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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第1章  大切なもの
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79 夜の会談


 私とオリーは側近のイクセルと共に殿下達を迎えるのに玄関ホールで待機していた。

 時間的にはそろそろお見えになるだろう。

 そう思っていたところに、ヴァレンティーン殿下とラインハルト殿がいらっしゃった。



「お待ちしておりました」

「待たせたな。レイン陛下達はまだいらっしゃってないのか?」

「はい。ですがそろそろ来られるのではないかと⋯⋯」



 そう話していると、時を待たずしてレイフォール陛下とユリウスが転移してきた。



「お待ちしておりました」

「あぁ、ヴァレンも今来たのか?」

「ほぼ同じ位に」

「御二方。先ずは中へお入りください」



 陛下達を応接間へと案内をする。

 部屋に着くと、各々ソファへと落ち着き、直ぐにルーカスとイクセルがワインの準備をする。

 侍女達は既に下がらせている。

 何があるか分からないからだ。

 この邸全体には元々結界を張ってあるので、そう易々と侵入はされないが、念には念をいれての措置である。

 ルーカスは準備を終えると部屋を下がる。



「さて、話を始めようか。今回この面子で集まったのには、まぁ大体察しはついているだろう。瘴気の件だ。会議の議題には上がってはいるが、気を付けなければいけないのは、我らの国境を跨ぐ山や大森林が問題なのは分かっているだろうが、ここ最近少しずつ変化がみられる。その変化というのも微々たるものとはいえ無視は出来ない程になってきている。ユリウスに確認したが、気付いてなかったようでな。お前達二人はどうだ?」

「変化⋯⋯ですか? 申し訳ありません。私も分かりかねます」

「変化というのは、瘴気の出方だろう? 自然に発生する瘴気とは違い、人為的なものを感じる。シベリウスと我がヴァレニウスの国境の森でも変化は起きている。アルノルドが気付いてなさそうだったので、何も言わなかったが、シベリウス側でも同じように変化はあった。人には分かりづらいのかもしれないな⋯⋯」



 人には分かりづらく、人為的なもの⋯⋯それは中々難儀だな。

 とっさで判断が出来にくいのではないのか。



「どのような感じで瘴気が出ているのでしょう?」

「通常、瘴気が増えてくるときは場所が決まってはいないが、一つ所に瘴気が発生すればそこから徐々に円を描くように広がっていくが、今回は転々としていて全く場所が決まっていない。発生したと思ったらいつの間にか消えている。このような事は私が生きてきた中では初めてだ。これとは別に気になるのは、瘴気を感じたと思ったら、人から発せられていたりすることだが⋯⋯魔道具を媒介に着けてる者の生命力を糧に瘴気が発生するよう仕掛けられていたり、極めて低いが、人自身が瘴気を発生させてる場合もある。瘴気に侵され過ぎていると元には戻る事はなく、魔物化してしまうと流石に助からない」



 魔道具や人から発せられる⋯⋯と言うことは、あのラルフの一件も絡んでいるのか。



「陛下、質問を宜しいでしょうか?」

「何だ?」

「魔道具や人から発せられていたり、と仰いましたが、陛下は実際に遭遇したことがあるのですか?」

「ある」

「では、その者はどの様な感じだったのでしょうか?」

「あぁ、もしかしてアルも遭遇したのか?」

「はい、最近の事です。私が見たのは子供でした。人から、というよりもその子は魔道具を身に付けており、そこから瘴気が出てその子を蝕んでいました。最終的には、陛下の仰ったように瘴気に侵され過ぎていて、助けるには至りませんでしたが⋯⋯」

「なるほどな。私も似たようなものだな。魔国では一時期事態が重なってな。原因を探っていくと、周囲の者達の話で、その者達自身が精神的に追い詰められていたりしていたようで、そこにつけこまれたのだろうという結論に至った。その子供はどうだったのだ?」

「同じですね。その子の境遇が、貴族を大分恨んでいるようで、我が子達に突っ掛かっていったのが始まりです。それに、その子の出身はラヴィラ公国です」

「ラヴィラ公国か⋯⋯きな臭いな。一旦かの国の事は置いておく。ヴァレンのところではそういった事はないか?」

「私の所ではまだその様な案件は確認できていないが、商人達の中に異質な者達が入り込んで良からぬ事をしでかそうとしていたので、それらは摘発し、奴等が売り出そうとしていた商品の中にはレインの言うような魔道具がいくつか押収した」

「と言うことは、今のところ実害があったのはヴァレニウス以外の場所か」

「ユリウスの所でもあったのか?」

「あぁ、こっちは不慮の事故で手を失った男だ。同じく手遅れで、魔物と化したので助けることは出来なかった」



 商人、事故、精神的な事⋯⋯、シアの話していた事が実現できればそれも食い止める一つの手となるか。

 それに、もう少し早く何かしら分かれば、手遅れになる前に知ることが出来ればな。

 他にも何か手があればいいが⋯⋯。



「ユリウスには詳細を聞いたが、アルはどうやってその子供が瘴気を纏っていると分かったのだ?」

「此方の場合は、精霊が気を付けるよう注意を促してきましたので、その時点では誰が、までは分かりませんでした。ですが、私の子供達が訓練中に襲撃されたましたので、その場にいた騎士達が気付き、殲滅しました」

「何故騎士団の訓練場なのだ? 自分から消してくれと言ってるようなものだな」

「その子は貴族に恨みを持っていましたが、養父母の願いで騎士団で預かり、考え方や性格を矯正させる意味でも参加を認めていました。ですが、領の貴族筆頭と言える私の子供達が一緒に訓練していましたので、その恨みがあの子達に向いてしまったのでしょう。それが故に憎しみが増長し、何者かに唆され、瘴気を生み出す魔道具を渡されたみたいですね」

「なるほどな⋯⋯お前のところでは商人は変わらずか?」

「いえ、此方にも一件普通の商人を装ってはいましたが、やっていることは闇商人と言えるような者達が一時おりました」

「やはり怪しいのはその商人だな」



 確かに⋯⋯。

 商人が入り込んでから騒ぎが起こり、魔国やセイデリアでも同じようなことが起こっているならば、何かしらの関連はあるだろう。

 だが、証拠がなければ何も出来ない。

 話を聞いていれば証拠と言えるものが無いだろう。

 それこそ現行犯で取り押さえるか、事前に対策を取っておかねばならないが⋯⋯、果たして商人を抑えるだけで収まるかどうか⋯⋯。



「もうひとつ、皆も気を付けなければならない事がある」

「それは、どういった事でしょうか?」

「邪神を崇めている闇集団だ。最近の奴等は子供を拐っているようだ。それも魔力の高い子供、平民貴族王族関係なしだ。この国の王女も狙われたのだろう?」



 陛下がまさかステラ様の件をご存知だとは思わず一瞬間を開けてしまった。


 

「⋯⋯その件は噂で?」

「噂もそうだな。あぁ、好ましくない噂が流れているようだな。私は精霊女王に聞いた」



 精霊女王に?

 レイフォール陛下は精霊女王とも顔見知りなのか⋯⋯。



「陛下は精霊女王とお知り合いなのですか?」

「あぁ、茶飲み仲間だな」



 茶飲み仲間⋯⋯あまり想像が出来ない。



「エステル王女はアウローラのお気に入りだ。何かあったら守ってやってと頼まれはしたが、王宮にはいないようだな。彼女にはアルに聞けと言われたが?」

「何故アンセルム陛下ではなく私なのでしょう?」

「そこまでは知らん。だが、オリーヴィアにとって血の繋がった姪だろう?」



 まぁ、私自身精霊女王にお会いしたことはないが、エストレヤが何か話しているのだろうな。

 だが、私に話を振らないでほしい⋯⋯。

 陛下は信用も信頼も出来るお方だが、自国の事をそうそう大っぴらに広げるのもな⋯⋯。



「深刻そうな顔してるねー」



 そこへいつもの陽気な声が響いた。

 声の主を見れば、やはりエストレヤだった。

 そして、とても、とても嫌な予感がする⋯⋯。



「エストレヤか。いつからこそこそ聞いていたのだ?」

「えー、こそこそって人聞き悪いなぁ。レイン、気付いてたでしょ?」

「何となくな。で、何しに来た?」

「何ってエステルの話しをしてたでしょう? 僕達の可愛い子の話だから気になってね」

「お前も王女を気に入ってるのか?」

「勿論! あんな可愛い子中々いないよ?」

「ほぉ、お前がそこまで気に入る人間がいるとはな」



 拙い⋯⋯。

 陛下がステラ様に興味津々だ。


 

「レインはエステルに会いたいの?」

「アウローラにも頼まれているからな、会っておきたいのはあるが、アルとオリーヴィアは渋い顔をしているな」

「アル、シワ増えるよ?」

「余計なお世話だ!」

「あははー! 僕に任せて! レインちょっと待っててねー」

「エストレヤ、待て! 何をする気だ!」



 遅かった⋯⋯そして嫌な予感は当たった。

 重いため息が出る。

 オリーヴィアも困った表情だ。

 殿下は知っているからいいとして、ユリウスは「どう言うことだ?」とこちらに聞いてきたから「少し待て」そう答えておいた。

 全く⋯⋯頭の痛いことだ。






 ***





 王都で(エステル)の事が話されているとはいざ知らず、部屋で夜の読書に没頭していた。

 既にモニカ達は部屋を下がっているので私一人。

 今読んでいるのは魔国語の子供用の本だ。

 とても難しいので、絵本で勉強したらどうかと先生に助言を頂いていたので、そうしてみると、子供用だからまだ分かりやすい。

 ただ、分からない単語を直ぐ調べられるよう、隣には辞書も置いている。



「シアー! 遊びに来たよって何してるの?」



 相も変わらず神出鬼没で、驚くけれど慣れてきてしまった。


 

「エストレヤ、何ってお勉強よ。ゼフィール語を学んでいるの」

「へー。シアは勉強熱心だよね。感心感心」

「それよりどうしたの?」

「ね、夜の散歩に行かない?」

「お誘いありがとう。けど今は遠慮しておくわ。お養父様達が領にいないもの。念のために大人しくしておくわ」

「えー! つまんない⋯⋯シアと綺麗な星空見ようと思ったのになぁ」

「ごめんね」



 夜の散歩なんて魅力的だけど、何が起こるか分からないものね。

 大人しくしておくに限るわ。



「けど、アル達がいればいいんだね!」

「えっ?」



 エストレヤはそう言うと私の手を握った瞬間私ごと別の、それも屋根の上に移動していた。



 ――ここは何処!?



 周囲を見渡すと、星は、まぁ綺麗に見えるわね。

 だけどシベリウスで見るような星ではないし、周囲に見える景色も全く違う。

 アル達がいれば、と言っていたけれど⋯⋯。

 まさかよね?



「エストレヤ、ここは何処?」

「何処だと思う?」

「もしかしなくても、王都だとか言わないわよね?」

「もしかしなくてもその通りだよ! 流石だね」



 当たって欲しくなかったわ!

 何故王都なの?

 あっ、お養父様達がいるからね、ってそうじゃなわ!



「お願いだからシベリウスに戻して?」

「折角此処まで来たのに?」

「流石に今(わたくし)がここにいるのは良くないわ」

「分かった!」

「分かってくれたのね!」

「皆に決めてもらおっか」



 ――皆って⋯⋯? えっ?



 そう思った瞬間私はどこかの部屋の天井を見上げていた。

 既視感⋯⋯と思った瞬間落下した!

 やっぱりこの展開なのね!

 エストレヤのばかーーー!

 心の中で思いっきり叫ぶと、ぽすんっと誰かに抱き止められた⋯⋯。

 目を開けるのが怖い、一体誰が受け止めてくれたのか、確かめるのが怖い⋯⋯。


 

「アーシェ、大丈夫か?」



 いま、私をアーシェって呼んだ?

 そう呼ぶのはヴァン様だけのはず⋯⋯。

 私は恐る恐る目を開けると、やはりヴァン様だった。

 ただ、予想打にしないこの状況、とても顔が近くてドキドキとして心臓に悪い⋯⋯。



「殿下、急に申し訳ありません。受け止めていただき、ありがとうございます」

「いや、会えて嬉しいよ」



 殿下はそう優しく甘い顔で答え、私がナイトウェアだったためか、殿下はご自分の上着で私をくるんでくれたので、お礼を伝えると、嬉しそうな顔をしていた。

 今私が見える範囲には誰もいないのだけれど、気配はする。




「殿下、お養父様とお養母様は⋯⋯? エストレヤの話ではここにいらっしゃるはずなのですけど」

「シア、ここにいるわ」



 呼ばれたので振り返り目線を動かすと、そこには困った顔のお養母様がいらっしゃった。

 来ちゃったのね、と言いたげな顔。

 私も来たくて来たわけではないのだけれど。



「殿下、そろそろ下ろしていただけませんか?」

「嫌だといったら?」

「困ります⋯⋯」

「残念だな」



  私は下ろして貰い、お養母様の側によると、お養父様の他に知らない方が四人いらっしゃった。

 その内の一人は殿下と同じような、それ以上の存在感がある方で、もうお一人はお養父様と同じような気配、だけどお養父様より少し年は上かしら⋯⋯。



「お養父様、お養母様。申し訳ありません。エストレヤには断ったのですけれど、強制的に連れて来られてしまったみたいで⋯⋯」

「だろうな。シアは悪くないから気にしなくても良いよ。⋯⋯私がエストレヤを止められなかったのが悪いのです」



 あら? お養父様が途中から私に丁寧な言葉で答えたのだけれど、どう言うこと? 今この場にいる人達の存在が気になって仕方がない。

 今の(アリシア)で、知らない人もいて、特にあの黒い方には早く挨拶した方が良い気がする。

 楽しげにこちらを見ていらっしゃるけれど、あの漆黒の髪に深紅の瞳は、あれは⋯⋯。

 今の状況を理解しようと考えていると、お養父様が私の側に膝をついた。



「魔道具を外しますね」

「えっ?」



 待って! 状況理解できてないのに外さないで!

 私の焦りとは裏腹に、お養父様は目線で私に落ち着くように、と訴えかけてきた。

 私は魔道具を外され、(エステル)の色に戻る。

 殊更丁寧な態度と言葉で伯父様は私に頭を下げた。



「エステル王女殿下、このようなお時間にお呼び立て致しました事、誠に申し訳ございません」

「⋯⋯構いませんが、理由を教えていただいてもよろしいかしら?」

「勿論です。先ずはご紹介致します」



 私は取り敢えず知らない人もいてるし、きちんと王族としての態度で答える。

 装いが全く伴っていないのだけれど⋯⋯

 下はナイトウェアに上から殿下の上着を借りているので、不格好よね。

 先ずは黒い方から⋯⋯。



「レイフォール陛下、こちらは我が国のエステル王女殿下です。エステル殿下、こちらは、ゼフィール国のレイフォール・ゼル・ジュレブランシュ王です」



 やっぱり魔国の方!

 ただ、まさか陛下だとは思わず、顔には出さないけれど流石に内心慌てる。



「ゼフィール国王陛下、ご挨拶が遅れましたこと、またこのような姿での挨拶となり、誠に申し訳ございません。(わたくし)はエステル・ヴィルヘルミーナ・グランフェルトと申します。お会いできて光栄に存じます」

「ほぉ。やはり噂は当てにならんな。とても聡明な姫だ。私の事はレイフォールと呼ぶがいい」

「恐れ入ります。レイフォール陛下」



 何とか挨拶を終え、次はもう一人の方へ向き直る。



「殿下、この者はユリウス・セイデリア、セイデリア辺境伯です」

「エステル王女殿下。お初にお目にかかります。ユリウス・セイデリアと申します。以後お見知り置きを」

「初めまして、セイデリア辺境伯。(わたくし)がシベリウスにいることは内密にして下さいね」

「無論でございます」



 挨拶は済んだので、各々席に着くと「堅苦しい挨拶は済んだの?」と陽気なエストレヤの声が響いた。



「エストレヤ、殿下をお連れするならもっと気を遣って欲しかったのだが」

「エステルはそのままでも可愛いよねー」

「可愛いがそういう問題ではない」

「じゃあ、これで良い?」



 エストレヤはそういうと、パチンっと指を鳴らす。

 花の香りが強くなったと思ったら、私の服がナイトドレスから少し変わったドレスを着ていた。

 私は殿下に貸していただいていた上着を脱ぐと、イクセルが側に来て上着を預かり、殿下に返していただく。

 私は殿下とエストレヤにお礼を伝えた。



「さて、本題に戻ろうか」



 陛下のそのお言葉で、ようやく私が呼ばれた理由を聞くことが出来る。

 

ご覧いただき、ありがとうございます。

次話も楽しんでいただければ、とても嬉しいです。

よろしくお願い致します。

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