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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第1章  大切なもの
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73 殿下の想いと私の想い


「アーシェは我々の事をどれ程知っている?」

「ヴァン様達の事、ですか? 竜王国の方々は、とても長命で、竜族で普段は人の姿でお過ごしですけど、竜に転じることが出来き、魔力や力も人族に比べてより強いと学びました。そして竜に転じるのはとても希だとお聞きましたわ」

「そうだな、生きている中で竜になることは殆どない。必要ないからだ。他には?」

「竜族や獣人族は人族とは違い、“番”と言われる大切な方としか婚姻出来ないと本で読みました」

「そうだ、我々は魂の繋がりがある番のみ伴侶に出来る。それ以外も出来なくはないがしたくないな。その気にもならんから双方にとっては好ましくない結果となるだろう。番に出逢える確率は、同族ならば高いが、他種族となると奇跡に近い、が会えば必ず惹かれ合う。何年かかるかは分からないがな。⋯⋯一目見れば直ぐに分かる。出逢ったときの衝撃は言葉では言い表せない。離れがたく、ずっと側にいたい、触れたいと、何より全てが愛おしい⋯⋯」



 番ってそんなに大切な人なのね。

 ヴァン様に愛される人ってどんな方なんだろう。

 普段の鋭さはなく、目がとても優しくて慈愛に満ちていて、何よりも包み込まれるような安心感が感じられる。

 今までのヴァン様とは雰囲気が違い、番の方を思っての優しさに、何だかそれが少し寂しく思う⋯⋯。

 ヴァン様には良くして貰ったから余計にかな。

 とても遠くの人だと感じてしまう。



「アーシェ」



 ふいに名を呼ばれたので、顔をあげるとこちらを見ていた。

 何かしら⋯⋯。



「アーシェが私の番だ」



 ――⋯⋯えっ? 今、何て⋯⋯、私?



 私は頭が真っ白になった。

 それほどヴァン様に言われた一言が衝撃だった。

 私がヴァン様の番?

 だけど私は⋯⋯今の私は本当の私じゃない。

 偽りの姿。

 それなのに、そのように思われるなんて、どうしたら良いの⋯⋯。

 本当の事なんて言えない。

 今の私には答えられない。

 答えられない事に情けなく、何よりヴァン様に対しても失礼だ。

 お養父様は知っていたの?

 知っていて、私を送り出したの?

 思考がぐるぐると回る。



「あの、本当に(わたくし)なのですか? 間違いではなく?」

「間違うことはない。アーシェで間違いない。邸の前で初めて会った時の衝撃は忘れることは出来ない。私にそう想われるのは嫌か?」

「嫌⋯⋯ではありません。ですが、(わたくし)は⋯⋯」



 言えない。

 私の口からは⋯⋯だけど⋯⋯。


 

「アーシェ、いや、エステル・ヴィルヘルミーナ・グランフェルト王女」



 ――今⋯⋯、なんて⋯⋯?



 私は信じられずヴァン様を見ると、分かっていると言った風にこちらを見ていた。

 どうして?

 誰か話したの?

 話すとしたらお養父様かお養母様の二人だ。

 何故?

 王宮にいるお父様はご存じなの?

 私が動揺していると、ヴァン様は私の魔道具をさらりと外した⋯⋯。



「あっ⋯⋯ダメです!」



 一瞬で元の色に戻った私を見て、嬉しそうに目を細める。



「アーシェは可愛らしいが、エステルは綺麗だな。瞳の色が一際美しい」

「ヴァン様、何を⋯⋯」

「驚かせたな。アルノルドから話しは聞いているから安心しろ。グランフェルト国王に許可を貰っていると話していた。私はその者が偽りの姿なのか、よく見破るんだ。だからアーシェが姿を偽っているのもすぐに分かった。アルノルドは私がそういう目を持っていることを知っているから、先回りして確認と許可をとったのだろう。ただ、あれにとってはアーシェが私の番だと言うことは予想の範囲外だっただけだ。流石に話しは直接国王へしろと言われたが、元よりそのつもりだ」



 ヴァン様は私の頬に触れてきた。



「エステル?」

「っ! 申し訳ございません! 偽りの姿のままお会いすることとなり、またこのような形での挨拶をする事を謝罪致します。(わたくし)はエステル・ヴィルヘルミーナ・グランフェルト。この国の第一王女です」

「落ち着け。怒ってないから気にするな。それに、そこまで畏まる必要もない。皆には何と呼ばれている?」

「親しい者はステラと⋯⋯」

「では、私はエスターと呼ぼう。いいか?」

「はい⋯⋯」

「エスター、これは私だけが呼んでいい名だ。他の、特に男共には呼ばせるなよ。嫉妬で狂ってしまう」

「はい⋯⋯」



 ヴァン様の真剣な表情にその言葉を聞いて、私の将来が決まってしまった、と漠然と理解した。

 ヴァン様が嫌というわけではないけれど、私はヴァン様をそう言う風に見ていない。

 正直どうしていいか分からない。



「エスター、今はそう難しく考える必要はない。中には人族でも魔力が高ければ番だと判別が出来る者もいるようだ。だが、エスターはまだ幼いからな。私の事だけを想うよう、私がこれから努力をすればいいだけの話だ。他の者に渡すつもりはない。そこだけは覚えておいて欲しい」



 ⋯⋯なんだろう、良いように言ったら熱烈な告白。

 だけど、一歩間違ったら物凄く危険なような⋯⋯。

 けど、それらは全て私に対して言ってるのよね。

 ただ、ヴァン様のとても真剣な瞳を見ると、だめだわ⋯⋯ドキドキする。



「あぁ、そうだ。これを渡しておく」

「とても綺麗⋯⋯これは、もしかして⋯⋯」

「エスターの想像通り、私の鱗で魔力が宿っているから、エスターの護りになる。だから肌身離さず着けていて欲しい。着けたら他者には見えなくなるよう術もかけてある」

「ありがとうございます。大切にしますね」



 とても綺麗な鱗が連なったネックレス。

 直接ヴァン様に着けていただくと、ヴァン様に包まれているような安心感のある魔力を感じる。


 

 ――だけど、これって大切なものよね? 私が貰っていいの?



 逃げられないように楔を打たれたようにも思う。



「エスター、こちらへ」



 私は呼ばれたので少し近づくと、膝の上に抱き上げられた。

 ヴァン様から番だと言われた後のこういうのは、どうしていいか分からない。

 落ち着かない、全く落ち着かないわ!

 意識しすぎなのか、心臓がうるさい。

 とりあえず、少し落ち着かないと⋯⋯。

 はぁ⋯⋯だけど、ヴァン様はいいのかな。

 私はまだ五歳でまだほんの子供なのだけど⋯⋯。

 伺うようにそっとヴァン様を見上げると目があった。



「エスターは自分がまだ子供なのにとか考えているだろう?」

「⋯⋯心まで読めるのですか?」

「流石にそれは無理だ。だが、お前ならそう考えるだろうなと思ったのだが、図星か?」

「はい⋯⋯」



 何でこうも私の周りの人達は私の心を読むのが上手いのか⋯⋯。



「同族で番が幼かったりすると、近くで成長を見守るのが一般的だが、相手が他種族や流石に一国の王家の者を連れ帰るわけにはいかない。他種族には理解が少ないし、国際問題になるからな。その場合は相手に合わせるか、話し合いが必要となる。私の場合は、グランフェルト国王と話し合うことだな。成人したら、エスターと婚姻したいと⋯⋯」

「あの! 成人しても、学園を卒業するまでは待って欲しいです」



 成人したらと言われ思わずそう答えたら嬉しそうな顔をしたヴァン様が目に入る。


 

「ふっ、そういう許可を求めてくるとは、エスター自身は私の元に嫁いでも良いと思ってくれるのだな?」

「え? えぇ!? あ、あの、(わたくし)は⋯⋯」



 答えを間違ってしまった⋯⋯!

 落ち着かないと、落ち着かなきゃ。



「エスター?」

「ヴァン様、(わたくし)は⋯⋯自分の気持ちが分かりません。それに、(わたくし)の婚姻についてはお父様がお決めになる事かと」

「グランフェルト王家の婚姻は本人の意向もそれなりに配慮されるだろう? 私はエスターの気持ちが知りたい」



 そういうと、私の髪を一房手に取ったかと思うと、髪に口付けた。

 殿下の一つ一つの行動が心臓に悪い。

 髪から手を離すと、今度は私の頬に触れてきて、撫でる。


 

 ――うぅ⋯⋯恥ずかしいぃ!


 

 やっぱりヴァン様が取る行動に羞恥でいっぱいいっぱいだ。

 私の気持ちと問われても、分からない⋯⋯。

 分からないのだけど、とりあえず今は恥ずかしいの一言!



「ヴァン様、あまりそのように触れないで欲しいです⋯⋯」

「何故?」

「恥ずかしくて、心臓が痛いです」

「それは、私を意識してくれているのか?」

「意識、と言われましても、(わたくし)はまだ子供ですわ。そういった事はよく分かりません」

「子供だろうが関係ないな。では聞くが、アルノルドの事はどう思っている?」

「アル伯父様は身内なので家族という感じです」

「では、アルに私が今エスターにしているような事をされたらどう思う?」

「⋯⋯身内なので想像できません」

「私以外の男にされたらどうだ? 例えば、身近なところで言うと、護衛騎士やアルの側近はどうだ?」

「それは、嫌ではないですけど⋯⋯違うと思います」



 それぞれ想像してみるけど、クラースやサムエルには悪いけどそういう事は嫌じゃないけどされたくない。

 イクセル様は、どちらかと言うと伯父様と同じ感じで、ヴァン様に感じるようなことは他の男性ではいない⋯⋯。



「質問を変えよう。私が他の女に今エスターにした事と同じ事をしているのを見たら、エスターはどう思う?」



 ヴァン様が他の女性にしていたら⋯⋯。


 ズキンッ! と心が痛む。

 

 ――⋯⋯嫌! そんな事して欲しくない⋯⋯!!


 そう思ったことに、自分でも驚く。

 何で? ⋯⋯私、ヴァン様が好きなの?

 好きというのが分からないけど、他の女性にヴァン様が触れているのを想像すると、とても嫌な気分になる。

 これは⋯⋯何?


 ただ、私の思いが顔に出ていたのか、ヴァン様に抱き締められた。



「エスターが嫉妬してくれるのは嬉しいな」

「嫉妬⋯⋯ですか?」

「そうだろう? 私が他の女にこう言うことをするのが嫌なのだろう?」

「それは、何故か嫌⋯⋯です」



 私がそう言うと、嬉しそうに私を見つめてきた。

 その瞳が優しくて、けど、とても甘くて、その瞳に耐えられなくて、ヴァン様の胸に顔を埋めた。

 耳許で「可愛いな」と囁かれる。

 いたたまれないからほんと止めて欲しいです⋯⋯!

 どうしていいか分かりません。



「今日のところはエスターの気持ちがそれだけ分かったから良しとしよう」



 ヴァン様はそう言うと、ちょっと意地悪な表情をされていた。



「からかっていたのですか?」

「いや、本気だ。だが、これ以上追い詰めて嫌われても嫌だからな」

「ヴァン様を嫌いにはなりません⋯⋯」

「っ! エスター、今のは反則だ⋯⋯」



 そう言うと、大きな息をついた。



「名残惜しいがそろそろ戻らねば、アルノルドが煩いからな」

「ヴァン様、今日は沢山ご教授頂き、ありがとうございました」

「いや、エスターと一緒にいられたし、覚えも早い。だが、まだまだ教えたいことは沢山ある。面倒な会議など出席せずに側にいたいな」



 ヴァン様はそう言うと、私に魔道具を付け直してくれた。



「では帰るか」

「はい、よろしくお願いします」



 私はまた、抱き抱えられたまま飛竜に乗る。

 帰りもあっという間の飛行だったけれど、行きよりも帰りの方が緊張した。

 きっとヴァン様と沢山お話ししたから⋯⋯。

 邸に戻るまでに平常心にならないと、怪しまれるわ。

 そつ思っていたけれど、上から見る景色に目を奪われたので、心は落ち着いていた。

 別邸に着き、そこから邸に転移する。

 邸に着くと、お養父様とお養母様が邸の前で待っていた。



「今戻った」

「お戻りお待ちしておりました。シアの制御はいかがでしたか?」

「完璧だな。飲み込みが早いから教えがいがある」

「左様ですか。殿下、ありがとうございます。シア、お帰り。疲れてないかい?」

「お養父様、お養母様、只今戻りました。大丈夫ですわ。ご心配ありがとうございます」

「シアは昼から少しお休み」

「分かりましたわ。殿下、今日はありがとうございました」

「いや、ゆっくり休むと良い」

「はい、失礼致します」



 私は挨拶をして部屋へと戻る。

 はぁ。何も言われなくてよかった。

 部屋に戻ると、湯の用意がされていたので、お風呂でゆっくり汗を長し、気持ちを落ち着かせる。

 スッキリすると、マリー達がお茶の準備を整えてくれたので、有り難く頂く。

 朝だけで色んな事がありすぎて、訓練の疲れよりもそっちの疲れの方が大きいかも⋯⋯。

 一人になると殿下との事を色々と考えてしまう。

 お兄様は何をしてらっしゃるのかな⋯⋯。



「モニカ、レオンお兄様はなにをしていらっしゃるか知っているかしら?」

「レオナルド様なら、自主的に勉強をすると話しておりましたよ」

「お勉強⋯⋯それならお邪魔をするわけにはいきませんね」

「シア様? 何かございましたか?」

「特になんてないのですけど。そうだ、モニカ達は他に仕事はない?」

「今はシア様に付いておりますので、他のお仕事はありませんよ」

「では、お願いがあるのです」

「お願い事でございますか?」

「そう、一緒にお茶しましょう!」

「流石に主とお茶をお供するのは⋯⋯」

「ダメ?」



 私は今は誰かと他愛ない話をしていたいので、手を合わせてお願いしてみる。

 モニカ達はあっさり陥落した。

「シア様のお願いが可愛すぎます!」とか、「怒られそうだけどお供致します!」

 モニカ達へのお願いが成功したので、皆でお茶会をすることになった。

 これで考え込まなくてすむわ。

 モニカ達の話しは面白かった。

 普段知ることのない事や仕事の事や誰と誰が恋仲とか、やはり侍女達の中ではそう言った話しも飛び交うそう。

 お養父様は寛大で、仕事に支障がなければ職場恋愛も推奨しているとの事で、ただ、仕事に支障が出れば容赦がないとの事。

 それはそうだよね。

 モニカ達とお話しをしていると、ノック音が聞こえたので、「どうぞ」と答えると、お養母様がいらっしゃった。



「あら、楽しそうね」

「モニカ達を叱らないで下さいね。(わたくし)がお願いをしたの」

「分かっていますよ。楽しんでいるところ悪いのだけど、少し二人きりにしてもらえるかしら?」

「畏まりました」


 

 モニカ達はすっと仕事にもどると、机の上を片付け、直ぐにお養母様のお茶と、私のお茶を新しく用意して部屋を下がる。

 何のお話しかしら⋯⋯。

 もしかして、殿下との事、かな⋯⋯。

 あまり突っ込まれたくないし、話しと言っても何を話していいか分からない。



「シア、殿下との逢瀬は楽しかったかしら?」



 やっぱり! 何で逢瀬なの!?

 違います、あれは 訓練です!



「お養母様、殿下には制御の訓練をしていただいてたのですが⋯⋯」

「分かっています。帰ってきた時、貴女は何時もと変わらない様子でした。(わたくし)の教育がちゃんと生かされているようで安心したのよ」



 ここで誉められたからと言ってお礼を言うと、肯定してしまうわ。



「上空では少しはしゃいでしまいました。初めての経験で楽しかったです。勿論地上に降りてまではしゃぐようなことはいたしません」

「そうなのね。あちらでは制御訓練だけかしら?」

「はい。あと、空間魔法を少し教えていただき、空間収納を習得いたしました」

「シアは凄いわね。他には?」

「休憩に殿下にお茶を淹れていただいてしまって⋯⋯」

「あらあら⋯⋯で?」

「お昼も一緒に頂きました。ヴァレニウスのお話しも沢山教えていただきました」

「そう。他には?」

「他⋯⋯ですか?」

「そうよ! もっとこう、他にあるでしょう?」



 ――言いたくないです⋯⋯。



「シア、話せないようなことなのかしら?」

「お養母様は何を期待されているのですか?」

「殿下から告白されたのではないの?」



 やっぱりお養母様達は分かっていたのね。

 確信に満ちた目をしてるし、分かっていて私と殿下を二人きりにしたのね。

 分かっていて送り出すなんて、どんな気持ちで私を見送ったの!?

 恥ずかしすぎる⋯⋯。



「伯母様達はどう思ってらっしゃるの?」

(わたくし)もアルも貴女の両親も貴女の幸せが一番よ。王女だからと言って、色んな事を我慢する必要はないわ。貴女に何か意見があるなら言えば良いのよ? 勿論難しいこともあるわ。王族なのだから、自分本意の意見は通せないし、時には貴女の想いより国を優先しなければならないこともあります。まずは民の安寧を考えねばなりませんからね。だからと言って、貴女自身の幸せを考えなくて良いことにはならないの。だから確認をしているのよ。殿下と何があったのか、そして貴女が殿下をどう思っているかを知りたいの」



 伯母様はただ、面白がっているのではなく、私の事を考えてくれているの?

 私が殿下の事を嫌だと思ったら、お断りしてくれるってこと?



「ステラ、もう一度聞くわね。殿下との逢瀬はどうだったのかしら?」

「⋯⋯殿下には、(わたくし)が番だと言われました。成人したら嫁いできて欲しいと。(わたくし)は思わず、学園を卒業するまでは待って欲しいですと言ってしまって⋯⋯」

「あら、ステラは殿下と婚姻することを了承してしまったの?」

「いえ、その時は思わず言ってしまっただけです。(わたくし)(わたくし)の婚姻に関してはお父様がお決めになることだとお伝えしたのです。そしたら、グランフェルトは本人の意向にも配慮してくれるだろう? と言われ、(わたくし)の気持ちが知りたいと言われました」

「貴女はどう答えたの?」

(わたくし)は、分かりませんと答えました」

「何故?」

「番とか好きという気持ちが、分からないのです」



 家族愛なら分かるけれど、異性を好きってどんな気持ち?

 分からない。



「殿下と会ってる時はどう思っていたの?」

「どう、とは?」

「ステラの気持ちよ」

「⋯⋯殿下は容貌魁偉で、一緒にいるととても緊張します。子供扱いなら分かるのですが、大人の女性にするような事をされると更に緊張してしまいます。緊張して心臓が痛いくらいです」

「それだけ?」

「それだけです、多分⋯⋯」

「質問なのだけれど、記憶では結婚していたのかしら?」



 ――記憶の中の事?



 ⋯⋯何故そこで記憶の話しになるのか分からないけれど、嫌な記憶しかない。



「記憶では結婚はしていませんでした。記憶では、どちらかと言うと男性が嫌いでしたね」

「何かあったのかしら?」

「⋯⋯ありました。あちらで有ったことはこちらでも有り得る事だと思うのですけど⋯⋯」



 伯母様は細かく聞いてきたので、記憶であったことを話した。

 (菜月)は結婚間近の彼氏がいた。

 大学生から付き合っていた彼からプロポーズをされて、式場や招待客を決め、招待状を送り、新居の準備も整い、引っ越しも済ませて、結婚式の日も目前に迫ったある日の事。

 思ったより仕事も早く終わり新居に帰るが、玄関先に知らない女性の靴があった。

 誰か来てるの?

 そんな話しは聞いていない。

 リビングには誰もいなかった。

 まさかとは思うけれど⋯⋯嫌な予感と心臓が痛いほどどくどくと鳴っている。

 私は何かあった時のために、動画を撮りながら音を立てないように寝室へ近づく。

 近づくにつれ声が聞こえる。

 あぁ、もうこれはアウトよね⋯⋯

 怒りと悲しみと飽きれと色々な感情が渦巻く中、寝室の扉をそっと少し空けると、まぁ想像通りだった。

 証拠の動画をきっちり納めたので、これを元にこの後修羅場になったが、私は信頼できる弁護士を雇い徹底的に調べあげて慰謝料を請求し、また式場のキャンセル料や新居の支払い等、私が出した分はきっちり回収させて貰った。

 私はこの事から男性を信用することが出来なくなり、この件があった後は仕事一筋で、只管仕事に打ち込んでいた⋯⋯

 話し終えると、伯母様がそれはまぁいい笑顔だった。

 それが逆に怖いのだけど⋯⋯。



「伯母様?」

「ステラ、 記憶のそんな愚かな男の事なんて忘れなさい!」

「いえ、気にしておりません。そもそも記憶での事ですので⋯⋯」

「だけど、それが今の恋愛下手を助長させてる気がするわ」

「それは、関係ありますでしょうか?」

「あると思うわ」



 伯母様は何か分かったような顔をしているけれど、私にはさっぱりよ。

 それからその男に何を言われたのか、何故か詳しく聞いてきたので、答えたけれど。

 私にはよく分からなかった。

 私の話を聞き終わり、何故かとてもいい笑顔でお開きとなったけれど、私としてはとても心がもやもやします。

 久しぶりに記憶を思い起こしたからかしら?

 スッキリしないわ⋯⋯。

 私は大きなため息をつき、少し休むことにした。


 

 今夜は豪華な晩餐が用意されていた。

 殿下達が泊まる最終日だからだ。

 大人達は遅くまで話をするようだけれど、私やレオンお兄様は早々に部屋に戻ってきた。

 私もちょっと疲れてるのもあって、湯を使った後はモニカ達と早めに就寝の挨拶をして部屋を下がって貰った。

 私は殿下の事や伯母様に話した内容を思い返していた。

 思い返したとしても、過ぎたことだし、記憶に関しては今世とは関係のない事。

 ただ、少し⋯⋯ほんの少しだけ虚しくはなる。

 こんな状態では寝れない。

 気分転換しないと無理ね。


 私は話し相手を呼ぶことにした⋯⋯。


 

ご覧いただき、ありがとうございます。

次話も楽しんでいただければ嬉しいです。

よろしくお願い致します。

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