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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第1章  大切なもの
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09 優しい温もり

 

 次の日の朝、夜中に目覚めることなく朝までぐっすり寝たお陰で体の怠さもなくすっきりと目覚めることができた。

 頃合いを見測りノックが聞こえたので「どうぞ」と返事をするとモニカと一緒に見知らぬ二人の侍女が入ってきた。



「おはようございます。シア様」

「おはよう、モニカ。後ろの二人は?」

「こちらの二人は今日からアリシア様付きとして仕えさせていただきます。お仕度が終わりましたら改めてご紹介しますね」



 そう言うと、先日と同じく顔を拭き、髪を整えてもらった。

 一段落してから改めて紹介された。

 


「本日よりアリシア様付きとしてお仕えさせていただきます、マリーです」

「同じくミアといいます」

「「どうぞよろしくお願い致します」」



 自己紹介をし、揃ってお辞儀をした。



「こちらこそよろしくね」



 マリーとミアはモニカよりも少し年下で、マリーはおっとりした雰囲気でミアは勝ち気そうな目をしていた。

 紹介が終わり、朝食が用意された。

 今日は少し具材を変えたミルク粥と⋯⋯そしてお薬。

 頑張って飲みましたとも!

 それからお口直しにヨーグルト。

 今日は昨日とは違う果物が入っていた。

 お口の中がさっぱりしたところで朝食が終了する。



「モニカ、今日の予定は何かあるかしら?」

「本日は特に予定はございませんが、マティアス様とレオナルド様がお昼の鍛練が終了したらこちらに伺う旨を伺っております。お会いになられますか?」

「はい! お兄様達とお話がしたいです」



 午後の予定が決まったので、朝はゆっくり過ごすことにした。

 といってもベッドからは出れないのだけれど。

 本が読みたい⋯⋯。

 けれど、我慢我慢。

 そしていつの間にか寝てしまったみたい。

 起きるとお昼頃で、昼食に一品増えて卵料理と野菜と鶏肉のスープを食べ、お薬も飲みましたよ、ちゃんとね。

 だけどこの薬から早く逃れたい!


 昼食後、お兄様達が来るまでの間、モニカが子供向けの物語を持ってきてくれた。

 子供向け⋯⋯。

 仕方ないよね、マリーとミアは知らないからね。

 お兄様達が来るまでの間の暇潰しをしていると、ノックがあり「どうぞ」と答えるとお養母様が入ってきた。



「調子はどう?」

「昨日よりも良いです。お昼も残さず食べました」

「良かったわ。あの子達が来るまで少しいいかしら?」

「もちろんです、お養母様」

「貴女達は下がりなさい」



 お養母様は侍女達に退室を促した為、三人は頭を下げ部屋を下がった。



「これで気兼ねなく話せるわね」



 侍女達を下げるなんて⋯⋯。



(わたくし)の記憶の話でしょうか?」

「あら! よく分かったわね」



 と華やいだ声をあげた。

 今のところ私の記憶に関しては養父母とモニカとアルヴァーだけのはずだし、私の知る限りは。

 そう伝えると、「察しがいいわね」と感心された。



「記憶の話を少し聞いておこうかと思って。記憶の中の貴女は幾つだったのかしら?」

「二十八歳です。会社⋯⋯えっと、化粧品を作っている所の代表の秘書をしていました。あっ、秘書というのは、うーん⋯⋯執事とは違うのですが代表の補佐役みたいな感じですね。側近のような感じでしょうか」

「まぁ! しっかりと働いていたのね」



 お養母様は楽しそうに色んな質問を重ねてきた。

 化粧品を作れるのか、どんな商品があるのか、仕事内容、仕組みに関してまで、お養母様の知識欲には驚いた。けれど私も話をしていて楽しいから沢山お話をした。



「すっかり話し込んじゃったわね。身体は辛くはないかしら?」

「大丈夫です。(わたくし)も話をしていて楽しかったです」



 先程まで笑顔だったお養母様が難しいお顔をしていたので、どうしたのか。

 私がお養母様を見つめていると私と視線を合わせた。



「もう少し砕けた話し方でもいいのよ?」



 そう言われてしまったけれど、難しいのよね。

 “今”生きてるこの世界の五歳と“記憶”の五歳の頃では全く生活も何もかも違うのだ。

 こちらの平民と記憶の世界なら同じようなのかもしれないけれど。

 まだ記憶に引きずられている私には難しい。

 その内馴染むとお養父様はおっしゃったけれど、不安でしかない。



「ごめんなさい、難しいことを言ったわね。困らせるつもりはないのだけれど」

「申しわけ⋯⋯えっと、ごめんなさい。少しずつ変えるようにしますので、気長に待っていただければと⋯⋯」

「そうね⋯⋯」



 お養母様は私を抱き締めた。



「あまり力まないでいいのよ。今の貴女には“記憶”とこちらの事が入り交じったせいで難しいでしょう。特に大人の記憶を持つ貴女には子供のように振る舞うのは難しいこと。だけど、貴女らしく過ごせばいいと思うの。話をしていて感じたのだけれど、今は“仕事”として私と会話をしているように思うのよ。報告をするような感じかしら。貴女にその気がなくてもね」



 それを聞いて私はそうかもしれない、と思った。

 記憶が戻ってからの私は非日常に放り込まれたような感覚に陥っていて、無意識に“今”の私ではなく“前”の私が知らない世界という感覚で、“私”の近しい人たちであるにも関わらず、知らない人と話をしている、という混乱に、陥っているのだと思うと納得したと同時に“本来の私”に戻れるのかなという不安が襲う。



「お養母様、私は本来の、“ここ”での(わたくし)に戻る事が出来るのでしょうか⋯⋯」

「今はまだ記憶が鮮明すぎて引きずられているだけ、そして、あんな事があったのだから余計によ。そしてなによりまだ完全に回復出来ていなくて、ベッドの上での生活でしょう? 回復して動けるようになって、勉強していくときっと戻れるわ。だから大丈夫よ、シア。大丈夫よ。焦らなくてもいいのよ」



 そう抱き締められ、頭を撫でられながら優しい言葉を聞いて、私は何故か涙が出てきて泣いてしまった。

 泣き止むまでお義母様は抱き締めてくれて、それがとても嬉しくて、暖かい気持ちになった。



「ありがとうございます、お養母様」

「どういたしまして」



 私は落ち着きを取り戻してお養母様にお礼を伝えた。

 泣いたせいで何だかとてもすっきりして、心がほんの少し軽くなったような気がする。

 だけど、泣いたせいで目が腫れてしまったようで、お養母様は侍女を呼び、私の目元を冷やすように指示を出していた。

 お兄様達が来るまでに引くといいのだけれど⋯⋯。


 お養母様はお兄様達が来るまで少し休みなさい、と言い残して部屋を後にした。

 モニカ達には心配されたけど、大丈夫だと伝えるとまだ少し疑っているようだった。

 お茶の準備をして温かい蜂蜜入り紅茶を出してくれた。

 私は温かいお茶を飲んでほっと一息ついた。

 安心すると、少しうとうとと眠たくなってきた所に元気なノックと声が聞こえてきた。

 お兄様達がいらっしゃったようだ。



「シア、入ってもいい?」

「どうぞ」

「失礼するね」

「シア! 身体は大丈夫? しんどくない?」



 マティアスお兄様とレオナルドお兄様は私の心配を真っ先にする。



「はい、大丈夫です。ご心配ありがとうございます」

「あたりまえだよ! 可愛い妹が苦しんでるのは見たくない」



 レオナルドお兄様は元気いっぱいにそう言った。

 とそこへ、マティアスお兄様がレオナルドお兄様にごつんっと中々痛そうな拳を頭に落とした。

 それ、絶対痛いよね⋯⋯。

 お兄様は耐えていらっしゃるようだけど。

 というか、マティアスお兄様は外見に似合わず手が出るようだ。



「レオン、シアは病み上がりだから静かにね」

「すみません! シアもごめんね」

(わたくし)は大事ありません。それより、レオナルドお兄様は大丈夫ですか?」

「大丈夫。僕が大きな声を出したせいだから、シアは気にしないで」



 お兄様達は優しいけれど、お養父様とお養母様の子供だなぁとなんとなくそんな風に思った。



「そういえば、シアと一緒に食べようと思って、ソルベを作って貰ったんだ」

「冷たくて美味しいよ」

「わぁ! ありがとうございます。いただきます」



 まだ少し熱があるので冷たいものは嬉しい。

 甘くて冷たくて美味しい!

 とても嬉しくて笑顔で食べていると、お兄様達から変な声が聞こえた⋯⋯。



 ――可愛すぎる!

 ――シアの笑顔がやばい!!



 等々⋯⋯。

 何故かモニカ達までもが小動物を見るような目で私を見ていた。

 私はなぜそんな顔をしているのか不思議に思いながらも、ソルベを完食した。



「お兄様達、とても美味しかったです」

「いいよ、シアの嬉しそうな顔が見れたから」

「ほんとに! あっ、熱はない? さっきまで母上と話しをしていたって聞いたけど?」

「大したことはないので大丈夫ですわ。ご心配ありがとうございます」



 お兄様達の優しさと笑顔で癒される。

 しばらく他愛ない話をしてからお兄様達は各々のお部屋へ戻っていった。

 私は沢山お話をしたので疲れもあってすぐに寝てしまった。

 夕食の時間を大分過ぎてから、何か話し声と身体に触れておる感覚で目が覚めたら調度モニカ達が私の身体を拭いて着替えをしてくれていたようだ。



「申し訳ありません、うるさかったでしょうか?」



 私はふわふわした、鈍い思考回路で返事をした。



「大丈夫。目が覚めただけだから、お水もらえる?」

「畏まりました」



 私は淹れて貰ったお水を飲んで一息ついた。

 お腹空いたなぁ、と思っていると⋯⋯。


 

「何かお召し上がりになりますか?」



 あれ、顔に出てたのかな⋯⋯。

 と思っていると、モニカはくすくす笑いながら「お顔に出てましたよ」と答えた。

 分かりやすいのかなぁ、私⋯⋯。

 ちょっと恥ずかしくなった。



「さっぱりしたものが食べたいです」

「畏まりました。用意して参りますね」



 マリーが用意のために部屋を出た。

 ふわふわした気持ちでマリーを見送った私はまたお水を貰った。

 何だか熱いからまた熱が上がったのかもしれない。

 少しした後、マリーが戻ってきた。

 食べやすいように小さくカットした果物が載っていた。

 美味しそう。



「いただきます」



 小さく呟いた私はパクパクと食べ、一緒に出てきた果実水を飲んだ。

 食べ終わったら、マリーが食器を下げ、モニカは私のおでこに手を当てて熱を測った。



「少し熱が上がってきていますね、それにまだ眠そうですので、今日はこのままお休みください」

「⋯⋯分かったわ。ありがとう、モニカ」



 熱がほんとに高いのか、頭がぼーっとするのと、お腹が満たされたのとで眠く、横になりそのまま寝てしまった。

 それを見届けたモニカ達は静かに部屋を後にした。

 

ご覧いただき、またブクマもありがとうございます。

とても嬉しいです。

次話もよろしくお願い致します。

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