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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第1章  大切なもの
91/273

91 魔物襲来


 私達がギルドに来てから、早二週間が経った。

 後数日で今年も終わる。

 今の所は街には何の被害もない。

 ただ、やはり魔物はどんどんと増えていて、此処より離れた砦の方では戦闘が始まっていると一報が入っていた。

 森を見張っている砦にはシベリウスの騎士団が詰めている。

 徐々に魔物が近づいてきているので、ギルドにも緊張感が漂っている。


 街にも不安が広がっていたけれど、街の人達はそれでも明るかった。

 此処では魔物が押し寄せる事が分かった上で生活をしているので、心構えは出来ているのだろう。

 それでもいざ近づいてくると恐怖心は出てくるもの。

 それでも明るいのはこの地に住む人々は騎士団を、ギルドの人達を信頼しているからくる明るさなのか。

 街にまで来なければ良い、そう思いながら今日も街を巡回する。


 その時は突然訪れる。

 年も明けようかという夜のこと。

 何時もなら年明けのお祭り騒ぎがあるようだけれど、今この時ばかりは静かなものだ。

 だけど、ギルド内では起きて年明けを静かに祝おうと待機している人達もいるようだったけど、私は何時もと同じ時間に寝ていた。

 寝れるときに寝ておかないと後々持たないと、ヴィダルにも言われていたのだけれど、急にぞわぞわっと嫌な気配に飛び起きた。

 気持ち悪い⋯⋯何か、あの時と同じ、此方に向かってくる!

 私は部屋を出て起きているだろうヴィダルのところへ行く。

 やっぱり起きてお酒を飲んでいた。

 クリス様や他の冒険者達一緒だった。



「クリス様、ヴィダル!」



 私の切羽詰まった声に即座に反応してくれたのは有難い。


 

「アリシア様、如何されましたか?」

「どうしたお嬢?」

「来るわ! 魔物が街に向かってきます。まだ離れているけれど⋯⋯確実に来ます」

「そうか⋯⋯教えてくれてありがとうな、だが、まずは着替えてこい。流石にその格好は不味いぞ。俺達、魔物より閣下に殺される⋯⋯」



 直ぐ様私について来たサムエルに上着を掛けられているとはいえ、確かに良くなかったわ。

 寝間着だし⋯⋯我に返ると恥ずかしい。

 私は素直に着替えに戻ったらマティお兄様とレオンお兄様にも見つかって叱られた。

 その何時もと変わらない様子に安心する。

 私はモニカにも叱られながら着替えを済まして食堂へ行くと、ギルドの面々が準備万端で揃っていた。



「お嬢、今の様子分かるか?」

「少し待って下さい。⋯⋯魔物の行動が早いです。森の入口から出てきそう」

「流石に早いな⋯⋯入口付近でも騎士団とギルドの連中がいるが、どれぐらいの規模か分かるか? 応援が必要なら直ぐ動かねぇと⋯⋯」

「⋯⋯サムエル、良いかしら?」

「勿論です」



 私では直ぐに判断が付かないため、サムエルに私が感じていることを直接伝える。

 あまりやりたくはないのだけれど、判断を間違えないたくないからだ。



「これは⋯⋯応援を送った方が良さそうですね。思ったよりも多い」

「わかった」



 直ぐに新たに前戦へ行く面々が決められ、即座に行動する。

 私達の班は街の入口を護るためにそちらに向かう。

 お兄様達の班も一緒だ。

 緊張感が高まる。

 私は体調が悪くならないくらいで、気配を探る。



「森の入口から溢れ出てきました!」

「突破してきた魔物が来たら対処できるように構えとけよ!!」



 此処ではヴィダルが指揮を取るようで、皆に声をかけていた。

 彼方で食い止めているようで此方には来ない。

 だけど、戦闘の声や魔物の雄叫びなどは此処まで響いてきている。

 それはとても生々しくて、何時もの討伐とはまた違う。

 気が付けば空が少し明るくなってきた。

 緊張感から時間の経つのが分からなかった。

 私は魔物の動きを、力を制御しながら追うが、入口からの気配が薄れた⋯⋯。



「森から出てくる魔物の気配が薄まりました」

「そうか。悪いがまだ暫く見ててくれるか?」

「分かりましたわ」



 更に時間が経ち、魔物の叫びは聞こえなくなった。

 程なくして、前戦からの報告で第一派の魔物は殲滅したとの事で、死者はいないものの、軽症に加え重傷者もいるようで、今の内に手当てしないといけない。

 動かすのは危険らしく、此方から応援で回復魔法が使える者に来てほしいとの事。

 同じ班のフレヤも使えるのでそちらへ向かうようだ。

 回復魔法はレオンお兄様と私も使えるのでヴィダルに言うと「お前達はやめとけ」と言われてしまった。

 惨状が酷いから止めておけと言うことだった。

 だけど、回復が必要なら⋯⋯。

 私達の葛藤を見て取ったのか、サムエルが問うてきた。



「レオナルド様、アリシア様。彼方に重傷者が多数いると言うと事は、血臭も視覚にもかなり酷いですよ。それでも行かれますか?」

「血を流してる人をほっておけない。僕は行く。シアはどうする?」

「勿論(わたくし)も参りますわ」

「一度は止めましたからね」

「心配ありがとう」

「レオン、シア。二人とも無理はしないように」

「「はい!」」



 ヴィダルは呆れていたけれど、私達は前戦に怪我を治しに向かった。

 前戦に着くと、想像以上に酷かった。

 サムエルが言った通りだった。

 けれど、怪我をした人達を治すことが一番なので、私達は治療に専念した。

 重症の人達を優先的に、やはり酷い怪我なので、少し時間は掛かるものの、治していく。

 治癒が終わると顔色も戻り、息遣いも穏やかになる。

 そうして手分けして治し終わる頃にはふらふらだった。

 魔力の使いすぎである。

 サムエルから魔力回復薬を受け取り、飲む⋯⋯。

 うん、全く美味しくないわ。

 だけど、魔力が枯渇するのは危険なので文句は言えない。

 重傷者以外の軽症の人達も治していき、手分けして治療していると、気付けばお昼頃になっていた。

 殆ど治療が終わったと言うことで、私達はギルドに戻ってきた。



「お疲れ、大丈夫だったか?」

「はい。怪我が酷い方達は治してきました」

「そうじゃない。お前達二人だ」

「大丈夫ですわ」

「僕も大丈夫です」

「それならいいが⋯⋯取りあえず、飯でもくって先ずは寝ろ。いいな」

「「はい」」



 ヴィダルの言葉通り、戻ってきたら一気に眠たさが襲ってきて、ご飯ももそこそこで眠りについた。

 グッと寝たので夕刻目覚めるとすっきりとしていて、モニカに予定を確認すると、今夜はゆっくり休んで明日から活動すると言うことで、ゆっくりしてて良いらしいけど、何もしないのは、どうなのかな⋯⋯。

 そこに、お兄様達が訪ねてきた。



「シア、体調はどう?」

「良く寝たので大丈夫ですわ。お兄様達は大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。ありがとう」

「シアが起きたから、一緒にご飯食べようか」

「はい」



 私達は一緒に食堂へ行くと、私達の班の人達が揃っていた。



「お嬢、良く眠れたか?」

「はい。ぐっすり眠れました」

「それは良かった。さぁ、飯にしようか!」



 皆で夕食を頂いて、その後は明日からの予定を確認し、私やお兄様達は部屋へ戻る。

 良く寝たから眠くはないのだけれど、サムエルとクラースはちゃんと休んでいるのかしら⋯⋯。



「モニカに聞きたいんだけど、クラースとサムエルはちゃんと休んでるのかしら」

「交代できちんと休んでいるみたいですよ」

「なら良かった。モニカも大丈夫かしら。私に付き添って貰ってるけれど」

(わたくし)も大丈夫ですよ。シア様がいらっしゃるところが(わたくし)のいるところです」

「ありがとう。モニカ」



 モニカにもゆっくり休むように伝えて、私は部屋から外を眺める。

 今は嫌な気配も落ち着いている。

 遠くの砦の方角は嫌な気配に満ちているけれど。

 私はふとヴァン様の手紙箱を取り出すと、中には手紙が二通入っていた。

 一通目に目を通すと私の事を心配してのお手紙みたい。

 二通目は、此方もとても心配してらっしゃるよう⋯⋯なのだけれども。

 ん? どうして私が傷を癒しに前戦に赴いたことをご存じなのかしら⋯⋯。

 ヴァン様の影とか?

 それか、ヴァン様に言われて誰かここにヴァレニウスの方がいらっしゃるのかしら。

 悩んでも分からないわね。

 取りあえず、大丈夫だとお返事を書きましょう。

 それから私はヴァン様にお返事を認めて送り、一息つく。



「ノヴルーノ」

「はっ」

「砦の方は大丈夫かしら。ずっと気配が淀んでいるの」

「彼方にはこの地をずっと護っている騎士団が結集しておりますので、余程の事がない限りは心配ないかと。どちらかと言うと、此方の方が心配ではあります」

「此処が?」

「はい。書物を読む限りではありますが、今までのこのシベリウスで起こった魔物の襲来は、幾度か来るのですが、それは最初は少なく後に行くに連れてその数が増すと記載されていました。ですが今回はこれ程初期に直接街を目掛けて魔物が進行することは初めてに等しいのです。ギルドの者達も懸念しておりました。私としては姫様には離宮へと身を移していただきたいのですが⋯⋯」

「それはしないわ」

「そう仰ると思っておりましたので諦めますが、決して危険に自ら身を投じないで頂きたいです」

「分かったわ」



 今回の魔物の襲来は変化があるというのは、陛下が仰っていたことと何か関係があるのかな。

 それとも無関係にただ単に今回が可怪しいのか。


 

 ――あっ、そうだ!



「此処にヴァレニウスの方がいるかわかる?」

「ヴァレニウスの方ですか? 何か気になることでも?」

「大したことではないの。殿下のお手紙に私が前戦に傷を癒しに行ったことを知っていたのよ。だから気になっただけよ」

「もしかしたら、ギルドの中にヴァレニウスの、殿下の息の掛かった者がいるのかもしれません。探りますか?」

「⋯⋯そこまでしなくても良いわ」



 ただ、何か私がやらかしたら後々大変になりそうだから、いるなら口止めしたいくらい何だけど、どちらにしても無理でしょうし、気にしないでおこうかな。

 気にしたら負けよね。



「姫様、休めるときに良く休んでおいてください」

「そうね。貴方達もきちんと休んでね」

「はっ」



 それから暫くは魔物の進行もなく、彼方も一旦は落ち着いたようで、この間に立て直すという。

 まだ第一波なので、この後も予断は許さない。

 私達も一旦邸に戻り、お養父様達と情報を確認したり少し休息をとった。

 アレクはずっと邸でお留守番なので、帰ってきたときにめいいっぱい話をして、抱き締めて、少しでもアレクが邸で不安にならないように一緒にいた。

 そしてまた、ギルドに戻る。

 ギルドの面々も各々順番にゆっくりと過ごしたようだった。


 そうやってゆっくり過ごすのも束の間、また魔物の進行が増えていく。

 お養父様のお話では、まだ序の口だと言う。

 これよりももっと増えると話していたので、また気を引き締めなければ。

 そして、お養父様の仰っていた通り、第一波よりも更に増えた魔物と瘴気が溢れていた。

 砦の方では既に混戦しているという。

 此処にもいつ現れるかも分からない。


 緊張感のある中、数日が経ち、やはり街近くの森にも始め同様に魔物が溢れ出てきた。

 今回はやはり始めよりも多く、瘴気も濃く、空気がとても淀んでいるように感じる。

 そして此方も前戦では魔物の殲滅に向け戦闘が開始されていた。

 前回よりも長引き、退けてもまた数時間すると出てくるという、魔物は無尽蔵なのかと言いたい。

 私達も街近くに待機していて、何時でも対応できるように準備は怠らない。

 暫くは膠着状態だったけれど、一部の魔物が此方に雪崩れてくるのが分かり、直ぐにヴィダルに伝える!



「ヴィダル! 此方に一部雪崩れてきます!」

「わかった! 野郎共! 絶対街には入れるなよ、必ず食い止めろ!」

「「「おぉ!!」」」



 私達も気を引き締める。

 護衛達の空気も変わった。



「お嬢、無理はするなよ」

「はい!」



 約束があるから無理はしないけれど、やれることはやるわ!

 此方は準備が万全の状態で魔物を迎え撃つ!

 討伐の時とまた見たことのない魔物達が襲いかかってくる。

 此処で冷静に対処しないと大変なことになるのは嫌というほど叩き込まれているので、一息つき、双剣を抜き、構える。



「アリシア様、力みすぎないように注意してください」

「分かりましたわ」



 双剣の先生でもあるサムエルに注意され、力を入れすぎないようしながら、魔物を切り伏せていく。

 近くでは護衛達やお兄様方も戦っていた。

 私は剣に炎を纏わせて切り伏せると同時に消滅させていく。

 暫くそのように戦っていると、急に背筋がぞわりと危険を感じ取った。

 急に瘴気が増えたと思ったら、魔物が更に増えた!?

 これは、自然な瘴気じゃない、人為的なものだ!

 感じ取れる人達は何が起こったのか分かったのか、冷静さを取り戻して対処に当たるが、如何せん魔物の数が多すぎる⋯⋯。

 魔法が使えるものはそちらで対処していくが、間に合わない!

 そんな時、複数の魔物が私達の間をすり抜けて行くのを許してしまい、ヴィダルの盛大な舌打ちが聞こえたが、私は直ぐ様一つの複合魔法を想造した。

 私は感覚を研ぎ澄まし、魔物の数を誤らないよう正確に捉え、闇魔法で魔物を捉え、水魔法の応用で一気に氷らせ、最後は炎で一気に消滅させた⋯⋯。


 はぁ、ヴァン様の行っていたものを少し変化させてみたけれど、上手く行って良かったわ。

 だけど、これは中々魔力が消費されるので、改良の余地ありね。


 私が街に向かった魔物を殲滅させてる間に、前方からの魔物も一旦退けたみたいで、私が皆の方に向き直ると、ギルドの面々が呆気に取られていた。

 一体どうしたのかしら?



「シア、流石だね。よくやった!」

「マティお兄様。上手くいって安心しました」

「シア凄いよ!」

「ありがとうございます。お兄様達も格好良かったですわ」



 お兄様達は私の事を知っているので、それほど驚くこともなく、誉めてくれた。

 が、ヴィダル達はまだ目をしばしばさせていた。



「お嬢、今のは⋯⋯なんかどっかで見たことあるようなないような⋯⋯」

「今のは数年前にヴァレニウスの王太子殿下が使われていた魔法を少し変えて使用しました」

「待て待て、お嬢ってそんなに凄かったのか?」

「アリシア様は大体魔法の構成を理解されたら取得するのも早いので、驚くに値しませんよ」

「はぁ、全く⋯⋯領主様の一族はどうなってんだか。 それはさておき、今の内に怪我人の手当てと、状態を立て直すぞ!」



 それからはニヶ月ほど、同じような状態が続いた⋯⋯。

 流石に皆も疲弊を見せ始めているが、弱音は吐けない。

 話に聞くと、まだ大規模なものが来ていないとか。

 ただ、今回は予想外な事が起きているので、どうかるか分からないそうだ。

 何時もと違い、予想が付かないと⋯⋯。

 今は侵攻も落ち着き、交代で休んでいる。

 怪我人も増え、何人か死者も出ている⋯⋯。

 早く、瘴気が収まればいいのに。

 そう願わずにはいられない。


 

ご覧頂き、ありがとうございます。

ブクマもありがとうございます。

とても嬉しいです。

次話も楽しんで頂けたら嬉しいです。

よろしくお願い致します。

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