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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第1章  大切なもの
70/273

70 交流試合


 お兄様と中庭で話をしていたら、応接間での話が終わったのか、ハルド様の侍従が呼びにきたので、応接間へと向かった。

 応接間にはお養父様達と殿下にラインハルト様、そしてハルド様とイクセル様がいらっしゃった。



「お帰り、レオン、シア。始まるまでもう少し時間があるから、此方に来て座りなさい」

「はい、父上」

「そちらは狭いだろう? アーシェは私のところへおいで」



 ――またですか!?


 

 私がちらりとお養父様を見ると、ひやっとするような表情をされていたけれど、渋々頷いたので、私は殿下の元へ向かった。



「殿下、お隣失礼致します」

「アーシェ、隣ではなくここだ」



 殿下はそう言うと、私をご自分の膝の上に座らせた。

 えっと⋯⋯ちらりと視線を上げればお養父様の冷え冷えとした眼差しが正面に見える。

 怖い!



「アルそんな冷えた目で見たらアーシェが怖がるだろう? 嫌われるぞ」



 ――何て事を!!



「お、お養父様! 嫌いませんからね!」

「シアはもう少し警戒しなさい。隙が多いから殿下にいいようにされているんだ」

「警戒って⋯⋯」

「アーシェは嫌か?」

「嫌、ではありませんが⋯⋯ただ、殿下のお膝の上は、落ち着きませんし、なにより不敬ではないでしょうか?」

「私自ら膝の上に乗せたのだから不敬もなにもなかろう?」

「それは、そうですが」

「何故落ち着かないんだ?」



 なんでそんなに突っ込んでくるのですか?

 そっと流して欲しいです⋯⋯。



「アーシェ?」

「緊張するからです」

「そんなに緊張する必要ないぞ」



 そんなこと言われましても、そんな甘めの含んだ目で見られると落ち着きません。

 子供には止めてください。

 そしてお国の方々に見られると、私殺されると思いますよ、主に女性から⋯⋯。

 この話題終わってくれないかな、何か違う話題を⋯⋯。



「そういえば、今日も殿下とアルは最終の見せ場に登場するのでしょう?」

「そうだね、ハルドと優勝者の後だな」

「ふふっ。分かったわ」



 お養母様、何か企んでいらっしゃるわ。

 やはり嫌な予感しかしません⋯⋯。


 雑談をしていると、そろそろ時間となったので会場に移動する。

 殿下のお膝から降りて、お兄様にエスコートして貰いお養父様達に付いていく。

 場所はいつもの訓練場だけれど、私達がいるのは訓練場を上から観覧できる所だった。

 そこに殿下とお養父様が隣同士に座り、お養父様の右隣にお養母様、そしてお兄様と私の順で座る。

 今日は訓練生や冒険者達も見学できるように解放しているみたいでとても賑やかだった。

 訓練場には出場するシベリウスとヴァレニウスの騎士達が集まっていた。

 時間になると、お養父様が立ち上がった。



「昨日、ヴァレニウス竜王国のヴァレンティーン殿下をお迎えし、本日、数年振りにシベリウスとヴァレニウスの騎士との交流会の一貫として、試合を開催する事が出来、嬉しく思う。中々ない機会なので、存分に力を発揮して欲しい。優勝者はベルンハルド騎士団長への挑戦権を得る。あぁ、因みにだが、シベリウスの騎士達に言っておく。無様な負け方をした者にはそれ相応の訓練が待っているから期待しておくように! では、事前に受けた注意事項を犯すことのないよう、私からは以上だ。続いてヴァレンティーン殿下よりお言葉を賜る」



 お養父様の挨拶が終え少し脇に避けると、殿下が前に進み出た。



「まずは我等をこのように歓迎してくれたことに嬉しく思う。この試合を楽しみにしていたゆえ、シベリウスの騎士達、我が騎士達もこの機会を存分に楽しむが良い。そうだ、シベリウスの騎士達が無様な負け方をしたら何かあるようだが、我が騎士達も同様だ。我を失望させたら、その時は楽しみにしているが良い」



 お二人共、騎士達を鼓舞しているけど、若干青ざめてる人達がいますが⋯⋯。

 頑張って下さい、騎士の方々!

 挨拶が終わったので、ハルド様が取り仕切る。

 試合の開始だ!


 試合が始まると、私達は観戦をするが、お養父様と殿下はお仕事の話もされているみたい。

 試合が進むにつれて、激しさも増していく。

 ヴァレニウスの騎士の方々は身体能力が違うので本当に強く、シベリウスの騎士を圧倒はしておるものの、シベリウスの騎士はそれを上回る技術が凄い。

 なので、良い試合になっている。

 魔法師と騎士の試合も見応えがあり、私も多いに勉強になる試合だ。

 そして次が一回戦最後の試合で、サムエルが出てきた。

 サムエルはちらりと私の事を見ると騎士の礼をしたので私は笑顔で頷く。



「ん? あれは何故アーシェに礼をしたんだ?」

「彼はサムエルといってアリシアの護衛騎士の一人です」

「ほう、ではどれ程のものか観てやろう」



 あれ、サムエルに対しての評価がキツくなりそうな。

 頑張って、サムエル!!

 相手はヴァレニウスの騎士なのでどうなるか⋯⋯。

 だけど、サムエルは双剣の魔法騎士なので私にはサムエルの試合が一番勉強になるのでしっかりと学ぼうと試合に集中する。

 試合が始まり、双方攻撃を繰り広げる。



「ふむ、悪くないな。剣の腕も魔法も良く使えている。それによく相手を見て攻撃に転じれているな。筋が良い。あの剣筋は⋯⋯あれに剣を教えたのはフリートヘルム・ベルネットか?」

「そのようです。流石よくお分かりになりましたね」

「見れば分かる」



 サムエルが誉められたので、私も嬉しい!

 けれど、彼の剣の師匠まで当てるなんて凄いわ。

 そうこうしている内にサムエルが勝ち、試合が終わった。



「ここ数年でまた全体的に大分向上したな。二回戦も楽しみだ」

「ありがとうございます。ですが、殿下の騎士は流石としか言いようがなく、強いですね」



 私としてはこんなに多くの試合を観るのは初めてだし、ここの騎士だけでなく、殿下の騎士方の動きとか、とても勉強になって楽しい。

 私とレオンお兄様は試合に見入っていた。

 第二回戦、第三回戦と行われ、午前は終了した。

 昼からは準決勝と決勝、団長と優勝者、最後に殿下とお養父様の試合が観れるので、お昼からの事を考えると楽しみで仕方ない。

 サムエルは事前に言っていた通りに、三回戦で負けていた。

 態ととは思えない負けかたをしていたが、殿下には「態と負けたな」とバレていた。

 見る人が見たら分かるみたい。


 昼食は応接間でとり、昼から誰が優勝するかの予想を立てていた。

 第一の予想ではヴァレニウスの殿下の近衛騎士のブラッツ・ノイエンドルフ。

 準優勝はシベリウスのニクラスが予想されている。

 準決勝には、リンデルが出るので応援したいと思う。

 準決勝の時カリーナの所で応援しようかしら。



「シアは何を悩んでるの?」

「悩んでいるというか、準決勝はカリーナのお父様がお出になるでしょう?」

「そういえば、リンデルが準決勝にでるね。あっ、もしかしてカリーナと一緒に応援しようとか考えてる?」

「良いんじゃないか?」

「よろしいのですか?」

「構わないよ、レオンと護衛をつれて行っておいで。だが、決勝には戻ってきなさい」

「ありがとうございます、お養父様」



 お養父様の許可をとったので、昼からの準決勝の応援をカリーナとすることにした。




 お昼の休憩が終わり、昼からの準決勝開始前、私とレオンお兄様は護衛のクラース、サムエルとエドガーを伴ってカリーナ達訓練生が観戦している場所へと向かった。



「アリシア様にレオナルド様! どうして此方に?」

「次の準決勝の最初の試合にリンデルが出るでしょう? 折角だから、カリーナと一緒に応援しようと思って、お養父様に許可をとって来たの」

「本当ですか! 一緒には応援していただけるなんて、嬉しいです!」



 私はカリーナの隣に座り、お兄様は後ろに、私達を囲むように護衛三人が固める。



「今日のアリシア様のドレス、とっても素敵ですね! よくお似合いです」

「ありがとう。カリーナも今日のワンピース、とっても可愛らしいわ」

「ありがとうございます。本当はここに来るので、何時もの装いで来ようかとも思ったのですが、父が折角だから可愛らしくしてきなさいと言ったので、ワンピースにしてみました」



 カリーナはちょっと恥ずかしそうにしていたけれど、その姿も可愛かった。

 私たちが話をしている間にお昼の開始の合図があった。

 そろそろ始まる。

 ここで勝てば決勝へ進めるけれど、お養父様達の予想には入ってないので、どうなることか⋯⋯。



「出てきたわ! お父さん頑張れー!」



 カリーナが応援に力が入る。

 リンデルに声が届いたのか、此方をチラッと見て笑った。

 が、それも一瞬で真剣な表情に切り替わる。

 相手はお養父様達に優勝候補だと言われていたブラッツ・ノイエンドルフだ。


 なるほど、何だか纏っている空気が一際違うわ。

 リンデルもわかっているのか、見たことのない表情をしていた。

 揃ったところで、開始の合図がされ、準決勝の第一試合が始まる!

 が、どちらもまだ動かない。

 固唾を飲んで見守っていると、先にブラッツが動いた!

 ブラッツの攻撃をリンデルは身体を捌いて避け、そこから一閃をブラッツに浴びせる!

 が、受けられた!

 見てるだけで剣圧が凄いのが分かる。

 カリーナも気圧されて固まっている。

 リンデルも険しい表情をしていて、ブラッツがいかに手強いのかが分かる。

 幾度となく剣がぶつかり合い、激しさが増していくが、リンデルがかなり疲れを見せていた。

 そこをブラッツが強烈な一撃を放つと、リンデルは後方に飛ばされてしまった。



「お父さん!!」



 カリーナが心配そうな声をあげるが、リンデルは意識はあるようで立ち上がろうとする。

 が、衝撃が激しかったのか、中々立ち上がる事が出来ない。

 その間にブラッツは距離を詰め、リンデルの喉元に剣先を向ける⋯⋯。



「⋯⋯まいった」



 リンデルが敗けを認めたので、試合終了となった。

 ブラッツはリンデルに手を差し伸べ、立ち上がらせる。

 殿下の近衛は試合後の相手への気遣いも出来るようだ。

 二人の様子に観戦者から惜しみ無い拍手が贈られる。



「ヴァレニウスの騎士強すぎ⋯⋯お父さん、大丈夫かな⋯⋯」

「見たところ大きな怪我を負っているということはなさそうね。殿下の近衛はとても強くていらっしゃるけど、リンデルも凄かったわ」

「お父さんの戦う姿をここまでしっかり観たのは初めてだったから⋯⋯私も見習って頑張らなくちゃ!」



 カリーナがやる気をだしたので、私はリンデルの様子を見に行くかを聞くと「何があっても最後まで試合を観るように!」とリンデルから言われているようで、様子を見に行くことはなかった。


 準決勝第二回戦は、シベリウスの騎士同士だった。

 一方は準優勝候補のニクラス。

 その対戦相手は私も知らない人だった。

 第二回戦も激しい試合となったが、お養父様達の予想通り、ニクラスが決勝へと進んだ。

 これで、決勝戦はヴァレニウスのブラッツとシベリウスのニクラスで決まり、半刻の休憩後に決勝戦が開始される。

 その休憩時間の間、今までの試合をカリーナ達とお話をする。

 皆それぞれ観るところが違っていて、話を聞くのは面白い。

 話に夢中になりすぎて、後十分で決勝戦が始まるという頃に護衛達に「そろそろ貴賓席に戻りませんと」という声がかけられて、私とお兄様は席を立った。



「遅いから迎えに来たぞ」

「殿下!?」



 そこへ転移で殿下が現れ、周りは騒然となった。

 が、騎士団に入隊志望の訓練生達は、慌てながらも習った騎士の礼をもって迎えていた。



「遅くなり、申し訳ございません。ですが何故殿下自らお迎えに来てくださったのですか?」

「オリーヴィアにこれも一つの交流だからと迎えに行って欲しいとお願いされてな」

「それは⋯⋯母上が申し訳ありません」

「構わんよ。私に堂々と頼むのはお前の母親くらいなものだ。それに小さい時からあんな感じだからな」



 お養母様って昔っからあんな感じなんですね。

 お養母様の小さい頃を知っている殿下って、何歳くらいなのでしょう。

 そんな、疑問がふと湧いたけれど、今は其どころじゃない。



「カリーナ、ごめんなさい。戻りますね」

「勿論です! お引き留めしてしまい、すみません」

「あぁ、アーシェが話していた、先程の騎士の娘か?」

「はい、殿下。彼女はリンデルの娘のカリーナです」

「お前の父親は中々筋がよかった。鍛えるとまだ強くなるだろう、よく励めと伝えておけ」

「は、はい! お言葉、確かに父に伝えます」



 カリーナは焦りながらもきちんと殿下に返事を伝えた。



「では、戻るぞ」

「よろしくお願い致します」



 私達は一瞬の内に貴賓席に戻ってきた。



「遅くなり、申し訳ありません。殿下もありがとうございます」

「殿下、子供達の迎えをありがとうございます」

「気にするな」



 私とレオンお兄様は席に着き、ちゃんと護衛も一緒に転移していただいたので、私達に付いた。

 決勝戦の始まり。

 先程も凄かったけれど「見応えあるぞと」と殿下が仰った通り、ほんとうに激しく、どちらも一歩も引かない。

 長引くか、一瞬の隙を付くか⋯⋯。

 私がそう考えていたら殿下が「終わったな」と呟くと、ほんの一瞬の隙ををブラッツが見逃さず、鋭い一閃を放つと、ニクラスが受けきれず膝を付く。

 そして、喉元に剣を突きつけられ、ニクラスは敗けを認めた。

 はぁ、激しくて、一瞬も見逃せない技の数々、本当に見応えがあって凄いの一言。

 決勝戦が終わり、休憩を挟んで団長との一戦があったのだけれど⋯⋯。

 先程戦っていたブラッツが此方にやってきて、殿下とお養父様に挨拶をする。

 殿下は労いの言葉をかけるが、何かあったのか、ブラッツはハルド様との一戦を辞退したいと申してきた。



「どういうことだ?」

「これを⋯⋯」

「ほぉ、なるほどな」

「殿下?」

「アル、見てみろ」

「失礼します⋯⋯これは、見事にヒビが入っていますね」

「まさか、同じ所に何度も打ち込まれるとは思いませんでしたよ。流石にこれでは無理です」

「分かった。アル、悪いが優勝者とベルンハルドの一戦は辞退だ」

「畏まりました。では、予定を繰り上げましょう。今から説明を行い、一時間休憩とします」

「すまんな。ブラッツは剣を直してこい。ここにも優秀な鍛冶士がいるぞ」

「有り難く」

「イクセル、彼の案内を」

「畏まりました。ではブラッツ殿はこちらへ」

「よろしく頼む」



 思いがけずハルド様との一戦が無くなり、一時間の休憩時間となった。

 その間にお養父様と殿下は準備を整えるとの事で席をはずす。

 私とお兄様はお養母様と一緒にお茶を挟む事となり、応接室へ移動し、一息つく。

 観るだけだとしても、身体に変に力が入っていたみたいで、身体が少し痛んだ。

 お養父様達も準備が出来たらここに来るようで、試合の話をしながら、私達はお茶を楽しんでいた。

 

ご覧いただき、ありがとうございます。

ブクマもとても嬉しく、励みになります。

本当にありがとうございます。


次話もよろしくお願い致します。

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