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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第3章 決意を新たに
234/273

234 ディオの選択


 二日後、交流会後の休暇も終わり、学園で通常の授業が行われる。

 生徒会では交流会の報告や雑務を行い、来月の試験と入学試験に向けて準備が始まる。

 ハネルとソニヤの二人には笑顔が戻り、楽しそうにしているところを見ると安心する。

 今週末は慰労会だ。

 去年は出席できなかったので、そちらも楽しみしている。

 といっても交流会前に行われた親睦会と何ら変わりないけれど楽しみだ。

 更に日が過ぎ、リドマン嬢の拘束期間が目前に迫りつつあるが、私は今お兄様の執務室を訪れた。

 ルイスはお休みなので今日は私一人だ。



「ステラ、ブラート令息の件だけどね、リドマン嬢が話した通りの発言をしていたようだよ。いい度胸だよね」



 お兄様はまた不穏な空気で微笑んでいるが、エドフェルト卿がコホンと咳払いする。


 

「話を戻すよ。彼からは王家を陥れるような発言は無かったそうだ。実際に発言したのはラックス・リドマン。リドマン嬢の弟だ」



 ラックス・リドマンと言えば、去年学園を落ちて騎士学園に行ったものだ。



「何故ラックス・リドマンだとお分かりになったのでしょう?」

「子爵家同士の繫がりでブラート令息はリドマン姉弟とよくお茶を共にするそうだ。そこでリドマン令息が話していたとブラート令息が証言した。そのような発言は反逆を疑われるので窘めたそうだが、リドマン令息は聞かなかったらしい」

「では彼の姉であるリドマン嬢は止めなかったのかしら」

「止めなかったようですよ。流石に不味いと思ったブラート令息はその発言があってからリドマン姉弟とは距離を置いております」



 という事は、私に興味がある云々は省き、ブラート令息はまだ真面ということ。

 今の話しが本当ならば、やはりリドマン家の問題。

 公爵の忠告通りといったところかな。



「今リドマン令息を調べているから、もう少し待とう」

「ですがその前にリドマン嬢の拘束期間が過ぎてしまいますわ」

「問題ないよ」



 お兄様は余裕だ。

 仮に校則が解かれたとしても未成年の令嬢だからそう何か出来るとは思えないが、子爵が動いたら違ってくるだろう。



「明日には分かるだろう。あぁ、そういえばヴィクセル嬢が登城するのも明日だったね」

「お兄様の仰る通りですわ」



 そう、明日ディオが一週間ぶりに登城する。

 明日午後からは慰労会があるのだけれど、午前中にディオの話しを聞く予定だ。

 生徒会では少しぎこちなく、私とあまり話しをしようとしなかった。

 いつも話に興じているわけではないので他の皆が違和感を感じる事は無かっただろうと思う。

 


「生徒会ではステラと話をしていなかったね」



 お兄様はディオの態度が気に入らないようだった。

 私は気にしていないのだけれど、お兄様の目は厳しい。



「ステラ、あの態度を見てまだ側近として継続すると言って来たらどうするのかな? 私は反対なんだけどね」

「こればかりはお兄様のお言葉は聞くわけには参りませんわ」

「勿論だよ。これは私の意見だ。ステラの側近だから決めるのはステラだ。ただ、第三者の意見はそうだという事だよ。他の皆とは話をしていないの?」

「しておりません。けれど、明日は皆早く来るでしょう。特にマティお従兄様、ティナ、レグリスの三人は⋯⋯」

「あの三人は別格だからね」



 確かに。

 マティお従兄様は最初から事情を知っていて、シベリウス家の次期辺境伯。

 ティナはベリセリウス家だから言わずもがな。

 レグリスはゼフィールの血を濃く継いでいるというし、何せあのベティ様の子供だし一線を画している。



「その三人も私と同じ意見だろう」

「どうしてそう言い切れるのです?」

「まともな側近ならば、ヴィンス様の意見と同じでしょう」



 そう発言したのはエドフェルト卿だ。



「側近とは主の側近くで仕事の補佐をする事は勿論の事、側近くで主を護る事が側近の役目でもあるのです。何故なら近衛よりも一番側にいるのが側近だからです。近衛は王族の方々が住まう王宮を始め、宮廷では執務室を始め宮廷内の移動時はお側で護り、もし襲撃を受けた場合、正面から来たならば近衛が盾となりますが、突破されたとしたら次に主を守るのは側近の役目です。そしてご存じの通り、学園内は近衛が付き従う事は出来きません。やはり側近の役割が大きいのですよ。心構えと覚悟がなければ務まりません」



 ベリセリウス卿が後に続く。

 二人共、お兄様と気安く接しているけれど、今の様子はお兄様を信頼し、敬愛しているのだとその目が語っている。



 ――お兄様が羨ましい。



 二人だけじゃなくて、他の側近も皆お兄様を慕っている。

 私はそんな風に見られていない。

 ティナは、ちょっと別だ。

 後、マティお従兄様は私を従妹(いもうと)として見ていると思う。

 他の人達は、私をどう思っているか分からない。

 けれど、お兄様の様に見られているわけではないので、お兄様みたいになるまではまだまだだ。

 自分自身がまだ何も成し遂げられていないのは事実なので、お兄様みたいになろうと思ったら先は長いと感じる。

 


「殿下、少なくとも先程名を挙げた三名は殿下を必ず護りますよ」

「マティお従兄様は、そうね。五歳から一緒に過ごしてきたので分かるわ。ティナは⋯⋯」



 ティナは別格なのよね。

 あの態度といい、疑うことも無く私に何かあれば護るだろう。

 あのような事されたし。

 思い出してちょっと恥ずかしくなる。



「レグリスはどうかしら」

「彼は普段あのように振る舞ってますが、マルクスが言うには好き嫌いがはっきりしているので、嫌いなものは例え王族であっても仕えないと、それは自分も同じだと話してしておりました」



 確かに。

 レグリスはそんな一面がある。

 普段はあんな感じで言動もあれだけど、やはりセイデリア辺境伯とベティ様の子だと感じるところが多々ある。

 他の三人ロベルトをルイスはまだそう言った意味では成長途中で二人共冷静で頭が良いので自分と同じだろうと、エドフェルト卿が話す。

 そして残り一人、ディオは⋯⋯。



「ヴィクセル伯爵は厳格で公私混同をされないが、娘を甘やかしていると言われている。これはヴィクセル伯爵夫人が話していたと聞いただけなので、実際に見たわけではありません」

「ヴィクセル伯爵が交流会翌日、(わたくし)の執務室にいらっしゃったわ。ディオを側近から外すように進言しました。多分両方の意味があるのでしょう」



 今回私を護るどころか人質となり足を引っ張った事で護衛として失格だという事、そして娘が危険な目に合う事を心配しての事だと思う。

 そうでないかもしれないけれど、どちらにしても伯爵としては娘を側近から外してほしいのでしょう。

 だけどそれはディオ次第。


 そして翌日の朝、先週と同じく時間よりも早くにティナ、マティお従兄様、レグリスの三人が示し合わせたように一緒に執務室へ集まった。



「やっぱり早く来たのね」

「えぇ。今日はディオが一週間ぶりに登城しますから」

「その前にステラ様とお話ししたく思います」

「理由は聞かなくても分かるわ」

「分かるんですか?」



 不思議そうにするレグリスだが、分からない方がおかしいと思う。


 

「生徒会でのディオの態度でしょう?」

「はい。気まずいといえど、既に側近として周知されているにも関わらず、あのような態度では余計にステラ様の足を引っ張る行為であり、付け入る隙を与えるだけです。そもそも彼女は最初から側近としての心構えがないのです」



 これは三人共ディオの解任一択だと言っているようなものだ。

 褒められたものではないが、ちゃんと彼女の話しを聞いてから決めたい。



「三人の言いたい事は理解しているけれど、(わたくし)の考えは変わりません」

「ステラ様の決定には従いますが、我々の忠告も少しは聞いて頂きたいものです」

「お従兄様達の忠告はちゃんと聞いておりますわ。(わたくし)も生徒会での態度については良く思っておりません。ただ、ちゃんと彼女の話しは聞くべきだと思うの。どのような結果になっても、話を聞かずして決めるのは横暴だもの」



 相手の話しも聞かずして独裁的に決めるのは良くないし、そんな人間にもなりたくない。

 ある程度必要な事もあるかも知れないけれど、それは今じゃない。

 私の事を分かっている三人はそれ以上追及してこず、ディオが来るのを待つ。

 その前にルイスとロベルトが来た。

 二人はこの状況が分かっていたのか平然としている。

 そして時間が来ると、ディオが姿を現した。

 緊張した面持ちで執務室に入るディオを私は何時もと同じように迎え、下手に質問を先延ばしせずにディオを見据える。

 


「この一週間、よく考えられたかしら」

「はい」

「それは良かったわ。では、貴女の考えを聞かせてくれる?」



 ディオをこの一週間でどう考えこの先どうするか、その考えを聞かせて貰う。



「王女殿下、再度側近として側にいたにも関わらず、その役目を果たすことが出来ず申し訳ございませんでした」



 改めて謝罪し頭を下げる。

 その様子を見守る三人は何処となく冷ややかだ。

 ルイスは何か言いたげにしているが口を閉ざしディオを見ている。

 


「反省を踏まえたうえでこれからどうしたいのかしら」

「私は、これからも殿下の側近として邁進したく存じます」



 その言葉を聞き、三人は表情を変えなかったが心の声が聞こえてきそうな雰囲気だ。



「そう。貴女がそう決断した理由を知りたいわ」

「私は心の何処かで危険な事はないと思っていました。平和な日常で殿下が狙われるなんて正直思っていませんでした。ですが実際、この間のような事が目の前で起こり、正直とても怖かったです。それに殿下とティナ様は平然とし、ティナ様に至っては臆すること無く人を切り捨てました。それを見て私は心構えが全く出来ていない、まして殿下にお仕えする身として甘く、セイデリア夫人にも注意されていましたが本当の意味で理解出来ていませんでした」



 マティお従兄様の言った通り、だけどディオはちゃんと自ら気付き、この場で話した事は心象が良い。

 それは三人も少し見直したようだけど、まだまだと言いたいようだ。



「そう。それで、そのように思っていて何故まだ(わたくし)に仕えたいと思ったの?」

「殿下を始めティナ様達の私への評価は最悪なものでしょう。父からも殿下のご迷惑となる前に辞するようにきつく言われました。ですが、一度の失敗で投げ出すような事はしたくないです」

「ヴィクセル嬢。軽く話しているが、その一度の失敗が命取りとなり殿下を危険な目に合わせるのだと分かっていての発言か?」



 マティお従兄様が聞く。

 お従兄様の言葉は彼自身の後悔、そして同じ失態をしないという強い言葉だ。

 まだあの時の事を深く悔いているのだとその眼差しで分かる。



「⋯⋯はい。次は必ずお護りします」

「言葉だけでは無いだろうね?」

「はい。我が身を挺してお護りします」



 ディオは強い眼差しでお従兄様に返答する。

 彼女の意思は本当のようで、これならばいいでしょう。



「ディオ、今発言した言葉に相違はありませんね?」

「はい」

「いいわ。では次の冬の休暇はシベリウスへ行って頂きます。シベリウス辺境伯が貴女に足りない経験を積めるよう取り計らってくれるそうです」

「はい! ありがとうございます。必ずお役に立てるよう頑張ります!」



 頑張るだけではな⋯⋯とレクリスがぼやいているが、まぁ三人共ディオの言葉と表情に少しは納得したようだ。



「ロベルトとルイスはセイデリアに行ってもらうわね」

「はい。精進します」

「出来得る限り経験を積んできます」



 ディオには甘えられないように一人で行ってもらうことにした。

 その方がディオの為になるでしょう。


 

「と言う事だから、ティナ、マティお従兄様、レグリスの三人には休暇中、あまりお休みをあげられなくて申し訳ないのだけれど⋯⋯」

「お気になさいませんように」



 ティナとマティお従兄様はなんてことは無いと言う。

 レグリスはというと、実家へ帰らずに済むのが嬉しいみたいだけれど、ベティ様のことだから強行で休日に戻ってきなさいとか言いそう。

 まぁそうなったらレグリスは頑張るしかないよね。

 三人には貴族として扱わないよう両辺境伯に伝えるので頑張ってきなさいと伝えた。

 この間よりもずっと厳しい訓練を受けることになるだろうが、三人が何処まで頑張れるか成長が楽しみだ。

 私はクロムヘイム侯爵、ヴィクセル伯爵、そしてルイスのご両親宛に手紙を認める。

 今回の休暇を彼らがどう過ごすか事前に説明するためだ。

 ロベルトに至っては未成年なので一応親の同意が必要で、侯爵が否と言えばロベルトは行けないが彼は快く同意するだろうと確信している。

 認めた手紙は王女(わたし)の封蝋をし三人に預け返事は私に直接送る様伝える。

 ディオの件が終わり、昼から慰労会此処にいる全員参加するのだけれど、マティお従兄は先に邸で準備がある為に帰り、ルイスはこの一週間にあった出来事をディオに説明をしている。

 その間に私はティナを伴ってお父様の所へ向かう。

 側近の件を報告するよう言われたからだ。

 お父様は忙しいようでソファに掛けて待つよう言われたので待つが、直ぐにこちらにいらっしゃった。



「悪いな、少し忙しくて早速聞かせてくれるか」

「お忙しい所申し訳ありません。ヴィクセル嬢には側近として継続してもらう事にしました」

「まぁ、ステラの事だからそうだろうと思ったが、理由は?」

「彼女の意志が強く、迷いが無かったからです」

「だが、同じ事が起こらないとも限らないだろう?」

「それに関してはシベリウス辺境伯からのご提案を頂き、冬の休暇中、あちらで直接経験を積んでいただきます」

「確か、クロムヘイム子息とルイス嬢もだったな」

「はい。二人はセイデリア辺境伯にお願いする予定です」

「ほう。ヴィクセル嬢は一人で行かせるのか」

「彼女の場合、誰かが一緒よりも一人で行くのが良いかと思いましたの。誰かと一緒で競い合う事もいいですが、後の二人は向きません。それに誰かに頼る事を覚える前に一人で対処出来る様になれば今後に活かせると思います」



 私がそういえば、何か言いたそうにじっと見つめられた。

 何だか居心地が悪い。



「陛下、何か仰りたい事がありましたらお話しくださいませ」

「いや、成長したなと思ってな」

「⋯⋯それは素直に喜んでもいいのでしょうか?」



 何故か感慨深そうにするお父様、そして目の端に移るベリセリウス侯爵は笑いを堪えている。



「くくっ、そう怒るな」

「怒っていませんわ」

「ステラも大分人を頼る事を覚えたからな。安心しているんだ」



 ――だから揶揄いの含んだ言葉と表情だったのね!



「侯爵は笑い過ぎだわ」

「申し訳ございません」

「言葉と表情があっていないわ」



 全くそう思っていないだろう表情で言う台詞ではない。



「兎に角だ。ステラがヴィクセル嬢の継続を許したなら、後は本人の行動次第だ。だが、成長しなければその時は分かっているな?」

「はい」

「ならいい」



 お父様への報告が終わり、多忙を見せていたので私は早々に執務室に戻る。

 良い時間なので昼食をとり、少し休憩した後、慰労会出席のためにシベリウス邸へ向かった。

 

ご覧いただきありがとうございます。


ブクマ、いいね、評価をありがとうございます(ꈍᴗꈍ)


次回は事態が進展しますので、次話も楽しみにしていだけたら嬉しいです。

よろしくお願い致します。


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