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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第1章  大切なもの
93/264

93 戦うという事は


 朝起きると、見覚えのある部屋⋯⋯。

 よく見るとここはギルドの部屋じゃなく邸の自室だった。

 何時、どうやって私はここに戻ってきたのか。

 起きるのが少し早かったけれど、当たりは少し明るくなってきていた。

 昨夜はギルドの部屋で寝たのは間違いないはずだけど、どう言うことかしら⋯⋯、

 気配を探ると、今日はノヴルーノみたい。



「おはよう、ノヴルーノ。私はどうして邸の部屋にいるの?」

「おはようございます、姫様。辺境伯が直接此方にお連れになられました。レオナルド様も此方にお戻りです」

「だけど、まだ彼方で出来ることもあるでしょう?」

「姫様、今日が何日かご存じですか?」

「えっ? えっと⋯⋯」



 そういえば、何日か分からない。

 確か大規模襲来が来たのは、四月半ばだったかしら⋯⋯。



「五月の半ばとか⋯⋯?」

「いえ、明日で五月も終わりです」

「もうそんなに経っていたの!?」

「はい。辺境伯も森が静けさを取り戻し、瘴気がきれいに消えましたので、今回は終息したと宣言いたしました。それにより姫様達は学園へ行きなさいと言うことで、流石に入学式には間に合いませんが、身体をゆっくりと休め、六月六日、地の曜日から学園に通えるよう、準備をするそうです。学園には既に遅れることは伝えられていますので、ご安心を」



 すっかり忘れていたわ⋯⋯。

 そういえば、マティお兄様もレオンお兄様も学園をずっと休んでしまってますけど、大丈夫なのかしら。



「姫様、もう起きられますか?」

「モニカは呼ばなくていいわよ。流石に疲れているでしょうし、まだ寝てるでしょう」

「起きておりますよ」

「⋯⋯ちゃんと休んでるのかな」

「休んではいるようです。呼んで参ります」



 少しすると、モニカが部屋へ入ってくる。

 早い⋯⋯、身支度整えて待っていたのかしら。

 顔にはそれほど疲れは見えないけれど⋯⋯。



「おはようございます。湯を使われますか?」



 彼方ではゆっくり浸かれてなかったし、ゆっくり入りたい。

 モニカには私の事がいつもの事ながらお見通しみたい。



「おはよう、モニカ。お願いできるかしら?」

「少々お待ちください」



 湯の用意が整ったら久しぶりにゆっくりと浸かる。

 ほっと出来るけれど、戦っていた日々の事が思い浮かぶ。

 経験不足だと言われたらそれまでだけど、もっと上手く立ち回れたのではと、そう思わずにはいられない。

 私の代わりに護衛の二人や仲間達が傷付くのを見ると、余計にそう思う。

 だけど、これから学園に通って、王都に暫く住むこととなると、違う意味で気を付けなければならない。

 サムエルは付いてくるだろうけど、クラースは此処で残るはず。

 確か、学園の寮は一人侍女を伴うことが出来たから、勿論モニカに来てもらう。

 護衛は付かないので、サムエルは何か理由付けて私の影として付くでしょうし⋯⋯。

 考え事をしていると、モニカから声をかけられた。

 声を掛けられなかったら逆上せていたかも⋯⋯


 少しぼぅっとするので、水分を良くとる。

 危なかったわ。

 少し落ち着いてから身支度を整える。



「モニカ、早くからありがとう」

「いえ、起きたら邸で驚かれたでしょう?」

「びっくりしたわ。起こしてくれれば良かったのに⋯⋯」

「良く寝ていらっしゃいましたし、抱き上げられても起きませんでしたからね。それにシア様は何か掴んでらっしゃいましたでしょう? 旦那様は何かご存じのようで、苦虫を噛み潰したようなお顔をされておりましたが⋯⋯、もしかして、殿下の贈り物、とかですか? 」



 最後は何かを期待したようなキラキラした笑みでズバリ核心をついてきた!

 鋭すぎる!

 けど、モニカには見せてないけれど、まだ一度も外したことないし、外さないと見せれない⋯⋯。

 外しても大丈夫なのかな。



「シア様、大丈夫ですよ。きっと隠蔽の魔法が掛けられているのでしょう?」

「そうなの。着けていたら見えないようになっていて、殿下に制御訓練を受けた時に頂いたの」

「まぁ、そうでしたか! ふふっ。ではそれを握りしめて寝ているシア様を目にしたので、旦那様も嫌だったのでしょうね。寝顔がとても可愛らしかったですよ」



 そんな風に言われると恥ずかしい!

 けど、なんだか安心するんですもの⋯⋯。

 穴があったら入りたいわ。



「お身体は大丈夫ですか?」

「えぇ、大分楽になったわ。ありがとう」

「それでは、そろそろ食堂へ参りましょうか」



 身体を休め、話をして居る間に時間が経っていたようで、朝食を取るため食堂へ移動する。

 食堂には、お養父様とお養母様がいらっしゃった。



「おはようございます。お養父様、お養母様、アレク」

「おはよう、良く眠れたかな?」

「はい。昨夜起きれなくて申し訳ありません」

「いや、起こさなかったんだよ。良く寝ていたからね。それよりも⋯⋯、何故ネックレスを握りしめていたんだ?」



 何も言われないと思っていたのに、まさかそこを聞かれるなんて!

 しかもネックレスだとばれている!

 そのまま伝えていいのかな⋯⋯、怒られそうな、何より恥ずかしい。



「シア?」

「ふふっ、シアったら照れてるのね。可愛いわ」

「お養母様! からかわないでくださいませ」

「それで、握りしめていたのはネックレスで間違いないだろう? 何故握りしめていたんだい?」

「それは⋯⋯、その、それで間違いありませんが⋯⋯。中々眠れなくて、だけどこれに触れると、その⋯⋯、安心と言うか落ち着くので、それで⋯⋯」

「ほぉ⋯⋯」



 朝なのに、もう暖かい時期の筈なのに、冷気が!

 お養父様が怖い⋯⋯。

 お兄様達、お願い、早く来て!!



「まぁまぁ、シアったらすっかり殿下に心を奪われてしまったのね」

「心?何故ですか?」

「もう! あなたは本当に鈍感なんだから⋯⋯学園に行っても大丈夫かしら。心配だわ」



 お養父様はまだ機嫌が悪そう⋯⋯。

 お養父様をじっと見つめてみるけれど、何も話してくれない。



「あの、お養父様? 何故怒ってらっしゃるのですか?」

「はぁ⋯⋯。別に怒ってはいないよ」

「シア、アルはね、拗ねているのよ」

「オリー!」

「だってそうでしょう? 殿下にシアを捕られちゃうから寂しいのよね」

「お養母様、捕られちゃうとは?」

「姉上、捕られちゃうの!?」

「アレク、安心しなさい。まだ捕られないから。シアは殿下の事を頼りにしているのでしょう?」

「頼りにしている、のでしょうか?」



 私は良くわからなかった。

 だけど、お養父様達は盛大な溜め息をついていた。

 そこへようやくお兄様達がいらっしゃった。

 やっと解放される!!



「おはようございます、父上、母上、シア、アレク」

「おはようございます」

「あぁ、おはよう。二人とも掛けなさい」



 皆が久しぶりに揃ったので、嬉しい。

 改めて生きていることに感謝する。

 久しぶりに皆揃っての食事は、何時も以上に美味しかった。

 ゆっくり話すのは食事を終えてから。

 今は普段の会話を楽しむ。

 食事が終わり、今へ移動すると、そこには私達の護衛も揃っていた。



「今回の災害は終結した。皆も良く頑張ってくれたな。皆の事を誇りに思う。そしてよく生きていてくれた。クリスやヴィダルから、三人ともよく戦えていたと報告を受けている。マティは時には指示を出していたそうだな。我が後継としての成長を感じ、嬉しく、誇らしく思う。そして更なる成長を期待する」

「はい。ご期待に添えるよう努力いたします」

「レオンは魔法を上手く使い、よく周囲に注意を向け皆を助けていたと聞く。その洞察力は今後レオンの目標では必ず役に立つ。これからもよく鍛え、今回の事を糧にしてこれからも頑張りなさい」

「はい! これからも精進いたします」

「シア、今回殲滅に参加した中で一番幼いにも関わらず、街をよく守ったな。それに、今回のような事は初めてにも関わらず、よく、顔を背けず、怪我人の治癒をした。その優しさを大事にしなさい。よく頑張ったな」

「はい、ありがとうございます」

「そして、護衛の皆もよく子供達を守ってくれた。感謝する」

「身に余る光栄に存じます」



 本当に、護衛の皆には感謝しかない。

 危ないところを何度も助けてもらった事か。

 彼らが居なかったら私は生きていたかわからない。

 何かお礼がしたい。



「さて、これからの予定だが、明日の朝に今回戦死した者達の弔いを行う。場所は砦と街近くの広場の二ヶ所で、砦は私が。広場はオリーとマティアスの二人で執り行う。レオン、シア、そしてアレクも広場に行きなさい。明日以降は学園に行く準備を、シアには入学式に出席させてやれずすまない。週明けの授業から通うように準備をしなさい。王都の邸までは転移を使う」

「「「わかりました」」」

「私とオリーとマティは明日の準備があるから邸にはいないが、レオン、何かあったら領館に詰めているデニスを頼りなさい」

「わかりました」



 お養父様の話が終わり、部屋を下がる。

 クラースはこの後は休むようにお養父様に言われているようで、私は今回の事でお礼を言い、挨拶をした後、帰っていった。

 サムエルは私に付いているようだ。

 まぁ影だからサムエルが休みを貰ったとしても、私についているけれど。


 部屋へ戻って来たのはいいけれど、何も手に付かない。

 何か出来ることがあったと思うのだけど、邸に戻り、お養父様には邸にいるよう言われたので、何だか中途半端に投げ出したという感じが残っている。

 だけど、それだけでなく、何か⋯⋯、分からないけれど、心の中がざわいついている。

 きっと明日の弔いが終わるまで、区切りを付けるまでは心の中に蟠りがあり、冷静に考える事が出来ないのかも。

 学園への準備も必要なのだろうけど、困ったことにやる気がでない。



「シア様、何か気になることでも?」

「自分でも分からないの。何が引っ掛かっているのか」

「まだ朝ですけれど、甘いものはいかがですか? シア様は頑張られましたので、お疲れなのですよ。ご用意いたしますので、少しお待ちくださいませ」



 私が答える前に、モニカは用意するのに部屋を後にした。

 疲れているだけ?

 良く寝たから疲れているのは違うような⋯⋯。



『姫様、学園に行かれるまでに一度離宮へ行かれてはいかがですか?』

『急にどうしたの?』

『ご無事な姿を見せに行っては如何かと。きっとご心配されていますよ』

『そうね⋯⋯。だけど、お祖父様達の予定もあるでしょう。急には難しいのではないかしら』

『私が確認をとって参ります』



 ノヴルーノはそう言うといなくなった。

 素早い⋯⋯。

 そこへモニカが戻ってきた。

 とても美味しそうな匂いがする。



「お待たせいたしました」

「とてもいい匂いね」

「はい、久しぶりにシア様達が戻られたので、張り切って作っていたみたいですよ。本日は苺たっぷりのタルトです」

「わぁ! とても美味しそうね。モニカも一緒に食べましょう」

「では、お言葉に甘えて」

「嬉しいわ」



 私はモニカと一緒にお話ししながら美味しいタルトを堪能し、久しぶりにゆっくりとした時間を過ごした。



「モニカ⋯⋯」

「如何されましたか?」

「今回、ギルドまで付いてきてくれてありがとう。モニカが側にいてくれたからとても心強かったわ」

「シア様、以前にもお伝えしましたが、シア様のおられるところが(わたくし)の居場所です。何処へでもお供致しますわ。ですので、学園へは(わたくし)が付いて参ります」

「本当?  嬉しいわ! ありがとう、モニカ」



 学園でもモニカが一緒でとても嬉しい!

 少し元気が出たかも。

 だけど、まだ何とも言えない気持ちでいっぱいだ⋯⋯。



『姫様、イェルハルド様は何時でも来なさいとの事です。辺境伯にも確認を取りましたが、明日の朝をはずせばいつ離宮へ行っても良いとの事です』



 会えると聞いたら直ぐにでもお祖父様達に会いたくてたまらなくなった⋯⋯。

 心のざわめきが大きくなる。



『今から行っても迷惑でないかしら』

『大丈夫ですよ』

『⋯⋯行くわ。お養父様に伝言をお願い』

『畏まりました』



 何故かは分からないけれど、会って、抱き締めて欲しい。



「モニカ、ごめんなさい。今から離宮へ行きます」

「畏まりました。お供致しますわ」



 モニカは私が急に離宮へ行くことに対して、何も理由を聞かず、直ぐに行動に移してくれた。

 私は準備をして転移陣から離宮へと赴くと、部屋の外にはクレーメンスが待っていた。

 挨拶もそこそこに、お祖父様が待つ部屋へ案内してくれる。

 部屋に入ると、お祖父様とお祖母様がいらっしゃった。

 二人の姿を見ると、何故か分からないけれど、安堵からなのか、凄く悲しくなり、涙が溢れそうになった。

 クレーメンスは私が部屋に入ると、そのまま部屋を下がり、モニカも部屋には入らなかった。



「お祖父様、お祖母様。急な訪問をお許し下さり、ありがとうございます」



 私はぐっと涙を我慢してお祖父様達に挨拶をした。


 

「ステラ、よくぞ無事だった。堅苦しい挨拶はいいから此方に来なさい」

「はい」



 私は泣かないように、懸命に押さえながらお祖父様に歩み寄る。

 側まで行くと、力強いお祖父様に抱き締められた。

 その安心感と温もりに、涙が溢れそうになる。



「ステラ、我慢することはない。泣きなさい」



 お祖父様の言葉に私の気持ちが溢れ出て、泣いた。

 涙が出ると、もう止まらなかった。

 お祖父様にしがみついて、思いっきり泣き続けた。

 自分が何故こんなに泣いているのか、分からないのだけれど、だけど、色々な感情が入り乱れている。

 悲しさ、自身の未熟さや不甲斐なさ、喪失感、色んな想いで心がぐちゃぐちゃだ。

 どれぐらい泣いたのか、私の涙が枯れるまで、お祖父様は何も言わずに、ずっと頭を撫でてくれた。

 気持ちを全部吐き出すかのように泣き続け、いつまでも泣き止まない私にお祖父様も、お祖母様も何も言わなかった。

 そうしてどれくらい泣いたのか、少し気持ちも涙も落ち着くと、私はお祖父様の胸から顔をあげた。



「お祖父様、沢山泣いてしまい申し訳ありません」

「いや、ステラはよく此処まで我慢したな。⋯⋯辛かっただろう」

「辛いのは、遺された人達ですわ。(わたくし)は生きていますもの⋯⋯」

「そうではない。それは当たり前の事だ。私が言っているのは、ステラの事だ。初めてあのような魔物の大群と対峙して、戦い、仲間の死を目の当たりにし、自身の不甲斐なさに憤り、情けなくもなり、だがそれを考えている暇さえもなく、戦い続ける。それは九歳のステラが背負うには重い。重すぎる。普通はその重さに潰れるだろう。だが、ステラは耐えるだけの精神力がある。あるが、それでも目の前で見る人の死は辛かろう」

「⋯⋯はい。とても辛かったです。治癒しても間に合わなくて⋯⋯とても、情けなくなりました」

「ステラは自分で戦うと決断したのだろう? 私はそれを誇りに思う。だから、情けなく思う必要はない。あの場に立って戦うと決断した者達は皆、死を覚悟している。勿論生きたいと思うのは当たり前の事だ。だが、ステラがそうやって情けないと思うことは、死んでいった者達にとってはそうではないだろう。最後まで、生かそうと治癒を続け、頑張ってくれたステラへ感謝の気持ちが少なからずあるだろう。仲間を助け魔物を倒し、治癒し、シベリウス領をひいてはこの国を守ったことを誇りなさい。そして、死んでいった者達の分まで長く生きることだ。それが生き残った者の務めだ」

「はい⋯⋯お祖父様」

「ステラ⋯⋯」



 名を呼ばれ顔をあげると、お祖父様が今ままで見たことのない優しい、泣きそうな顔をしていて、びっくりして涙が引いてしまった。



「お祖父様っ! あの⋯⋯」

「ステラ、よく頑張ったな。本当によく頑張った。とても心配をした⋯⋯よく生きていてくれたな」

「ステラ、小さいうちからあまり無理をしないで頂戴。本当に、無事で良かったわ」

「お祖母様⋯⋯お祖父様にもご心配をおかけして本当に申し訳ありませんでした」

「いや、無理はしないで欲しいが、ステラが皆を守りたという気持ちは理解できる。今はシベリウスの娘としているからな。ステラの行いは間違いではないが、王宮でいるアンセ達の気持ちも考えてやりなさい」

「はい。あの、お父様達に会えたりは⋯⋯」

「呼びに行かせたから多分その内やって来るだろう」

「その前に、貴女のその目を冷やしておかないと、アンセが怒るわね」



 お祖母様は鈴を鳴らし、モニカ達を呼ぶと直ぐに指示を出して私の目を冷やした。

 だけど、思ったよりお父様達が来るのが早く、目を冷やしている最中に乱暴に扉を開けて入ってきた⋯⋯が、直ぐ様お祖父様に怒られていた。



「全く! ステラは何処にも逃げんというのに、乱暴に扉を開けおって。何時まで経っても成長がないな! ステラの方がよっぽど大人だ。ステラを見習え」

「ステラが来ているときいていても立ってもいられず、あぁ、ステラ! 本当に無事で良かった⋯⋯ステラ、此方へおいで⋯⋯って、その目はどうした!? 糞親父に泣かされたのか!?」

「違いますわ! お祖父様はとても優しく、(わたくし)を励ましてくださったのです。勘違いしないでくださいませ」

「そうか、それならいいが⋯⋯」



 もう⋯⋯お父様ったら早とちりしすぎよ。

 私は若干呆れながらも、急いできてくれたお父様の元へ行き、まずはきちんと挨拶をした。



「お父様、お兄様。ご心配をおかけして、大変申し訳ありませんでした」

「ステラ、謝る必要はない。ただ、あまり無理はしないで欲しい。だが、あぁ、本当に無事で安心した。この手で抱き締めるまで生きた心地がしなかった」

「お父様⋯⋯」

「だが、自身で決意して民を守ったことは誇りに思う。ステラは自慢の娘だよ」



 お父様にきつく抱き締められ苦しかったけれど、それだけ心配を掛けてしまったことは心苦しく思う、

 ようやく離してくれて、ちょっと息を整える。

 お父様は「すまない」と謝ってくれたけれど、またお祖父様に叱られていた。



「ステラ、本当に無事で良かった⋯⋯」

「ヴィンスお兄様!」



 私は、私からお兄様に抱きついた。

 お兄様は驚いたようだけど、すぐにぎゅっと抱き締め返してくれた。

 お兄様の温もりに安心する。



「ステラが無事で安心したよ。戦う決意をしたと聞いたときは心臓が止まるかとも思った。気になって何をしても集中できないし⋯⋯私の大事な妹は格好いいね。お兄様は誇りに思うよ。ただ、私が守りたいと思っていたのに、ステラはどんどん強くなる。もっとお兄様に守られて欲しいんだけどね」

「お兄様の事は頼りにしておりますわ。それに、(わたくし)はお兄様の側にずっといると甘えてしまいますわ。格好よくて優しいお兄様が大好きです」



 私はいつになく甘えたい気持ちになり、お兄様に思いっきり甘えてみると、お兄様はぎゅうっと更に抱き締めてきて「ステラが可愛すぎる!」と何故か悶えていた。



「ステラ! お父様の事はどう思っているんだ!?」

「えっ?」



 急にどうされたのかしら。



「父上、今は私に甘えてくれているのです。父上は引っ込んでてください」

「おい! ヴィンスばかり狡いぞ! ステラ、父の事はどうだ?」

「お父様は尊敬する(わたくし)の自慢の父ですわ」

「それはそれで嬉しいが、違う⋯⋯」



 何が違うのでしょう?

 私を抱き締めているお兄様は何か分かっているのか、笑いを堪えているのか、ふるふると震えていた。

 分かっているなら教えて欲しいですわ。

 お父様は何かを求めているように私を見つめてくる。



「ステラ、アンセは貴女がヴィンスに伝えた言葉が欲しいのよ」

「私がお兄様に伝えた言葉? ⋯⋯格好いい、優しい?」

「はははっ! ステラよ、それは態とか?」



 私の言葉は何か違ったみたいでお祖父様は笑っているが、お父様はちょっと眉毛が下がり悲しそうだ。


 

「ステラ⋯⋯お父様の事は嫌いか?」

「嫌いなわけないです! 大好きですわ」

「そうか! 大好きか! あぁ、ステラは自慢の娘だぞ。お父様もステラが大好きだ!」



 ⋯⋯なるほど、お父様は私に大好きと言わせなかったのですね。

 ごめんなさい。すぐに分からなくて⋯⋯。



「はいはい、そこまでですよ。少し落ち着きなさい」

「ステラは週明けから学園に通うのだな?」

「はい。地の曜日から通い始めます」

「入学式は残念だが、学園生活を楽しみなさい。だが、三年後には何があっても予定通り王族としてのお披露目と社交界デビューを行う。本当は学園に通う十歳で戻すつもりだったんだが⋯⋯すまない。ステラには苦労を掛けるが、そのつもりでいて欲しい」

「分かりましたわ。お父様」

「本当にすまない。ステラには我慢させてばかりだな」

「お父様はこうやって(わたくし)がとても会いたいと思ったときにはお忙しくても会いに来てくださるでしょう? それに、お手紙もお忙しい中きちんとお返事も送ってくださるので、それだけでもとても嬉しいのです。(わたくし)は現状を楽しんでおりますので我慢はしておりませんわ」

「ステラは頼もしいな。もうちょっと甘えてくれてもいいんだよ」

「お会いしときにとても甘やかされておりますので、私からだと過剰になってしまいます」

「⋯⋯ステラがしっかりしすぎてて寂しいぞ」

「そこは頼もしいと言いなさいな」



 お父様は少ししゅんとされていたけれど、何事もやりすぎは良くないと思います。

  暫く家族水入らずでお話しをして、お兄様には学園で会う約束をして、お祖父様達にもお礼を言い、私はシベリウスへと帰って来た。

 

ご覧頂き、ありがとうございます。

ブクマや評価、とても嬉しいです。

ありがとうございます。

次話も楽しんで頂けたら嬉しいです。

よろしくお願い致します。

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