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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第1章  大切なもの
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54 待望の赤ちゃん


 早朝の何時もの訓練を始める前、クラースから昨日のラルフ事件の事で、少し訓練内容に変更したい点を伝えられた。

 曰く、お嬢様を必ず訓練に遅れないよう、強くして見せます! との事。

 私よりやる気になっていませんか?

 それって、私のやる気や実力次第なのでは?

 やる気は勿論あるけれど、だからと言って成果が直ぐに出るかと言うとそうじゃないと思うのだけど⋯⋯。

 私も負ける気はないので、やりますけどね!

 という訳で、クラースの地獄の特訓が始まった。

 勿論剣技も習い、騎士団の訓練に遅れないようにする。


 クラースの地獄の特訓を終えて、汗を流す。

 はぁ。今日は一段とキツかったわ。

 クラースも怒っていたのかな⋯⋯。

 朝食をしっかりと食べて、朝の授業に向かう。


 歴史と現代史を前半後半に分けて行う。

 今はこの国がどのような産業や取り組みで発展していったかを習っている。

 現代史では各々の領の特産品や産業等を習っている。


 朝の授業が終われば、午後はお養母様の淑女教育。

 今日もお養母様の厳しくも丁寧な指導を受けていた。

 ⋯⋯だけどそんな時、授業中に誰かが訪ねてくるなんて殆ど無いが、急用なのかノックがあった。



「アルヴァーです。入室してもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」



 モニカが中から扉を開けたら、アルヴァーとクレーメンスが入ってきた。



「授業中失礼致します。クレーメンス様がいらっしゃいましたのでお連れいたしました」

「ご無沙汰しております。オリーヴィア様。ごきげんよう、アリシア様」

「久しぶりね、貴方が此所に来るなんて、何かあったのかしら?」

「はい。アリシア様を至急、離宮へお連れするようにと、イェルハルド様より命を受けました」

「⋯⋯分かったわ。数日戻れないわね」

「何とも言えませんが、最低でも二、三日は彼方に滞在することになるかと思われます」

「分かったわ。シアいってらっしゃい。悪いことじゃないから、行けば分かるわ」

「お養母様がそう仰るなら⋯⋯行って参ります」

「クレーメンス、モニカ。呉々もシアをお願いね」

「勿論です」

「畏まりました」



 お養母様は何か分かってる様子で私を送り出す。

 何事かしら?

 私達は転移陣の部屋へ移動する。

 勿論モニカも一緒に。

 クレーメンスが「参ります」と一言言うと、一瞬の内に離宮へ到着した。

 転移陣の部屋にはお祖父様がいらっしゃった。



「ごきげんよう、お祖父様」

「よく来たな、ステラ。魔道具を外すぞ」



 お祖父様は一言断って、私の魔道具を外す。



「何かあったのですか?」

「あると言えばあるな。取りあえずは準備だ。おいで、部屋へ行くぞ」

「はい」



 私はよく分からず、お祖父様に近付くとそのまま抱き上げられた。

 連れていかれたのは、私が此所に滞在する時に使用している部屋だった。

 部屋に入ると、エメリが待ち構えていて、お祖父様は「頼むぞ」と一言言い終えると、私を下ろし部屋を出た。


 

 ――一体何事?


 

 私は疑問を持ったまま、エメリとモニカの良いようにされていた。

 何でこんなに着飾るの?

 あれよあれよと、あっという間に準備が整った。



「今日も素晴らしく可愛らしいです」

「本当に! 素敵ですわ」

「さぁ、皆様お待ちかねですので、参りましょう!」



 エメリの案内で私とモニカはお祖父様達がいらっしゃる部屋へ通された。

 そこには、お祖父様、お祖母様にクレーメンス、そして一人知らない方がいらっしゃった。

 エメリは私を案内すると部屋を下がった。



「お待たせいたしました。皆様」



 私は取りあえず挨拶をする。

 まだよく理解はしていないけれど⋯⋯。



「あぁ、今日も可愛いな」

「本当に! その色とデザインが良く似合うと思ったのよ」

「素敵なドレスをありがとうございます。お祖母様」

「ステラはこれと会うのは初めてだったな。エリオット・ベリセリウス侯爵でアンセの側近の一人だ。ステラの事情を知る一人でもある」

「お初にお目にかかります、エリオット・ベリセリウスと申します。以後お見知りおきを」



 侯爵は私に丁寧に挨拶をする。

 隙があるようで全くない。

 何か不思議な感覚のする方だ。

 


「初めまして、ベリセリウス侯爵。エステルです。よろしくお願い致しますわ」

「次の帝王学で教えるつもりだったんだが、今伝えておこう。彼は王家の影を取締る影達の長でもある。よく覚えておきなさい」

「分かりましたわ」

「さて、時間もない。紹介が終わったから、エリオット、ステラを頼むぞ。モニカは此所で留守番だ」

「畏まりました。お預かり致します」

「どういう事でしょうか?」

「殿下、今は何も聞かずに私に付いてきてください」



 ベリセリウス侯爵はそう言うと、私を伴って部屋を出る。

 向かった先は先ほどと同じ転移陣。

 侯爵は私を促し、転移陣にはいる。

 転移する前に侯爵は私に話しかけてきた。



「殿下、私が合図するまでは声を出さないよう、お願い致しますね」

「分かりましたわ」

「では参りますよ」



 そう言うと、一瞬の間に違う転移陣の部屋に到達していた。

 その部屋を出て、侯爵に付いていく。

 あまり見覚えのない場所からどんどん奥へ行くにつれて、見覚えのある光景が目に入る。



 ――ここは⋯⋯王宮!?



 私は声を出さないよう意識的に勤めた。

 周りを見ても私が見えていないようだった。

 これは、侯爵の魔法かしら。

 私が見えないように⋯⋯

 ドキドキしながら付いていく。

 更に奥、そこはお母様の部屋だった。

 何だか中が騒がしい。

 ⋯⋯もしかして!?

 私はひとつの事に思い当たった。

 まさか、と思うけど、それしかないとも思う。

 逸る気持ちもあるけれど、侯爵はお母様の部屋を護っている近衛に声をかけ中に入る。

 そして私も後に続く。

 そこには、お父様とお兄様がいらっしゃった。



「お待たせいたしました。⋯⋯エステル殿下、今なら少しよろしいですよ。ですが、声は落としてくださいね」

「ありがとうございます、侯爵」



 私は侯爵にお礼を言う。

 緊張で少しぎこちなかったかもしれない。



「お父様、お兄様。ご無沙汰しております。お母様はもしかして⋯⋯」

「あぁ、久しいな、ステラ。元気そうで何よりだ」

「ステラ、こっちにおいで」

「ステラの察しの通りだ。もうすぐ産まれそうだ」

(わたくし)が此処にいても大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だよ。ステラが他の者に見咎められないよう、エリオットに頼んであるからな。心配するな」

「それなら、よろしいのです⋯⋯」

「すっかり見ない間に落ち着いたな。それに少し背が伸びたか?」

「ステラは日に日に可愛くなっていくね。レオンが憎らしい⋯⋯」

「ヴィンスお兄様、ダメですよ。彼方ではレオンお兄様が護ってくれていますので、仲良くしてくださいませ」

「⋯⋯いや、やっぱり羨ましい!」

「もう! 喧嘩だけは止めてくださいね」



 私は久しぶりにお父様達に会ったので、とりとめのない雑談をしながら、その時を待った。

 暫くして、元気な赤ちゃんの泣き声が響いた!

 産まれたので、この部屋の向こうは騒がしくなる。

 私は暫く声を出すのを我慢する。

 侯爵に隠して貰うためだ。

 何があるか分からないので、侯爵の近くに移動した。



「陛下、おめでとうございます! 元気な王子様です」

「そうか! 会いに行っても大丈夫そうか?」

「少しだけお待ちくださいませ」

「分かった」

 


 弟! お父様似かな、お母様に似てるのかな。

 そわそわと興奮しすぎて、近くにいた侯爵の服を思わず掴んでしまった⋯⋯。

 あっ! 直ぐに離したのだけれど、そっと侯爵を見上げると、笑いを噛み殺していた。

 あぁ⋯⋯、ごめんなさい。

 やってしまったわ。


 そんな私の小さな失態をしている内に、再度扉が開き「おまたせいたしました。入室しても大丈夫です」との事で、お父様とお兄様が入室をした。

 一度そこで扉が閉まり、私は少し寂しくそわそわしていた。

 直ぐに出産時についていた、侍医や侍女達が出てくると、侯爵は私に部屋にはいるよう指示を出したので、私は慌てて部屋へ入る。

 間一髪で部屋は閉じた。

 そこには、お母様とお母様の筆頭侍女のファンヌ・バーリだけになっていた。



「ステラ、声を出しても良いぞ」

「はい、お父様」

「まぁ! ステラ、来てくれたのね!」

「お母様! お久しぶりです。お疲れではありませんか? まさか産まれるときに此方に来られるとは思いませんでした」

「ふふ、ステラの顔を見たらすっかり元気よ!」

「お母様、お疲れ様です」

「さぁ、弟の顔を見てあげて」

「はい!」



 私はお父様が抱っこしていた、産まれたばかりの弟の顔を見た。

 ちっさくてとっても可愛い!

 まだどちらに似ているとも分からないけれど、私は会えたことに嬉しくて涙した。



「まぁ、お姉様は泣き虫ね」

「だって、産まれても当分は会えないと思っておりましたので、嬉しいの」

「ステラ、抱っこしてみるか?」

「良いのですか?」

「勿論だ」



 私は弟を抱っこした。

 本当にちっさくて、暖かい。

 可愛い。



「名前はお決めになられたのですか?」

「あぁ、名前はアルフレッドだ」

「アルフレッド⋯⋯お姉様よ。憶えていてね」

「ステラ、流石に憶えるのはまだ早いよ」

「分かってますわ。けど、そうそう会えないので、声だけでも憶えておいてほしいの」

「大丈夫だよ、私がステラの事をちゃんと話すから」

「お願いしますね、お兄様」



 私は飽きることなくアルフレッドの顔を眺めていた。

 だけど、産まれたばかりの赤ちゃんに負担をかけてはいけないから、そろそろお母様のお部屋を退室する。

 その前に私はお母様の側によって、手を握ったら「甘えん坊ね」と頭を撫でて貰った。

 私は「ゆっくり休んでくださいね」と伝えて、部屋を後にした。

 入れ違いで侍女達が中に入る。

 私は声を出さずに、お父様達がお母様の部屋を出るので、一緒に退室をし、ついていく。

 侯爵ももちろん側にいた。

 移動した先は、お母様の部屋から少し先の団欒の間だった。

 その部屋へ入り、侍女達がお茶の準備をして部屋を下がる。

 急かさず、侯爵が防音の魔法をかけ「殿下、もう大丈夫ですよ」と声をかけてくれた。



「侯爵、ありがとうございます。意識的に声を出さないのって緊張しますわ」

「はは! 見付からないようにこっそり動くのはわくわくするだろう?」

「確かに、少しわくわくしましたわ」

「ステラは意外にやんちゃだね」

「きっとお父様達に似たのですわ」



 私達はソファに座って少し話をした。



「ステラ、彼方でのステラの様子は聞いているが、毒を受けてから記憶を失くしていたそうだな」

「はい。ですが、精霊女王様のお陰で戻りました」

「女王に会ったのだな」

「お父様はお会いしたことがあるのですか?」

「いや、私はないよ。だが⋯⋯」

「私が一度お会いしたことあるんだよ」

「お兄様が?」

「そう、ステラが毒を受けた少し後ぐらいに⋯⋯」



 私は驚いた。

 私がお会いしてるくらいだから、家族の誰かは会ってると思ったのだけれど、お兄様が会っていたなんて⋯⋯。

 けど、お祖父様は瞳が強いのはお兄様と私と言っていたので、ちょっと納得もした。



「そこで、女王様にはステラは大丈夫だと、言われていたから安心したんだ。それだけでなく、シベリウスに移すようにも言われてね。此処にステラがいると危険だからと。何より彼方には血の繋がりのある伯母上もいらっしゃるからと、だからステラは今シベリウスで過ごしているというわけだよ」

「そのような経緯があったのですね」



 今日は驚きの連続だわ。

 伯母様がいらっしゃるからシベリウスに移ったものと思っていたし⋯⋯。



「さて、もっと話していたいのは山々だが、ステラはそろそろ離宮に戻らねばな。エリオット、帰りも頼む」

「畏まりました」

「ステラ、無理をしないようにね」

「はい、お父様とお兄様もお気をつけください」



 名残惜しいけれど、今はずっと此処にいるわけにいかないので、私はお父様達に抱擁を交わして、ベリセリウス侯爵について離宮へと戻った。


 離宮に付くと、侯爵と一緒にお祖父様達の元へ赴いた。



「エリオット、ご苦労だったな」

「いえ、無事にお子様と対面されましたので、ようございました。では、私は王宮へ戻ります」

「ベリセリウス侯爵、今日はありがとうございました」

「いえ、少しでも殿下が心健やかに過ごされますように」



 侯爵は微笑んで挨拶をして、王宮へと戻っていった。


 

ご覧いただき、ありがとうございます。

ブクマもとても嬉しいです!

次話もたのしんでいただければとおもいますので、よろしくお願い致します。

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