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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第3章 決意を新たに
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218 試作品


 ヴォルゴート公爵から試作品が仕上がったとの連絡があり、現在応接室の机の上にはそれらの品々が並べられている。

 素朴な物から色を付け凝ったデザインに加えて押し花の技術を取り入れた物まで今迄にない装飾品だけなく、生活する上でよく使用される雑貨等が今まで以上に華やかで値が張るだろう予想できる仕上りになっている。

 同席しているティナとディオも驚いている。

 


「殿下のご提案以外の物も幾つか作成してみましたが如何でしょう」

「正直驚きましたわ。短期間でこの様に種類多く、可愛らしいものから優美なものまで⋯⋯素晴らしいですわ」

「ギルドと職人を集め殿下のご提案を皆に話すと彼等の職人魂に火が付いたようで、殿下のご提案の品に加え、こちらの品々が出来たといった具合です。他の国々にない作品が仕上がりましたので、これらを少しずつ世に出していく予定です」



 公爵は既に今後の予定を決めているようだ。

 私が提案したのはあくまでも花を使ってはどうかということだけ。

 それ以外は公爵領の職人達の力で、それらをどのように広めるかは公爵の采配で良いのだけれど、私にも詳細報告がされる。



「殿下、此方を」



 公爵の言葉を聞き、同席している彼の側近が私の前にそっと箱を置いた。

 それは他とは違い、とても綺麗に包まれていた。



「公爵、これは?」

「こちらは殿下へ。今回素晴らしいご提案を頂きました事への細やかなお礼です」



 細やかなお礼にしてはとても重厚感のある包みで、とても細やかとは言えない。

 言えないが、折角の好意なので早速開けてみる。



「公爵、これは⋯⋯」



 開けてみて更に驚いた。

 透明度が高く、透き通った球体の中に広がる無数の花々。

 幻想的でとても綺麗だ。



 ――だけど、何だか既視感が⋯⋯。



「お気付きになられましたか?」

「えぇ。これは去年、(わたくし)が交流会で披露した光景ですわね。公爵は見にいらっしゃっていたのですか?」

「いつも見に行くわけではないのですが、去年は王都に用事がありまして、その空いた時間に学園に立ち寄ったのです。丁度行っていたのが一、二学年の魔法披露でした。当時はシベリウス辺境伯令嬢でいらした殿下の魔法披露には目を奪われました。あのような美しい光景を目にする事ができるとは⋯⋯あの光景は今も目に焼き付いております」



 ――そこまでの事したかしら。



 皆に称賛はされるものの、私は真面目に考えて行っただけだし、第三者として見たわけでもないので未だに実感はない。



「殿下へお渡しする品はこれだと、迷いなく作成指示を出しました。仕上がった作品を確認した時、これ程素晴らしい出来に我が領の技術者達を改めて誇りに思います」



 公爵は技術者達をそう褒める。

 今の所は自領を大切にしている様はよく分かるが、お父様達に聞いていた頑固者というのが全く分からない。



「公爵、この様に素晴らしい品をありがとう」

「いえ。領の技術発展に繋がった事を思えば、これぐらい大したものではありません」



 ――今、彼等を褒めたばかりよね?



 先程の称賛が嘘なのかと思うような言動は一体どういうことか。

 もっと実力を伸ばせということかしら。



「さて、これからが本題なのですが⋯⋯」



 本題って、今日はこれらを見せに来たわけではなかったかしら。

 他に公爵が私に何の話があるのか見当がつかない。



「今回我が領のガラス工芸の技術向上に伴い、更なる利益が上がるのは自明の事実」



 公爵が何を言いたいのかが分からない。

 利益があるのは良い事。

 それは公爵領だけでなく、国としても歓迎すべき事なのだけど、そのような話は私ではなくお父様にすべきなのではと思う。



「殿下には技術向上のご提案を頂きましたので、今後は殿下からご依頼があれば優先し、無償でご期待に添いたいと思います」 

「公爵、流石に無償というわけにいきませんわ」


 

 公爵の話しを静かに聞いていたけれど、流石にその言葉に指摘したが公爵は私の言葉には考える事なく首を振る。


 

「いえ、これは私を始め公爵領の者達の総意です」

「そうだとしても、やり過ぎです。(わたくし)がそれに甘え無理難題なお願いをしたらどうするのです?」

「そう仰っている時点でそのような事は無いでしょう。兎に角、これは技術者達を始め、私が決めた事です。この決定を変えるつもりはありませんぞ」



 今までにない強い語気で話し終えた公爵と睨み合いをするが、全く目を逸らす事も無く考えを変えることは無いと目で語っている。

 だからといってそれを是とするのは如何なものかと⋯⋯無償はやり過ぎ。

 無償ではなくせめて何割引き、若しくは先に言った通り他の方に迷惑が掛からない程度に融通を利かせてくれる程度でも十分だし、何よりも経済を回す為にも私が何も支払いをしないのは如何なものかと思い、それらを伝えても全く持って取り付く島もない。

 このままでは埒が明かないし、私から何かをお願いする事はそうないだろう。

 私が気を付けていればいいかな、と最後は諦めの境地だ。



「⋯⋯分かりましたわ。公爵の提案に甘えましょう」

「ご理解頂けてようございました」



 ――普通逆じゃない?



 何故公爵がそのように言うのか、気分的に公爵に負けた気がしてならない。

 負けたというのも語弊があるけれど、経験の差で全然口で勝てる気がしない。

 


「殿下は欲が無さすぎではありませんか?」

「そのようなことはありませんわ。(わたくし)が無償でという申し出を断るのは経済を回す為にはそれなりに出費は必要でしょう? それを(わたくし)がしないのはどうなのかと思ったからです。公爵にしてみれば、(わたくし)が要望を出すことによりそれが宣伝効果に繋がると考え無償にという話になったのでしょうけれど、それとこれとは別だと思うの」

「ほう。此方の思惑を承知いただいている上で断りを入れていらっしゃったとは」



 公爵は感心するが別に感心されるような事ではない。

 たとえ私を使って宣伝するにしても注文をする立場から言えば一客で、宣伝としての効果を割引という形にすればいいだけの事。

 公爵にとってはまだ何か考えがあるのかもしれないが、それを読み取ることが出来ない。



「さて、そろそろお暇いたします。何かご入用の際はご遠慮なさらずお申し付けください」

「えぇ、その時はお願いしますわ」



 結局公爵の提案通りで話は終わった。

 経験が浅いから、を言い訳にしたくはないけれど、私もまだそう多くの貴族達と接しているわけではないし、多くは好意的な貴族ばかりと話しをしているので経験不足が否めない。

 公爵が去った後、私は一息つく。



「ステラ様、お疲れですか?」

「疲れてはないわ。ただ、ね⋯⋯」



 先程の公爵とのやり取りで考えさせられる事が多く、私の甘さが原因なのだけれど⋯⋯。


 

「公爵様は殿下を宣伝として使う事に対しての期待と謝罪の意味も込めていらっしゃるのですわ。それに甘えてもお釣りがきます」

「ティナも公爵と同じ考えなの?」

「そうですね。我が国の王女殿下を自領の宣伝に使うのならばそれに相応しい対応をしなければいけません。ステラ様の仰っている事も理解できますが、それだけ大事に思っているのです。その気持ちも汲んでくださいませ」

 


 それは臣下の想いだとティナは言う。

 それを言われては私からあれこれ言えない。

 どうしてもそれを通したいのなら命じればいいと、流石にそこまでの事ではないので簡単に命令として言葉にしたくない。

 


「お気にされるのであれば、殿下が作って欲しい物を沢山仰ればいいのですわ。そうすればヴォルゴート領も栄えるでしょう」

「そうね。話は終わったので蒸し返す気はないし、そうするわ。それにしても⋯⋯」



 目の前にあるのは先程試作品と言って私に見せていた品々。

 それらを持ち帰りせずに好きにしてくださいとさらりと置いて行ってしまったのよね。

 これ、どうしようかしら。



「ディオ、ルイスを呼んできてくれるかしら」

「畏まりました」



 一部は平民向けに販売する予定の物なので、一番現状を見る機会のあるルイスに渡すのが良いと考えディオに呼びに行ってもらっている間に、ティナと改めて品定めをする。

 直ぐにルイスが部屋へ入ってくると、卓上の様子を見て驚いていた。



「これがヴォルゴート産のガラス工芸品ですか?」

「そうよ」

「他領のガラス製品を見た事はありますが、やはり比べ物にならない程綺麗です」

「そんなに違うもの?」

「えぇ、違いますわ。城内のガラス製品は主にヴォルゴート産ですが、王都の手に入りやすいガラス製品は他領や他国で造られている物が多いのです。ご存じの通り、ヴォルゴート領がこの国随一ですから、その分やはり値段もそれ相応になるのです」



 ルイスは凄いと言って間近で見ている。

 その目は輝いていて、彼女の様子から見ても売れると確信が持てる。

 値段を聞かれたので伝えると更に興奮していた。



「今伝えた値段だと、平民の間で売れるかしら?」

「えぇ、売れると思いますわ! 私も欲しいです」

「それならこの中で欲しい物は持ち帰っていいわ」

「えっ⋯⋯あ、いえ、流石にそれは出来ません!」



 私の提案にルイスは即座に断ってきたが、やはり気になるのかちらりと卓上に視線が向く。


 

「ルイスには装飾品を付けて街を歩いて欲しいの。街の者達への宣伝も兼ねてね。最初からルイスには何点か持ち帰って貰うつもりだったの。試作品で申し訳ないけれど、ルイスのお母様にも贈り物として渡してはどうかしら」

「いえ、しかし⋯⋯」

「貴女のお母様は騎士団の事務職員なのでしょう? 騎士団の男性陣の目にとまれば、女性への贈り物として然りげ無い宣伝になるでしょう」



 女性への贈り物で悩む男性陣にとっては目新しい物という事できっと広まるわ。


 

「ですが、これを殿下から頂いたと母に伝えてもいいのでしょうか?」

「お母様にはお伝えしてもいいけれど、それ以外の方には伝えない様に。あくまで然りげ無く、ね。詳細を尋ねられたらヴォルゴート産だというのは話してもいいわ。あくまで試作品という事で王都での発売は一ヵ月後になるでしょう。後は各自でお店に問い合わせをするなりするでしょう」



 まぁそこまで大事になる事は無いでしょう。

 ルイスは私の言葉に遠慮しつつもどれにしようかと悩んでいた。

 宝飾以外の実用品もいくつか持ち帰って貰うとして、残ったものは値の張る物ばかり。

 ルイスって目利きの才能でもあるのか、理由を聞けば流石にこれらを家に置くことはできないと、防犯の理由もあり納得した。

 他の物をルイス以外の側近に分けた。

 私が頂いたものは侍女に預け王宮の自室に運んでもらうが、その前に夕食後にお父様達にもお披露目をする為に、部屋へと移すよう指示を出した。



「ほお。これがヴォルゴート公爵がステラに贈ったものか」



 夕食後にお父様達にお披露目をすれば、食い入るように観察している。


 

「これ程の作品は見た事がありません。とても神秘的ですわ」

「公爵も粋な事をしますね」

「これはガラスで出来ているのですよね? 割れないか心配です」

「フレッド、これには保存魔法が掛けられているので割れる心配はないの」

「それなら安心ですね。こんなに綺麗なのに傷がついてしまっては大変です」



 フレッドの心配するところが可愛い。

 お母様達もまじまじと観察をしているところを見ると本当に珍しい物なのでしょう。



「お父様、公爵から今回の提案のお礼として今後無償で(わたくし)からの注文を受けると言われましたわ」

「あぁ、当然だな」



 昼間のことを話すと至極当然だと間髪入れずに返ってきた。


 

「当然、ですか?」

「何だ、不満か?」

「いえ、不満なのではなく、流石に彼等の技術に対しての正当な報酬が無償というのは心が痛みます」

「それは公爵家から技術者達に払うので心配はない。公爵家にとっては王女からの提案で領が潤い、尚且つグランフェルト第一王女という誰もが知る王族が関わっているとすれば、それでも安いものだ」

「ステラ、貴女はもう少し自身の価値を改めるべきですよ。それらを分かっていないと他の貴族達から軽く見られます。今回の相手がヴォルゴート公爵だから良かったものの、この先公爵のような者達ばかりとはいきません」

「母上の仰る通りだよ。ステラはもっと王族として自信を持たなくてはね」

「傲慢になるよりはいいが、少々謙虚過ぎるところは改めた方が良い」

 


 技術者達にとっては正当な報酬が入り、公爵家にとってはその額よりも大きな利益を得るので問題ないという事。

 そして私はまだまだ王女という身分に対して考えが甘いみたい。

 皆に偉そうなこと言えないわね。



「ステラは自分の事を客観的に見るようにしたらいいよ。その方がよく分かるんじゃないか?」

「ヴィンス、それはそれで問題だと思うんだが⋯⋯」

「父上、人それぞれですよ。ステラはその考え方のほうが理解すると思います。だよね?」



 お兄様はそう私に確信に満ちた目で問いかけてきた。

 確かに自分の事、と考えるより他人として客観的に自身を見つめると理解する。

 私の悪い癖でそれを見抜いているお兄様は悪戯っぽく笑い私の答えを待っている。



「お兄様、(わたくし)で遊んでいらっしゃいませんか?」

「可愛い妹で遊ぶなんてしないよ。けど事実だろう?」

「何も言い返せませんわ」



 お父様とお母様は呆れ顔で私を見ている。

 お説教でもされそうな様子だったが、溜息をついただけで特に何も言われなかった。

 叱られなくて安心すべきか、困った子だと諦められるのも寂しい物がある。



「ステラは公には国内の者達としかまだ会っ事がないけれど、これから国外の方々と会うと思うと、今の様子では不安があるわ」

「少し不安はあるが、ステラが甘くなるのは相手を見ての事だろうからそう問題にはならんだろう。まぁリュスの不安は理解できるがな」

「ステラが甘くなるような相手は国外ならヴァレニウスとゼフィールの特定の方々だけですよ」



 お兄様の言葉を聞いてお父様は一瞬で不機嫌になった。

 お母様は納得しているようだけれど、不安そうだ。



「それはそれで問題ですよ。ステラ、貴女はもう少し自身の立場を理解し、それに相応しい考え方を身に付けなければ足元を見られます。それだけでなく利用されてしまう事もあるでしょう。相手が貴女に好意的だとしても、きちんと一線を引いて対応なさい。特に仕事上の交渉事にはね」

「はい、お母様」



 結局お母様から注意を受けてしまった。

 好意的な方や親しい間柄と言えど、甘い対応は相手に対して失礼だと、信用を損ねる行為にもなりかねないとの事で、お母様の話しを聞くと私の対応が間違っていると認識させられる。

 公爵は、私の話しを聞いてどう思ったのかしら。

 自身の宮に戻りながら先程のお母様のお話しを思い返す。

 


「ステラはまだ王宮に戻ってまだ一年も経っていない。貴族達との対応もまだまだ始まったばかりだから、徐々に学んでいけばいいんだよ」

「ですがお兄様。立場的にはそうは言っていられないでしょう?」

「そうだね。だからステラと会うには必ず陛下の了承が必要なんだよ。それは後半年程は続くだろう」



 それは初耳だ。

 私と会うのにお父様の許可が必要だったなんて。

 公に戻り執務を行っていると言えど、裏では護られている。

 それは私を守るだけの意味だけではなく、実際害のない貴族達と接し対応に慣れさせる為でもあるという。

 そして問題があったり、今回みたいに甘い対応があるとそれらは報告されどうして行くべきかを教わる。

 一年と少し、私の実践且つ教育期間でもあるらしく、それは私の側近達も同様なのだとか。

 ベリセリウス侯爵がいた間は教育時間で今は実戦期間というわけだ。



「だからそれ程落ち込む必要はないよ」

「落ち込んではいませんわ。ただ少し、少しだけ自信がないだけです」

「それはこれからつけていけばいい。それに、ステラは頑張っているし努力もしている。近くで見ているからよく分かるよ」

「お兄様はお優しいからそう仰るのですわ」

「まぁ、私が妹に甘いのは今に始まった事じゃないけどね。だけど、それとこれとは別だ。自信を持っていい。父上の側近を始め、ステラと今多く関わっている者達のステラに対する信頼は厚いよ」



 誰かは教えて下さらなかったけど、お兄様がただ私を慰めるだけで話しているのではないとは分かる。

 その言葉で少し肩の力が抜けた気がした。

 やっぱり落ち込んでいたのかな。



「お兄様、ありがとうございます」

「うん? 表情が戻ったね」

「目に見えて落ち込んでいましたか?」

「いや。ただ少しだけ母上の言葉が刺さったんだなと感じただけだよ」



 お兄様に今日はゆっくりおやすみという言葉で部屋の前まで戻って来たと気づく。

 私はお兄様に再度お礼とおやすみの挨拶をし。お兄様の言葉通りに早めに眠りについた。

 

前回より更新が遅くなりすみませんm(__)m

お待たせしました。

読んで頂きありがとうございます。


ブクマ、いいね、評価をありがとうございます(ꈍ−ꈍ)


次回も楽しみにして頂けると嬉しいです。 

よろしくお願い致します。



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