55 お祖父様の授業
侯爵が帰った後、私達は先に夕食を済ませた。
その後、団欒の間にて今日の出来事を話す。
「そうか、男の子か。名は何と名付けた?」
「名前はアルフレッドです。髪はお母様と同じ色でした」
「そうか、アルフレッドだな」
「ステラは嬉しそうね」
「はい! 改めて、お祖父様、お祖母様。私をアルフレッドに会わせてくれてありがとうございました」
「ステラよ、そんなに畏まらずとも⋯⋯」
「いえ、当分の間は会えないと思っておりましたので、まさか産まれたばかりに会うことが出来るなんて、とても嬉しかったのです」
「ふふ、ステラのそのような嬉しそうな顔が見れただけでも私達も幸せよ」
「お祖母様ったら⋯⋯」
「今日と明日は此処に泊まりなさい。明後日シベリウスに帰るように彼方にも連絡してある」
「分かりましたわ」
「明日は帝王学を午前中に教え、午後からは少し稽古を付けよう」
「本当ですか! よろしくお願い致します」
「今日はゆっくり休みなさい」
「はい! お祖父様、お祖母、おやすみなさいませ」
「あぁ、おやすみ」
私は就寝の挨拶をして、部屋へ戻った。
部屋へ戻った私は湯を浴びて、就寝の準備をする。
モニカにカモミールティを淹れて貰い、気持ちを落ち着かせる。
私が大分浮かれているのを見たモニカは「姫様、お顔が緩みすぎですよ」と声をかけてきた。
だって、仕方ないじゃない。
会えないと思っていたのが、産まれた瞬間の産声まで聞けたのよ。
幸せよ。
けど、そろそろ寝なきゃね。
明日のお祖父様の授業に備えなければ、きっと稽古は厳しいと思うから⋯⋯。
「そろそろ休むわね」
「それがよろしいかと。おやすみなさいませ」
「おやすみなさい」
私はベッドに入ったけれど、興奮しているせいか直ぐには眠れそうにない。
暫くそうしていたけれど、ベッドから降りて窓辺によった。
今日は大きな月が出て来てとても明るい。
きれいな月。
そういえば、シベリウスで過ごし始めた頃もこんな大きな月を見たわ。
あの時と今では私自身の心境が全く違う。
あの頃はこんなに穏やかな気分になれるとは思っていなかったものね。
今は自分の事が気にならないし、不安になることもない。
私は深く深呼吸をした。
さて、そろそろ寝ないと、明日に差し支えるわ。
私は再度ベッドに入って目を閉じた⋯⋯。
翌日の朝、離宮にいるため朝の訓練はお休みで朝食までのんびり過ごす。
今朝もお祖父様達と一緒に朝食をとり、そのまま食後の休憩を挟み、お祖父様の授業を受けることとなった。
部屋を移動し早速授業が始まる。
「昨日の話しの続きだがな、ベリセリウス家の事だ」
「はい、彼の家は王家の影の長、という話でしたね」
「ちゃんと憶えていたな。表向きは王の側近を勤めるが、その裏では影達の育成と情報を纏めている。その長に当たるのが、侯爵家当主というわけだ。有事の際は当主自ら動くこともある。国王の側近だから、それなりの腕があってもおかしくないからな。ちなみにエリオットは魔法師としての才が一流としても有名なのだ。だから今回事情を知っていて且つ一流のあやつに其方の事を頼んだのだ」
「なるほど、そうだったのですね。ということは、私は彼方で過ごしていますが、もしかして何があったか色々と筒抜けですか?」
「今は筒抜けだな。もちろん私も知っている。私の影達に頼んでいるから。言っておくが、お前の身を案じてのことだぞ」
「はい、お祖父様。⋯⋯ということは私が今彼方で少し面倒臭い事になっている件は⋯⋯」
「勿論知っておる。ラルフとか言う小僧だろう」
やっぱりご存じなのですね⋯⋯。
と言うことは、お父様もご存じと言うことで⋯⋯。
まさか、干渉はなさらないでしょうね。
「案ずるな、干渉するつもりはない。アンセも疎ましく思っても干渉はすまい。だが、ステラを鍛えるのは良かろう?」
「勿論です!」
お祖父様は少し意地悪な顔をしていたけれど、干渉されない事には安堵した。
それに、鍛えていただけるなんて心強い!
「ステラが学園に入学する頃には影が付くであろう」
「私にもですか? 今は王家から離れているのに?」
「そうだ。離れていようが、エステル王女はこの国の第一王女で王位継承権二位を持っておる。その事に変わりはない。本来であれば今からでも影を付けるべきだが、彼方は彼方でアルノルドの目が光っているし、オリーもおるからな。今のところ学園までは付けない方向になったのだ」
「裏では色々なされているのですね」
「そうだな。不安はないか?」
「特にありませんわ。ご心配ありがとうございます」
「それならよい。さて、長々と話しはしたが疲れてないか?」
「さほど疲れてはおりませんが、少し喉が渇きました」
「少し休憩にしようか」
お祖父様の言葉で、モニカ達が手早くお茶を用意する。
今日のお茶はローズマリーティー。
少し香りがきつめなので、蜂蜜を淹れて飲むと飲みやすい。
さっぱりだけど、蜂蜜の甘さもあって美味しい。
「ステラよ、少し聞きたいのだが、その小僧の事はどうするつもりだ?」
「そうですね⋯⋯私が何かを話したとしても彼には響かないと思いますので、今はそのままで⋯⋯いずれ実力で差を付けて、女や子供だからだとは言わせないつもりです」
「ふむ、其方の考えは分かった。だが、魔法で圧倒しようとは思わなかったのか?」
「彼は魔法の適正が無いようですので、同じ土俵の方が良いかと思いましたの」
「ふっ、ステラは少し負けず嫌いなところがあるな。そう言うところはヴィンスそっくりだ。流石兄妹だな」
「お兄様もですか?」
「あぁ、あやつは中々負けず嫌いだぞ。表には出さす、静かに淡々と勝とうとする。まぁそれがあれが周囲に文武両道の秀才だと言われる所以だな。見えないところで頑張っているぞ。ステラもそうであろう?」
「そうなのでしょうか? 私は出来ることをしようと思っているだけですわ。辺境伯家から王宮に、元に戻ったときに、侮られないよう、お父様達の足手まといになりたくはありません。だから、勉強が出来る環境にあるのだから、私はそれをするだけです」
「良い心意気だ! だが、たまには息を抜けよ」
「伯父様達にも良く言われますわ。そして息抜きにお茶に誘っていただいています」
「そうか。あぁ、少し雑談が過ぎたな。もうすぐ昼だ」
もうそんな時間⋯⋯。
お祖父様との話はとても有意義で勉強になるから好き。
「アクシィも待っているから食堂へ行こうか」
「はい、お祖父様」
私達は食堂へ移動した。
私達が着いてから、お祖母様も少ししてから此方にいらした。
揃ったのでお祖父様の言葉で食事が始まる。
お食事後はお祖母様とも歓談をした。
お祖母様は午前中に王宮へと行ってらしたみたいで、アルフレッドの話をしていた。
お祖母様がいらっしゃったときは、起きていたそうで瞳の色はお母様と同じ色だったそう。
フレッドはお母様似なのね。
「あっ、そうだわ! アンセから預かり物があるのよ、ステラにね」
「私にですか?」
「イーリス、あれを⋯⋯」
「此方でございます。姫様」
「これは?」
「貴女に贈り物だそうよ」
「お父様から? お誕生日でもないのに何かしら?」
私は折角なので、開けてみた、んだけど⋯⋯。
これは⋯⋯。
何でしょうね、色んな意味合いがあるような⋯⋯だけど五歳の子どもに贈るようなものでもないと思うのですが⋯⋯。
どう受け止めて良いのか悩むところですよ、お父様。
中身はシンプルな装飾ながら、立派な短剣。
喜んで良いの?
講義の後だから余計に、後ろにどす黒い物が見えるのですが⋯⋯。
「ははは! 我が息子ながらアンセの奴、黒すぎるだろう!」
「まったくもう! 五歳の娘に何て物を贈るのですか! あの子は⋯⋯」
お祖父様は爆笑していますが、お祖母様は怒っています⋯⋯
けど、うーん⋯⋯、身を守る為に持っていなさい、という前向きも前向きな意味に捉えてよろしいでしょうか? これは⋯⋯。
「取りあえず、折角のお父様からの贈り物ですので、有り難く頂いておきます」
「あー、笑った。アンセの奴やるな!」
「イル、笑いすぎですよ」
お祖父様は長い息をついた。
けど、これは本当にどういう意味なのでしょうね。
「ステラよ、取り敢えず身を守る為に持ち歩くようにしなさい。短剣であろうと重みがあるだろう? 今から慣れると良い」
「分かりました」
「アンセのどす黒い思惑にも気付いているだろう、ステラは」
「やはり、そう言う意味ですか⋯⋯」
「だから言ったろ? 彼奴はどす黒いと」
「はい、良く分かりましたわ」
「アンセ、程々にしないと娘に嫌われるわよ⋯⋯」
嫌いはしないですけどね。
反応に困ります。
こうして昼食後の小休憩が終わった⋯⋯。
ご覧いただき、ありがとうございます。
次話も楽しんで頂ければと思いますので、よろしくお願い致します。