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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第4章 忍び寄る闇
256/273

256 仲良し兄弟


「急な招待にも関わらず、応じて頂き感謝します」



 サロンに案内され中へ入ると、真っ策に王太子より挨拶を頂いた。

 お茶会の参加者はゼフィールのお二人と私とレグリス、そしてティナにお兄様の代わりにエドフェルト卿、そして⋯⋯。



「セイデリア夫人もいらっしゃったのですね」

「ご無沙汰をしております、殿下。(わたくし)が今日こちらにお邪魔しましたのはこエクレール王子の件です」



 という事はベティ様の耳にも入ったという事。

 それで、エクレール王子はベティ様が苦手なのか叱られたのか、目に見えて落ち込んでいる。

 第二王子という立場だけれど、叔母であるベティ様には敵わないのか、それとも苦手なのか分からないけれど、その落ち込む姿を見ると全く王子に見えない。


 

「エクレ、姫君に言うことがあるだろう?」



 王太子に促され「は、はい!」と前に出て私をちらりと見た。



「⋯⋯初対面にも関わらず僕の言動で不快な思いをさせてしまいました。申し訳ございません」



 そう言って深く頭を下げた。

 借りてきた子犬みたいで横の二人、王太子とベティ様に挟まれシュンとなっている。



「頭を上げてください」

「いえ、謝罪を受けてくださるまでは⋯⋯」



 強制的に謝罪を受けさせようとしているのか素の性格なのか迷うところだが、私としては気にしていない早く頭を上げて欲しいのだが、後ろに控えるレグリスの表情が冷ややかだ。


 

(わたくし)は気にしておりませんわ。頭を上げてくださいませ」



 まだ頭を上げないエクレール王子にベティ様ははぁと呆れたように息をついた。


 

「エクレール、殿下がそう仰って下さっているのだから頭をお上げなさい」



 ベティ様の言葉でようやく頭を上げた。

 これはこれで問題だと思うのだけど、素なのか本人はわかってなさそうな気がする。

 隣の王太子は頭が痛いというように顔を顰め、ベティ様は後でまたお説教ね、と言わんばかりのいい笑顔だ。



「重ね重ね申し訳ない。姫君、こちらへお掛けください」



 王太子のエスコートでようやく席に着き、侍女達が手際よくお茶を淹れ部屋を後にした。

 王太子の言葉でようやくささやかなお茶会が始まった。

 お茶を飲むとふわっと広がるフルーティーな香りに少し甘い紅茶だった。

 


「美味しい」



 思わず言葉が出るくらい美味しくて堪能していると、王太子が声を掛けてきた。



「陛下より姫君は甘いものがお好きだと聞いております。気に入っていだけて良かった」



 レイ様はどうやら私の事を王太子に話していたらしい。

 彼は柔らかな表情をふと改めた。



「姫君には我が国の民を助けていただいたと、改めてお礼申し上げます」



 そう言って王太子は私に頭を下げた。

 それを見た第二王子も神妙な顔で続いて頭を下げる。



「お礼なら陛下より頂いております。(わたくし)は自分に出来ることをしたまでですわ」

「姫君は謙虚でいらっしゃいますね」



 そのふっとした笑い方はレイ様にそっくりだ。

 外見だけで言えば、第二王子の方がレイ様によく似ているが、性格は真逆だなので変な感じがする。



「もしかして今日のお茶会はその為にでしょうか?」

「それもありますが一番はエクレールの不作法の謝罪が目的です。叔母上がこちらにいらっしゃったのはレグリスから報告を受けた為かと」

「話を聞いた時は本当に驚きましたわ」



 ベティ様は驚いたというよりもまさかその様な事を仕出かすとは思っていなかったようで心底呆れた、という表情をしている。


 

「直ぐにこちらに連絡が入り、急遽謝罪の為、この会を開く事にしたのです」



 という事は、この会はベティ様の案で王太子が開いたという事なのね。

 別にそこまでしなくてもいいのに、と思ったけれど、ベティ様はお二人の、特にエクレール王子のお目付け役でもあるようだ。

 


「驚きましたけれど、そこまでお気になさならくても。王太子殿下とレグリスのお二人からその場で叱られていましたので、それが罰でよろしいのではないのでしょうか」



 側近や、その場に出ていた私達の近衛がいたのだ。

 少なからず醜態を色んな人に見られていたのでそれが罰と言えよう。



「姫君はお優しいですね。あぁ、そうです。私の事はどうかジェラルドとお呼びください」

「では、ジェラルド様とお呼びさせて頂きますね。(わたくし)の事もエステルとお呼びくださいませ」

「それならぼ⋯⋯」

「お前はダメだ。叔母上に叱られたばかりだろう? 少しは自重しろ」



 王子は言い終えぬうちにダメ出しを喰らう。

 まぁ、ジェラルド様とベティ様に挟まれ、左右から睨まれていたら大人しくするほかないよね。



「ところで、レグリスがエステル姫の側近になっていたのには驚いた。陛下は残念がるだろうな」

「母上から聞きましたが、私はゼフィールへ行くつもりはありません」

「そうだろうな。将来従兄殿が私の側近になってくれたらと思ったんだけどね」

「諦めてください」



 きっぱりとレグリスは言い切った。

 仕方ないな、と肩を竦めると、直ぐにその話題は終わった。

 それから暫く和やかに会話を楽しんだ。



「エステル姫はヴィンセント殿と兄妹仲が良いですね。自分が此方に来ることが出来ないからと側近の一人を出席させるとは」

「兄は心配性なのですわ。とても大事にして下さって嬉しいです」

「ですが、これから公務で我々以外の他国と交流するにあたって、心配が増える事でしょう」

「あら、どうしてですか?」



 何故他国と交流するのにお兄様が心配されるのか、よく分からずに首を傾げると、明らかに私に対して呆れた視線を向けてくる。



「第二王子殿下の言動でお分かりかと」



 エドフェルト卿に突っ込まれて私は理解したけれど、そうある事ではないだろうと思うが、一度ある事は繰り返される、繰り返してほしくないけれどね。



「そうですわね。ですが、結局不作法をすれば恥をかくのは自分自身ですわ。そのような方は(わたくし)を含め、お兄様達から要注意人物として敵視されるでしょう」



 私があっさりと言えば、第二王子はぐっと気まずそうに、他の人達は声を出して笑った。

 第二王子の件を私が気にしていないと言ったのは、彼から嫌な感じを受けなかったからだ。

 ただ、もし他の人達から同じようにされたとして、そこに純粋な想いだけではなく思惑があるとしたら私ははっきりと否を示し、不快感を伝える気満々だ。

 その前にお兄様が対処しそうだけど、早々お兄様と一緒の時に、という事も無いだろうとも思う。

 ジェラルド様の仰るように心配事をいつまでもお兄様に頼るわけにもいかない。

 自分で対処するようにしなくては何時まで経っても自立できないし、それこそ心配ばかりかけてしまう。



「姫君の見た目に騙されてはいけませんね。エクレも見習ってもう少し落ち着いてくれるといいのだが」

「兄上、僕は思った事を素直に口にしているだけで落ち着いてます!」

「それを直せと言っているんだ」



 言葉を切ったジェラルド様は第二王子を見てふわっと優しい笑顔を見せた。

 その笑顔を見たとたん、何故か背筋がヒヤッとしたのは私だけでは無かったはず。

 その笑顔を向けられた当の本人もピシッと固まったのだ。



「陛下から伝言だ。今回の訪問中に成長して自重を覚えなければ⋯⋯」

「お、覚えなければ⋯⋯?」



 嫌な予感でもするのかごくりと喉を鳴らし兄弟が見つめ合う。



「『セイデリアに置いて来い。ベアトリスの元で学び直せ』と仰せだ」

「嫌です!!」

「あら、どうして嫌がるのかしら? 王族のあれこれから暫く解放されてのびのびと暮せるのよ。楽に過ごせるというのに。変な子ね」



 嫌だとブンブン首を振っている第二王子が何だか不憫に感じるが、一体何故それ程嫌がるのか。

 隣に座るレグリスを見れば、可哀相な目で第二王子を見ていた。



「現状置いて帰る事になりそうだな。頑張れよ」

「あ、兄上! 見捨てないでください!」



 涙目で嫌がる第二王子を華麗に無視していらっしゃる。

 


 ――このお茶会って必要だったのかな。



 そう思っても仕方が無いだろうが、明日のお茶会で謝罪でもすればヴァレニウスにまで醜態を晒す事になる。

 それを避けるにはお父様と先に階段している今の内に、となったのは分かるけれど、ゼフィールの兄弟仲の良さを見せつけられている感が強い。

 私達も負けていないと思う。この場にお兄様の代わりとエドフェルト卿が参加しているわけだし。

 今回の主な目的は謝罪とお礼だったようで、早めにお開きとなった。

 宮へ帰る前、ベティ様からはもしまた第二王子から何か言われたら直ぐに知らせてください、との言葉を貰い、その後レグリスにも釘を差していた。

 ベティ様最強説。


 翌日、午前中の内に執務室へと向かった。

 宮でゆっくりしても良かったのだけれど、空いた時間に仕事をしようと思い立ったのだ。

 執務室ではルイスとディオが休暇中の為に不在で、レグリスは午前中休暇で此処にはいない。

 マティお従兄様も午前休の筈だが執務室にいたので驚いた。



「お従兄様、どうしていらっしゃるの?」

「それは此方の台詞です。折角ゆっくり出来る時間が出来たのですから、ステラ様こそ休んで下さい」

(わたくし)は平気よ」



 忙しいだろうと私の身を案じてくれるお従兄様に大丈夫だと言うが、無茶をしていないかと心配される。

 私よりもこちらに残って仕事を任せっぱなしだから、お従兄様達の方が大変だろう。

 時間も限られているので早速期限順に並べられている書類を決裁していく。

 黙々と仕事に集中するとあっという間に時間が経った。

 ちらりと時計を見ると、お昼前。

 そろそろ王宮に戻らないと今度はモニカ達に怒られる。

 


「ステラ様の集中力は凄いですね」

「あら、これぐらいで驚いていてはダメよ」

「ステラ様の力はこんなものじゃない。これからもそれを目の当たりにするだろうけど、限度があるから、ステラ様が無謀な事を仕出かしそうになったらフィリップも遠慮せずに諫言して欲しい」

「そうですわね。現状、ステラ様にすっぱりものを言えるのは、マティ様くらいですわ」

「いや、ティナ嬢も言っているだろう?」

「勿論、ステラ様の危険が付きまとう様な事なら遠慮なく言いますけれど、(わたくし)としてはステラ様がしたい様になさるのが一番ですもの」



 その言葉にお従兄様は疲れたようにはぁと息を付く。


 

「フィリップ。見ての通り、クリスティナ嬢はステラ様に心酔しているから、私が退いたら遠慮せずに駄目なものはダメだと、きっぱりと言って欲しいんだ」

「俺がですか?」



 フィリップはそっとティナを窺うが、何故か見てはいけないものを見たというような表情でマティお従兄様に向き直った。



「勿論側近の一人としてそうすべき時はそうしますが⋯⋯、その前にクリスティナ嬢が対処しそうですけど」

「本当に危険ならそうだろうけどね。その前に一度でそういうことを口に出してほしいんだ。ステラ様は私達の話をきちんと聞いて下さるから、話せば一考して下さるよ」



 ――その話は私のいない所で話をして欲しいのだけど⋯⋯。



 ちょっと居心地が悪くなってきたのもあり、そろそろ本当に戻らなければモニカに怒られそうだ。

 


(わたくし)は王宮に戻ります。その先の話は(わたくし)がいなくなってからにしてくださいませ」



 私は言い終えると後を託して執務室を後にした。

 少しばかり仕事をしに行っただけなのに、最後の会話でぐったりと疲れてしまった。

 主に心ががね。

 そして⋯⋯。



「もう少しお早くお戻りいただきたかったです」



 王宮に戻るとモニカから小言を貰った。

 そうだよね。準備とか色々と大変だからモニカ達からしたらそうだよね。

 私はそれらからすこーしだけ逃げた⋯⋯いや、仕事の具合を見てから戻ったのだから、これでも早く戻ったと誉めて欲しい、なんてことはモニカ達には言えない。

 彼女達からすれば、この後のお茶会の為、私を磨く事が優先順位は高いだろう。



「ごめんなさい。けど、モニカ達なら腕がいいから問題ないでしょう?」

「そのような言葉に騙されませんわ」



 口は動かしても手が止まる事は無い。

 私が戻り、さっと部屋で軽食の準備が整う。

 軽食を食べ終わり少しの休憩を挟んだ後、軽く入浴し、肌つやを整える。

 化粧をして髪を結う様は職人技だ。

 今日はお茶会の為、夜会程の煌びやかさはないが、可愛らしく仕上げてくれた。

 


「アクセサリーは此方でよろしいでしょうか」



 今日はグランフェルト王家の色たるタンザナイトが付いた三セットだ。

 ネックレス、イヤリング、そして髪留めに付いている。

 貴婦人なら指輪で揃えるだろうが、私はまだ子供なので指輪はしない。



「これで完成でございます」



 今日も素敵に仕上げてくれたモニカ達に礼を言い、お茶会の準備へと向かった。

 庭園に広げられたテーブルへ品よく飾られた花々。

 ヴァレニウス、ゼフィール、グランフェルトの色を取り入れた花は綺麗に纏め上げられ作品となっていた。

 今日は三国の次期が集まるお茶会という形で交流を図る。

 そしてその側近達の交流の場でもあるために、大きめの丸テーブルが三つ。

 一つは王族席、もう二つは側近達の席となる。


 準備は順調のようで、後は細かく指示を出し、一度部屋まで戻るとマティお従兄様とレグリスが部屋で待機していた。



「早いですわね」

「お待たせするわけにはいきませんから」

「会場は如何でしたか?」

「問題なかったわ」

「ステラ様がご準備されたのですね」

「お兄様と一緒に、ですけれどね」



 殆ど私が考えて準備をしたのだけれど、細かい所はお兄様に意見を聞き、改善した部分もある。

 テーブルをどのようにするかを考えた時、側近の方々も同じテーブルに着くのが良いか、迷ったときに、お兄様から、王族席と側近席に分けた方が良いと言われたので理由を聞けば側近達の交流の中に私達がいれ自由に発言できないだろうと。

 言われてみればその通りだ。

 だから王族ようと側近様にテーブルを分けた。

 今も刻々と準備が整えられているだろう。

 後一時間を切った。



「王子殿下がいらっしゃいました」

「お通しして」



 マティお従兄様達と話をしていると、お兄様がいらっしゃった。

 その姿を見て思わず「かっこいい」と呟く。



「ありがとう、ステラ。ステラはいつも可愛いけれど、いつもに増して可愛さに磨きがかかっているよ。⋯⋯あぁ、あの猛獣達の前に出したくないな」



 出迎えた私をぎゅっと抱きしめる。

 相変わらずの光景でお兄様に付き従っているベリセリウス卿とマルクス卿は微笑ましいと言った感じで、マティお従兄様も同様だけど、レグリスは表情にこそ出していないが、甘い! とでも言いたいような目をしていた。



「お兄様、猛獣、とは誰の事です?」

「いるだろう?」



 誰とは言わずに猛獣がいると断言するお兄様。

 もしかして第二王子殿下の事なのか。

 けれど、彼の外見は猛獣と表現するのが難しく、どちらかと言うと可愛らしい外見をしている。

 レイ様似ではあるけれど、格好いいレイ様を幼くして目がくりっとして可愛らしくした感じが第二王子の外見だ。

 もしかして、ヴァン様の事を言っているのだろうか。

 今日私の一番の課題は、表に出さずしてヴァン様との会話をというか、他の方々共だけど、何事もなく無事に乗り切る事。

 昨夜、夕食の席でお父様に散々注意されたのだ。

 楽しみではあるけれど、緊張が多くを占める。



「ステラ、分かっているよね?」

「勿論ですわ」

「そろそろ向かおう」



 最終お兄様にまで注意され、私達は会場へと向かった。

 

ご覧いただきありがとうございます。


ブクマ、いいね、評価をありがとうございます(ꈍᴗꈍ)


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

よろしくお願い致しますm(_ _)m


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