212 建国祭の準備開始
建国祭に向けて準備が着々と進む。
あれから修正案をだし、予算内で行えるように調整して何とか予算内に抑える事が出来た。
「よく予算内に纏め上げたわね。内容も申し分無いわ。今回は貴女が考えたこの案で今回は進めましょう」
今私はお母様と二人で建国祭の話しをする為にお部屋を訪れ、早速私の案をお見せするとお母様もこの案で良いと仰ってくださったのでこれで本決まりだ。
「お茶会の日程を決めないといけないわね」
「お茶会の日程ですか?」
「そうよ。これは皆で進めないとね。勿論貴女も参加するのよ」
「はい。それで、皆さんというのは?」
「建国祭では貴女が考えたこの案を夫人達と共に進めるのよ。強制ではないので大体いつもお馴染みの顔触れなのだけれど、建国祭の時は成人した令嬢も参加するのでそれなりの人数になるわね」
成程、慈善活動に賛同して参加している夫人方と、今回はその成人したご息女達が参加するというわけね。
お茶会に関してはお母様ご主催するのでそちらお任せする。
「では、お母様のお許しを得ましたので、私は各領から必要な物を取り寄せる手配を致しますわ」
「そうね、物が届かないと進められないものね。だけど、出来る事はあるでしょう。先ずは早ければ来週にお茶会を開きます。そこで今回の案をお知らせして届き次第進める事にするわ。貴女は学業を優先する事。だけど手が空いたらこちらの手伝いもなさい」
「はい」
決まったので私はお母様に辞去の挨拶をしてそのまま宮廷の執務室へと向かう。
今日中に出来る所までは済ませておきたい。
各領へ宛てる手紙は今日明日中には仕上げてしまいたいわね。
執務室に着くと、お兄様が待っていらっしゃった。
「お兄様、お待たせして申し訳ありません」
「さっき来たところだよ。で、母上は何と?」
「お母様から了承を得てきましたのでこれで進めますわ。今日中に各領へ発注の指示を出したいですわね」
「前以ておおよその必要数を通達しているんだよね?」
「はい。流石に急にお願いするのはご迷惑ですもの。それに準備する時間も必要でしょう?」
「そうだね」
流石に急に大量注文はかなり迷惑だから予め各領には何をどれだけ注文するという事をお手紙で知らせていて、返事が返ってこない所もあるだろうと思っていたけれど、全ての領からお返事が返ってきて少し驚いた。
私が建国祭の案を出しているとはいえ、まだ公に戻って間もないし、私の事を良く思っていない人達もいるだろうに、お返事には大体の発注数に対しての金額まで記載してくれている領主達もいる。
「ヴィーとヴィルはルイス嬢達を手伝い進める様に。ステラは今から私と行く所があるからね」
「どちらへ?」
「陛下の所だよ」
まさかお父様に呼ばれているとは知らず、お兄様に連れられてお父様の執務室へと向かう。
「お兄様、どのような用件で呼ばれたのでしょう?」
「建国祭の事だよ。やる事が決定したからその報告にね」
お父様の執務室に着き中へ通されると、お父様の他に宰相も同席している。
「お待たせしました」
「よく来たな。揃ったので早速始めよう」
余計な話は無しで早速本題に入る。
お兄様の仰っていたように建国祭の話だった。
お父様に今回私が行う事の確認があったので、最終お母様に了承を得た内容、そしてすでに各領へと発注を行う為に側近達が動いていると事も合わせてこの場でお伝えした。
以前にこういった案で進めるという事はお伝えしているので、特に何か言われることは無く、最終確認といった感じだ。
私の話が終われば建国祭について更に詳しく話を詰めていく。
私が王都で初めて建国祭に参加するので、これは私に対しての説明と言ってもいい。
建国祭は、前夜祭、建国日当日、後夜祭の合わせて三日間開催される。
一日目と三日目に私が提案した物を配る為に大神殿へと赴き、お母様を始め賛同する夫人達と共に訪れる人達に手渡していく。
私達王族は大神殿にて初代様へ無事に建国祭を迎えられた事、そしてこれからもこの国を導いていく事への誓いを行う。
昼からは貴族達を招き王宮にてガーデンパーティーが行われる。
これは昼間の開催なので、社交界デビューした十三歳以上から出席可能な為、普段の夜会のような大人達だけでなく、子供達も出席する為に当人達にとっては将来の為の交流が出来るといってもいい。
それは将来の相手を探す事が一番の目的になっているかもしれないが、それだけではなくて友人を探す人もいるでしょう。
より多くの者達と交流できるので、毎年とても賑やかなパーティになるらしい。
「王女殿下にとってもより多くの者達と交流できるでしょう」
宰相がそう話すが、お父様はかなり不満そうだ。
顔を顰めて私に注意を促してきた。
「交流できるといっても、変な輩には気を付けろよ」
「変な輩というよりも多くの害虫に気を付けなければいけませんよ」
「ヴィンスの言う通りだな。ステラ、当日話をするなら同性のみだ。いいな。あぁ側近達となら別だぞ」
「出来る限りお約束いたしますわ」
全く話をしないというわけにもいかないでしょうし、出来る範囲でと、という言葉を付けてお約束すると、ちょっと不満そうにしていたがそれ以上何かを言われることは無かった。
私達の予定は以上で、一番忙しいのは当日で、前夜祭と後夜祭は王都中が夜もお祭りでとても賑わうそうだ。
シベリウスでは領のお祭りに参加したけれど、流石に王都のお祭りをこっそり見に行くなんて出来ないよね。
行ってみたいなぁ。
「ステラって私達の前でたまに顔に出るよね、やりたい事。それも止められそうなことばかり」
――そんなに顔に出てるの!?
「ステラは可愛いね」
「確かにな。だから心配なんだよ」
「微笑ましいですね」
「叶えて差し上げたくなります」
――言いたい放題言われているけれど、私が考えていた事ってそんなに分かりやすい!?
「ステラ。城下の祭りに行ってみたいのか?」
「行ってみたいです。けれど難しい事は分かっていますわ。そのような我儘は言いません」
この間セイデリアに行かせて頂いたのだし、我儘ばかりは言えない。
祭りともなると通常よりも人で溢れるのは安易に想像出来るので流石に護衛の皆さんが一番大変で責任重で、申し訳なくなる。
「相変わらずステラは我儘を言わないな」
「私が軽はずみに我儘を言うわけにはいきませんわ。それに、お祭りなら規模は違いますけれど、シベリウスのお祭りに行きましたもの。この間はセイデリアにも行かせて頂いたので大丈夫ですわ」
「そうか?」
「えぇ」
行きたいとは思うけれど、周囲の労力を考えればね、やはりそう簡単にはいかない。
それ以上は特に何も言われなかったので、建国祭の概要の確認が終われば、私とお兄様は早々にお父様の執務室を後にし、私は執務室へと帰ってきた。
「お帰りなさいませ」
「進み具合はどうだ?」
「順調です。手分けしていますのでこの分だと明日の午前中に終りますよ」
「本当に? 流石に丸二日はかかるかと思ったのだけれど」
「はい、殿下。皆優秀ですよ。飲み込みが早く、教えがいがあります。特にロベルト君のこの先の成長が楽しみですね」
その言葉を聞いてロベルトは少し照れていた。
私の側近が褒められると私も嬉しい。
手紙は皆に任せて私とお兄様は其々の執務をする。
お兄様の側近は優秀で私の執務室にお兄様のお仕事を準備していたのだ。
エドフェルト卿、ベリセリウス卿の二人の優秀さときたら⋯⋯。
何故こんなに仕事が出来て顔も整っているというのに婚約者がいないのが不思議でならない。
まぁそれは彼ら自身の問題なので私が気にする事ではないのだけれど。
さて、片付けてしまおう。
集中して片付けていくと気づいたら夕刻だった。
ベリセリウス卿の言った通り、この分だと明日の午前中で終わりそうね。
私の執務も殆ど終わらせたので、明日は朝から発注の確認ね。
「お兄様は一度執務室へ戻られますか?」
「いや、片づけは二人に任せてステラと一緒に戻るよ」
「宜しいのですか?」
「構わないよ」
「私達の事でしたらお気遣いなく」
エドフェルト卿は何てことのないように話すが、多分最初から今日の予定をそのように組んでいたのね。
「エドフェルト卿、ベリセリウス卿。今日は助かりましたわ。ありがとう」
「いえ。久しぶりに殿下とお仕事を共にできた事、嬉しく思います」
「殿下のお役に立てたのなら幸いです」
二人はそういうとヴィンスお兄様と挨拶を交わして部屋を後にした。
「ステラ様」
「終わりましたか?」
「はい。ベリセリウス卿が仰ったように明日の午前中で全て書き終えそうです」
「早く発送できそうで良かったわ。皆ありがとう」
「それにしても学園で見た姿とエドフェルト卿って全然違うし、あの容赦のなさ!」
「レグリスはかなりお疲れの様ね」
「違う意味で疲れました」
体の疲れより精神的に疲れている様子。
この感じだと、帰ったら体を動かすのに訓練でもしそうな感じね。
反対にロベルトは疲れたという様子はなく、意気揚々としている。
レグリスと同じようにぐったりしているのがディオだった。
やっぱり二人って似た者同士だよね。
「ステラ様、何を笑っているのですか?」
「えっ? 笑ってないわ」
「笑っていましたよ、俺を見て」
「気のせいじゃないかしら」
レグリスだけを見て笑ったわけではないのだけれど、疑わしい目で見られている。
私が先程思った事を言えば怒るのが分かっているから言えないので、私は笑ってやり過ごす。
今日は皆疲れただろうから帰ったらゆっくり休むように伝えてお兄様と共に王宮へと向かった。
今日は珍しく揃って食事をいただく。
最近お父様はお忙しいようで遅くまで宮廷でお仕事をされているみたい。
「今日は早く終わられたのですね」
「あぁ。彼奴等もたまには早くに帰してやらんとな」
「今はとても忙しい時期なのですか?」
「建国祭が近いというのもあるが、まぁ他にも重なっていてな、どちらかというとそちらが問題なんだ」
それについては教えてくれなさそうね。
口を閉ざしてしまった。
「それよりも、ステラは順調か? ヴィンスと共に行っているのでそんなに苦では無いだろうが、無理はするなよ」
「はい、お父様。お父様もあまりご無理はなさらないでくださいね」
「たまにステラが執務室に来てくれると頑張れるが⋯⋯」
流石にそれは皆様の邪魔になりそうな気がするのだけれど⋯⋯。
お父様の期待に満ちた表情を見て否とは言えず、今度お伺いしますと答えておいた。
「そうだわ。ステラ、来週の闇曜日に私達とご一緒する夫人方とお茶会をするので貴女も予定を空けておきなさい」
「はい、お母様」
今朝正式に決定したばかりなのに、予定を決めるのがとても早い。
もしかしたら最初から決まっていたのかしら。
流石に今朝の今夜で決まるはずないものね。
お母様ってば、今朝伝えて下さったらよかったのに。
建国祭まで後一カ月半も無いので発注した物が届いてから忙しくなりそうね。
翌日の午前中、集中してお手紙を認めるのを皆にお願いをし、私は手紙の内容を確認する。
エドフェルト卿達が話していたようにとてもよく出来ていて、なによりも分かりやすい。
誤字や間違いも無いようなので私が確認した後、ルイスが手紙に封をしていく。
そうして集中する事二時間。
全ての手紙を書き終え、確認も終わったのでルイスとロベルトの二人にこの手紙を今日発送するように伝える。
「皆お疲れ様」
「やっと終わりましたね」
「発注は終わったけれどこれからでしょう?」
「物が届いたらお手伝いをお願いするかもしれないわね」
「ティナには間違いなく手伝って貰うわ」
「勿論でございます。今週のお茶会に王妃殿下よりお招きいただいておりますので」
「どういう事ですか?」
「成人している者で王妃殿下に賛同している方達で行うのよ。私の側近ではルイスとティナだけですもの。けど、ルイスが参加することは無いわ。彼女には執務室をお願いするので、実質ティナだけになるわね」
マティお従兄様も成人はしているけれど、これらは女性陣だけで行っている事なのでお従兄様は当日私の護衛をお願いするだけになる。
ルイス達が戻り揃ったので、来週の予定の確認を終えると皆は其々の邸へと帰って行く。
私も今日はこれで終わりなので王宮へ戻ろうと思ったら、誰かが執務室を訪ねてきた。
誰かと思ったら久しぶりのベリセリウス侯爵だった。
「急な訪問で失礼いたします」
「どうかなさったの?」
「殿下、陛下から昼食のお誘いですので、陛下の執務室までいらっしゃっていただけないでしょうか?」
唐突なお誘いで驚くが、昨夜の事があるのでもしかしたら狙っていたのかもしれない。
「分かりましたわ」
「ではご案内いたします」
侯爵と共にお父様の執務室を訪れると、一目で忙しいと分かる有様だった。
これ、本当にお父様が私を昼食に呼んだのかと疑問に思うと同時に、もしかしたら侯爵の独断なのかと思ってしまった。
「陛下、一度ご休憩されてはいかがですか?」
「はぁ⁉ これを見ろ! それどころじゃないだろう。まだ決裁しなければならん事が山積みだぞ。そんな暇あるか」
お父様は顔を上げる事無く侯爵に冷たく切って捨てる。
うん、やっぱり侯爵の独断ね。
そして私を呼んだのはお父様をというよりも側近の皆さんを休憩させるための口実かしら。
「ですが、少しでも休憩をされなければ、効率も上がりません」
「問題ない。お前よりも若い」
そういう問題じゃない気がする。
ふと視線を感じたので顔を上げると侯爵と目が合った。
あぁ、やっぱり侯爵の独断ね。
だけど昨夜もお父様はあまりお夕食を召し上がっていなかった様子だし、やはりきちんと昼食をとっていただきたい。
「陛下」
「何だ。邪魔をするな」
「突然お邪魔をして申し訳ありません。少し私と休憩なさいませんか?」
私がそう声を掛けても直ぐに娘だと気が付かなかったようだ。
「陛下」
「⋯⋯⋯⋯」
「お父様、少しだけでも休憩なさってください」
私が呼び方を変えた瞬間、ばっと顔を上げたので流石に驚いた。
「ステラ! いつ来たんだ?」
「先程からおりましたわ。とてもお忙しい様子ですが、昨夜もあまり召し上がっていませんでしたので心配ですわ。私と一緒に昼食をいただきませんか?」
「あぁ⋯⋯あーそうだな。少し休憩しよう。お前達もその間に休憩を取るように」
「ごゆっくりなさってください」
お父様について隣の休憩室へと向かった。
ちらりと後ろを向けば、少し解放されたように皆さん伸びをしている。
直ぐにイリスがお茶を淹れ、昼食の準備をしに部屋を後にする。
「お父様、大丈夫ですか?」
「あぁ、まぁ何とかな。まさかステラが来るとは思っていなかった。すまん」
「侯爵がお父様を見兼ねたのでしょう。昨日訪れた時もお忙しそうだと思いましたけれど、今日はまた一段とお部屋の空気が重いですわ」
「ステラに格好悪い所を見られてしまったな」
「格好悪くなんてありませんわ。ですがお父様のお身体が心配です。私にお手伝いできることはあるのでしょうか?」
「ステラの言葉は嬉しいが、こうして昼食を取ってくれることが一番の薬になるな」
それは本心からのようで、先程の冷ややかな表情ではなく、穏やかで寛いでいるのが分かる。
それは良いのだけれど、話をはぐらかされたので、私に関わって欲しくないのかもしれない。
あまり時間を置かずしてイリスが戻って来ると、テーブルの上に昼食が並べられた。
お父様にあまり重い食事ではなく、お身体を気遣った消化の良いバランスのとれた食事が用意された。
私とは少し内容が違う。
「ではいただこうか」
そういえばお父様と二人でお食事をするのは初めてだと思ったら、離宮で一度二人で昼食を頂いたことがあるわ。
「建国祭の件は順調に進んでいるか?」
「はい。午前中の内に各領へ発送完了いたしましたわ。後は届くのを待つだけです」
「そうか。順調に事が進んでいるのならいいが、一つ覚えていなさい。全員が全員、善人ではないということに」
最後の言葉の意味がよくわからないのだけれど、心に留めておく。
「ところで、学園に復帰してからどうだ? 問題はないか?」
「はい、問題ありませんわ。毎日楽しく過ごしております」
大分クラスメイトも私に慣れて話しかけてくるようになった。
シアの時によく話していた人達とはシアの時と同じく、までは流石に無理だけれど、親しくしている。
学園生活は今の所は順調だ。
「お父様」
「どうした?」
「本当にご無理はされていませんか?」
「あぁ、心配ないよ。⋯⋯そんな疑わしい目で見ないでくれ」
一緒にいてお父様が疲れた様子を見せる事はないけれど、お顔にはやはり表れている。
だけど、昨夜よりもお食事は残さずに食べたので、食事に関してはもしかしたら昨夜のお料理が重かったのかもしれない。
一応お父様に確認をすると、やはり食事に少し問題があったようだ。
そして今の食事はきっと侯爵の指示によるものだろう。
という事は、王宮の料理人達にもそう指示を出した方がいいわ。
帰ったら戻ったらお母様に相談してみよう。
「急に黙ってどうした?」
「いえ、お父様のお手伝いが出来ないのなら、お食事の面でお手伝いさせて頂こうかと。やはりきちんとお食事されないと体力も持ちませんし、思考力が落ちてしまいますもの」
「ステラが何か考えてくれるのか?」
「はい」
「だったら、執務中はさくっと食べられるものが良いな」
「⋯⋯お父様、休憩はきちんと取っていただきたいのですが」
「分かってはいるが、そこは見逃してくれ」
切実なお父様の言葉は分からなくもない。
頷くのは憚れるが、気持ちが分かってしまので諦めよう。
きちんとお食事をとって下されば少しは安心できる。
「では、お父様のご希望のお料理を考えますわね」
「あぁ! 頼む。楽しみにしているぞ」
こうして私のやる事にお父様のお食事を考える事が追加された。
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