42 事後の報告
執務室には閣下、夫人、レオナルド様とアルヴァー殿が集まっていた。
「クラース、報告を」
「はっ!」
閣下に問われ、私は今回の襲撃された詳細を報告した。
後はお嬢様を場に出してしまった事、自ら攻撃させてしまった事合わせて謝罪する。
静かに聞いていた皆様方は、聞き終わるとそれぞれ言葉を発した。
「シアが人質を捕っていた男を倒したのか?」
「はい。氷の矢を放っておられました。きちんと発動しており、尚且つ追尾もしていましたので、目を見張りました。見事というしかありません」
「はぁ。あの子が才能があるのは分かってはいたが、土壇場でそこまでの事が出来るなんてな。恐れ入る」
閣下はお嬢様の才能を褒めたいがあの年で人を傷つけた事へ、お嬢様のことを思ってか複雑な表情だ。
「アル、あの子が起きたら勿論領民を守ったことは誉めますが、立場的には注意も必要ですよ」
「そうだな」
「オリー、シアの様子はどうだ?」
「魔力暴走を抑えた反動と気力を使い果たしたので、眠りが深いわ。⋯⋯よく見ておいた方がいいわね」
「そうか」
その言葉を聞いて、私達は安堵した⋯⋯が、閣下達はまだ厳しい顔をしていた。
何かあるのだろうか?
ただ、私にはもう一つ心配なことがある。
あの時、お嬢様は怒りであの者を攻撃したが、あれが初めて人を傷付けたことになる。
しかもたったの五歳で⋯⋯。
目覚めた時にその事に対しての心に傷を負っていないか、精神的な面での心配りが大事になってくる。
それも、お嬢様が目覚めないと何とも言えないが⋯⋯。
「閣下⋯⋯」
「クラース、シアの事でそれ以上の謝罪はなしだ。お前もモニカも魔法の適正がそれ程ない上、相手は平気で子供を殺す事も出来た。なら対処ができるなら咄嗟のシアの判断は正しい。そのままお前達のどちらかが動いたら、その子供は死んでいただろう。だからと言って、シアの行動を是とするのはまた違う話だから目が覚めたら説教はする」
それもこれもお嬢様を思っての事。
「シアは大丈夫かな⋯⋯」
レオナルド様は心配の声を出した。
「五歳で初めて人を攻撃して⋯⋯シアの心が心配」
「そうだな⋯⋯。目覚めないことにはどの程度か分からないからな」
「⋯⋯その点はこの子なら大丈夫だと思うけれどね」
夫人が何か呟いたけれど、私の所までは聞こえなかった。
と、その時ノックが響いた。
「閣下、リンデルです。ご報告に参りました」
「入れ」
「はっ! 失礼します」
隊長が報告にやってきた。
あらかた街の喧騒は戻ったのだろう。
「報告を頼む」
「はっ! 捕らえた者共は全部で七名。他仲間がいないか現在奴らを尋問中です。街はギルドが中心となって、騎士団と共に見回りを強化しております。今の所は問題ないようです。後、人質にとられていた少女の名前はアン。親はギルド内で働いているようで、母親のみです。父親はおりません。すでに目覚めておりますが、精神状態を確認する為、母親と一緒に騎士団で預かっており、側には女性騎士を付けております。話を聞いた母親が、お嬢様にお礼を言いたいとの事でしたが、お身体に負担が掛かった為、お休み中だと伝えています。今の所は以上です」
「ご苦労。オリー、悪いが親子に話をしてきてくれないか? 後の判断は任せるよ」
「勿論よ。その子は大の男だと怖いでしょうしね。リンデル案内を」
「はっ!」
夫人はリンデル隊長を共にって騎士団へ赴いた。
こちらはというと⋯⋯。
「レオン、邸を任せるよ。私は領館へ行ってくる。何かあれば直ぐ知らせるように。アルヴァー、レオンの補佐を。クラースは悪いが引き続きシアの護衛を頼む」
「父上、こちらは任せてください」
「「畏まりました」」
レオナルド様とアルヴァーは閣下を見送るため玄関ホールへ。私はそのままお嬢様の部屋の前に付いた。
丁度そこへモニカ殿が部屋から出てきた。
「モニカ殿、お嬢様の様子は?」
「少し呼吸が浅いですが⋯⋯今は深く眠っておられます」
「そうか⋯⋯」
「旦那様は何か仰っておりましたか?」
「いや⋯⋯私達には何もなかった。お嬢様の手を出させてしまった事にはな。情けない話だ⋯⋯」
本当に、護衛としてはまだ子供の嬢様に手を出させたことに対しては、情けなさすぎる。
いくら魔力操作の訓練をしているからとは言え⋯⋯。
「二人共、暗い顔しすぎだよ? シアが目覚めた時にそんな顔は見せないでね」
「レオナルド様⋯⋯申し訳ありません」
「モニカ、シアの顔見に来たんだけどいいかな?」
「勿論です。どうぞ」
レオナルド様はお嬢様の部屋へ入って行った。
可愛い妹君が気を失ったというのに、レオナルド様も何も言わないのだな⋯⋯。
少しして部屋から出てきた。
「僕は居間にいるから、シアが目覚めたら呼びに来て」
「畏まりました」
レオナルド様はお嬢様のお顔を見ただけで直ぐに出てきたようだった。
此処から去る時、部屋を一度振り返ったが、何も言わずにその場を後にした。
私は⋯⋯護衛しか出来ない。
今は職務を全うするだけ。
夕刻、閣下達がお戻りになられたようだ。
戻られた足で、お嬢様のお部屋へ来られた。
「異常はないか?」
「はい。何もございません」
閣下達は部屋へと入って行った。
そう、あれから結構時間が経つがまだお目覚めにならない。
相当お身体に負担が掛かったのだろうか⋯⋯。
暫くして部屋から出てきた皆様の表情は少し固かった。
何かあったのだろうか⋯⋯。
その後、マリー殿が部屋から出てきたので、少ししてから訪ねてみた。
「閣下達の表情が固かったが、何かあったのか?」
「いえ⋯⋯お嬢様の眠りが深すぎることくらいです。深すぎて、すぐには目覚めないかもしれないと⋯⋯」
「それは⋯⋯! 危険ではないのか!?」
「旦那様は、命の危険はないとは仰っておりましたが、心配です」
「そうか⋯⋯足を止めて悪かった。教えてくれてありがとう」
「いえ⋯⋯」
マリー殿が部屋を出てから暫くすると、騎士団にいるはずの同僚のダリオがやってきた。
「お疲れ。交代だ。休んでこい」
「は? いえ、まだ大丈夫です」
「お嬢様がお目覚めになるまでは念のために部屋の前で護衛することになっている。どれ程でお目覚めになるか分からないから今の内に少し休んでこい」
「⋯⋯あぁ、分かった。後を頼む」
後をダリオに任せて、与えられた部屋へ戻る。
お嬢様の事は心配だが、休まなければ動けるものも動けない。
身体的な疲れはないが、流石に精神的に疲れたな⋯⋯ダリオの言う通り少し寝よう⋯⋯。
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