27 行ってきます
あれからは何事もなく、平和な日常が過ぎていった。
ほんとに、肩透かしを食らうくらい何もない。
とても良いことなんだけれどね。
お兄様が入学する日には辺境領でも当人がいない中でお祝いをした。
お兄様、頑張ってください、という意味を込めて。
その翌日、今日も朝から授業を受けて勉強をし、その日の昼食が終わったのを見計らったかのようにでイクセル様がやってきたので、応接間へ移動した。
「今日はどうしたの?」
「レオナルド様、アリシア様。閣下が後二日で此方に戻られますので、お伝えしに参りました」
「ほんとですか!」
「昨日兄上が入学したばかりでもう戻ってくるなんて。思ったより早いね」
「お養父様達が戻られるのが楽しみです」
私達はお養父様達が戻られる事に安堵感を感じていた。
イクセル様は私達に伝え終わった後、早々に領主館に戻っていった。
私とお兄様は団欒の間に移動して、午後のお茶を楽しんでお話をしていた。
その時、廊下がとても騒々しくなりクラースとエドガー、侍女達が私達を守るように立ちはだかる。
レオンお兄様も私を守るように前に出た。
騒々しさは段々と此方に向かってきたかと思うと⋯⋯、バンッ! という、大きな音と共にそれはもう勢いよく扉が開いた。
壊れそうな勢いだったのだけど、扉は無事みたいよ。
扉を勢いよく開いた人が入ってきた。
私はその人物を見て驚いた。
「アリシア様! 見つけましたぞ!」
一瞬ドキッとしたけれど、私は今の名前で呼ばれた事にほっとした。
此処にいる者達の中には私がエステルだと知らない者もいるからだ。
「さぁ、お祖父様がお待ちですので行きましょう!!」
勢いが良すぎるし行き成りすぎる!
「ヴァルド、急に来てその様に乱暴に扉を開けるなんて、皆様驚いているでしょう。礼に欠けていますよ」
私は一応苦言を呈した。
全く聞かないと思うのだけどね。
案の定⋯⋯。
「アリシア様を迎えに行くよう、我が主からの命令ゆえ」
お祖父様の命令とはいえ、もっと穏便に迎えに来ればいいのに⋯⋯ランヴァルドって、脳筋だわ。
「それで、私を迎えに来たと言うことですけど、どう言うことですか?」
「一度お連れするように、との事だけです」
「私、此処に帰ってこられますか?」
「主次第です」
それって、私の行動と言動次第と言うことですね。
だけど、一度はお礼を言いに行かないと、と思っていたのは事実で⋯⋯。
本当ならお養父様達が、戻られてからきちんと伝えて行きたいのは山々だけど、主一筋のランヴァルドが来た時点でそれも無理だと思われる。
きっと、と言うか絶対無理矢理連れていかれるのは目に見えている。
仕方ないわね。
「レオンお兄様。お養父様達が戻られたら、私がランヴァルドの迎えでお祖父様の所へ行ったと伝えてください」
「お祖父様の所に行っちゃうの!?」
「私が行かないと収拾がつかないので⋯⋯けど、ちゃんと戻ってきます」
お兄様に諦めたように笑ってランヴァルドの所へ行くと、片腕に抱き上げられた。
「クラースとマリーとミアは此処でお留守番です。モニカは付いてきて。アルヴァー、申し訳ないのだけれど、暫く家庭教師の方々にお休みする旨伝えていただけますか?」
「畏まりました」
私は手早く伝えると、ヴァルドはそのまま扉の外へ向かった。
「では、行きますぞ」
「皆様、行ってきますね」
嵐のように過ぎ去ったけれど、後に残されたレオンお兄様達は大変だろうなぁと、申し訳なくなった。
ヴァルドは気にせず、以前に見た転移陣のある部屋へ向かった。
アルヴァーは見送りのために付いてきていた。
「アリシア様、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「後が大変だと思いますけど⋯⋯行ってきますね」
「では、参りますぞ」
そう言った瞬間転移陣が作動し、一瞬の後、邸の転移陣と似たような部屋に着いていた。
「着きました。転移酔いは大丈夫ですかな? モニカ殿は?」
「私は大丈夫です」
「お気遣いありがとうございます。私も問題ありません」
一つ頷くと、転移陣の外に出る前に私の腕に嵌めている魔道具に手を掛けたのを見て私は慌てた。
「ヴァルド! それは外さないで!」
「いえ、この部屋を出る前に一度外してから来るようにと主からの指示です」
そう言ってる間も私の抵抗虚しく呆気なく外された⋯⋯。
その瞬間、私は王家の色に戻っていた。
髪はシルバーブロンドに瞳は純青色。
髪も瞳も陽によって紫がかって見える。
久しぶりの髪色に元の自分なのに変な感じがする。
「では、このまま主の元へお連れします。エステル殿下」
「⋯⋯お願いします」
私の色を戻してもやっぱり下ろしてくれないのね⋯⋯。
私は此処までの出来事にちょっと疲れてしまった。
ご覧いただきありがとうございます。
ブクマも嬉しいですありがとうございます。
次話もよろしくお願いよろしくお願い致します。