51 体力作りと問題発生
昼食は騎士団の食堂で皆と一緒に頂いた。
食堂の中にはクラースやエドガーもいて、同僚の皆と楽しく話しをしている。
私達が騎士団で授業を受けるときは、此処で訓練をしているようだ。
昼食を頂いた後は少し休憩を挟む。
食べて直ぐ動くと胃によくないしね。
休憩をお兄様の案内で騎士団の内部を歩いていく。
そうすると、中庭に出た。
騎士団の中にあるとは思えない素敵な庭があった。
曰く、殺伐としてると気が滅入るから、庭を造ったとのこと。
確かに此処に来なかったら、殺伐としすぎてて近寄りがたいかも⋯⋯。
お兄様と庭を散策してから訓練場へと戻る。
お昼からは剣術の訓練。
お兄様も私と同じくらいの年から訓練しているので、別内容となる。
お兄様から「頑張って」と激励をうけたので、私もお兄様に「頑張ってくださいね」とお互いに声を掛けあった。
今日から私と同じ新規の訓練生が数名いるようで、そちらの組となった。
先生はユーグとおっしゃるお養父様と同じくらいの年の方で、優しそうな人だった。
先ずは自己紹介から。
此処にいる皆とは初めて会うので挨拶は大切よね。
私達は先生の指示で円形になる。
新規訓練生は、私も合わせて五人。
「私はユーグ。今日から君たち訓練生の先生となる。よろしく。では私の右側から自己紹介をしていこう」
先生の指示で右側の人から挨拶をする。
「僕はルイ。年は十三歳。親はギルドで冒険者をしているけど、僕は騎士団で強くなってこの地を守りたいと思って志願しました。よろしくお願いします」
一人の挨拶が終わって拍手をする。
次の人が挨拶をする。
珍しく女の子だった。
「私はカリーナ。十二歳。父親がこの騎士団で働いています。私も父のように強くなって一緒に戦うのが目標です。よろしくお願いします」
「カリーナの父って⋯⋯、あぁリンデルか?」
「はい! そうです」
「なるほどな、だから昨日あんなこと言ってたのか」
カリーナが挨拶し終わったので、次は男の子だった。
「俺はラルフ。十三歳。誰よりも強くなって一番を目指す! だから女とかガキと一緒に訓練なんて嫌なんだけど。どうにかならないんすか?」
「無理だね。此処では男女差別はしない。実力主義だからね。だからラルフも女の子を軽視するような発言はしないように」
「マジかよ⋯⋯」
そんな風にボソッと呟いたけど、丸聞こえよ。
ふふふ、男女差別をするような者は実力で叩き落とすわ!
というか、あなたも子供よ。
空気が悪くなった中、私の挨拶の順となった。
「私はアリシアです。年は五歳ですが、皆様の足を引っ張らないように頑張ります。目標は領民を守れるほど力を付けたいと思います。皆様、よろしくお願いします」
私が挨拶をし終えると、カリーナが話しかけてきた。
「アリシア様! 初めまして。私、父からアリシア様の事を聞いてます! 既に賊を倒すほどの魔力操作に長けていらっしゃるとか! すごいです!」
「ありがとう。まだカリーナのお父様と面識は無いと思うのですが⋯⋯」
「父は、二週間程前、アリシア様が襲われたとき、駆けつけた騎士団の隊長をしてまして、それで父はアリシア様を知っているのです」
「そうでしたの。あの時は貴女のお父様に助けられました。お礼を伝えてほしいのだけど?」
「勿論です!」
パンパンとてを鳴らす音で私とカリーナは音を発した先生を振り返った。
「はい、話はそこまで。最後の一人の挨拶も聞こうか」
私たちはさっと最後の一人を見た。
「僕はヴィム。年は十二歳です。家は商家だけど、強くなりたくて、騎士団に志願しました。よろしくお願いします」
最後の一人の挨拶が終わり、拍手する。
「さて、基礎訓練が終わるまではこの面々で行う。因みに喧嘩や差別等は此処では禁止事項に値する。これに触れると強制退団だから覚えておくように!」
「「「はい!」」」
約一名、不安要素はいるけれど、相手にしなければいいよね。
「では早速始めるとしよう! 先ずは体力がどれだけあるか図る。暫くは体力作りだ。体力がなければ武器など到底操れないから気を引き締めて行うように!」
私達はユーグ先生の指示で結構長い距離を走る。
私は皆より年齢が五つ以上下だからそこは考慮される。
ちなみに、ユーグ先生は二年前のレオンお兄様の先生でもあったから、お兄様と比べるみたい。
各々の走れる距離を見たり、走り方を見たりしている。
カリーナやルイは親が親だけにしっかりと走り込んでいた。
ヴィムは普段自分で体力作りをしているようだが、無駄が多く、直ぐに息があがっていた。
私はというと、毎日クラースの体力作りの運動をしているので、五歳の年齢よりも多く体力はついていた。
やっぱり日々の積み重ねは大事ね。
「やはり突出して体力があるのは、カリーナとルイか。親からしごかれてるのか?」
「はい。毎朝父から訓練を受けてます」
「僕は父というより、父の冒険者仲間にしごかれてます」
「なるほどな」
二人の体力がずば抜けていた為、先生は確認する。
私にも質問が飛んできた。
「アリシア様は年齢の割に体力がありすぎると思うのですが、何をされているのです?」
「元々体力がなくて、クラースにお願いして毎朝体力作りをしています」
「あぁ、クラースが護衛に付いているのでしたね。彼の訓練は中々厳しいと思うのですが⋯⋯」
「そうでしょうか? 私に合わせて組んで頂いてるので、頑張っています」
「⋯⋯なるほど、流石はシベリウス家のお嬢様だ」
ユーグ先生がボソッとまた呟いた。
この光景、リュシアン先生の時に似ている気がする。
「ヴィムは自分で頑張っているようだが、ちょっと問題があるから、私が日々の体力作りの構成をしよう。ラルフはそれなりに体力はあるようだが、無駄が多いから直す箇所を書いて後で渡すから改善するように」
各々に課題と問題点を書き出し渡してくる。
ヴィムは素直に頷いているが、ラルフは反抗的だ。
どうしてそんなに反抗的なんだろうね?
年齢的に反抗期なのかな。
ラルフの事はほっといて、私達は先生の指示で只管体力作りに勤しむ。
先生の号令で今日の訓練が終了した。
流石に疲れたわ⋯⋯。
休息日を挟むので、各々に空いた時間にでも訓練をするよう指示を出し解散した。
私はレオンお兄様、エドガーとクラースの二人の護衛と合流し、邸へ戻った。
邸に戻ってから、私は先ず汗を流した。
その後、マリー達に軽くマッサージをして貰い、夕食まで軽く眠る。
その後夕食を頂き、お養父様達との団欒の一時、今日の出来事を話す。
流石にラルフの事をいうと、何するか分からないので秘密にしておいた。
部屋へ戻り、私は疲れからかそのまま寝てしまった。
気付いたらいつもの早朝だった。
たくさん寝たのでスッキリと目覚めたが、やはり若干足が痛い⋯⋯。
クラースより絶対ユーグ先生の方が厳しいわ。
そう思いつつ、クラースには休息日の早朝だけでも訓練に付き合って貰うようにお願いした。
だって、ラルフには負けられないもの!
用意をして、玄関ホールに向かうと、ラフな格好をしたクラースが待っていた。
「おはよう、クラース。休息日に無理を言ってごめんなさい」
「構いませんよ。無理ならちゃんと言いますから。それより、そんなにやる気の理由は教えて頂けるのですか?」
「裏庭に行ったら話すわ」
私たちはいつもの裏庭に行き、先ずは昨日の出来事を話す。
「あぁ、あの子供ですか。⋯⋯実はあいつは孤児で養父母に育てられているのですが、中々馴染めず、養父母もかなり苦労しているようです。なので、騎士団で鍛え直してほしいと、本人は強くなりたいと言っているので、まぁ此処で矯正出来ればと、受け入れたようで⋯⋯。ただその発言、閣下には伝えていないのですよね? ですがもうご存知かもしれませんよ」
「やっぱり知られているかな? 昨夜お養父様にはなにも話さなかったのだけど、クラースの言う通り知らないはず無いわよね⋯⋯」
「と、思いますが⋯⋯。お嬢様はそれが原因で頑張るのですか?」
「それだけという訳ではないけれど⋯⋯差別は良くないと思うの。子供なのは事実だけれど、だからといって言って良い事と悪い事はあるでしょう? だから、私が先に彼を叩きのめそうかと思って。知られたらレオンお兄様がやりそうだし⋯⋯」
「お嬢様の考えは分かりました。取りあえず、あの者より貴女様の訓練の参加する回数は半分です。なので、頑張りましょうか!」
「その前に聞きたい事とお願いがあるのだけど⋯⋯」
私はユーグ先生に言われた事が気になってクラースに質問した。
「ユーグ先生が、クラースの訓練は中々厳しいと言っていたのだけれど、昨日の訓練を実際受けて、ユーグ先生の方が厳しいと感じたのだけど⋯⋯クラースは加減をしてくれているの?」
「あー⋯⋯、ユーグの見た目に惑わされてはいけませんよ。あれは中々鬼畜です。それと、私の訓練ですが、お嬢様の今の体力に合わせてますので、厳しくしようと思ったら幾らでも出来ます」
「なるほど、分かったわ。で、お願いと言うのは、そろそろお嬢様じゃなくて名前で呼んで欲しいのだけど、ダメ?」
「駄目なことはありませんが⋯⋯」
「もしかして、一番最初、私の護衛を渋ったこと事が後ろめたいとか?」
「返す言葉もありません」
クラースは気まずいというような表情で視線を逸らした。
「気にしなくていいのに⋯⋯結局クラースが何故護衛を嫌だったのか、分からずじまいで一ヶ月終わってしまったものね」
「決して嫌とかではないのです。それはまた後日でもよろしいですか?」
「話したくないなら話さなくても大丈夫ですよ。名前の件はどう?」
「では、これからはアリシア様と呼ばせていただきますね」
「ありがとう! 改めてよろしくお願いしますね」
私はクラースとの距離が一方近づいた感じがして嬉しかった。
だけど、クラースの言う通り、今までの体力作りは手加減していたようで、今日は中々厳しかった⋯⋯。
だけど、弱音を吐いては居られないから頑張るのみよ!
クラースの鬼のような訓練の後、部屋へ戻り汗を流す。
その後皆で朝食を頂いたけど、私はちょっとくたくたで寝てしまったみたい。
昼食が近くて、起こされた。
珍しく本も読まず寝ていたのでモニカ達に心配された。
流石に寝すぎなので、昼食を頂いた後は、座学の復習と予習をする。
語学は新しく魔国の言葉を習うので、少し予習をしておきたかったので、図書室に赴いたら先客がいた。
お養父様と此処で合うのは初めてかも⋯⋯、もしかして私に話があるのかな。
「ごきげんよう、お養父様」
「ごきげんよう、シア。待っていたよ」
やっぱり待ち構えられていたみたい。
きっと昨日の件よね。
やっぱり黙ってるのは良くなかったかしら⋯⋯。
「シアは休息日に此処にいることが多いようだね」
「はい。出来るときに予習と復習をしておきたいのです」
「相変わらず勉強熱心だ。少しはレオンを見習って手を抜いても良いんだよ」
「適度に遊んでますよ? アレクと⋯⋯」
「ならいいが⋯⋯。私が此処にいる理由が分かってるようだね」
「先日の訓練場での事でしょうか?」
「そうだ。ラルフという子供が差別発言をしただろう? 女や子供と訓練したくないと。何故私に話さなかった?」
やっぱりご存じで若干怒っている⋯⋯。
ちょっと怖いけど、怯むわけにもいかない。
「報告しなかったことに関しては申し訳ありません。ですが、同じ訓練を受ける者としては、実力を持って見返した方が、相手も考えを改めるのではないかと⋯⋯。お養父様にお話しすると、領主の娘が告げ口した感じがしてしまい、それにユーグ先生から報告がされていると思っていましたので、それで伝えませんでした」
「シアの考えは分かった。勿論講師を勤めてるユーグからの報告もあるが、実際あの場にいて、言われたシアやカリーナの気持ちを知っておくのも大事なんだよ。問題がありすぎると、生い立ちを知っているとは言え、優遇するわけにはいかない。それは言い訳にならない。規律を守るのはどこにいようと同じだ。孤児は関係ない」
お養父様の言葉は尤もなので、何も言えない。
「カリーナにも話を聞いたのですか?」
「勿論聞いたよ。彼女はシアと同じ考えで、叩きのめします! と息巻いていたな」
やっぱり、彼女は私と同じ考えをしていたよう。
何となくそんな感じがした。
「全く、うちの領の女性は強いな。それでこそこの地に住む者達だ」
「お養父様はラルフの事はどうされるおつもりですか?」
「まだ始まったばかりだから様子を見るよ。だが、度が過ぎると即刻騎士団からは排除だ」
考えが変わると良いけれど、直ぐには無理そうよね。
どうなることか⋯⋯。
「さて、シアの勉強の邪魔をしてもいけないし、私はそろそろ行くよ。だが、少しは息抜きも覚えなさい」
「はい、お養父様。程々にしておきます」
お養父様は私の頭を撫でると図書室を後にした。
私は早速、本を探して数冊借りて部屋へ戻った。
図書室で読むのもいいけれど、部屋で読むよりも集中してしまうのが理由。
部屋へ戻り早速魔国語の基礎から読んでみる。
ヴァレニウス語より難解⋯⋯。
流石、語学の中でも難しいとされているだけある。
そうして暫くは読み続けるが、珍しく集中力が切れたため、モニカにお茶を頼もうとすると、お養母様が呼んでいるとの事で、お養母様のところに向かう。
そこには、お養父様とお養母様、レオンお兄様も揃っていた。
アレクはお養母様の腕の中で寝ている。
「皆様ごきげんよう。お養母様、お呼びと伺いましたが⋯⋯」
「ごきげんよう。一緒にお茶でもどうかと思って。頑張ってるシアにご褒美よ」
そう言うと、とても可愛らしいケーキやマカロン等色んなスイーツが出てきた。
わぁ、美味しそう!
そして見た目も可愛い!
先程まで頭を使っていたので、甘いものは素直に嬉しい。
「好きなだけ食べなさい」
「ありがとうございます!」
どれも美味しそう。
何から食べようかしら。
「シアはほんと甘いもの好きだよね」
「頭を使った後は甘いものに限ります! 糖分は必要なんですよ」
「何の勉強をしてたの?」
「魔国の言語です。予習をしておこうと思いまして、読んでいたんですけど、難しくて⋯⋯」
先ずはケーキを頂きましょう。
今日は桃が沢山乗った甘さ控えめのケーキ。
一口パクリ⋯⋯。
わぁ! 桃が甘くて瑞々しくて美味しい!
「美味しいです!」
「甘いものを食べてる姿は可愛いな」
「ふふ、本当にね」
「小動物みたい」
言いたい放題⋯⋯。
ほんとにこれだけで呼ばれたのかな?
何かあるのでしょうか?
「貴女の息抜きの為に呼んだのよ」
「顔に出ていましたか?」
「出てないけど、そう考えているかなと思ったのだけど、図星だったみたいね」
「シアは手を抜けと言っても抜けなさそうだから、強制的に呼び出したというわけだ」
「シア、たまには兄妹水入らずで話をしようよ」
私そんなに勉強ばかりでしょうか?
普通の本も読むし、この間はお菓子の本も読んでいたし⋯⋯って、私本ばかり読んでる。
確かに息抜きしてないと思われるかも⋯⋯。
「それにしても、あのラルフとかいう奴、可愛いシアに暴言をはいたなんて!」
「私にっていうわけでもないんだけれど⋯⋯」
「あの言葉はうちの女性陣が聞いたらまず間違いなく言葉でやられるだろうね」
「レオンお兄様、私が何か言われたとしても何もしないで下さいね」
「⋯⋯約束は出来ないけど善処するよ」
何もしなければ良いのだけれど⋯⋯。
それにしても、このマカロン美味しい!
私はこの美味しいお菓子を堪能した。
ご覧いただき、ありがとうございます。
次話も楽しんでいただければと思いますので、よろしくお願い致します。





