28 離宮
私はランヴァルドに抱えられながら、お祖父様とお祖母様がいらっしゃる中庭へと向かっていた。
魔道具が外されてからと言うもの、何か体の中がざわざわとした不思議な、落ち着かない感覚がある。
解放感はあるのだけれど、なんとも表現が難しいけれど、こう体の中がうごめいてるというかなんというか⋯⋯。
考え事をしていると、いつの間にか中庭に着いていた。
そして、私はランヴァルドに下ろしてもらい、お祖父様とお祖母様のいらっしゃる所までは自分で歩いて行った。
「ステラ、よく来たな。 元気そうで何よりだ」
「よく顔を見せて?」
「お祖父様、お祖母様、お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
前国王であるイェルハルド・エドヴァルド・グランフェルトと前王妃のアクセリナ・グランフェルト。
私はお祖父様達にカーテシーで応えた。
「ふむ。顔色も良く、体力も戻ってるみたいだな⋯⋯」
「少し背が伸びたかしら? 後でお着替えしましょうね。さぁ、此処に座って!」
お祖母様に促されて座った。
手際よく離宮の侍女達がお茶の準備をし、場を下がる。
「ヴァルドもご苦労だったな」
「はっ! では、失礼します」
ランヴァルドはそのまま中庭を後にした。
「お祖父様、お祖母様。この度、此方にも襲撃が合ったと聞き、心配いたしました。それから、申し訳ございません」
「ステラが謝るようなことじゃないだろう。可愛い孫に手を出そうとする輩が悪い! 今回の襲撃も遠慮無く排除したぞ!」
「流石です、お祖父様。ありがとうございます」
「アンセったら何故此処じゃなくて辺境領にステラを送ったのかしら⋯⋯」
「オリー伯母様達には良くしていただいておりますので、大丈夫ですよ」
「それだけじゃないのよ」
他に何かあるのかしら?
「ステラ、少し真面目な話をするぞ」
「はい」
「まず、ステラが狙われた原因だが、分かっているという確信まではいかずともほぼこれだろうなと当たりはつけている」
「そうなのですか?」
私は衝撃を受けた。
お祖父様が知っていて、お父様が知らないと言うことかしら?
「ステラ、考えるのは後だ」
「⋯⋯っ! はい。申し訳ありません」
「続きを話すぞ。原因はステラの魔力量の多さに因るものだ。それはヴィンスをも上回る位だ。ヴィンスも相当な魔力量だが、更にそれを上回るからな。それが主な原因だ。魔力と言うのは色んな使い方がある。自身で使うのが当たり前だが、禁忌とされる魔法の中には相手の魔力を奪うことが出来る物もある。それゆえ、魔力の多いステラを捕らえ、我が物として魔力を奪うつもりであったのだろう。まぁ当の黒幕は依然として捕まっていないから本当の目的は解らんがな」
「素朴な疑問なのですが、何故ヴィンスお兄様は狙われなかったのですか?」
「いや、狙われておったぞ。だが、ヴィンスの場合は第一子と言うこともあり、厳重に守られていたし、何より本人の魔力操作と察知能力と器用さが凄まじくてな、尽く見破って敵の罠を砕いておるからな。あれも規格外だ」
「なるほど、お兄様はご自分で撃破なさっていたのですね。流石です」
「⋯⋯いや、ステラ。ヴィンスを感心しているが、お前も中々の規格外だからな」
お祖父様は呆れたように仰ったけど、私はよく分からず首を傾げた。
「私の場合はその魔力の多さと記憶を持っている事ぐらいではないでしょうか?」
「簡単に言うがな、ステラよ。そもそも、五歳の子供は勉強していたとしても、そこまで賢しくはないぞ。アンセなんぞ、比べ物にならんくらい子供だったからな」
私は何て言って言いか分からず、曖昧な笑みを浮かべた。
「お祖父様、質問してもよろしいでしょうか?」
「いいぞ?」
「何故、ヴァルドに私の腕輪を外させたのですか? あれには魔力を押さえる魔石も嵌めてあると伺っていたのですが⋯⋯」
「孫に会うのに偽りの姿で会いたくはない、というのが本音だ。ステラは分かってるのではないか?」
「予想はできても確信はありません」
「よい、言ってみろ」
「この離宮に“王女がいる”と言うことを印象付けるためでしょうか? 魔力を解放すれば、魔力操作に長けていない者の魔力を察知することが出来ると聞きました。後は私が辺境領で憂い無く住めるように?」
「ほぼ正解だな。私としては此処でステラと過ごしたいのだがな。聡いステラに隠し事をして暮らさせるなんてな! 後、憂いのある暮らしはさせたくはない。だから腕輪を外して本来の魔力を解放させた。ステラが言うように察知能力のある奴ならその能力を使って此処にいるのが分かるだろう」
「お父様や伯父様には何か思惑があったのではないでしょうか?」
お祖父様は「そんなものあるか」と言っているけれど、何もないとは思えない。
どちらも“優しさ”なのだと思うのだけれど。
それよりずっと続いている今はこのざわざわする感じをどうにかしたい。
「あの、お祖父様。腕輪を外してから、ずっと身体がざわざわするのですけれど⋯⋯これって何なのでしょう?」
「それは魔力の流れだな。暫く腕輪で塞き止めていたのを外したからな。暴走とは違うが、魔力量が多く制御できていない魔力が暴れている」
「えっ! それって危険なのでは!?」
大丈夫じゃないよね?
どうすればいいの!?
「ステラ、深呼吸!」
「はい!」
私は言われた通りに深呼吸をした。
数回すると、落ち着いてきて、魔力の流れ? が何となく、分かるようになってきた。
身体を巡ってる感じがする。
何となく目を閉じて深い呼吸をする。
そうすると、自分の中の魔力の流れが見えてきた。
その大きな水脈のようであり、ただ流れるのは激流のように力強い。
――これが魔力で、私の力⋯⋯
その流れが私の中を駆け巡る。
これはきちんと制御しないと大変なことになるわ。
私は閉じていた目を開いた。
そうすると今まで見えていなかった、お祖父様達の魔力が見えた。
驚いて目を見開いたら、私に何が起こったのかを察知してくれた。
「魔力の流れが見えるようになったのだな」
「はい、お祖父様。これは凄いですね、お祖父様の魔力もとても大きいです」
「はははっ! ステラには負けるがな」
お祖父様は笑いがらそう言ったのだけれど、謙遜も甚だしい。
絶対嘘だわ⋯⋯。
「お祖父様、私、早々に魔力操作を覚えないといけませんね。きちんと学びたいです」
「あぁ、学ばねばならん。先程、私は“ほぼ正解”と言ったが、後は魔力操作の事だよ。ステラが辺境領に戻るのは魔力を押さえた状態ではなく、“今”の状態で操作を覚えた後だな。でなければ、押さえた状態で学んだとしても、いざ抑えを取った時に扱いきれず、暴走するだろうな」
それは怖い!
辺境領の皆はきっと心配しているだろうけど、これだけは覚えなきゃ!
辺境領では出来ないことだから⋯⋯。
「さて、本格的に学ぶのは明日からにして、今日は魔道具なしで暴走させずにいれるようにしなさい。暴走させたらその辺吹き飛ぶぞ」
「ステラなら大丈夫でしょう。イルが“深呼吸”とだけ言ったのに、魔力の流れや人の魔力の大きさまで見れるようになるのだから」
えっ!? お祖父様も中々にスパルタだわ!
そしてお祖母様も助けてくれない⋯⋯。
というか、これ暴走したらこの辺吹き飛ぶの!?
気を引き締めなきゃ!
「頑張ります! よろしくお願い致します」
この後、お祖母様が言っていた通り、この状態で着せ替え人形になった事は言うまでもない⋯⋯。
中々の苦行である。
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