかと言うと模範にならなければならないのに、マナーが出来ていないというのは、公爵家にとっては恥となるでしょう。その辺りもきちんと理解しているのかしら?」
ルイスお姉様の鋭い指摘に彼はハッとなったようだ。
「あぁ⋯⋯いや、その通りだな。申し訳ない」
「それで、そこの一年生、クラスと名前は?」
「何故私から名乗らなければならないのかしら?」
「この学園は身分関係なく平等を基本姿勢としている。それは分かっているだろう? 今私が聞いるのは、上級生として下級生に名を尋ねている。名乗る気はあるのか?」
「⋯⋯S―Ⅰ、サンドラ・ヒュランデルですわ! これで良いのでしょう!」
「結構。ではこの件は担任であるクランツ先生に伝えておく。今後はこの学園、そして貴族としての教養をより身に付けるように」
ラグナル様はそう言うと私達を促し、この場を去る。
暫く進み、中庭に出ると、そこで一旦ベンチに座り、先程の事を、というか、ヒュランデル様の事を聞いてきた。
「さっきの令嬢はいつもあんな感じなのか?」
「そうですね。概ねあの通りです」
「シア、もっと話さないといけないことあるだろう?」
「何かあるのか?」
「あるといえばあるのですが⋯⋯」
「シアはね、あの令嬢にいつも迷惑を被っているのよ」
「ルイスお姉様!」
「ダメよ、きちんと話さないと。貴女はもう生徒会の一員なのよ。情報は共有しなければね」
「⋯⋯と言うことはお兄様達にも話すのですか?」
「えっ、待って、話していないの?」
「軽く話してはいるのですが、毎回何があったかまでは話していません。話すと大事になりそうなので⋯⋯」
「⋯⋯なるほどな。生徒会室での様子を見れば、アリシア嬢の兄達は過保護みたいだからな」
「お恥ずかしい限りです⋯⋯」
一番はヴィンスお兄様に知られることなのだけれど、後のお手紙攻撃が怖いわ。
取り合えず、手を出さないようにだけはきちんと伝えないと⋯⋯。
その後も見回りを続け生徒会室に戻る。
既に他の皆様は揃っていらっしゃって、雑談をされていた。
「会長、少しお話しが⋯⋯」
「ん? 何かあったのかい?」
「実は⋯⋯」
ラグナル様とルイスお姉様は先程の件を会長達に話をし、勿論その後に私がよくクラスで突っかかれていることもバレた。
話を聞いたマティお兄様達は全ての詳細は知らずとも、少しはお話ししてたので「悪化してるのか⋯⋯」と。
ただ、ヴィンスお兄様はとても怖い笑顔で「あの鬱陶しい令嬢か⋯⋯」と呟いていた。
ヴィンスお兄様はあの令嬢に何かされたの?
「シア、ヴィンス様はサンドラ嬢に付きまとわれているんだよ」
「⋯⋯そう、なのですか?」
ヴィンスお兄様に付きまとうなんて‼
次からはあの令嬢に対して冷めた対応でもいいかしらね。
あぁ、早く実技始まらないかしら。
そうしたら有無を言わさず叩きのめすのに!
「シアは何を物騒なこと考えているのかな?」
「マティお兄様、別に何も考えておりませんわ」
お養父様みたく鋭い⋯⋯。
探る目で私を見つめてくるけど、目を逸らしたら負けよね。
負けというか認めたことになるから目は逸らせないわ。
「そう言うことにしておこうか。ただ、きちんと報告しなかったからお仕置き必要だね」
「お兄様、報告しなかったことはごめんなさい。ですが、あの令嬢に関しては話が通じないのと、少々対応が面倒臭い以外は実害がありませんので、お兄様達は手を出さないでくださいませ。というか、お兄様達が手を出すと余計にややこしくなります!」
「それはそうね。シアの話では、養女だから兄達に迷惑をかけるなと言われたのでしょう?」
「何それ⋯⋯シア、どう言うことだい?」
その言葉でお兄様達の雰囲気が変わった。
「要約すると、私がシベリウス家の者ではないので、見目麗しいお兄様達を頼るのは止めなさい、と言うことでしょう」
「シア、ごめん。全く意味が分からない」
「まぁ、男の方には分からないわよね。シアの言葉を更に砕くと、貴女はシベリウス家とは余所者なので、見た目がよくて格好いい兄達に近づくのは許せない、といった感じかしらね」
「何故?」
「何故って、シアは遠縁で血の繋がりも薄いのでしょう? そしたら、今は兄かもしれないけれど、婚姻することも出来るわ。だから格好いい男達にちやほやされたいあの令嬢には許せないのよ」
「いや、さすがに妹としては大好きだが、婚姻云々はないよ」
「貴方達はそうかもしれないけれど、あの令嬢から見ると違うのよ。自分を他所に可愛いシアがちやほやされているように見えるのよ」
「は? ちやほやなんてしてないよね? 寧ろシアはあまり頼ってくれないから寂しいのだけど」
「お兄様、あの令嬢から見れば、お兄様達から声をかけられた時点で私がお兄様を頼っていると見られてしまいます」
「うわぁ⋯⋯女って面倒臭いな」
「「「女って一括りで言わないで頂けます?」」」
「申し訳ありません‼」
流石に女の一括りはよくないわ⋯⋯。
それって、私達も入りますものね。
お姉様方を敵に回したらダメですよ、レグリス。
男性先輩方もレグリスに「それは言ってはいけない⋯⋯」としみじみ話していた。
それはおいといて、お兄様達にバレてしまったので次からはきちんと言わないと、本当にお説教される気がするし、何よりも介入される気がする。
段々と大事になっていっている気がするのは気のせいではありませんよね。
「今の話を聞けば、この生徒会内でヴィンス様とアリシア嬢の二人がヒュランデル嬢に煩わされてると言うことになるね」
「お二人共、対処するにしても節度ある態度で行う事を心掛けてね。後対処に困れば必ず報告するように」
「分かりましたわ」
今日のところはこれで一旦終わり、次は光の曜日に集まることとなる。
最初は緊張したけれど、生徒会の皆様は暖かい人達でとても居心地の良さが安心した。
お兄様方やお姉様達も一緒なので早くに打ち解けたことも大きい。
レグリスも最初の緊張がなくなっていた。
今日この後授業もないので、私とレグリスも皆様のお誘いもあり、この場で引き続きお茶会となった。
会長と副会長は既に将来が決まっていると言う。
会長のアルヴィン様はお父様が宰相で、会長も将来は宰相を目指しているとのこと。
今はヴィンスお兄様の側近として経験を積んでいるようだ。
副会長のクラエス様は魔法師団に入団が決まっていて、週の半分を学園で、もう半分は魔法師団で既に働いているみたい。
それだけ実力があるということは本当に凄いと思う。
なので次期会長はラグナル様で副会長はルイスお姉様になる予定だ。
何故予定かと言うと、お二人の成績は拮抗していて、後期にならないと最終決定はしないそう。
お二人共特にその辺りは気にしてなさそうな感じ。
「あぁ、そうだ。気になっていた事があるのだけどね。丁度一学年の二人も入ったことだし、確認したいのだけど、いいかな?」
「はい、何でしょうか」
「一学年の間では王女殿下の噂はどのように流れているのかな? 直で聞いてみたいと思っていたんだよ。ヴィンセント殿下は噂に過ぎないから捨て置けと仰っているんだけどね」
「言わせたい奴には言わせておけば良い。私の可愛いステラの魅力は私が分かっていれば十分だ」
「この通りなんだ。だけどあまり酷い噂だともし殿下が学園に通えるようになられた時に、そのような噂を耳に挟まれると良くないと思うんだよね。だから払拭できることはしておきたい私は思ってるんだよ」
「なるほど。ですが、私は直接噂を聞いたことがありません。誰かが話しているのを小耳に挟んだ程度です。内容は、人が多くいる場所には怖くて出てこれない、毒で顔が醜くなったので人前に出られない、既に亡くなっている、殺されるのが怖くて離宮に隠っている、本当は王女とかいないのでは? といった内容です」
「アリシア嬢はどうかな?」
「私も小耳に挟む程度で、内容はレグリスとあまり変わりありませんわ」
そう、学園に通い始めて聞こえてきた噂話。
私の事を客観的に聞くのは変な感じで、私の良くない噂が広まっているのはお祖父様からの情報で知っていたし、学園に入ってからもあちらこちらで話されているのは知っていた。
今レグリスの話していたこと以外の事も耳にしたけれど、内容が内容なのでお兄様がご存知なのか分からないし、何よりあまり言いたくない。
しかも、これは王家に対して喧嘩を売っているのかと、王家を陥れるような内容だからだ。
その内容が耳に入った時は流石に悲しくなった。
「ふむ、レグリス君、アリシア嬢もその他にもどんな事を聞いたのかな? 包み隠さず話すように」
「隠してはいないのですが、大体同じ内容に少し違う事が付け加えられたりそう言ったものでしたので⋯⋯」
「アリシア嬢は?」
会長の様子を見ると、嘘は言えないような、隠し事もしない方がいいような、そう言った雰囲気が出ていた。
私も隠し事を顔に出すことは無いけれど、何故か今隠し事はしない方がいいような気がする、と直感的に感じた。
言いたくはない。
私は気にしてないけどお兄様がどう受け止めるか⋯⋯。
「私が他に聞いた内容は⋯⋯、殿下の前でお話しするのが躊躇われるのですが⋯⋯その、王女殿下は本当は不義の子なのだと、そう言ったことも耳に挟みました」
「⋯⋯シア、今、なんて言ったのかな?」
「おう⋯⋯」
「言わなくていい!」
この反応は知らなかったのね⋯⋯。
あぁ、物凄く怒っていらっしゃるわ。
魔力が揺らぐほどの怒り。
瞳の純青色がお祖父様よりも鮮やかな紫に変わり爛々と輝いている。
きっとそれを私に言わせてしまったから⋯⋯。
お兄様に「私は大丈夫」だと言いたい。
お兄様に寄り添いたい。
けど、今は出来なくてもどかしい⋯⋯。
周囲の先輩方はお兄様のその殺気に慄き距離をとっている。
「殿下、落ち着いてください‼」
このままでは⋯⋯!
あっ、そうだ!
『アステール! お兄様に私は気にしていないので大丈夫ですとお伝えして!』
『はっ!』
アステールに私が気にしていないことをお兄様に伝えて貰うと、一瞬ちらりと私を見て直ぐに目を閉じる。
そうすると落ち着いたようでお兄様の魔力も静かになる。
「落ち着かれましたか?」
「⋯⋯悪かった」
「いえ、殿下のお怒りも当然の事です」
取り合えず落ち着いて良かったわ。
まだお兄様の纏う空気は重いけれど⋯⋯。
「皆もすまない」
「いえ、殿下のお気持ちを考えると、怒って当然の事ですので」
「こんな悪意に満ちた噂が流れていたなんて⋯⋯」
「殿下が落ち着かれたので、皆心に留め置いてほしいことがある。その前に、生徒会内で話された内容について、口外禁止なのは分かっているね? アリシア嬢とレグリス君も最初に説明したので勿論覚えているよね?」
「「はい」」
「ひとつ、重要機密を伝えておくよ。再来年の社交界デビュー後、王女殿下が学園に通われる事が決定している。今年、来年卒業する私達はその時にはいないので、特にマティアス君とクリスティナ嬢には心しておいてほしい。学園が騒がしくなるだろうから、生徒会として殿下が学園で心憂う事なく通えるように動いてほしい。アリシア嬢とレグリス君は同年齢なので、勿論殿下を支えてほしい。他の皆もだよ。お願いできるかな?」
「「「勿論です」」」
なんだか不思議な感じ。
私は此処にいるのに、いないのと同じだから、私の事を話されているのはどう言い表していいか分からないけれど、こうやって人柄も分からない相手の事を気遣ってくれるのは嬉しく思う。
だけど、皆を騙してるのには変わり無いのよね。
そこがとても心苦しい。
「あの、お伺いしたいのですが⋯⋯」
考え事をしていると、二学年のリアム様が質問してきた。
「あの、学園に通われると言うことは、殿下はお元気でいらっしゃるのですか?」
「勿論だ」
「一学年から通われないのは⋯⋯」
「それは彼女の意思ではない。陛下達の思惑があるからだ。それ故、エステルには大きな我慢を強いている」
「申し訳ありません、気になったもので」
「気になるのは当然だから気にするな。だが、決して他では話すなよ」
「それは勿論承知しております」
普通は気になるものね。
だからあれこれと面白おかしく噂が流れるのよ。
中には悪意に満ちた噂もある。
そのひとつが先程言った件だ。
出所を探すと、きっとよろしくない人物に行き着くのでしょう。
そこはお父様達が探っていると思う⋯⋯。
だけど、私自身で探りたい気持ちもあるけれど、私の護衛が優先だと、影達に言われてしまったのよね。
だから、私は学生らしく学園生活を楽しみながら、けど周囲にも目を向けておきましょう。
自己防衛は大事よね。
そう考えていたら会長の話は以上で、そろそろいい時間となったので、今日の生徒会は終了で、後片付けと挨拶をしてそれぞれ寮に戻っていった。
この夜、私はお兄様とお祖父様にお手紙を書いた。
内容は、今週末に離宮でお兄様に会いたいと⋯⋯。
昼間の一件が気になるのと、私がお兄様に会いたいからだ。
お手紙を認め、ノヴルーノに手紙を託す。
暫く今日の事を振り返っていると、何かふと気配を感じた。
「ノアです。お休み中に失礼致します。姫様少しよろしいでしょうか?」
「お兄様の影ね? 構わないわ」
「失礼致します。主よりお手紙を預かって参りました」
そう言われて出された手紙の分厚さに驚く。
なにこれ、手紙じゃなくて論文?
「これは手紙で間違いないのかしら?」
「間違いありません。王宮に戻られてから部屋に隠って書き連ねておられましたので。後、姫様からのお手紙を貰って子供のように跳び跳ねて喜んでおられましたよ」
跳び跳ねてたの?
お兄様が?
想像できない⋯⋯。
「お兄様がお元気なようで良かったわ。ノア、お手紙を持ってきてくれてありがとう」
「いえ、では失礼致します」
さて、お兄様のお手紙を開きましょう。
こんなに一体何を書いたのかしら。
読む事数分、いや十分以上か?
⋯⋯最後まで読んで思ったことは、これは妹へ送る手紙じゃない。
どちらかと言うと、恋人へ送る手紙よ!
最初の方は昼間の一件での事が書かれていて、後半に行くにつれ段々と好きな人へ送る言葉が書かれていた。
何故妹にこんな手紙を書くのかしら⋯⋯。
嫌ではないけれど、不思議だ。
と、そこへノヴルーノが帰って来て、お祖父様からの手紙を預かって来てくれた。
お祖父様からは了承の返事と、お兄様からも勿論の二文字でお返事を頂いたので、週末は離宮へ行くこととなった。
ご覧いただき、ありがとうございます。
ブクマに評価をありがとうございます。
とても励みになります!
次話も楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回は土曜日に更新しますので、よろしくお願い致します。





