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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第3章 決意を新たに
232/273

232 情報局へ


 お兄様からこの場にいないディオの事について聞かれたので、私は一週間の謹慎を言い渡したのだと伝えると、お兄様はステラらしいと仰った。

 けれど内心では甘いなと思われていそうだ。

 ちらりと伯爵を見るが、彼が何を思っているのか表情からはよく分からなかった。



「それにしても、捉えた奴らが死んだとなれば、少なからず情報を持っていたという事だ。情報局の奴らは弛んでいるのか。リドマン嬢が有益な情報を持ってるとは思えない」

「同意見ですわ。分かっている事と言えば彼女が口にした“レキス”という名だけです」

「レキス⋯⋯、ヴィルは知っているか?」

「その名でしたらブラード子爵家の次男ですね。現在騎士学園の五学年だったかと。女性に人気のようですよ」



 そんな事まで知っているなんて、流石ベリセリウス家の嫡男。



「因みに彼には婚約者がおります」

「は?」

「リドマン嬢はブラード令息を名前で呼んでいたけれど、別の婚約者がいるのはどういう事かしらね」

「先程女性に人気だと言いましたが、言い換えればだらしがないのですよ」

「そのブラード令息はそこまで人気なの?」



 そんなに外見が良いという事? それとも性格か言葉が上手いのか⋯⋯。

 外見で言えば、此処にいる人達より勝る人はそういないと思う。



「ステラ様、ブラード令息の外見は普通です。女性に人気があるのは甘い言葉巧みなところと彼の実力でしょう。騎士学園の五学年の中では一番の実力者のようですから」

「そうなのね」



 ベリセリウス卿の話しが本当ならば、女誑しという事でしょう。

 今は憶測でしかないけれど、リドマン嬢は利用されたと考えるのが妥当かも。

 ただ、ブラード令息がどのような考えを持っているのか、そこを知る必要がある。



「ブラード家はどういった家柄なのです?」

「ブラード子爵家は珍しくも無い貴族らしい家柄です。あの家門と通じているわけではないですが、だからと言って王家側かというとそうではありませんが現子爵夫妻は特に変わった行動はなく、真面目で嫡男も同様です」

「という事は、その次男だけが問題があるという事か」

「今の所は、ですが」



 どちらにしてもリドマン嬢がどのように発言するか、そして私に言った事を覆さずに同じ証言をするならば、怪しいのはそのレキスだが、そうでないのは明白。

 ただの学生があの様に怪しい連中と繋がるなどないだろう。

 気になるのはレキスの名を口にした後に殴ったという事は、レキス本人ではなくとも少なからず関りがあるのだろう。



「リドマン嬢が素直に話せばいいけどね」

「素直に話すでしょうね」



 そう断言したのはリンディ伯爵だ。

 今迄黙っていたのにそう発言する彼に驚いた。



「何故言い切れる?」

「何故も何も、ただの令嬢があの情報局の質問には耐えられません」

「相手が普通の令嬢だとしても容赦ありませんの?」

「普通の令嬢だろうと、情報局が預かった者達から正しい情報を得るのが仕事ですから。軟な尋問はしませんよ」



 情報局、一度覗いてみたい。

 決して興味本位ではなく、どのように仕事をしているか気になる。



「早ければもうすぐ情報がもたらされるかもしれませんね」



 リンディ伯爵はそう言うが、果たしてそんな簡単なのだろうか。



「それで、伯爵は何時までここにいるつもりだ?」

「王女殿下から言われるならまだしも、王子殿下に言われる筋合いはございません。ここは王女殿下の執務室ですから」



 にこりと微笑みながらそういう伯爵は、強いと思う。

 陛下の側近ともなればこれぐらいにならないと務まらないのかもしれない。



「そろそろ陛下の元に戻って差し上げて下さい。(わたくし)達、無謀なことはしませんわ」

「無謀かどうかは殿下方が判断される事ではありませんが、エリオットにいつも話しを聞いているだけに、王女殿下からお茶に誘われるのを待っていたのですが⋯⋯諦めます」



 その言葉に呆気にとられて反応が遅れたがいち早く我に返ったのはお兄様だった。


 

「陛下の側近は皆図々しいな!」

「陛下の側近だからこそ、ですよ。これも特権ですね。ではまた今度お誘いください」

「ステラ、誘う必要ないからな!」



 お兄様はさっさと行けと言わんばかりに伯爵を追い出した。


 

「全く、ステラはどうして年上から好かれるんだ?」

「それは(わたくし)に聞かれても分かりませんわ」

「ヴィンセント殿下、それはもう諦めた方がよろしいですわ。ステラ様も最近ではそれを利用して皆様と会話を楽しんでいらっしゃいますから」

「ティナ、別に楽しんではいないわ。勉強になるからお話しをしているだけよ」

(わたくし)達から見ていると十分に楽しんでいらっしゃいますよ」



 確かに嫌々ではないし、いい勉強になり、彼等から学ぶ事は楽しいので間違ってはいないのかな。



「それで、ヴィクセル嬢に考える時間を与えるという事だけど、それだけ?」

「それだけですわ」

「ステラはどう考えているんだい?」

「そうですわね。(わたくし)は、ディオの意見を尊重します。続けるのならばそれ相応の努力が必要でしょう。もし、側近を辞める選択をしたとしても(わたくし)は止めませんわ」



 それがディオの選んだ道なら止めるつもりはない。



「意外です」

「意外って?」



 ロベルトは私の言葉に反応したけれど、意外と言われるとは思わなかった。



「ステラ様の側近を辞するとその分ディオ様の評価は下がります。それを分かっていて止めないのですね」

「それも分かった上での事でしょう」



 分かっていない事は無いでしょう。

 自身で選んだのならそれも受け入れなければならない。

 


「お兄様達はディオが辞めると思ってらっしゃるのですか?」

「そうだね。昨日の様子なら、もしかしたら辞めるかもしれないね」



 昨日と今日の様子を見る限りでは辞めるかもしれない。

 私としては頑張って欲しいけれど、強要は出来ないのでディオ次第。



「令嬢がもし辞めたとしてもステラが気にすることは無いよ」

「気にしませんわ」



 気にしても仕方ないし、そもそもまだ何も決まっていない。

 皆ディオが辞める前提で話しをしているけれどね。



「そろそろリドマン嬢は話しをしている頃かな」

「伯爵も仰っていましたけど、素直に話すのでしょうか?」

「ステラはまだ情報局に行った事がなかったね」

「ありませんわ。⋯⋯行ってみてもいいのですか?」

「この宮廷でステラが行ってはいけない場所なんてないよ。興味があるなら行ってみるといい」

「ありがとうございます!」


 

 すんなり行ってきていいとの答えに嬉しくて思わず感情があがるとお兄様はくすくすと笑った。


 

「ステラってほんと何でも興味を持つよね」

「知る機会があるなら知っておきたですわ。自国の事ですから」

「けど、今すぐはダメだよ」

「分かっていますわ。皆さんのお仕事のお邪魔は出来ませんもの」



 今度先触れを出して行ってみよう。

 楽しみが出来た。

 それから少しすると今朝来た情報局の女性、マリアンとリンディ伯爵も一緒だった。

 何故彼は戻ってきたのか、お兄様の目が座っている。

 今は伯爵は置いといて、彼女から話を聞くのが先だ。

 


「お待たせいたしました」

「早速だが、令嬢はどのような証言をした?」

「はい、と言っても有益な情報は何も得られませんでした」



 令嬢の話ではやはりレキス・ブラード子爵令息は噂通りにかなり女性に対してだらしないようだ。

 リドマン嬢はブラード令息に婚約者がいると知りながら令息の言葉を鵜呑みにし慕っているようだ。

 特にブラート令息は私達と近付きたいらしいが、そもそも学園が違うので会うことはない。

 だが、リドマン嬢なら学年は違えど私達と同じ学園の為に私達と会うことが出来る。

 ブラート令息とリドマン嬢は子爵家同士で交流もあるのか幼い頃から知った仲。

 そしてリドマン嬢がブラート令息に心を寄せているのを知り利用した、といったところか。

 彼女がブラート令息から話されていたことは、私達、特に私に興味があるようでリドマン嬢はよく令息から王女の事を聞かれたそうだ。

 容姿、性格、佇まい等、周囲の人間関係や私と親しい令息がいるのか、側近は誰でどのような人物なのか。

 私はそれを聞いてぞっとした。

 


 ――ストーカーじゃない?



 私は思わずはっとした。

 良かった口には出していなかったみたいで安堵する。

 記憶の言葉を思わず出てきたので、以前みたいに口にしてなくて良かった。

 私は自分で思った事に関してヒヤッとしたけれど、何だか実際に部屋の温度が下がった気がする。

 そう思いちらりと横を見ると、冷気の原因を発見した。

 お兄様が今にも誰かを殺しそうな雰囲気だ。

 あぁ、マリアンの表情が青褪めている。



「そのブラート令息からも話を聞く必要がありそうだね」

「そ、それはまだできません。リドマン嬢の話しでは令息がそう言っていただけで、リドマン嬢は嫉妬しての犯行だと話しています」

「それは演技でどうとでもなるだろう?」

「流石に演技かそうでないかは分かります。ただの嫉妬での犯行ならばそれだけでブラート令息を召還する事は出来ません」



 彼女は仕事に対しての自負があるのか少し不快だと一瞬顔を歪ませたが、すでに失態を犯しているので直ぐに表情を戻した。

 そして必至でお兄様がブラート令息をどうにかするのではと思い、気を逸らそうとする。


 

「まぁいい。それで、肝心のリドマン嬢はあの連中とどのような関りがあるんだ?」



 思ったよりあっさりとお兄様が落ち着いたので、明らかにほっとした表情で気を取り直して続きを話し始めた。


 

「あの者達とリドマン嬢の直接的な関りは無いそうです。リドマン嬢の目的はブラート令息の役に立つ事、そして認めてもらい、自分を見て欲しいという思いから令息の役に立とうと殿下と二人になる機会を伺っていたそうです。その過程で一学年の生徒会二人がブリューン令息達三人に嫌がらせを受けている事を知るとそれを利用し、生徒会がこの件に動く事は明らかで、しかも交流会中、それも社交会別対抗試合が行われる二日間ともなれば生徒会は分散するだろうと考えたようです。ただ、生徒会が出場を辞める可能性も無きにしも非ず、焦り最終的に二人を傷付け逆に危機感を煽り、殿下を出場させて周囲に人が少なくなるように仕向け一人になる機会を伺った。そして殿下と側近の一人の二人だけになった時を狙ったようです」

「生徒会はまんまと彼女の思惑に乗せられたという事か。案外頭はいいんだな」

「いえ、彼女一人の案ではないようです。死んだ者達の入れ知恵のようです。あの者達と何処で知り合ったか、ですが、交流会が始まり学園内で知り合ったそうです。令嬢は彼等を怪しいと思ったようですが、学園に通う生徒の親族で困っている彼女を自分達が助けになりたいと申し出たのを都合よく利用した。相手が平民だから最終彼等に擦り付けたらいいと考えたようですが⋯⋯」

「逆に利用された訳か」

「そのようです」

「やはり死なせたのは痛手だな」

「申し訳ございません」



 結局のところ、彼女が直接あの者達を学園に招いたわけでもなく、ただ利用されただけか。

 あの者達は令嬢がレキスの名を口に出した後に殴ったという事は何かしらつながりがあるのか、それともブラート令息もただ利用されたのか、まだ調べる所は沢山ある。



「それで、令嬢を今後どのように対処するつもりだ?」

「今のところは三日間は身柄を預かり様子を見ます。まだ、何かを隠しているよな、そのような気がしますので。殿下方から何か要望はありますでしょうか?」

「いや、ステラは何かある?」

「そうですわね⋯⋯」



 令嬢は殆ど話しをしたのだろうが、ちょっと気にかかる。



「丁度良い機会なので、情報局を見てみたいですわ」

「⋯⋯だそうだが、いいか?」

「それは、お望みなら構いません。一応上に確認したく存じます」

「勿論よ。今日とは言わないわ。明日、訪れても良いか後程連絡を頂けるかしら」

「明日、ですか。畏まりました。そのように伝えます」



 マリアンは執務室を後にしたが、リンディ伯爵から直ぐに質問が飛んできた。

 というか、話しを聞きに戻って来ただけかと思ったのだけれど、違うのかな。



「それで、王女殿下は何をお考えなのでしょう」

「情報局に行ってみたいだけよ」

「それだけではないでしょう? リドマン嬢に会うおつもりですか?」

「会うとは言っていないわ」

「あの様に突拍子な事を仰るのは何かあるからでしょう」

「あら、情報局を見てみたいのは嘘ではないわ。気になるもの。お兄様も見てきたらいいと許可を貰っていますわ」

「それならば後でもいいのでは?」

()が良いのです」



 言えばお父様に報告をされて止められてしまうかもしれない。

 伯爵が此処にいるのは情報局の報告を聞く為と、私達が危険な行動に出ないよう見張る為、そしてこれらをお父様へ報告の為だ。



「話すおつもりはないようですね」

「見物に行くだけですから」

「まぁ良いでしょう。では私は陛下の元へ戻ります」

「やっとか」

「そう邪険にされると傷つきますよ」

「これぐらいで傷つかないだろう」



 何を言ってるんだとお兄様は伯爵に冷たい態度をとる。

 何かあったのかな。

 侯爵にこのような態度でいることは無かったと思う。

 静かになった執務室でほっと一息つく。



「それで、明日会いに行くんだね」

「彼方がそれでいいのなら、ですけれどね」

「ステラの意図は伝わっているよ。私は予定があるから一緒に行けないけど、気を付けるんだよ」

「情報局に行くだけですから、そう心配なさらないでください」

「心配しているのはそこじゃない」



 お兄様が言いたいのは、令嬢と会う事は心配をしていないが、それ以外の所だ。

 令嬢の言い分は私の事が気になっているという嫉妬からだけで、あの者達は王家の失墜だと話した。

 目的は全くの別物で彼等の狙いは私達。

 宮廷内だからと言って絶対に安心かというとそうではない。

 護衛は多くいるのでその点は安心だけれど、襲われないとも限らないので、お兄様はそこを心配しているのだ。

 そんなお兄様と無理はしないと約束をした。

 ブラート令息に関してはお兄様が調べて下さるというのでお願いをした。

 私は、出来れば関わりたくない。

 けれど、結果はちゃんと教えてくださるようにお願いをした。


 お兄様はご自分の執務室へと戻られ、残った私達は明日の同行者をティナとレグリスに決めた。

 程なくして情報局から返事が届き、明日の十時半に時間が決まった。

 

 そして翌日。

 時間通りに近衛の案内でティナとレグリスを連れて情報局へと向かう。

 殺伐としているかと思いきや、清潔で花も飾られてあり全く印象が異なる。



「明るい場所ですね。もっと鬱蒼としてるかと思った」

「長官である、シルヴェル侯爵は綺麗好きで有名なのよ」

「綺麗好きで有名って、それって綺麗好きじゃなくて潔癖なんじゃないですか?」

「そうとも言うわね。だから仕事場でもそれを如何なく発揮して、明るく清潔を保っているのでしょう」



 潔癖なのに捉えた者達を尋問するのは嫌でしょうね。

 けど長官自ら尋問する事なんて無いのかな。

 会うのも嫌がりそうよね。

 お披露目の時に挨拶を受けたきり会っていないけれど、その時は情報局とは似つかわしくない容貌だなと思ったのを覚えている。

 近衛に案内されたのは情報局長官の応接室。

 既に部屋で私達を待っていた。



「お待ちしておりました」

「昨日の今日で時間を作っていただきありがとう。一年前にお会いして以来ですわね」

「はい。王女殿下におかれましてはお怪我も無く安堵いたしました。そしてこの度、捕らえた者を容易く死なせてしまった事、誠に申し訳ございません」

「過ぎた事は仕方ありませんわ」

 


 終わった事をとやかく言っても仕方がない。

 今後気を付けて調査してもらえばいい。



「殿下は令嬢と会う事をお望みだとか」

「あら、一番は興味があるのは情報局ですわ。どのような所か気になりましたの」

「こちらに興味を持って頂けて恐縮です。ご感想はいかがですか?」

「とても穏やかな場所ですわね。仕事内容とは全く異なる場所ですわ。花を飾っているのは長官の指示かしら?」

「はい。仕事の内容が内容なだけに、その空間まで殺伐していたくはありません」

「確かに、お仕事をする場所の雰囲気は大事ですものね」



 暫く長官と雑談をする。

 彼は穏やかな気質のようだが、それは今だけだろう。

 人を見た目やその時の言動で判断は出来ない。



「そろそろご案内しましょう」

「お願いしますわ」



 私達は長官の案内でリドマン嬢が捕らわれている部屋へと向かった。


 

ご覧頂きありがとうございます。


ブクマ、いいね、評価をいただきとても嬉しいです。

そして誤字報告をありがとうございますm(__)m


前回の後書きに書きましたが、修正してたらお話し進みませんでした(_ _;)

そしてまだ続きます。


次話も楽しんで頂けたら嬉しいです。

よろしくお願い致します。


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