23 兄妹のお茶会
昨日に引き続き今日も休息日。
昨夜の夕食の時に、お兄様達から「兄妹だけでお茶会をしよう」とお誘いをいただいたので、午前中は昨日と同じく読書を楽しもうと、折角なのでまだ借りていたシベリウス辺境領の本を持って図書室へ行くことにした。
図書室に入るとマティお兄様がいらっしゃった。
「おはようございます。お兄様」
「おはよう、シア。朝から読書?」
「はい。この間借りた本を折角なのでこちらで読もうかと思いまして」
「シアは偉いね。レオンなんて殆ど此処に来ないよ」
本人も読書好きでないと言っていたし、お兄様の言葉に納得した。
読書、楽しいのに勿体無いよね。
「お兄様はお勉強ですか?」
「そうだよ」
「頑張ってくださいね」
「ありがとう」
会話が終わると、私は読書に没頭した。
グランフェルト王国には二ヶ所の魔物侵攻を留める重要な拠点がある。
一箇所は此処、シベリウス辺境領。
もう一箇所はシベリウス辺境領と反対側にセイデリア辺境伯領がある。
此処には「霧の森」と言われる広大な森があり、その名の通り霧がよく発生するのだが、此処は行商人や旅人も通れるように森の中にも街道がある。霧に惑わされないよう、魔道具で道標があるのだ。
しかし、その街道を一旦外れると、霧深い鬱蒼とした木々が広がり、地元⋯⋯それもこの森を熟知した者でしか入ることができない。
そういう森なのだが、数年から十数年に一度、魔物が大量発生し、こちらに侵攻してくる。
魔物の発生は、人々の邪な心や穢れが原因で産み出されていると言われている。
大体これが起こる前に“前兆”があるようで、それが起これば街道は全て封鎖される。
人々の犠牲を出さないためだ。
“前兆”が表れ、大量発生が起これば、シベリウス辺境領の騎士団と傭兵団、冒険者達がこの地を守り、この先へと魔物達を行かせないよう死力を尽くす。
こういった事から、この地には騎士団が存在するのだ。
何故、この地なのかはまだ解明されていない。
何か発生源になるような物でも在るのだろうか。
何にしても此処で生きていくならば強く在らねばならないのだ。
この辺境領は何も魔物の侵攻を留めているだけではない。
良質な絹糸が穫れたり、薬草等の質が良く、薬の精製でも有名だ。
この領では薬が良質だと、魔物達を討伐の際には非常に有難い。
治癒魔法もあるが、薬である程度治せるなら治癒に使う魔力を攻撃や補助に回せるからだ。
絹糸に関しては、衣類作成でも欠かせない。
領民はもちろん、各地の服飾工房にもこの領の絹糸は人気で高値で取引されてる。
――絹糸って蚕から獲れるのよね、見てみたいな⋯⋯
「シア!!」
急に大きな声で呼ばれたので、ビクッとしてしまい、本を落としてしまった⋯⋯。
「やっと気が付いたよ。凄い集中力だね」
「お兄様、吃驚しましたわ」
「何度呼んでも気付かなかったからね」
「それは、申し訳ありません」
また気付かなかったみたい。
「そろそろ昼食だから一緒に食堂に行こうか」
「はい」
お兄様のエスコートで一緒に食堂へ向かった。
食堂に着くと既に私達以外皆揃ってたので「遅れて申し訳ありません」と謝罪した。
その後、お養父様の合図で食事をし始めた。
「今日はゆっくりだったけど、朝は何してたんだい?」
「図書室で本を読んでいたのですが、集中し過ぎてお兄様の呼び掛けに気付かなかったのです」
「話には聞いていたけど、シアの集中力は凄いよ」
「ちなみに、何を読んでいたのかな?」
「今朝は、シベリウス辺境領の事が書かれた本を読んでいました」
「勉強熱心だね」
ただ、本が好きで、色々と知るのが楽しいから読んでいるんだけれど、特に勉強熱心ではないと思うのだけれど⋯⋯。
「シアはほんとに凄いよね、そんなに本が読めて。僕だったら絶対寝る自信ある」
とはレオンお兄様。
「レオンはもう少しシアを見習いなさいな」
一言余計なことを言ってしまったお兄様は、お養母様の追撃を受けていた。
「今はお邸の中に居るだけなので、今の内に沢山読んでおきたいのです」
きっと外に出るようになったら、今度はそちらにも興味が行くので、時間のある今の内に沢山の知識を身に付けておきたいと言うのが本音。
楽しく話をしながらの昼食が終了し、一旦部屋へ戻る。
そこで一休憩を挟み、また本を読む。
昨日と全く同じパターンになっているのだけれど。
読み終わると先日と同じく図書室に返却し、お兄様達が待つ部屋へと向かった。
今日は邸内のサロンでお茶会。
マティお兄様が既におり、お兄様に挨拶をして席に着く。
「シアはまた本を読んでいたのかな?」
「はい、今朝の読んでいた本の続きを最後まで読みきって来ました」
「流石だね」
「お兄様はお勉強ですか?」
「そうだよ、覚えておきたいことが沢山あるからね」
「お兄様も凄いです!」
マティお兄様と話をしているところで、レオンお兄様がやってきた。
「お待たせいたしました」
「いらっしゃい、レオン」
「ごきげんよう、レオンお兄様」
私達は挨拶をし、侍女が手際よくお茶の準備をする。
用意が整ったところで、お茶会が始まった。
「こうやって三人でのお茶会もシアが回復して以来だね」
「そうですわね。またお兄様達とお茶会が出来て嬉しいです」
「僕も、兄妹のお茶会が一番ほっとする。たまに母上達のお茶会に呼ばれると緊張するから」
確かに、緊張するわよね。
これにはマティお兄様も頷いていた。
「だけど、これからは三人で集まる事も早々出来なくなるね」
「お兄様が学園に入学されるので、寂しくなります」
「学園の長期休日の時は帰ってくるから、その時に私達だけで集まろう」
「僕は兄上が最初の休みに帰ってくるまでにもっと強くなっていますので、手合わせをお願いします!」
「今からその約束か?」
「一本は獲れるようになっておきます!」
と言うことは、レオンお兄様はマティお兄様に全く勝ててないってことなのね。
三歳離れているから仕方ないと思うのだけれど、本人はとても真剣。
「私もお二人が剣を合わせているところ観てみたいです!」
「シアが見学するならもっと頑張らないと!」
「学園で学んで来るから、私もそう易々と負けないよ」
「お二人とも頑張ってくださいね!」
私は二人にエールを送ったけれど、心の中では私も早く剣を習いたい!と強く思っていたのはまだ内緒。
どっちにしてもまだ無理なのである。
そもそも体力がないから⋯⋯。
お兄様達との楽しいお茶会も終了し、部屋へ戻ってきた。
今からはヴァレニウス語の本で語学の勉強をする。
予習復習は大事だよね。
明日からは講義があるので、しっかり勉強しないと。
そして早朝には体力作りのために運動をするのも忘れずにね。
ご覧いただき、ありがとうございます。
次話もよろしくお願い致します。





