90 ギルドで顔合わせ
私の試験結果を確認した後、私達はその日の内にシベリウスに転移で帰ってきた。
アルヴァーが出迎えてくれると、その足でお養母様がいらっしゃる居間に案内された。
「お養母様、ただ今戻りました」
「三人とも、お帰りなさい。その様子だと試験は良かったようね」
「はい! 首席で合格いたしました」
「おめでとう。さすがね」
私の試験の話しはそこそこに、今はもっと大事などがある。
「それで、母上。森はどのような様子なのですか?」
「思わしくないわね⋯⋯詳しくはアルが戻ったら話すわ。今後の動きも話しておきたいから。それまではゆっくり休みなさい」
そう言って私達を部屋から追い出した。
私達は常にない強引なお養母様にちょっとびっくりしたけれど、取りあえず部屋に戻りゆっくりすることにした。
めずらしく夕刻にはお養父様が戻られたので、呼ばれて再び居間へと向かった。
お養父様達がすでにいて、私達も部屋へ入ると「座りなさい」と声をかけられる。
「お前達は森が気になっているだろうが、まずはシア。首席合格おめでとう。よく頑張ったな」
「ありがとうございます」
「それと、やはり王都に、もしくは離宮に行く気はないか?」
「戻りませんわ! 此処で暮らすようになって四年経ちます。私の中では此処は第二の故郷なのです。このような大変な時に私だけ逃げるなんて出来ません!」
「意思は固いんだな。仕方ない⋯⋯はっきり言うが、近々魔物の大群がこの地にも押し寄せてくるだろう。すでに一部地域では戦闘に入っている。我が軍もいつ来ても良いように各地に配置している。私もオリーも明日からは軍に詰める。お前達を騎士達のいる前戦に送ることはしない。街にまで押し寄せることのないよう尽力はする。が、街に押し寄せないとはいえない。お前達の役目は街を、戦うことの出来ない人々を守ることだ。いいな」
「「「分かりました!」」」
「街を守る本部として、ギルドが請け負うことになっている。お前達は明日からギルドへ行き、顔合わせと段取りを聞いておきなさい。くれぐれも無理だけはするなよ」
「「「はい!」」」
その後も騎士団がどう動くか、連絡の段取りなど、細かい注意を受けた。
そして夕食を頂き、早めに就寝し明日からに備える。
私も早くに休む準備をして、寝ようと思ったところへお養父様が部屋へやってきた。
「少し話しをしてもいいかな」
「大丈夫ですわ」
私はお養父様にお茶を淹れてお出しすると「美味いな」と誉めてくれた。
だけど、お養父様の目は真剣だった。
「ステラ様⋯⋯」
「伯父様、私の意思は変わりませんわ」
「まだ何も言っておりませんが⋯⋯」
「私に離宮へ行きなさいと言うお話しではありませんの?」
「それもありますが、やはりお聞き届けてはくださいませんか」
「目の前で事が起こっているのに、逃げるなんて出来ませんわ。私に出来ることがあるのなら、力になれるなら、私は立ち向かいます」
多くの血が流れるのが分かっていて、自分だけ逃げるなんて出来ない。
ましては、私は王族。
逃げるなんて許されないわ。
「はぁ⋯⋯そう言った頑固さはアンセ譲りですね。ですが、もし、貴女の身に危険があるようなら、必ずお逃げください。貴女はこの国の王女で王位継承権をお持ちなのです。そして私は御身を預かっている責任があります。例え誰が犠牲になったとしても、危うくなったら必ず貴女を陛下の元へ帰します。それだけは心に留め置いてください」
「分かりました。決して無理はいたしません。ですが、伯父様も無理はされませんよう」
「ありがとうございます。⋯⋯さぁ、もうお休みください」
「えぇ、伯父様も、おやすみなさい」
話をを終え、伯父様は部屋を下がった。
「誰を犠牲にしても⋯⋯」
伯父様の言葉は重い。
誰かを犠牲にするなんて、そんな事出来はしない。
だから、無理はせずにやれることをやるわ。
「姫様」
「どうしたの?」
「分かっていらっしゃるかと思いますが、我々は姫様の身が一番ですので、辺境伯が動かずとも、我々が必ずお守り致します」
「貴方達の言葉の方が重いわね。躊躇なく実行しそうだし」
「姫様が我々の命ゆえ」
本当に重いわね。
けれど、彼らの命を預かっているのは私。
私の行動が左右するのよね。
「二人とも、私の事は任せますが、私は街の人達を守ります」
「御心のままに」
私は影達との話を終え、きちんとベッドに入り珍しく早く眠りについた。
そして翌日。
朝食を頂き、お養父様達は騎士団へ、私達は護衛を伴ってギルドへ赴く。
街中はやはり緊張感が漂っていて、対策もとられていた。
私達がギルドに着くと、事前に来る事を知っていたのか、ギルドマスターのクリス様の執務室へ通された。
「お待ちしておりました」
「久しぶりですね、クリス」
「ご無沙汰しております。マティアス様、レオナルド様、アリシア様」
久しぶりに会うクリス様は相変わらず麗しかった。
全く変わらない容姿は流石エルフ族と言える。
「早速本題に入りますが、お三方共に街を守ることに 、相違ありませんか?」
「勿論ですよ。私達は全く戦えない事はないのです。前戦では足手まといになるかもしれませんが、私達も領主の子として、この領に住んでる者として、街を守ります」
「マティアス様とレオナルド様は良いとして、アリシア様もですか?」
「はい。私もお兄様達と街を守りますわ」
「分かりました。アリシア様の森での魔物討伐の実績も聞いておりますので。では会議室に参りましょう」
私達はクリス様に戦う意思や街を守る意思の確認をされたみたい。
クリス様の案内で会議室へと行くと、そこには見た目屈強な人達が揃っていた。
空気が、騎士団とはまた違う雰囲気だ。
「待たせたね。では対策会議を始めます。会議には辺境伯閣下の御子息方も参加されます」
「待て! 坊っちゃんは良いとして、嬢ちゃんもか!?」
嬢ちゃん⋯⋯。
チラリとお兄様方を見ると、物凄く怖い笑みで発言したおじさんを見ていた。
うん、真っ黒な笑み、やっぱりお養父様の息子よね。
「何か問題でも?」
「いやいや、流石に足手まといだろ⋯⋯」
「シア、黙らせて良いよ」
「ですが⋯⋯」
「はぁ!? 俺達を黙らせることが出来るっていうのか? 冗談だろ」
「俺達も甘く見られたもんだな」
私はお兄様に言われるまま、この場を威圧した。
威圧は結構簡単に出来る。
自身の魔力を攻撃するのではなく、鋭くただ放てば良いだけのこと。
さっき発言したおじさんは私の威圧で気圧され、硬直し、頷いていた他の冒険者達も揃って固まっていた。
「シア、もう良いよ」
「はい、お兄様」
「アリシア様、加減してください。使い物にならなくなったらどうするのです⋯⋯」
「これで使い物にならなくなったら足手まといだね」
お兄様、容赦無さすぎです。
けれど、私の威圧程度で使い物にならなくなるなんて⋯⋯あっ、上級の冒険者達は前戦なのかな。
「皆もお嬢様の実力が分かった事だし、時間も勿体ないので始める。依存はないね?」
「無い。馬鹿は置いといてさっさと始めようぜ、ギルマス」
クリス様の近くにいたお兄さん? が代表して頷いた。
先ずはこのギルド内に残っている者達で街を守ること。
ただ、街を守るだけでなく、街の人達の不安も取り除くこと。
街の見回りも勿論行う、そして交代で街の入口を守る。
兎に角街を、ここに住む人々を守ることが一番の任務だ。
各々班を作って守る場所を交代していく。
皆が各場所を回ることによって偏りや見落としを無くすためだ。
班は実力が偏らないように組まれる。
よって、お兄様達とも離れることになるが、私達に付いている護衛は離れることなく各々私達と一緒だ。
大体冒険者達の班分けは終わっているようで、私達が入る班はのちほど紹介してくれるらしい。
会議が終わったらこの会議室に残っているのは私達は勿論、クリス様に隣に座っていた方、そして後の二人は足手まとい発言をした人に頷かなかった二人だ。
「紹介しますね。私の隣にいる者から順に、ヴィダル、エーリク、レイフです。マティアス様達には申し訳ありませんが、各一人ずつ彼らの班に入って頂きます」
「構わないよ」
「ありがとうございます」
「では、マティアス様はレイフの班に、レオナルド様はエーリクの班、そしてアリシア様はヴィダルの班でお願いします。では、マティアス様達は彼等の班員にお会いしてください。班長はこの三人ですので、分からないことは何でも聞いてくださいね」
「分かった」
「挨拶は後にしよう、先に班員が待っているからそこに向かうぞ」
班分けが終わったので私達は其々の班長について行く。
私はヴィダル様に付いていき、班員が待っている部屋へ行く。
そこに入ると、男性が二人と女性が一人いた。
「お疲れ様です、ヴィダルさん」
「待たせたな。先に紹介しよう。こっちは閣下のお嬢のアリシア様だ。で、こっちの背の高いやつがエディ、隣の奴がベルゲン、でその隣がフレヤだ」
「ヴィダル様に紹介されました、アリシアです。足手まといにならないよう頑張りますので、よろしくお願いします」
「ぷっ、ヴィダルさん、様付けされてやんの」
何故か三人ともが笑っていた。
何か笑う要素あったかな?
「お嬢! 俺に様は入らねぇ! 呼び捨てにしろ。こいつらにも要らんからな」
「分かりましたわ。私のこともアリシアとお呼びくださいね」
「お嬢じゃダメか?」
「構いませんわ」
なんだが面白い方のようで少し安心した。
「あっと、そう言えばお嬢の後ろの二人は護衛騎士だよな」
「アリシア様の護衛騎士でクラースです」
「同じくサムエル、よろしく頼む」
この班、過剰戦力かしら?
けど、二人は外せないしね。
「紹介も終わったし⋯⋯あぁ、忘れてた。自分の中の得意分野言っとけ、もし戦闘になれば知らなければ動きづらいだろ。因みに俺は魔法は使えねぇが、武器なら何でも扱える。主はこれ、長剣だ」
「改めて、俺はエディ。ランクはAで、主に剣を扱う。魔法は火属性だ。改めてよろしく」
「俺はベルゲン。ランクはBで、武器は同じく剣で魔法は水と地属性。よろしくな」
「私はフレヤよ。ランクは同じくB。魔導師で、火、風、光の三属性。よろしくね」
「アリシアです。武器は双剣で、魔法は無属性です。よろしくお願いします」
感じの良い人達なので上手くやっていけそう。
きちんと自己紹介も終わったので、どういう風に配置を回っていくかを確認し合う。
その後、昼食を此処で頂いたら、決められた場所へと向かう。
私達は先ず街の見回りが今日の持ち回り。
街を見回りながら、変わったことがないか、困っておる人達がいないか確認をして行く。
歩きながらもヴィダルに此処を見た方がいいとか、色々とおしえて貰いながら歩いていく。
今日は特に何もなく、街の見回りは終わった。
この日の夜は親睦会も兼ねてギルドの食堂は賑わったいた。
私も班の人達と一緒に過ごすご飯を頂く。
だけど、お酒が入ったおじさん達の勢いは思ったより酷く、今朝私に突っかかってきた人達がまた突っかかってきた。
酔っぱらいって面倒くさい。
「ヴィダルの旦那、ほんとにこんな貴族の嬢ちゃんを班にいれたのかよ」
「入れたな」
「役に立たねーじゃねぇか」
「はぁ。お前な、忘れてるかも知れねぇが、五年前に街で襲われたお嬢の巻き添え食ったうちの職員の娘を助けたのはお嬢自身だぞ。それに、森の異変をヴァレニウスから確認するよう言われて探索に入ったとき、人為的な瘴気の元を見つけたのもお嬢だ。それに去年から森の討伐にも参加している。魔力だけならここにいる誰にもお嬢には勝てねぇよ」
そうなの?
私はサムエルをチラリと見たら笑顔で頷いていた。
知らなかった⋯⋯。
「シア! 大丈夫?」
「マティお兄様! 大丈夫ですわ。ヴィダルが相手してくれていますので」
「これを。父上からの手紙」
「お養父様から? 今朝お会いしたばかりなのに」
何だろう⋯⋯。
中を開けてみると、あぁ、酔っぱらいの対処法。
『可愛い娘へ
ギルドの酔っぱらい共に絡まれたらヴィダルに対処して貰いなさい。
彼がいないときに絡んできたら、遠慮なく威圧を放つか、足元を地面と縫い付けて動けないようにしてしまいなさい。
口が五月蝿ければ窒息死しない程度に塞いでも構わない。
奴等は実力で黙らせるのが一番早い。
魔物より、そこにいる連中に気を付けなさい。
何かあったら直ぐに連絡するように。
アルノルド』
私は声を出して読みなさいと言うお兄様の言葉に従って、音読した。
読み終わり、顔をあげるとしーんと静まり返っていた。
「シア、父上の許可が出たので遠慮することないからね。死なない程度にやってしまいなさい」
「はい、危険を感じたら実行致しますわね」
と笑顔でお兄様と会話をしていたら、周りにドン引きされていた。
そこにくぐもった笑い声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声に入口に目を向けると、イクセル様が笑っていた。
「あぁ、面白い。笑いすぎて腹が痛い」
「イクセル様、どうしてこちらに?」
「アリシア様に手紙を届けに来たのと、クリスに用があって参りました」
「お手紙を届けて頂きありがとうございます」
「いえ、ここの野郎共に困らされていないか、アルも心配していましたので、そこに書いてある通り、使い物にならなく手前までは実行しても構いませんからね。貴女に何かあると、魔物が押し寄せる前に、此処が壊滅しますからね。では」
イクセル様は言うだけいって帰っていった。
何だろう、ただ脅しに来たのだろうか⋯⋯。
そして、先程まで突っかかってきたおじさんは大人しくなったいた。
脅し効果?
お兄様は「気にしなくて良いよ」と言って戻っていった。
ヴィダルは「さすが閣下、良い脅し具合だ」と笑っていた。
まぁいいか。
暫くこのギルドに泊まるで部屋へ行くと、モニカがいてびっくりした 。
曰く、「シア様がいるところが私のいる場所です!」との事らしい。
モニカがそれで良いなら良いけど。
ギルドの客室は思ってたのと違ってきれいな部屋だった。
暫くは此処が私の部屋となる。
早く慣れないとと思うのと、やはり初日緊張していたのか早いけど眠くなってきたので、この日は早めに就寝することにした。
ご覧いただき、ありがとうございます。
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よろしくお願い致します。