26 進展
翌日、私は部屋で大人しく本を読んでいた。
今日から日中もクラースが護衛についている。
私は暫く大人しく部屋で過ごそうと思い、図書室で本も沢山見繕ってきた。
流石に一日長時間座っているだけは体にも悪いし、クラースがいるからお部屋でも適度に身体を動かしたりしている。
休息日は何事もなく過ぎていき、夕食後の報告会でも今の所動きを見せていなく、何の進展もなかった。
さらに翌日。
この日はいつも通りに午前中はセーデン先生の語学の授業を受け、昼からはクラースの授業を受けた。
思ったより私の体力が付き、最初予定していた周数もほぼクリアしていたので、クラースは走ることを加えた。
運動場のトラックを走るような感じで庭をぐるっと走る。
きっと何かあった時に走れるようにだろう。
久しぶりに走ったけれど、思ったよりも走れた。
クラースもここまで走れると思ってなかったらしくてちょっと驚いている。
私は息が切れたので休憩をしていると、此方にロニアが小走りにやってきた。
何かあったのかな⋯⋯?
「アリシア様、応接室へお越し下さい。イクセル様がいらっしゃっております」
「分かりました。クラース、ミア行きましょう」
私は急いで応接室へ向かった。
応接室前にいた侍従さんがノックをし中に声をかけた。
「アリシアお嬢様がいらっしゃいました」
「入って」
「失礼いたします」
侍従がドアを開けてくれたので、私は中へ入ったが、クラースとミアは外で待機との事。
部屋の中には、レオンお兄様、イクセル様、ハルド様、アルヴァーが揃っていた。
「皆様お待たせしてしまい、更にこのような姿で申し訳ありません」
「そんなに待ってないから大丈夫だよ、シアは僕の隣ね」
私はお兄様の隣に座った。
私が座のを確認し、対面に座るイクセル様が話し始めた。
「私からご報告させていただきます。街の不審者ですが、本日街中で領民に絡んでるのを発見したため、その場で取り抑えました。その後取り調べをした所、その目的は⋯⋯王女殿下の居所を探し回っていたようです。ただ彼らの言い分としては、探せと言われただけだで、居場所が特定できればそれだけで遊んで暮らせる大金が手に入るからとその依頼を受けたようでした。依頼者は黒づくめの、声は魔道具で変えていてか女なのか男なのか、何も分からないそうです」
「領民に怪我はありませんでしたか?」
「一名が腕の骨折、もう一名は擦り傷程度です」
「怪我人が出てしまったのですね⋯⋯大丈夫でしょうか?」
「命に別状はありませんよ」
私は怪我人が出たことに心配と怒りを覚えた。
「狙いは“王女”なのですね? では、王宮にいる陛下達が狙われているわけではないのですね?」
「あの者達の言を聞く限りでは⋯⋯」
信じきる事は勿論出来ないけれど、今回の事で狙いが私だと確信に近付いた。
理由は分からないけれど、ただ、私を探す目的で無関係の人達が傷付くのは看過できない。
シベリウス辺境領に探しに来たのは、お養母様がいらっしゃるからだろう。
きっと、お祖父様達の離宮にも何かしらあるはず⋯⋯。
私が考え事をしていると、皆が心配そうに声をかけてきた。
「シア、大丈夫? 今回の不審者は捕まったから大丈夫だよ」
「アリシア様、我々がお護りしますのでご安心を」
「姫君には指一本触れさせません」
「アリシア様、私も腕には覚えがありますので有事の際はお任せを」
各々、レオンお兄様、イクセル様、ハルド様、そしてアルヴァーが慰めるように護ると話すのを聞いて、見当違いの事に頬が緩んだ。
「皆様、ありがとうございます。ですが、私が考えていたのはまた別の事です。何故五歳の子供を狙うのでしょうね。何の力もないのに⋯⋯不思議でなりません。そして、そんな子供を探すのに無関係の人達が傷付くのは見過ごせません。それに、此処に来たのであればきっと離宮にも何かしら手を出してるかもしれませんね。返り討ちに合っているでしょうけど⋯⋯」
私の言葉を聞いた皆は驚いていた。
そんなに驚くようなこと⋯⋯話したかなと思ったけれど、彼等の顔を見る限り子供らしく無かったかもしれない。
「えっと⋯⋯皆様?」
「申し訳ありません。アリシア様のお考えに驚きまして。予想通り、前国王陛下達のいらっしゃる離宮でも襲撃があったらしく、これも予想通り呆気なく返り討ちにしたそうです。これが昨晩の事です」
「やはり⋯⋯お祖父様達は流石ですね」
出来れば一度会いに行きたい、けれど難しいでしょうね。
「姫君、怒っておられますか?」
「そう見えますか?」
「姫君の怒りに魔力が揺らめいております」
魔力が⋯⋯揺らぐ?
私はよく分からず頭を捻る。
「魔力が、揺らいでいるのですか?」
「姫君はまだ訓練を受けておりませんので分からないかもしれませんが⋯⋯貴女様の魔力は大きいです。そして魔力と言うのはその者の感情にも呼応します。精神力をいかに御せるかで魔力を御せるのです。精神力の脆いものは、魔力を暴走させがちです。ですので、子供の中で魔力の多いものは暴走しがちなのです」
「それは、私も魔力を暴走させそうだと言うことでしょうか?」
「いえ、まだそこまででは。ですが、少し揺らめいておりますので、もしかして怒っているのではと思った次第です」
確かに怒っているけれど、魔力の事は分からない。
暴走、そう聞いて冷静にはなれた。
暴走して周りの人達を傷付けるのは嫌だから。
「⋯⋯落ち着きましたね」
「イクセル様?」
「アリシア様の魔力が安定しましたから」
「魔力が暴走して、もし皆様を傷付けるようなことがあれば嫌ですから」
「それで落ち着かれたのですか⋯⋯」
「シアは凄いね。僕、シアと同じ年の時に暴走させたよ⋯⋯」
お兄様は暴走させたのですね。
「話を戻しますが、今回の件の不審者ですが、ならず者でした。私達の見解としては“王女”をあわよく見つかれば⋯⋯位で雇ったのではないかと、離宮では手練れが放たれたようです。本命はあちらでしょう。だからといってまだ警戒を緩めるわけにはいきませんが」
「お手数をお掛けして申し訳ありません」
「貴女様が謝る必要はありませんよ。我々の仕事です」
「ですが⋯⋯いえ、ありがとうございます」
「姫君、焦りは禁物です。焦っても力は付きません。閣下がお戻りになられたら姫君への魔力操作の勉強が始められるよう、私からも進言致します」
「ハルド様は私がそう言ったことを学ぶのを反対していませんでしたか?」
「反対、という訳ではないのですが⋯⋯」
ハルド様が口ごもっていると、レオンお兄様とイクセル様は笑いだした。
今の話しで笑う要素って今ありましたっけ?
「ハルドは可愛いものが好きだから、シアが戦うの想像したら堪らないんじゃない?」
「確かに。アリシア様はお可愛らしいので、ハルドにはきついでしょうね」
ますます分からない。
可愛いは関係ないのでは?
何だか前にも同じ事を思った気がします。
気のせいではないはず⋯⋯。
一度否定しておいた方がいいかな?
「あの、可愛いは関係ないと思うのですけれど。それに、私よりアレクの方が可愛いです」
そう言ったのだけれど、なんだか呆れた空気が流れているような⋯⋯何故?
「あー、シア? あのね、気を付けてね、色々心配になるよ」
「色々?」
「アリシア様、レオナルド様。その話しは一旦置いておきましょう。再度話を戻しても?」
「勿論です」
「今回捕らえたならず者達はそのまま王都へ移送致します。街に関しては暫くギルドを中心に警戒を続けます」
私が狙われたので、罪人は王都管理となるので、彼方へ移送となる。
ただ、結局の所私は何故狙われるのか、心当たりがないのだけれど⋯⋯もしかして、国王陛下は分かっていらっしゃるのかな。
私には何も情報がないので、分からないことばかり。
とてももどかしい⋯⋯
出来る事と言えば、知識を蓄えて、守る術を身に付けること位かな。
ハルド様はお養父様達が戻って許可が降りれば魔力操作を教えてくれると言質を取ったので、少しは前に進めるかな。
「とりあえずは、父上達が戻るまでは警戒を緩めず、現状維持で」
「そうですね。もしかしたら王都から何か情報を持って帰ってらっしゃるかもしれませんね」
「戻られるまでの二週間足らずはご辛抱を」
「分かりました。引続きよろしくお願い致しますね。怪我をされた方々は大丈夫でしょうか?」
「はい。手当ても済んでいますので、本人達は元気ですよ」
それを聞いて安心した。
何も解決はしていないし、情報がない今、お養父様達が戻られるまでは、私は私の出来ることをやるだけね。
五歳時の出来ることなんて、大人しく勉強してることしか出来ないのだけれど。
この後、お帰りになるまで何事も無ければいいのだけれど⋯⋯。
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