227 傷つけられた二人
交流会も無事に進み、明日から社交会別対抗試合が始まる。
今年の交流会も後二日で終わりだ。
「交流会も残すとこ後二日となりましたが、明日からはこの生徒会全員で臨みます。相手は此方の力量を見て指名してきますが、一年生の二人は分からない事、出来ない事があったとしても落ち込まずに最後まで楽しんで下さい。卑怯な事を平気でしてくるからね」
「去年もそれでステラ様に呆気なくやられていましたものね」
「向こうも翌日に出場したいだろうからね。そう簡単には通してあげないけど」
今年はどんな種目を用意されているのか、明日が楽しみではあるけれど、今年は最後まで無事に楽しみたい。
それは一年生以外の皆が思っている事。
「今日はゆっくり休んで明日に備える様に」
お従兄様は手短にまとめて今日が終わった。
そして翌日の朝、事件は起こった。
私達は早くに生徒会室に集まるのだけれど、私とお兄様が生徒会室に着くとまだ揃ってはいなかった。
少し早くに着いたのでそれは良いのだけれど、少ししてからウィルマさんが生徒会室に来たけれど様子が可怪しい。
遅刻というわけではないのだけれど、何故か不安顔だ。
室内を見渡し落胆する。
理由を聞けば、ソニヤと待ち合わせをして一緒に来る予定が何処にもいないらしい。
時間にホールに来なかったので、彼女の部屋へ見に行ったが、同部屋の子が少し前に部屋を出たと話していた。
周辺を見回ったが何処にもいなくて忘れたということはないだろうけど、生徒会室にもいなくて青褪めている。
それからすぐに今度はリアムさんとケヴィン先輩が一緒にやって来たのだけれど、こちらもハネルがいないと深刻な様子。
ハネルとソニヤ、この二人がいないとなれば、疑わしきはあの三人だけれど、先ずは二人を見つける事が先決だ。
ハセリウス先生は職員棟へ行き、二人の出欠の有無、外泊の申請がないか、これは無いと思うが一応確認の為に向かった。
その間に、もう一度周囲を探す為に女子寮にはティナとディオ、そしてウィルマさんの三人が、男子寮にはフィリップ先輩とリアムさん、ケヴィン先輩で確認しに行った。
どちらか一人だけだったら体調不良かと思う所だが、二人揃ってという所が怪しい。
何かあったのでは心配になる。
暫く待つ事、誰かが此処に走ってきた。
「大変です!」
そうドアを開けると同時に叫びながら入って来たのはリアムさんだ。
寮から此処まで走って来たのか息を切らしている。
「何があった?」
「ふ、二人が⋯⋯」
「リアム、取り敢えず落ち着け」
会長はリアムさんにお水を渡し、お礼を言って一気に飲み干して一息ついた後、話し始めた。
先ず、二人は寮ではなくて学園の中庭にいたのだが、怪我を負って倒れていた。
寮では見つからなかった為、一旦女子寮に行った三人と合流し、学園を二手に分かれて探そうとしたが、女子寮に近い庭でうめき声が聞こえ六人で声のした方へ向かうと二人が倒れていたそうだ。
怪我自体は大したことないが、二人共今は医務室で手当て中だという。
周囲に人影が無かったので二人から話しを聞いている最中らしい。
それを聞いたハセリウス先生は直ぐに医務室へ、副会長のルイスと共に向かった。
傷の具合を確認し戻って来たのはルイスだった。
二人は意識が戻り、ハセリウス先生がそのまま事情を聴いているそうだ。
「二人の傷が大したこと無かったのは安心だが、この事態は重く、早急に対処しなければならない。疑わしきは二人を敵視していたあの三人だが⋯⋯」
「会長、提案があるのですがよろしいですか?」
「構わない」
「ありがとうございます」
お従兄様が提案したのはもうすぐ始まる社交会別対抗試合には出場する事。
今回この様な事になったので、参加を見送る流れになっていたが、だれがどのような目的か分からない為、試合相手の中にいるかもしれないので、試合を八人で臨み残り六人は捜査するという事。
試合には今年で卒業の会長とルイスは必ず参加で、マティお従兄様は捜査する側で指揮を執り、人選もささっと決め、会長も了承したのであっさりとこれからの動きが決まった。
因みに私とヴィンスお兄様は交流会に参加する方だ。
お兄様は捜査に加わろうと話したが、あっさりと駄目だしされた。
何が起こるか分からないので、沢山の目がある試合に参加してくださいと言われてしまい、私も同様の理由で参加が決まった。
お兄様の側近でありレオンお従兄様、私の側近のレグリスは同様に試合に参加で、二人を探しに行った六人の内、ケヴィン先輩を入れて八人だ。
ざっと決めた後、直ぐにお従兄様は五人と共に生徒会室を後にした。
残された私達で試合に臨むのだが、試合中に不審な点がないか周囲を注意するよう会長から指示された。
私達の参加人数の変更は特に問題が無い。
問題はないが人数が少ない事は風紀と広報に共有し、風紀部も数名協力してくれることとなった。
「私達の人数が減ったことは教職員と風紀、広報には理由が伝わっているが、他の社交会には知られていない。試合中に何か聞かれても生徒会の仕事で参加しないと答えるように。試合に関しては無理をせずに出来るところまで力を合わせて頑張ろう」
「「「はい!」」」
この場にマティお従兄様がいないので会長が指揮をとり試合が進む。
相変わらず相手の足元を見て指名され、やはり人数が少ない事へ探りが入るが先程の会長の指示通りに答える。
例年がどうかは分からないけれど、以前にも数名抜けて参加した事があるのか、思ったよりも深く追及されることは無かった。
まぁ中にはしつこい人もいるようで、レグリス達が面倒くさそうにしている。
社交会別試合の初日は特に問題なく試合が終わり、私達は無事に二日目に進むことができた。
生徒会室に戻るとそこには今日調べていたマティお従兄様達が私達を待っていた。
「試合、お疲れ様です」
「あぁ、マティアス君達も調査お疲れ様。で、どうだった?」
「はい。同部屋の生徒に話を聞いてきましたが、其々生徒会の先輩達と待ち合わせをしているので先に行くと伝え部屋を後にしています。ソニヤ嬢は待ち合わせ時間の十分前に、ハネルは十五分前には向かったようです。ウィルマ嬢は待ち合わせ時間の五分前から待っていたようですが、ソニヤ嬢の姿は見ていないという話しでした。二人に確認を取ったハセリウス先生によれば、無理やり人気のない場所、発見した場所まで連れていかれたという事でした。ハネルを連れて行った者はブリューン令息、ブラスト令息、オスト令息の三人。ソニヤ嬢を呼び出したのは三学年のリドマン子爵令嬢です」
――リドマンって、あの試験の時に喚いていた令息の⋯⋯。
リドマン子爵とは話したことがない。
お披露目の時も伯爵位までの挨拶を受けただけで、その後も来てないので、実際どんな方が知らない。
勿論令嬢の顔を知らない。
「ソニヤ嬢を連れて行ったのはその令嬢一人でか?」
「はい、そのようです」
「ソニヤ嬢は何故年上の子爵令嬢を知っていたんだ?」
「自分で名乗ったそうですよ。名を名乗らなかったらついて行かなかったと」
名乗られてしまったら付いていかなければと思うかもしれないわね。
逆に名乗らなかったら断る理由にもなる。
相手が何者かわからないのについて行くようなことはしないでしょう。
「その三人の令息と令嬢から話しを聞くことができたのか?」
「いえ、交流会中は自身の出る種目以外は教室や図書館で過ごすも自由で学園にる筈ですので確認の為に寮内を探しましたがおりませんでした。学園内を探すといっても流石に限度がありますので、試合会場を重点的に探してみましたが、見当たりませんでした」
「生徒達だけではなく、外部から観戦に来ているので、流石に難しいだろうな⋯⋯」
「ハセリウス先生が今夜寮に戻っているか確認を行うと話しておりました。戻っているならば、明日寮を出たところで引き留めます。ですので、明日も分かれて行動するつもりですが、よろしいですか?」
「構わない。だが、少し人選を変えよう」
会長が人選に選んだのは、今日試合に出た八人を調査へ回すという事。
これには会長以外の皆反対した。
会長とルイスは試合に出て欲しいと、学園最後の、最終日の試合を楽しんで欲しいと皆からのお願いだ。
そうなれば指揮する者がいないと会長が心配した為に人選を変更し、ティナが調査の指揮を執り、他はお兄様、レオンお従兄様、ディオ、ケヴィン先輩にレグリスだ。
これで会長とルイスは最後の試合まで出場出来るので皆でほっとした。
会長は皆の気遣いに嬉しそうにしながらも複雑な表情をしているけれど、ありがとうとお礼を述べた。
翌日の早朝。
お兄様は早くに学園に向かった為、私は初めて一人で向かう、そう思っていたが、王宮のホールにはマティお従兄様が待っていた。
「おはようございます、ステラ様」
「おはようございます。お従兄様がいらっしゃって驚きましたわ」
「ヴィンセント殿下がいらっしゃらないのに、お一人で向わせるわけにはいきません」
「けれど学園から態々こちらに来てとんぼ返りではお従兄様には負担を掛けてしまったのでは?」
「いえ、昨夜は許可を取り邸に戻りましたので負担はありません」
「外泊が出来ますの?」
「全くできない事はありませんよ」
ご存知でしょう? とお従兄様に視線で問われた。
お従兄様曰く、王族の側近ともなれば都合で邸から通う事もできるのだという。
その他の生徒でも家の事情で家に戻る事も出来るそうで、必ず申請を出さなくてはならない。
申請なく外泊をすれば重い処罰があるそうだ。
お従兄樣の説明で入寮した時に説明書を読んだけれど、関係ないとすっかり忘れていた。
「ステラ様、今日は必ず誰かと一緒にいて下さい」
「一人になる時間は無いと思うのですけれど」
「そうですね。ですが、お願い致します」
「それはリドマン子爵令嬢が関わっているからかしら?」
「はい。リドマン子爵家はノルドヴァル家に属する家柄。警戒するに越したことはありません」
お従兄様の仰る通り、何が起こるか分からない。
今年は楽しく過ごせたらよかったのに⋯⋯。
また騒動が起きた事に落胆する。
「ステラ様、学生生活はまだ長いですよ」
「そうだけど、こう毎年何かあっては嫌になります」
「嫌にって、まだ二年目ですよ?」
「色々とあり過ぎて、学園ではもう少し平和に過ごしたいと思っていたのに」
「ステラ様、愚痴をこぼすのは此処だけですよ」
「勿論ですわ」
「学園が見えてきましたね。あちらが気になるかと思いますが、私達は試合に集中しましょう」
お従兄様と共に生徒会室に入ると、ハセリウス先生がいらっしゃってその表情は何時ものように笑顔挨拶をされたが、その向こうに見える皆は少々面倒な、不可解な表情をしている。
その中にハネルとソニヤの二人の姿もあり、怪我はすっかり治癒されていて皆と一緒にいる方が安全だろうと試合に参加する事になったようだ。
それで今朝の出来事だが、あまりいい結果では無かったようで、皆の様子から何かあったのが見て取れる。
それはハセリウス先生の言葉で結果が分かった。
「困ったものだな。今無断で邸に戻ったのかを確認しているが、何処へ行ったのやら⋯⋯」
捕まえられなかったのはブリューン令息とリドマン嬢だ。
寮の夜は警備員が配置されている。
その警備員に確認をするも正面から出た様子はなく、見回り中の怪しい人影も無かったそうだ。
という事は、警備の隙を狙って出たか、それとも寮の何処かに潜んでいるか⋯⋯。
寮は侯爵家から一人部屋となるので、二人共に同室の生徒がいるが、二人に話しを聞けば、夜はちゃんといたらしく、朝起きたら既にいなかったらしい。
という事は寝静まった夜から明け方にかけていなくなったのだろう。
今迄そのような事が無かったというから今回が初めての事。
「二人が何処にいるかで変わってくるが、一先ず試合に出る者達は試合に集中するように。ハネルとソニヤの二人は決して一人で行動するなよ。必ず誰かと一緒に行動しなさい」
「はい」
「上級生たちは二人をよく見ているように。調査をする面々も気を付けなさい。何かあれば直ぐに教師へ連絡するように、いいな?」
ハセリウス先生からの言葉で私達は各自分かれて行動する。
私達は共に試合会場へ移動するが、間にハネルとソニヤの二人を挟んでいる。
二人共意気消沈していて元気がない。
襲われたら怖いに決まっている。
その恐怖は中々取れない。
何とか元気を出してほしいが、二人は皆に迷惑をかけている事への罪悪感をも抱いているようで何かと謝ってくるが、会長を始め皆謝る必要はないと、悪いのは二人を襲った者達だからと慰める。
今迄貴族と接する事がなく、急にこの様に関わりを持ち、ただ二人に害を為したのが貴族だから委縮しているのか、二人の心情が知れたらと思うけれど私が話すと余計駄目なような気がする。
考え事をしながら歩いていると、会場に着き控室へと向かう。
種目を確認した後、今日初めて社交会別対抗試合に出る二人へマティお従兄様が説明を行う。
二人共必要以上に緊張しているように思うが、ウィルマさんとリアムさんがそっと二人に寄り添い補足をしている。
二人と話しをしている時は自然に笑顔が出ているので、やはり貴族に対して、同じ人間とは思われていないと思うが、それでも委縮してしまうのかもしれない。
――本当に人として最低だわ!
私が内心憤っているといつの間にか傍に来たお従兄様に覗き込まれていた。
「お従兄様、如何されましたか?」
「何か気になる事でも?」
「いえ、今回の試合内容がちょっと⋯⋯」
「確かに、昨年の事を考えて無難にしたようですね」
上手く話しを逸らせたようで良かった。
昨年あのような事があったので、今回の一種目目は三名一組で限られた時間内に物の価値を見出し、その利用法を説明するというもの。
二種目目は先生からお題が出され、それについていかに素早く問題解決が出来るかを答える。
最後は流石に昨日もほぼ知能を使った試合だった為、模擬戦だ。
だが、いくつかの制約付きで。
「知能戦ばかりでは観客も退屈だろう」
「会長、その発言では私達が見世物のようではないですか」
そう発言するのはリアムさんだ。
彼は今日、よく会長と話しをしている。
きっとそうする事でハネル達の心内を和らげようとしているのかもしれない。
会長はいつも通りだけれど、そのリアムさんの思惑は分かっているのか、いつも以上によく話しているように思う。
「実際そうだろう。この交流会が先の決まっていない八学年を始め、七学年の生徒をいかにして勧誘するか、その場でもあるし、生徒側も将来がかかっているからな」
「会長は既に決まっているので余裕ですよね」
「私だけではない。ルイス嬢も決まっている」
「私はステラ様の側近ですから」
二人共余裕綽々だ。
「聞いてみたいことがあったんだが、側に上司がいるとはどんな気分だ?」
「そうですね⋯⋯」
ちらりと私を見てからルイスは笑顔で答える。
というか、その質問は私がいない所でして欲しい。
「ステラ様は優しくも厳しい一面もありますが、上司としてはとても素晴らしいですよ。私達の事を気遣ってくださり、時には厳しい言葉もありますが仕事場の環境は良いですしね。これは関係ないかもしれませんが、ステラ様の意外な姿を見る事が出来て楽しいですよ」
「ほう。殿下の意外な姿をね。それは興味あるな」
「ふふっ。ラグナル様は宮廷でお仕事されるのでしたら殿下の意外なお姿を拝見できるかもしれませんね」
「それは楽しみだ。あぁ、何かひとつだけでも教えて欲しいな」
「それでしたら⋯⋯」
「ルイス!」
何を言うつもりなのか、私は咄嗟にルイスを止めた。
「あら、どうされました?」
「何を言うつもりか知らないけれど、それ以上はダメよ!」
「折角ステラ様の可愛らしいお姿を皆で共有しようと思いましたのに⋯⋯」
「そんなの共有しなくていいわ。恥ずかしいから止めて」
私は必死にルイスを止める。
それを見たルイスは、仕方ありませんね、と私から会長に視線を向ける。
「ダメか?」
「上司がダメだと申しておりますので」
「それは仕方ないな」
あっさりと会長は引き下がる。
二人共、態とそうした話しを振ったのは分かってはいるけれど、ルイスのあの笑顔はちょっと本気だたと思う。
ティナとよく一緒にいるせいか、たまにティナと同じような事をするのよね。
油断は出来ない。
私達のやり取りを見てハネルとソニヤの二人は呆気に取られている。
その様子にウィルマさんとリアムさんは面白いよねと話しをしていた。
まぁ、二人の為にこのような寸劇みたいな事をしたのは分かっているけれど、暴露だけは止めなければならない。
何はともあれ、少し重かった空気が和らぎ、ハネルとソニヤも少し気が抜けたような顔をしてるから少しばかり安心した。
「そろそろ会場に向かおう」
時間となり、会長を筆頭に私達は控室を後にした。
ご覧いただきありがとうございます。
ブクマ、いいね、評価をいただき嬉しいです。
ありがとうございますm(__)m
次回は、クリスティナ視点で話が始まります。
捜査を進めるもクリスティナ達は二人を見つけることが出来ずにいたが、その問題の二人の内、一人はエステルの前に現れるが、どこか様子が怪しいく警戒するが⋯⋯
次話も楽しみにしていただけたら嬉しいです。
よろしくお願い致します。





