58 新たな訓練と班分け
シベリウス邸の転移陣に着いたら、アルヴァーが待っていた。
「おかえりなさいませ。アリシア様。皆様がお待ちです」
アルヴァーはそう言うと、私達を居間へ案内する。
ノックをし「アリシア様とクレーメンス様をお連れしました」と声をかけると、中から「入れ」と声をかけられる。
アルヴァーが扉を開けてくれたので、私達は中へ入ると、お養父様達が揃っていた。
「ただいま戻りました」
「お帰り、シア」
「お帰りなさい。クレーメンス、シアをありがとう」
「シア、お帰り」
皆からの出迎えの挨拶を受けると、何だか久々にシベリウスに帰ってきたと実感する。
「シベリウス辺境伯様に、こちらはイェルハルド様より預かってきたお手紙です」
「ありがとう。⋯⋯その手に持ってる箱はなんだ?」
「⋯⋯クレーメンスが持っている物ですか? ひとつはお父様からの頂いたもので、その下の箱はお祖父様から頂いたものです」
「⋯⋯何が入ってるんだい?」
「お父様からは短剣です。お祖父様からは練習用に双剣を頂きました」
「「「⋯⋯」」」
えっと、なんで皆様黙ってしまったのでしょう?
「あの弟は!! どうして娘にそんな物を贈るのよ! 馬鹿なの!?」
「お養母様⋯⋯」
「イェルハルド様も何故シアにそんな物を贈られたのか⋯⋯まだかなり早いと思うのですが」
「お二人が悩まれるのも分かりますが、全てイェルハルド様のお手紙に書かれていますので後程お読みください」
「はぁ。分かったわ」
「では、私は戻ります。アリシア様、また来週お迎えに上がりますね」
「ありがとう」
クレーメンスは離宮へと帰っていった。
私がお父様やお祖父様に頂いたものは、中央テーブルに置かれた。
レオンお兄様は興味津々でそちらを見ていた。
お養父様とお養母様は何があったのかと、胡乱げな表情をしている⋯⋯。
取り敢えず、お養母様には報告しておかないと。
もう、知っていると思うけれど。
話して良いとお祖父様から許可も貰っていることだしね。
それに、今此処には私の事を知っている者しかいない。
「お養父様、お養母様。私王宮へ一度戻り、そして、新しい弟の産声を聞いてきました。少しですが、会うことも、抱くことも出来ました。名前はアルフレッドです。お養母様、私をあちらに送り出していただき、ありがとうございます」
「そう。会えて良かったわ。可愛かったかしら?」
「はい! とても小さくて可愛かったです。お母様に似てました」
「弟君は王妃様似か⋯⋯」
「お養父様?」
「いや、何でもない」
「王妃様似だと可愛い王子様になりそうですね」
「レオンお兄様、今はお母様似だけど、まだ産まれたばかりだから、顔つきは変わりますわ」
「確かにそうだね。っていうか、兄弟従兄弟の中で、シアだけだね、女の子は」
「私、妹も欲しいですわ」
「ふふっ、それは貴女の両親に言いなさいな。だけど、一人女の子だと、皆に可愛がられるわね。独り占めよ?」
「⋯⋯とても嬉しいですけれど」
嬉しいけれど、若干過保護気味なのがね、そして変な風に大切にされている気がするのよ。
勿論とても嬉しいし、大切な家族だけれども、やりすぎは良くないと思うのも事実で⋯⋯。
「ねぇ、シア。この中身って見せて貰っても大丈夫?」
「もちろんです」
私はまず、お父様に頂いた短剣を出して見せた。
レオンお兄様は「持ってみても良い?」と聞いてきたので、「どうぞ」と言うと、早速持っていた。
そして鞘から抜いた。
「凄いね、何て言うか、凄い」
「レオン、言いたいことは分かるがもっと表現力を身につけなさい」
「けど、叔父上は何故シアに短剣なんて贈ったの?」
「⋯⋯言いたくありませんわ」
「シア?」
「あぁ、なる程な」
お養父様とお養母様は分かったようです。
お養母様は「娘にどす黒い意味で渡すなんて!」とお祖母様と同じ事を言っている。
お父様の評価が駄々下がりな気がします⋯⋯。
私は気にしてませんからね!
「シア、護身用にいつも身に付けていなさい」
「お祖父様にも同じ事を言われましたわ」
「そうか」
話をしていると、ノックがあり、何かと思うと、夕食の支度が整ったようで呼びに来たみたい。
私は短剣と双剣をモニカに預け、部屋へ運んで貰う。
私達は夕食を頂き、再度団欒の間に移動した。
「レオンは男だから良いが、シア、明日は二日振りの訓練日となる。騎士団の方でラルフには厳重注意をしたが、直ぐに意識が変わるとも思えない。気を付けなさい」
「分かりましたわ」
「何かあったら直ぐ言いなさい。いいね?」
「はい、ありがとうございます」
お養父様に注意を受けた後は和やかに話をして、部屋へ下がった。
明日の事を今から心配しても仕方ないし、明日になってみないと何とも言えないものね。
今日は沢山動いたので、モニカ達が腕や足のをマッサージを念入りにしてくれた。
だけど、筋肉痛は免れないでしょうね⋯⋯。
流石に疲れたので、本も読まずに大人しくベッドに入ると、直ぐに眠気に襲われて、朝まで夢も見ずにぐっすりと眠った。
よく寝たので、この日はスッキリと目が覚めたけれど、やっぱり腕がだるい。
これ、マッサージされてなかったら腕が上がらなかったかもしれないわ。
朝食後に玄関ホールでお兄様と合流して、騎士団の訓練場へ向かう。
私はお祖父様とお義父様に短剣を持ち歩きなさいと言われているので、ちゃんと隠し持っている。
さて、今日は二日振りのこちらでの訓練なのですが、どんな一日になるやら。
訓練場に着くと、午前中は魔法の訓練なので、お兄様とそちらに向かう。
すでに一緒に訓練をしている、エリクとジルがいたので挨拶をする。
暫くして、リュシアン先生とクレール先生がいらっしゃった。
先生方にも挨拶をし、何時もなら訓練が始まるのだけれど⋯⋯。
「訓練を始める前に、移動がある!」
移動?
何かしら、場所が変わる⋯⋯とか?
「エリクとジルはこのまま、クレールが教え、レオナルド様とアリシア様は俺がお教えします。何故分けるかは、本人達が一番良く分かっていると思いますが⋯⋯」
最後の方は何故か小声だったけれど、組が分かれるのね。
もしかして、お祖父様の手紙のせいかしら。
向こうでの訓練を思えば、此処では初期ですものね。
お兄様も基本的なことは難なく使えますし。
「ちなみにこの組分けは、団長の指示の元だ! いいな!」
「「「はい!」」」
私達は言われた通りに分かれる。
私とお兄様はリュシアン先生に付いていった。
何処に行くのだろうか?
付いていくと、そこは騎士団の魔法師達が訓練をしている場所だった。
あれ?
いきなり此処で練習をするの?
「今日からお二人は此処で訓練することになります」
「質問ですが、何故急に?」
「元々レオナルド様とアリシア様は規格外の素質がありますからね。あの二人と一緒に訓練はあの二人のためにならないと判断したからです」
「なるほど」
「分かりましたわ」
「それで、お二人は実質何処まで出来るのですか? あちらにいる時は手加減されてたでしょう?」
「んー⋯⋯、何処までって言うのが難しいけど、基礎的な事ならほぼ出来ると思う。それと、属性を重ねる事も出来るよ」
「私もお兄様と同じくらいの事は出来るかと思います」
「⋯⋯属性を重ねることまで出来るのですか」
リュシアン先生は遠い眼差しをしていた。
とそこへ、リンデルがやってきた。
リンデルは騎士かと思っていたけれど、魔法師なのかしら?
「レオナルド様、アリシア様訓練はいかがですか?」
「今はリュシアン先生に質問されたことに答えていました」
「実際お二人が何処までの事が出来るのかの確認ですね。聞いて驚きましたが⋯⋯」
「うっすらと話は聞いている。リュシアンが驚くのも無理ないな」
「リンデルは騎士かと思ったのですが、魔法師なのですか?」
「私は魔法騎士です。魔法師でもあり騎士でもあります」
「凄いのですね!」
「アリシア様も剣術がお出来になりましたら、同じですよ」
「では、頑張らないといけませんね!」
呼び名が格好いいのもあり、俄然やる気が出ました!
お兄様はちょっぴり呆れていましたが「シアには負けられない」との事でこちらもやる気十分!
リュシアン先生は若干引いてしまってるけど⋯⋯。
「では、お二人にはあちらにある的に当てる練習をしていただきます。もちろん真ん中に当てる事を目標にしていただきます」
「「分かりました!」」
私とお兄様は各々の的の前に並んで立ち、早速魔力を発動させる。
お兄様は水の矢を放った。
まさかの見事に真ん中に命中!
流石お兄様!
私も頑張ります!
私は氷の矢を想造し放つ!
が、若干ずれた⋯⋯。
難しい、悔しい!
「まさか初回で見事真ん中を射ぬくとは⋯⋯。アリシア様も殆ど真ん中に近い。お二人とも見事です」
リンデルは誉めてくれたけど、私は真ん中ではないのであまり納得できない。
なので、もう一度打ってみる。
先程より少しですが方向を修正してみたのだけれど⋯⋯、上手くいった!
「真ん中に当たりましたわ!」
「素晴らしいですね。直ぐ修正してしまうなんて」
「シアって要領良いよね」
「それってお兄様だと思いますわ」
「私から見たらお二人ともですよ。さて、私は仕事に戻りますので頑張ってくださいね」
「ありがとう、リンデル」
リンデルは仕事に戻っていったので、リュシアン先生が課題を出してくる。
「レオナルド様は、四属性各々を各々を十回ずつ、的に当てるように、アリシア様も同じく、どの属性でも良いので、四属性を十回当ててください。もちろん全て真ん中で」
「わかった!」
「わかりましたわ!」
私は、火、水、風、地の四属性を一回ずつ変えて当てていく。
出だしは順調だったけど、五回を過ぎた辺りから、中々真ん中に当たらなくなってきた。
魔道具で力を押さえているから全然違う!
だんだんと身体が重くなってきたし、集中力出来なかなってきている。
お兄様は制限がないため、さくさく進んでいる。
弱音は吐けないわ。
制限なんて関係ないもの!
今の私が出来なければ、外したとしても出来ないわ。
私は再度集中力を高めるのに深呼吸をした。
落ち着いて⋯⋯、そして放つ!
バシッ!!
真ん中に当たったわ!
この調子で進めること十回目が全て終了した。
流石に頑張りすぎたのか少し疲れたわ⋯⋯。
お兄様もちょっと疲れている様子。
同じ箇所に当てるのは中々集中力が入ります。
「⋯⋯よく出来ましたね」
「流石に大変ですけど、勉強になります」
「同じところに撃ち続けるのは大変だね」
「左様ですね。同じ箇所、真ん中に当てると言うのはそれだけ集中力と命中率、緻密な魔力操作が必要となりますからね。ですが、それが出来なければ魔物討伐等は難しい。あれらは本能で動くので、動きも読みづらい。動かない的とは違いますので」
確かに、この地は魔物の進行を食い止める要所。
人よりも対魔物戦が殆どだから、そちらに重きをおく。
なので、訓練も魔物を想定して行う事が多い。
勿論対人も行うが⋯⋯。
「さて、小休憩を挟んだらもう一度です。アリシア様は先程と同じ属性で」
「「はい!」」
私もお兄様もやる気は十分なので、兎に角真ん中に、集中力を欠かさずに撃つ。
同じ四属性を十回ずつ⋯⋯
「先程よりも早くなりましたね、それも正確に。いやほんと、筋が良すぎでしょ⋯⋯」
リュシアン先生の目が遠い。
最後の言葉が聞き取れなかったわ。
「あぁ、丁度お昼ですね。今日は此処までにしましょう。お疲れ様でした」
「「ありがとうございました」」
はぁ。お祖父様の訓練ほどではないけれど、一点集中、これはこれで大変です。
「シア、お昼に行こうか」
「はい!」
取り敢えず、お兄様と一緒にお昼に向かう。
お昼を頂き、休憩後に次の訓練に向かう。
今日はカリーナを見つけたので挨拶をする。
「「ごきげんよう、カリーナ」」
「レオナルド様、アリシア様、こんにちは」
「そういえば、ラルフは騎士団から厳重注意が下ったって言ってたけど、その後訓練は大丈夫だった?」
「ラルフですか⋯⋯まぁ大人しいと言えば一応大人しくはしています。けど、その内爆発しそうな気はしますね」
「はぁ。やっぱりね」
また面倒にならないと良いけれど、それは難しそうね。
そう思っていると、ヴィムとルイも揃ったので、挨拶をした。
私達は雑談をしていたけれど、その内ラルフもやってきたので、一応挨拶をしたものの案の定無視。
無視はされるものの、だからと言って私達も挨拶をしないのは彼と同じになってしまう。
同じ土俵に立つ必要はない。
それにしても、今日はお兄様達も一緒にいるので、人数が多い。
何かあるのかな?
それよりも、先生が来るまでこのどんよりとした空気感、どうにかならないかしら。
そう思っていたら、アンリ先生とユーグ先生が一緒にいらっしゃった。
今日は合同で行うのかな?
ん? あれ?
お二人だけでなく、後もう一人いるような⋯⋯、しかもつい昨日と一昨日お会いした方。
何故彼が此方に?
「皆揃ってるか?」
「「「はい!」」」
「よし!今日から少し組の入れ換えを行い、三班に分かれて訓練を行う。なので、もう一人紹介する! こちらは昨日からここの騎士団に移籍したサムエルだ。実力は折り紙付きだから、分からないことはなんでも聞いて良いぞ!」
「サムエルです。よろしく」
「「「よろしくお願いします!」」」
――移籍って⋯⋯、お祖父様、何か企みましたね?
「では、班を発表する! まず、俺の班はアラン、バート、トビアスとカリーナ。ユーグの班はレーナ、ブルーノ、ヴィム、ルイ。サムエルの班は、エミーリオ、レオナルド様、アリシア様、ラルフだ! では、今言った班に分かれて訓練開始だ!」
「「「はい!」」」
波乱がありそうな班分けに不思議に思いながらも、私達は今言われた班に分かれた。
ご覧いただき、ありがとうございます。
今日明日と連続投稿しますので、よろしくお願い致します。