255 会議
晩餐会に向けて着替えをし時間までゆっくり寛いでいると、ヴィンスお兄様が私を迎えにいらっしゃった。
「ステラは可愛くて自慢の妹だけど、今夜はもう少し地味にしたほうが良い気もするな」
私の姿を見てボソリと呟く。
きっと昼間のことが原因だろうけど、流石に他国の方を歓迎する晩餐会でそれなりの装いは必要なので、お兄様は唸っている。
「お兄様。流石にお父様とお母様がいらっしゃる晩餐会に迂闊な発言はなさらないのでは? 心配しすぎですわ」
「ステラは自分の可愛さが理解してないからそんな事を言うんだよ。絶対あの迂闊発言王子はステラに見惚れるだろうね」
私の言葉を引用してそのまま変なあだ名がついてしまった。
お父様達も今はヴァン様よりゼフィールの第二王子の言動のほうが問題に思っているようだ。
それを良しと思うのか、別の問題が上がって面倒だと思うのか、悩ましい。
「まぁ、ジェラルド殿がいるから大人しくしてるだろう、と思いたいな」
確かに王太子殿下がいらっしゃっるから止めてくださるだろう。
「そろそろ向かおうか」
「はい、お兄様」
会場に入ると伯父様とセイデリア辺境伯が揃っていて二人で話をしているようだったが、私達が入ってくるのを確認するとこちらに挨拶をする為に近づいてきた。
「早いな二人共」
「殿下方がお早いのでお待たせするわけにはいかないでしょう」
「エステル殿下は今宵も美しくていらっしゃいますが、ゼフィールの第二王子殿下に煩わされておりませんか?」
「え?」
真剣に何を聞いてくるのかと思えば、煩わされるって⋯⋯、まぁ確かに爆弾発言はあったけれど、そこまでではない。
「何もなければよいのですか、少々⋯⋯思った事を直ぐに口にしてしまうところがありますので」
辺境伯にまで心配される第二王子って⋯⋯。
「そんなに心配するような事まで口にしてしまうの?」
「いえ、仕事に関しては優秀ですが、普段は、多少軽いと言いますか⋯⋯節操がないといいますか」
もうそれ殆ど悪口よね?
言葉を濁す辺境伯も何か言われたのか、もしくは辺境領で何かあったのか。
「確かに軽いな。流石に今夜は仕事と捉えるのではないか?」
「そうですね。陛下のいらっしゃる場所では大人しくしているかもしれませんが⋯⋯」
そんなに心配になるような方なのか。
雑談をしているとお父様とお母様、宰相とベリセリウス侯爵が一緒にいらっしゃったので、私達は一旦話を中断した。
それから少しして両国の王太子殿下と王子殿下、そして側近方が揃ったので私達は全員で出迎え、晩餐会が始まった。
和やかに始まった晩餐会は終始穏やかで私は話を聞きつつ、たまに質問されるのでそれに答えたりはするけれど、話を聞くだけで勉強になる。
食事を終え、食後のデザートが用意された。
今夜は大人ばかりなので、白ワインで作ったゼリーと旬の果物を使ったパフェだ。
私とお兄様はお酒が入っていないフルーツパフェが用意された。
「ほぉ。中々洒落たデザートですね」
「見た目が女性受けしそうですが、このワインの風味が我々でも美味しくいただけます」
「これは王女の案で作られたものですわ」
「今宵は大人の方ばかりですので、甘いものよりお酒を使用した食後に邪魔をしないお味が良いかと思いましたの。兄と私は普通のパフェですわ」
事前に料理長こら相談を受け発案してみたのだけれど、楽しんでいだけたみたいでよかったと一安心だ。
因みに、伯父様のパフェにも同様のものだけど、料理に使われているくらいなら大丈夫なのだと前に教えてもらっているので一応同じようにお出しするようにしたけれど、少し心配で視線を向けると目で大丈夫だと教えてくださった。
「素晴らしい料理でのおもてなしに感謝します」
晩餐会は終始穏やかに進み無事に終わった。
翌日。
朝から今回の目的でもある情報共有と言う名の会議のため、円卓に陛下、宰相であるエドフェルト公爵、お兄様と私。
両辺境伯に両国の王太子、ゼフィールの第二王子が揃っている。
各側近は後ろ手に掛けている。
「早速始めよう」
陛下の言葉で会議が始まった。
今回はヴァレニウスとゼフィールの両国からの提案であり、その内容までは私は知らない。
お父様はそこまで教えて下さらなかったからだ。
「レイフォール殿からの手紙ではラヴィラがまた動きを見せている、という事でこちらも国内を調べてみた。だが、今の所国内に変わった様子はないようだ。仔細に関し会議でとの事だったが、一体あそこは何をしようとしているのか」
お父様の言葉で、手紙では詳細を知らされていなかったのだと知った。
「以前にシベリウス辺境伯とセイデリア辺境伯に伝えたが、瘴気自然発生させる呪具がある。それらを商人を通じて以前より広まりつつある。我がヴァレニウス国内とゼフィールでも発見されたと報告があり、グランフェルトにも入っている可能性が十分にあるが、そういった報告はありませんか?」
「つい先日にひとつ回収したが、それ以外の報告は無いな、シベリウスとセリデリアではどうだ?」
「いえ、領内でそのような事がありましたら直ぐに報告がギルドからもたらされます。王女殿下が開発されました魔道具のお陰で偽証された商品、流通許可のない品々に禁止されている物は弾かれており、大分減りました」
「セイデリアも同様です」
特に両領はその辺が厳しいけれど、各領地もそれなりに入ってくる品物に対しては厳しく管理されており、私が開発した魔道具も今では国内行き渡っている。
「ですが、気になる点はございます。セイデリアとゼフィールの間に広がる山中に、つい先日捕えた盗賊団が持っておりました。取り調べた所、誰からか奪ったわけではなく、いつの間にか手元にあったのだと」
「盗んだ物の中にあった訳じゃないのか?」
「そうではないようです」
セイデリア辺境伯もお父様の言葉通りにそう思って賊を問い詰めたが、やはり盗んだ物ではないらしい。
見た目が毒々しいのと賊の中には勘の鋭い者がいるようで、それが良くないものだと断言したらしく、そのせいで扱いに困っていたのだという。
今回それをセイデリアの騎士団が回収したことでホッとしたというのが本音だというから、盗賊団にしては弱小というかなんというか。
セイデリア辺境伯は「これです」と言うと、側近のラーシュ卿が卓上へ置いた。
ゼフィールが持ち込んだものと同様の色をしていているが、既に浄化されているのでこれらから嫌な気配はない。
「今迄の多くは森の中、山中で瘴気をまき散らしていたが、今は人の手に渡っている事が多く、知っての通り、早々に対処せねば人体に悪影響だ。それにより人に戻れなくなる」
「それで、ラヴィラはどのように関与しているのか?」
「その呪具をラヴィラが作っている確かな情報を得た」
ヴァン様は冷ややかな目で呪具に目を向ける。
「確かな情報とは、それを作成していた者を捕らえたからだ」
それも偶然の事だという。
ラヴィラはグランフェルトとヴァレニウスに近接していてる公国で、一応其々と国交はあるが、どちらも警戒をしているのでその取引される品々の査定は厳しいものだ。
丁度ヴァレニウスに入ってきた商人一行の中に、その呪具の作成者の一人が紛れ込んでいたという。
ヴァレニウスに入った時、検問所で一人怪しい動きを見せていたのでそこで捕らえた所、酷く怯えていたらしく、最初真面に話が出来る状態ではなかった。
その者が持っていた荷物を調べると、その呪具がいくつか出てきたが、検問所ではそれが何か分からず、けれど何かしら怪しいという危機感を煽るような代物で会った為、検問所がある街を収める領主に報告があがった。
そこで領主が主体となり、取り調べをするも事が事だけに中央へとすぐさま報告がもたらされた。
そうして身柄は中央へと移り、徹底的に調べた所、その者はラヴィラからの逃亡者という事が分かった。
ラヴィラではその呪具を作成していたが、段々と恐ろしくなり逃げ出してきたらしい。
それらを作成するにあたり、研究所で過ごす為、外に出ること敵わず他人との共同生活を強いられていた。
最初は疑問に思わず、作成していたが、その効果を聞いて怖くなったのだと話した。
その仕事を辞める事が出来ず、辞めとしてもそれは死を意味する。
秘密保持の為だと言うが、まぁ人に害を為す物を作成しているのでその末路はそうなるだろう。
その為に、夜に抜け出しヴァレニウスまでやってきたのだ。
「その者は?」
「野放しには出来ないので国内の牢で過ごしている。知っている事は全て話しただろうが、だからと言って外に出すわけにもいかない」
「確かに。既に脱走した事は知れ渡っているだろうから、奴等も捜索しているはず」
「もうひとつ証言した事があり、その制作を行っているのは、ラヴィラの人間だが、その背後が恐ろしいとも言っていた。末端お末端だろうから闇の者だという知る筈も無いだろうが、そうだとみている」
「ラヴィラ単体でそのような大それたことが出来るとも思えないな」
ラヴィラ公国内は未だに割れている。
公弟派と次期大公派に分かれているようだが、噂では公弟と次期大公は仲が良いらしい。
というのも、次期大公が獣人を現大公同様に獣人を差別せずにいるからだ。
それだけかどうかは分からないが、実質対立しているのは、公弟対公妃。
その対立で何故その呪具や闇の者との繫がりが出来るのかはまだ分かっていない。
誰がどのように繋がっているのか、分かっている事はラヴィラが何かしら闇の者と繋がりがあるという事だけ。
「ラヴィラを詳しく調べる必要があるな」
「それに関しは我が陛下が独自に調査を行っております」
「ヴァレニウスも捕えた者を理由に調べていますが、まだ確実な手掛かりまでには至っていないのだが気になる情報をつい先日もたらされた」
ヴァレニウスが調査し、得られた情報は私達グランフェルト国にとってとても不愉快な事だった。
この国の貴族が大公家の者と通じていた、という事だった。
通じていた、と過去形なのが気になったが、それは通じていた貴族が亡くなっている事でその繋がりは現在切れているという。
その情報を聞き、お父様は表情を動かさず、ヴァン様の話を静かに聞いているがその姿がいつもの父として見る姿からはかけ離れていた。
「その発言は確かか?」
「証拠は此方に⋯⋯」
ヴァン様の言葉に側近であるエーヴェルシュタイン侯爵がお父様の側近であるベリセリウス侯爵に渡し、お父様の手に渡る。
お父様その資料に目を通す。
暫しの沈黙の後、「ほぉ」とひやりとする。
「既にこの者は罪を犯し刑に処している。⋯⋯それにしても、此奴の邸からはそれらしい証拠品は無かったはず」
「はい。ラヴィラとの繋がりはありませんでした」
「あれか、奴が接触していたのがラヴィラの者だったが、奴はそれを知らなかった、若しくは間に誰か挟んでいるか。いや、あれは阿呆だから何も理解せずに使われていた可能性もあるな」
今となっては死んだ者なので本人を調べようがないが、再度調べ直しになるだろう。
お父様の話を聞き、ヴァン様は何故か納得する。
「なるほどな。だから報告が中途半端だったのか」
「これを読む限り、あれはいいよに使われただけだろう。先程話した物は、最悪な状況になる前に王女が気付いて回収したので大事にはなっていないが、その呪具の入手経路の調査に難航していた。あれは彼の国から持ち込まれたものだったというわけか」
暗殺者なんてどこにでもいるが、ラヴィラの者が絡んでいるとなると、ただの暗殺者集団ではないのだろう。
最悪闇の者と関わっているならば、良からぬことを企む者達を使いその呪具が広まるかもしれない。
数年前にもラヴィラに動きがある、と言っていたけれど、思ったよりも平和で過ごしていた。
エストレヤにも気を付けてと言われていたが、特に何事もなく過ごしていた。
私の周辺では多少も問題はあったけれど、大きな問題は起こってないと思う。
もしかしたら知らないだけかもしれないけれど。
「姫君はどうやって気付いたのか、伺っても?」
お父様の言葉を聞いてジェラルド王太子殿下から質問をされた。
まさかこちらに質問が投げかけられると思っていなかったので少し驚いたが、私はその時の事を思い出す。
「勿論ですわ。と言いましても気配が通常では無かったからです。呪具を持っている者から感じる気配に負の感情が混じり、濁っていて気分が悪くなるような、そのように感じます」
「ふむ。ヴィンセント殿はどうだろうか?」
「私も妹と同じように感じ取りますが、それと同時に敵意を感じますね」
「なるほど。セイデリア伯と大体同じか」
ジェラルド王太子殿下はそう言って面白そうに関心しているが、以前レイ様から聞いた話では、私達と呪具の感じ方が違うらしいので、きっとそれが不思議なのだろう。
ヴァン様はご存じだから特に何の反応も無い。
そもそも初めてお会いした年の王都でお会いした時に聞かれて今と同じ事をお話している。
懐かしいな、と思っているとふと視線を感じてそちらを向くと、何故かゼフィールの第二王子、エクレール王子が此方を、と言うより私が見られてる⋯⋯。
気付かないふりをしよう。
私が第二王子の視線を無視しようと決めている最中も話は進んでいる。
以前聞いた話では、魔力量が多い貴族平民関わらず狙われていたが、今は少し狙いが変わり、魔力量の有無に変わらず負の感情が強い物に呪具が渡るよう仕組まれているそうだ。
その話を聞き、確かに彼女はあまり魔力自体多くなかったと聞いている。
セイデリア辺境伯の話でも同様だ。
それを聞くと誰でも、という訳ではないだろうが狙われる対象となるだろう。
貴族内では⋯⋯ノルドヴァル公爵が狙われるのではないだろうか。
如何にも、と言った感じだしね。
それは何処の国でも同様だろうが、それは其々の国がどう対策していくか。
情報を共有する事で対策を強化し、何よりも友好国として足並みを揃える事で奴等に対して抑止力にもなるだろう。
今回揃って両国が訪れた主な目的がそこにある。
他国に対し三国が結束しているのだと主張する為。
だからこそ、次期国王たる王太子が訪れたのだ。
対策としては何も知らずより知った方が危険な物だと疑問を持ちやすい。
商品を取り扱う商人ならば更に取り扱う品物には注意を払い、贈り物として手にする事があるならば、知らずに渡し、人間関係が破綻する等そのような事のないよう注意するだろう。
今迄国内では混乱を招かない様にと一部の者が注意するだけだったが、今回の話し合いで公表する事となった。
公表する相手は主に商人や商売人だ。
商品が流通する事に関わる者達へ通達し、今まで以上に厳しく鑑定する事。
未然に国内へ持ち込まれるのを防ぐ為の案も話し合った。
「⋯⋯大体決まったな」
「細部は各国に合わせて行った方が良いだろう」
「そうですね。我々三国の流通に関しては今取り決めた方法で行いましょう」
会議は思ったより長引いたが実りある時間だった為、内容が内容なだけに楽観は出来ない。
大変なのは商品を取り扱う者達だ。
大まかに分けるとあれだが、承認だけでなくどこのギルドも暫く対応に追われるだろう。
会議の後は遅い昼餐を共にし、その後休憩を挟んで、お父様はヴァレニウスの王太子と会談を行う。
私達は翌日のお茶会で終わりなのだが、何故かゼフィールの王太子より招かれ、滞在している宮へと向かっている。
引き続きティナとレグリスが一緒だ。
因みにお兄様は招かれていない。
『ステラ、いいかい? 第二王子に何を言われても頷いてはダメだよ。絶対に無視する事! 警戒するのは王太子もだからね! 絶対に可愛らしい微笑みを向けてはダメだ。あぁ心配だよ!』
先程のやり取りを思い出し、げっそりする。
「それにしても何故急に招かれたのかしら」
「詳細は書かれていなかったのですよね?」
「えぇ」
「ステラ様。ヴィンセント殿下が仰ったように、特に第二王子にはお気を付けくださいね」
「ティナ様、一番気を付けないといけないのはジェラルド王太子殿下にですよ」
「確かにあの笑顔の奥は常に計算しているようですものね」
人当たりの良い王太子が一番気を付けないといけない、というのは分かる。
直情型の第二王子より分かりにくいからね。
それにしても⋯⋯。
「それで、どうしてエドフェルト卿が此処に?」
滞在している宮の入口に何故かエドフェルト卿が待ち構えていた。
「ヴィンス様に命じられてこちらに。王女殿下をとても心配されていましたよ」
「私、お兄様に信用されていないのかしら」
「そのような事はありません。ただ、純粋に気にかけておられるだけですか」
いつもの事だと笑っているが、その瞳の奥は少しばかり怒っているかのように冷めている。
「エドフェルト卿、貴方が来ることは王太子殿下はご存知なのかしら」
「勿論ですよ」
「ならいいわ」
「ありがとうございます」
招かれていないのに来たとなれば問題だけど、ちゃんと伝えているなら安心だ。
私は彼らを伴って、ゼフィールの侍従に案内され向かった。
ご覧いただき、ありがとうございます。
ブクマ、いいね、評価をありがとうございます(ꈍᴗꈍ)
とても嬉しいです!
次回も楽しんでいただけたら幸いです。
よろしくお願い致します。





