49 授業の再開と王家の秘密
今日から本格的に授業が再開する。
私は楽しみな気持ちと緊張で早くに目が覚めてしまった。
折角早くに目が覚めたので授業再開と同じく朝の運動も再開した。
体力も大分付いたので、内容も随分と変わった。
朝の運動を行い、朝食を頂いた後に授業に向かう。
先生と会うのも久しぶりで、挨拶をする。
今日は以前の復習と出されていた課題を提出し、その場で見て貰い、課題の出来で授業が進められた。
予習も復習もしていたので、授業が全然分からない、ということ無くついていけた。
というか、若干内容が難しくなっているような気がするけど⋯⋯気のせいかな?
午前中の授業が終わり、部屋へ戻り昼食をいただいた後、休憩をしてから午後のお養母様の授業へ向かう。
今日のお養母様の授業は“王女”としての心構えや立ち回り等を重点的にするようなので、侍女もモニカとお養母様の、王宮から付いてきているエイラのみ。
授業ともなると、お養母様は中々に厳しかった。
だけど、厳しい方がきちんと覚えられるし、私の為に行ってくれているので期待に応えようと頑張れる。
それに、シベリウス辺境領にいると、王宮とは違い、やはり所作や佇まいもあまり王宮にいる時と同じでは怪しまれかねない。
だからと言って王宮に戻ったときにきちんと出来なければ、侮られる。
彼処は色んな意味での魔の巣窟だからね。
なので、私もお養母様の授業はきちんと聞くし私自身の為とお父様達が悪く言われない為に頑張れる。
今日の授業の終わりには、次回までに今日習った事の簡単なテストをするということで、課題と復習をするよう言われ今日の授業が終わった。
このような感じで一日が終わる。
次の日も同じように授業を受けるが、その翌日の帝王学だけは流石に此方では無理なので、その時間だけ離宮のお祖父様に習う事となった。
何故私も習うかというと、これでも王位継承権を持っているからだ。
もし、お兄様に何かあった時の為、そしてこれは継承権がなくても王家の直系の者達は全員習うらしい。
これもお養母様にある程度は習うことはできるけれど、アレクの事もあるし、何よりもお養母様には継承権が無かったので知らない事も多く、全部を教えることができないみたいなのでお祖父に教えて頂くことになった。
帝王学を習う日のお昼過ぎ、私は邸で授業を受けているという体になっているので、モニカだけを伴って転移陣の部屋へ赴く。
部屋にはいると、私の迎えにクレーメンスが待機していた。
彼はお祖父様の側近の一人だ。
「お迎えに上がりました。アリシア様」
「ありがとう、クレーメンス。彼方までよろしくお願いしますね」
「はい。では、早速参りましょう」
私達は離宮に転移した。
やっぱり此処では魔道具を外すみたい。
やはり元の色の方が身が引き締まり、お養母様に習った事の復習にもなる。
クレーメンスの案内でお祖父様のいらっしゃるお部屋へ向かう。
部屋へ入ると、お祖父様が待っていて、私はカーテシーをもって挨拶をした。
「ごきげんよう、お祖父様。この度私に帝王学をご教授頂けるとの事、よろしくお願い致します」
「ごきげんよう、ステラ。無論城の連中が教えるわけにはいかんからな。私が適任だろう」
そう、にこやかに仰った。
というか、お祖父様の事だから譲らなかったのかもしれない。
「先ずは座れ」
「はい。失礼致します」
私はお祖父様の勧めで席に座る。
クレーメンスはお祖父様の後ろに控えた。
「報告は受けているが、精霊界に招かれたそうだな」
「はい。そこで精霊女王のアウローラ様にお会いしました」
「ふむ、ステラが見違える程安定しているので安心した。安定したのは女王のお陰だとか?」
「はい、その通りです。女王様のお力添えで、この五年間の記憶が戻りました。それで、私もようやく自分を取り戻した、という感じです」
「なるほどな」
「お祖父様はあまり驚いていないご様子ですが⋯⋯」
報告を受けていたというのもあるだろうけど、全く驚いた様子もなく、普通だった。
何か知っているのでしょうか。
「まぁな、ステラなら精霊界へ招かれるだろうと、思ってたからだ。精霊が見えているだろ? ちなみに私も見えている」
「お祖父様も見えてらっしゃるんですか?」
「あぁ、お前の父もヴィンスも見えている。だが、一番強いのはステラだな」
「そうなのですか?」
「無自覚とは恐ろしいな⋯⋯」
お祖父様は何事か呟いたけれど、私のところまでは届かず⋯⋯、「なんでもない」と言い、真面目な様子で話し始めた。
「そろそろ授業に入ろうか。まずは、グランフェルト王家についてだ」
歴史で習ったのとは違う、王家に伝わる話。
王家の成り立ちと初代王の事。
先ず、歴史で伝えられている通り、まだ国でなかった頃、この地も瘴気で覆われていた。
この地の住民の一人、エドヴァルド、後の初代王が多くの仲間達と共に立ち向かった。
エドヴァルドにはオリヴェルとエウレニウスの二人の家族がいた。
家族と言っても血の繋がりはなく、兄弟の契りを交わしたお互いの命を預ける、家族よりも深い関係だった。
この二人が後の双璧と言われるシベリウス辺境伯とセイデリア辺境伯となる。
歴史で習った通りほぼ事実なのだけれど、違う点と言うと、精霊が関わっているところ。
エドヴァルドが精霊界に招かれたのは事実。
だけだ、同じくオリヴェルとエウレニウスも招かれていた。
精霊界の問題を解決したのは、この三人。
何故エドヴァルドだけというのを一般的な歴史としたかは、政治的理由。
後、この三人に共通していたのは、三人共が“記憶”を持っていた。
各々違う世界の“記憶”があり、その“記憶”の知識で精霊界の瘴気を払った。
時の精霊王から与えられた恩賞の一つ、エドヴァルドには精霊王から見通す瞳と愛し子としての祝福を⋯⋯。
オリヴェルとエウレニウスには性質の違う精霊達からの祝福を頂いている。
エドヴァルドに関しては、恩賞の一つ、見通す目を頂いた時に、目の色が純青色に変わったとされる。
この目が王家の色と言われる所以。
普段は青に見える瞳も、光の加減や本人の感情の動きで紫に変わる。
こういった事から、この国では紫は高貴な色とし、王家の者しか纏うことは許されていない。
この瞳には他にも秘密があるようだけれど、それはまたの機会にと言われたので今は気にしない。
そして祝福に関しては、三人が貰ったとなれば、他の者達も貰えるだろうと人の欲が動くと思い、精霊王からの祝福を頂いたエドヴァルドのみが精霊の恩恵を預かった事にした。
三人が行き、その内一人だけだと、他のものでは無理なのだなという諦めの思いを抱くからだ。
これが精霊に関しての王家で伝えられていること。
シベリウスとセイデリアでは、この件は当主のみに伝えられている。
「これが王家と、シベリウス、セイデリアの共通の秘密だな」
あれ?
クレーメンスとモニカも聞いていたけれど、それは良いの?
「ステラ、クレーメンスとモニカは王家に忠誠を誓っているから問題ない」
「そうなのですか?」
「あぁ、二人は二人の意思で絶対的な忠誠の儀式を済ませてあるからな。モニカはステラの為なら命を投げ出せる。オリーにエイラがついているようにな。これは各々の意思だからステラに何かをいう権利はないぞ」
「はい⋯⋯」
私は王家の者として、色んな人の命を背負う位置にいるのだと改めて思った。
「さて、少し休憩をしようか。お茶を頼む」
「畏まりました」
モニカは直ぐにお茶の準備をする。
今日はカモミールティーとマカロンが用意された。
淹れたてのお茶は美味しく、落ち着く。
「ステラよ、アルノルドにお菓子を作ってやるそうだな」
「何故お祖父様がご存じなのですか? この間伯母様とお話をしたばかりですのに⋯⋯」
「はは! お祖父様の情報力を甘く見るなよ。というか、何故あいつに菓子なんぞ作るんだ?」
「私だけで作るわけではありませんわ。伯母様主導で進めるので、私は提案をしただけです。それに、お菓子とは別に伯父様にはお世話になってるので、何か贈り物を考えているのですが⋯⋯」
「ステラは優しいな」
「優しさというより、これから暫くお世話になるのですし、お礼はしたいのです」
「アンセのヤツが聞いたら怒り狂うだろう、間違いなく」
「お父様には内緒にしてくださいませ」
「無理だと思うぞ」
「きちんとお父様のお誕生日にも贈り物は考えていますよ? けど、その前に赤ちゃんが生まれるでしょう?」
「確かに、そろそろだろうな。孫が増えるのは嬉しいな」
お祖父様のお顔が緩んだ。
そろそろだけど、弟か妹か、本当に楽しみ!
だけど、私はいつ会えるかな⋯⋯。
本当は産まれて直ぐ会いたいのだけれど、難しいと思う。
会うには王宮へ行かなければならないから⋯⋯。
「そろそろ再開するか。授業せずに話ばかりしていると、アクシィに怒られる」
「お祖父様はお祖母様に弱いのですか?」
「あれは怒ると怖いぞ⋯⋯ここだけの秘密だ」
「ふふ、分かりましたわ」
お祖父様と笑いあってから、授業を再開した。
「先程までは歴史だったが、今から伝えるのは王家の色の事だ。これも他の貴族達は知らぬことだが、王家の色は“純青色”とされている。だが、この瞳もただの“青”なのか、それとも、“純青色”なのかの違いがある。気付いていたか?」
「いえ、そこまで気付いていませんでした」
「そんなに落ち込むことはない。普段はほぼ青にしか見えないし、紫に見えることは少ないからな。今“純青色”と言える瞳を持つ者は、私とアンセ、ヴィンスとステラの四人だ」
「伯母様やレオンお兄様は普通の“青”なのですか?」
「そうだ。私達四人の中でも一番濃いのはステラだ、その次はヴィンス、私でアンセだ。この瞳を持つ者が王位継承権をもつに値する」
「普段青にしか見えないと言うことですが、何時判断されるのですか?」
「赤子の時だな。自分の意思でどうにも出来ないからな。直ぐ分かる」
「確かに、五年間の記憶を見た時、産まれたばかりの頃は紫色でしたね」
「他人事のように言うがな、あそこまで濃く綺麗な紫を見るのは初めてだ。ヴィンスの時も驚きはしたが、それ以上だったからな」
「私にはよく分かりません」
「まぁ、そうだろうな。ステラはまだ私やアンセ、ヴィンスの紫を見ていないからな。分からないだろう。普段は見ても光の加減で少し紫ががって見える程度だからな」
「そうですね、確かにお祖父様の瞳は光の加減で少し紫に見えます」
「少し待て⋯⋯」
お祖父様はそう言うと目を閉じた。
が、目を開けると先程までの光の加減で見えていた紫が、表に出て、逆に青が薄く見える。
これが王家の色。
「とても綺麗です! お祖父様!」
「ありがとう。だが、この色よりお前達は濃いぞ」
「自分自身の事は分かりませんわ」
「確かにな」
そう言うと元の色に戻っていた。
すごい⋯⋯。
「自身で色を変えられるのですか?」
「青が紫に見えるのは、先程も言ったが、光の加減や感情の起伏でかわる。今瞳の色を紫に出来たのは、ステラに見せてやりたいという私の想いだ」
「そうだったのですね。お祖父様、ありがとうございます」
「いや、実際見ておいた方がいいからな。次産まれてくる子が色を持ってるとも限らん。だが、ステラよ、よく覚えておきなさい。お前達なら大丈夫だろうが、色を持っていようがいまいが、お前達の弟、もしくは妹は家族だ。護ってやりなさい」
「勿論です。大事な家族は護りますわ」
「その言葉、忘れるなよ。⋯⋯さて、そろそろ今日は終わりにしようか。あまり遅くなるとあっちが心配するだろう」
「お祖父様、ご教授ありがとうございます。またよろしくお願い致します」
今日の授業が終わり、私とモニカはクレーメンスに送ってもらい、辺境領に戻った。
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