64 お養母様達のお願い
翌日の休息日はお養母様とお茶会をすることになり、途中からお養父様とレオンお兄様も加わるそうだ。
今日は少し日差しがきついので、テラスでお茶会を開くことになり、時間通りお養母様と先に始める。
「貴女とこうやってお茶会をするのは久し振りね。体調はすっかり良くなったようで安心したわ」
「はい。良く寝たので回復いたしました。ご心配をお掛けしてすみません」
「シアは遠慮しすぎよ」
「そのようなことはないと思うのですが」
「私としてはもっと甘えて欲しいわね。もっと我が儘も言って欲しいわ。迷惑なんて思ってないもの」
何故急にそんな話しになるの?
確かにこの間の事は心配をかけてしまったけれど、そこから遠慮しすぎとか甘えてほしいとか、どう関係あるのかしら⋯⋯。
あっ、執務室でのお養父様のお話からかな。
「アルも私も寂しいのよ。シアが我が儘言わないから」
「レオンお兄様も我が儘を言ってるのを聞いたことが無いのですけど⋯⋯」
「男の子の我が儘なんて可愛くないでしょう? 折角期間限定だけれど、娘が出来たのですもの! もっと我が儘を言って欲しいわ」
「お養母様、難しい要求をなさいますね。因みにどの様な我が儘を期待されているのですか?」
「そうねぇ、もっとこういうドレスが着たい! もっとお養母様とお話がしたい! とか⋯⋯とにかく! もっと頼って欲しいし、甘えて欲しいわ!」
お養母様、それはお養母様の欲求では?
頼ってはいるけれど、甘え方が分からないわ。
「シア、貴女は私達に頼っていると思っているかもしれないけれど、あまり頼っていないわよ」
「えっと、そんな事無いと思いますが⋯⋯」
「迷惑をかけても良いのよ? 子を守るのは親の役目です。貴女は養女だと言うことに迷惑をかけないようにと思っているのでしょうけどね。そんな事思わなくても良いのよ」
お養母様は柔らかな諭すような表情で私を見てそう言った。
そんな時、ノックがあり「遅くなった」とお養父様とレオンお兄様がいらっしゃった。
「今日も可愛いね、よく似合ってるよ」
「ありがとうございます。お兄様」
「何の話をしていたんだい?」
「シアにもっと甘えて欲しいっていう話よ」
「そうだなぁ、もっとお養父様に甘えて良いんだよ」
「ずるい! 僕ももっとシアに甘えて欲しいよ」
なんだろう、この甘えて欲しいと言う押し売り的な?
甘えることが分からないから⋯⋯期待されても困る。
昨夜アステールとあんな話をしたから余計に刺さるわ。
だけど、本当に分からないんだもの⋯⋯。
「甘えるってどうすれば良いのか、わかりません⋯⋯」
私は、思わずぽつりと呟いた。
けれど、お養父様達はきっちりと、私の呟きを拾っていた。
「そうだなぁ。シアは大体自分で解決させようもするだろう? 本もよく読むしな。それを私達に相談して欲しいと思う。後はもっとお養父様大好き! とかあそこに連れていって! とか、色々と言われたいな! シアが私を頼るのは真面目な話の時にしか頼ってくれないからな」
「それだったら、僕だってお兄様大好き! って言われたい! シアは僕より色々と出来るだろうけど、年も近いし、もっと頼って欲しいよ?」
お二人の要望が見えた気がする⋯⋯。
でも、それならたまに言ってる気がするんだけれど。
けど、こうして欲しいからと言われて私がそれをやるのは違う気がするのよね。
難しいわね。
世の子供達はどう甘えているのでしょう?
やっぱり街に行って人間観察する必要あるかしら。
「シア、また考え事しているの?」
「すみません。甘え方が分からないので、街に行って街の子供達を観察したら分かるかなと⋯⋯」
私は考えていたことを話すと、何故か皆に笑われた。
何故!?
私、結構真面目なのに!
「シアが甘えられないのは元々の性格もあるだろうな。それに、彼方での過ごし方のせいもあるだろう。シア、覚えておいて欲しいのは、此処にいる間はシアの自由にして良いということ。私達に迷惑がかかるとか、役に立たなければとか、そう言ったことは考えなくて良い。オリーも話したと思うが、子を守るのは親の役目であり、迷惑かけられるのも親の喜びだ。限度はあるがな。だから、昨日の昼間も難しく考えていただろう? 勿論、シアが一生懸命になろうとしてるのは嬉しくもあるし、成長だ。駄目なことは駄目だというし、間違ったことにはきちんと説教もするよ? だからね、此処で生活する間は肩の力を抜いてのびのびと過ごして欲しいんだよ」
いいのかな⋯⋯。
そんな風に過ごしてしまって。
私は⋯⋯
「シア、聞いて。シアは自分の立場を考えているのでしょう? 大丈夫よ。貴女は公の場ではきちんと対処できます。私もお父様もそれが分かっているわ。だから、今度は公でない場所での力の抜き方を覚えて欲しいの。でないと、私みたいに苦労するわ」
「お養母様みたいに?」
「そうよ。私も小さい頃は力の抜き方が分からず、何度も失敗しているのよ。お父様はそれが分かっているから、貴女には力の抜き方をシベリウスで教えて欲しいと頼まれているの。貴女は私によく似ているから⋯⋯」
「私はお養母様に似ているのですか?」
「性格、真面目な所や力の入り具合は私そっくりね。けど、貴女の優しさは貴女のお母様に似ているわ。とっさの判断と考え方は弟似ね。そして、貴女のお兄様の五歳の時とよく似ているわ」
私は王家の人間としての性格がそのまま出ているみたい。
そして、お兄様にもそっくりなの?
「貴女のお兄様も力が入りすぎて、魔力の暴走を起こしかけたわ。まぁ自力で抑え込んで熱だしていたけどね」
それってかなり危険だったのでは!?
人のことは言えないけれど。
「二人共に内に溜めすぎなのよ。力を抜いて外に発散させなさい。すぐにとは言わないわ。だけどね、王家の者と言えど、人間なのよ? 息抜きは必要なの」
あっ!
それは私が昨夜アステールに言った言葉と同じ。
それがそのまま私に返ってきた。
私はそこまで力が入っていたのね。
彼もそれが分かっていたからあのような事を⋯⋯。
「お養母様、お養父様。ありがとうございます」
「お礼を言われるような事じゃないわ。子供を導くのは親の役目よ」
「オリーの言う通りだ。さて、真面目な話はここまでだよ」
真面目な話は?
と言うことは、何か本題があるのかしら。
「来週の休息日にハルドの所へ行って来ると良い。シア言っていただろう? 犬や猫に触れたいと」
「よろしいのですか!? ハルド様は私が聞くと何故か震えてらっしゃったので、嫌なのかと⋯⋯」
「あぁ、それは違うな。あれはシアが可愛すぎて悶えてただけだよ。だから、レオンと一緒に行っておいで」
「ありがとうございます!」
「街歩きの件はまだ少し待って欲しい」
「勿論ですわ!」
来週の楽しみが出来ましたわ!
私は楽しみすぎて、表情も緩んでいたみたいで、それをお養父様達は「やっぱり女の子は笑顔だね」「可愛いわねぇ」「シアが笑顔なのが平和だよ」とか何とか言ってるけれど、私には届かなかった。
「シア、その調子だ。他にやりたいことが出来たなら遠慮せず言いなさい」
「ありがとうございます。お養父様」
私達はほんとうに他愛ない会話を楽しんだ。
この時間も幸せです。
今日は沢山お話をして、私も何だか少し力が抜けたように感じる。
夜はちょっと寝れなかったので本を読んだり、少し勉強をしていたら、花の匂いがふわっと香ったと思うと、いつもの調子でエストレヤがやってきた。
「やっほー! 元気にしてる?」
「エストレヤ、いつも思うんだけど、唐突だよ」
「それが精霊だからねぇ。エステルも元気そうで良かった! 心配したんだよ」
「心配をありがとう。エストレヤの注意があったから、被害も最小で済んだよ。本当にありがとう」
「僕達はエステルが大事で可愛いからね」
「あっ、そうだわ! ね、エストレヤって小さい頃お養父様と遊んでいたんでしょう? 何して遊んでたの?」
私はちょうど良いからお養父様と何して遊んでいたかをエストレヤに聞いてみた。
そしたら、お養父様を驚かせたり、森の中にある湖に落としたり、おいかけっこしたり⋯⋯。
それって、エストレヤがお養父様をいじめて楽しんでいただけなのでは?
私はジト目でエストレヤを見たら、ちょっと気まずそうに目を泳がせた。
そしたら「エステルにはそんな事しないよ!」ってかなり焦った感じで言ってきたけど、私にそれすると四方八方からきっと抗議の嵐でしょうね。
「でもどうしていきなりそんなこと聞いてきたの?」
「お養父様達にもっと甘えて欲しいとか、遊んで良いとか言われたんだけど、遊び方が分からなくて」
「そんな事なんだ」
「そんな事って、私にとっては重要よ」
「遊びってさ、楽しいからこそだよ! 心から楽しめばいいんだよ! 難しいこと考えないでさ」
エストレヤを見ていると、本当にそうだと思うわ。
ちょっと羨ましくも思うわね。
「ありがとう、エストレヤ」
「いいよー。そろそろ僕戻るね、またねー!」
そして本当に自由よね。
それより、こういう状況でよくアステールは反応しなかったわね。
精霊が見えていないのかしら?
もしくは見えていても害がないから何もしない、こっちの方がありそうね。
見えていなかったら完全に私の一人言⋯⋯流石に怪しすぎる。
アステールの事はまだそれほど知っている訳じゃないから、今度話をするのも良いかも。
私はそう考えながら眠りについた。
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