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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第1章  大切なもの
63/264

63 楽しみが出来ました


 執務室に戻ると、首飾りは既に無く、子細な報告も殆ど終わったようだった。

 結局私はあまり役に立てなかった。



「気分はどうだい?」

「もう大丈夫です。申し訳ありません。結局お役に立てていませんね」

「シア、そろそろその認識を改めようか」

「認識?」

「シアは自分の事がよく分かってない所が良くないな」



 此処に来て説教ですか。

 どこに説教される要素があったかしら?

 何だか皆呆れ顔でこっちを見ているし、というか、残念な子を見るような感じかしら。



「先ずは、シアの年は?」

「五歳ですけれど⋯⋯」



 またこの話し?

 何度目のやり取りかしら。



「平均的に貴族でも五歳の年齢だと、遊び半分勉強半分だが、うちの場合は教育は厳しくしている。遊びの中にも学べるよう、取り入れたりもしているな。そんな厳しい教育の中、マティとレオンとシアの五歳を比べたら断然シアが突出して一番出来ている。というか、勉強のしすぎなのがたまに傷だな。もう少し遊んでもいいくらいだ」



 お養父様はそう仰いますが、私の予定を組んでるのってお養父様とお養母様よね?

 それに休息日はゆっくりしているわ。

 それだったら、街歩きしたいです。

 邸にいると、本を手に取っちゃうし。

 それに、遊ぶって何して遊ぶの?

 王宮にいる時も、遊ぶことってなかったわ。

 お花を愛でたり、本を読んだり⋯⋯。

 遊び方を教えて欲しいわ。

 私は首を傾げて悩んでいた。



「悪いことではないよ。シアのお陰で今回は被害もなく、最小限で済んでいる。それは誇れることだ。ただ、もう少し我が儘言ったりしてもいいんだよ。シアは何がしたい?」

「特に何がしたいっていうのは無いです。街を歩いてみたいというのはありますが、難しいでしょう? あっ、馬に乗ってみたいですが、これも無理ですよね。んー⋯⋯、図書室の本で見かけた、猫や犬を抱っこしてみたいです! 後は⋯⋯特に思いつきません」

「シアの我が儘は可愛いものだね。だったら、今度ハルドの家に行くかい?」

「ハルド様のご自宅に?」

「あっ、それいいね! ハルドの家には犬も猫もいるし、馬もいるよ! 後、鶏もいる。僕も一度お邪魔したことあるけど、可愛かったよ」

「是非行ってみたいです! ハルド様よろしいでしょうか?」



 私は期待を込めてハルド様を見上げると、何故か顔を押さえて震えていた。

 泣いてる⋯⋯な訳ないよね。

 駄目なのかな。

 そうよね、急にお願いしても無理よね、普通。

 私は少し残念に思いながらも、諦めようとしたら⋯⋯。



「ハルド、いいな?」

「勿論であります!」



 あれ? お養父様が聞くとあっさりと了承をいただけた。

 何で?

 私は頭にはてなを飛ばしていると、お兄様が「シア、鈍感すぎる」と。

 私が鈍感?

 何処が?



「さて、報告も聞き終わったことだ。シアとレオンは先に邸に戻りなさい。サムエルとリンデルは悪いが二人を邸まで送ってくれ」

「「はっ!」」



 私とレオンお兄様は馬車で邸に戻った。

 リンデルとサムエルは私達が邸に戻ると騎士団に引き返した。

 出迎えたモニカを伴って部屋に戻り、やはり本調子ではなかったのか、ソファに座るとそのまま眠ってしまった。



 気付いたらお外は真っ暗で、ベッドの中だった。

 大分寝てしまったのかしら。

 けど、気分はとてもスッキリしていた。

 もう夜中かしら。

 暫く寝れそうにないわね。

 あっ、そう言えば⋯⋯。



「アステール」

「はっ、お呼びでしょうか」

「やっぱりいたわね」

「我が主、失礼を承知で申し上げますが、口調が砕けすぎではありませんか?」

「駄目?」

「⋯⋯理由をお聞きしても?」

「理由ね。理由はアステールはもう(わたくし)の影でしょう? 契約も交わしたのだし、それとも違うの?」

「いえ、その通りなのですが」

「だからよ」

「申し訳ありませんが、仰ってる意味が分かりかねます」

(わたくし)の影で、契約を交わし、(わたくし)の側にいるのでしょう? だからそれほど気を遣わなくてもいいかなって。あっ、勘違いしないでね。貴方を軽く見てる分けじゃないから」

「主⋯⋯」

「貴方の命は(わたくし)のものでしょう。それと、その主って呼びにくいでしょう? エステルで良いわ」

「流石にお名前は申し訳ありません。姫様とお呼びします」



 堅いわね⋯⋯。

 彼にも妥協できない部分もあるだろうし、仕方ないかな。



「姫様は⋯⋯」

「何?」

「皆様に気を遣ってらっしゃるのですか?」

「それは、遣うでしょう? 此処での(わたくし)は居候の身。子供だからと甘えてばかりでは駄目でしょう。出来ることはするし、役に立てることがあるなら頑張りたいの。王宮にいるお父様達に迷惑もかけたくないわ。(わたくし)の事で手を煩わせたくない」

「姫様のそう言った意図は皆様承知してるかと思いますが⋯⋯」

「伯父様は鋭いから気付かれているでしょうね。だからあの昼間の会話でしょう? 別に伯父様達が嫌だとかそう言ったことではないの。大切だから、あまり迷惑をかけられない」

「辺境伯達は迷惑だとは思ってないかと」

「⋯⋯そうね。ただ、(わたくし)は勉強や訓練以外、何をしていいか分からないの。遊ぶって何をするの?」

「遊ぶことに関しては、私もお役には立てません。物心ついた時より、既に影として訓練をしておりましたので」

(わたくし)より大変よね」

「それを選んだのは私ですから」



 どうして私の話し方からここまで話が膨らんでしまったのかしら。

 私の影だから良いのだけれど⋯⋯。

 まさかこの話をお祖父様達にしないでしょうね?



「アステール、この話をお祖父様達には⋯⋯」

「まさか! 私はもう姫様の影ですので、姫様の伝言以外は前国王陛下にも話しません。ご安心下さい」



 良かった。

 こんな話しをお祖父様が知ったら大事になってしまうわ。



「話しを戻すけど、きちんとした話し方の方が良いかしら?」

「いえ、姫様のお心が分かりましたので、話しやすいかたちで大丈夫です」

「ありがとう」



 この際だから色々と疑問は解消しておこうかな。

 まだ寝れそうにないし。



「もう少しお話しをしていてもいい?」

「構いませんよ」

「ラルフの事を調べたのは貴方よね?」

「左様です」

「きちんと休んでるの?」

「⋯⋯はい?」



 アステールは私の質問が分からなかったのか、きょとんとした初めて見る表情をしていた。

 


「ちゃんと寝ているのかと心配してるの。よく考えると、昼間は騎士団にいるでしょう? そして夜は(わたくし)の側近くにいるわけだし」

「⋯⋯」

「アステール?」

「はっ、申し訳ありません。まさか、影の心配をされるとは思いませんでしたので」

「同じ人間だもの、休まないと身体に悪いでしょ? 心配はするわよ」

「お気遣いありがとうございます。大丈夫ですよ、鍛え方が違いますので⋯⋯それに休む時はきちんと休ませて頂きます」

「ならいいけれど」



 若干怪しいけれど、仕事はきちんとこなすだろうし、何処でも寝れそうよね。

 本人が大丈夫だというなら、信じよう。



「昼間、(わたくし)は席を外したので途中話を聞けてないのだけれど、あの首飾りは何?」

「まず、あの首飾りは魔術具の一種です。効果として一つ目、あれには心を惑わし、己の欲望を充たす呪術が組み込まれていました。ラルフの場合は姫様もお聞きになった言葉通り、惑わされて実行したのでしょう。もひとつは、瘴気を収縮させ、あれの所有者、つまりは着けている者の生命力を使用し、増幅させ、人工的に魔物を発生させたのかと思われます。あれの出所に関してですが、申し訳ありません、追跡が出来ませんでした」



 追跡できなかったんだ。

 あんな物を作り出すなんて⋯⋯。

 小悪党には無理よね。

 もしかしたら、私に毒を盛った件の黒幕と同じなのでは⋯⋯。

 私がアステールを見ると、彼も分かっているという風に頷いた。

 その可能性が一番高いわけね。

 まだ、何か起こるかもしれないから周囲には気を付けないと。



「ラルフはどう?」

「彼はもう正気には戻らないかと。騎士団上層部も同意見です。辺境伯の話でもあれだけの瘴気と呪術を受けていたらもう無理であろうと話しておりました。後一週間は手を尽くすが、それまであの者の生命が持つかどうかと言うところです」

「そう⋯⋯」



 やっぱり難しいのね。



「姫様、あまり考えすぎるのはよくないかと」

「えっ?」

「どうにかあの者を助ける道はないかと考えていらっしゃるでしょう?」



 何故私の考えることがこうもあっさりとバレるのか⋯⋯。

 顔に出てる?

 伯母様の淑女教育やお祖父様の帝王学の授業でかなり高評価をもらってる筈なんだけど⋯⋯。



「姫様の性格ならそう考えるだろうと思ったのです」

「⋯⋯当たりよ」

「姫様がお優しいのはとても良いことですが、切り捨てる事も必要な時があります。ラルフは、仮に目覚めても矯正は難しいでしょう」

「何故そう思うの?」

「色んな者達を見てきた経験からです」



 それを言われてしまうと言い返せないわ。

 私にはそんな経験なんて無いわけだし。

 考えが甘いと言われたらそれまでよね。

 切り捨てる覚悟も必要⋯⋯、なのよね。

 頭では分かってるけど、心がね。



「姫様、切り捨てるにしても、貴女様が手を下すことはありませんので、お気になされませんよう」

「⋯⋯アステール」

「はっ!」



 彼の言葉で私は思わず自分でも驚くような冷たい声で彼を呼んだ。

 呼ばれた彼はもっと驚いただろう。

 その証拠に表情に表れている。

 

  

(わたくし)を甘いと言うのは良いけれど、(わたくし)を腑抜け扱いするのは止めて欲しいわ」



 私は彼の言葉に怒りを覚えた。

 彼にそのつもりがなくても、私に何の責任もないというのはおかしいわ。

 そこまで他人任せにするつもりもない。



「切り捨てたとして、彼を捕まえる一端を担ったのは(わたくし)です。気にするしないではなく、命を背負うかどうかです。昨夜貴方は(わたくし)に厳しい判断が下せると言いましたね? その判断を仮に下したとして、それを気にせずに貴方達に任せきりと言うのは無責任です。その判断を仮に下したのなら、その責任を負うべきは(わたくし)です。無責任な行動や発言で貴方達を只の殺人者にしたくはありません」



 アステールの優しさも分かるけれど、だからといってそれに甘える分けにはいかない。

 そんな無責任なことは出来ない。

 それは私が許せない。

 そして、彼にもそんな主なのだと思われたくはない。



「姫様、失言をお許しください。決して軽んじたりしたわけではなく⋯⋯」

「分かっています。貴方の優しさからの発言だと。けれど、それに甘えていい事ではありません。⋯⋯ごめんなさい、ついきつく言って」



 アステールは再度私に頭を下げた。

 甘えて良い事と悪いことがあるので、きちんと訂正しておく。



「姫様はそろそろお休みください。体調がよくなったからと言って、無理はよくありませんよ」

「そうね⋯⋯。そろそろ休みます」

「はい、ゆっくりとお休みくださいませ」



 私がベッドにはいるとアステールは姿を消した。

 記憶でいう忍者みたいね。

 私はそんな事を考えながら、眠りについた。

 

ご覧いただきありがとうございます。

次話も楽しんでいただければとても嬉しく思います。

よろしくお願い致します。



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