204 生徒会のお茶会
お兄様の誕生日パーティーが終わり、暫く穏やかな日常が続いている。
といってもそれなりに忙しくしているけれどね。
私は今迄行動制限があった為に行けなかった宮廷の図書館へ行くようになった。
何時もはルイスやロベルト、アルネに頼んでいたけれど、自ら赴き調べる様にしているので自然と新たな知識が増え、他の人達との交流も増えた。
主に図書館の司書達だけれどね。
最初は中々自然に接してはくれなかったけれど、それも直ぐに慣れ今では軽く雑談を交わすようになり、少しずつ私の事も周知され、宮廷内の噂も良い方に流れていると思う。
良い事ばかりではなく、今迄は私の側近やお兄様、お父様の側近の方々、その他と言えば信用のある貴族の方々としか交流がなく、それらも今では他の貴族と話す機会も少しずつだが増えてきた。
交流が増える事は良い事もあれば悪い事もある。
自分の目で見極めて対処していく必この先も出てくるでしょう。
中には自身の野心の為に私の言動や行動、地位を利用しようとする者もいるからだ。
善人ばかりではない。
悲しい事だけれどね。
これらは事前にお父様からも軽く注意を受けている。
今迄はずっと護られていたけれど、これからはそうはいかない。
如何に護られることが楽だったのかが突き付けられる。
私がこう感じているのは私だけでなく、私の側近達も同じように感じていると話していた。
執務は滞りなく進み、気が付けば新学年の始まりまで残り半月となった。
私が所属している生徒会は数日早く学園へ通い、新入生を迎える準備をする事になっている。
その前に、生徒会のお茶会が新会長であるフェストランド侯爵邸で明日開かれるのでそちらにお兄様と共に出席するのが今から楽しみだ。
お茶会を楽しみに本日の業務を終わらせ、早々に宮廷に戻るとお母様の侍女が待ち構えており、私を呼んでいるとの事なので私はそのままお母様の元へと向かった。
「お母様、お呼びと伺いました」
「ステラ。お疲れ様。そこに座りなさい」
「はい、失礼いたします」
お母様のお話は何かしら。
今お話があるとすれば、学園の事?
けれど、態々今日話す事でもないし⋯⋯他に何かあるかしら。
「ステラ、明日が初めてですね」
「初めて、とは何でしょう?」
「もう、貴女は何とも思っていないのかしら。明日、フェストランド邸に行くのでしょう? それも元の姿で公務以外では初めての外出となるのですよ」
「そういえば、そうですわね」
何ともないように私がそう答えると呆れたように溜息をついた。
「貴女ったら。それが何を意味するか分かっているのですか?」
「私が外へ出られるようになったと周知されますわ。ですが、学園に復学する事も特に隠してはおりませんし、不思議ではありませんでしょう?」
「そうね。貴女が外に出るようになれば、自ずと王女がとのような為人なのか知れ渡るでしょう。そして病気なのではなく健康で脳力がある事もね。ですが良いことばかりではないのですよ」
「といいますと?」
私が何か分からずに聞き返すと、この子は⋯⋯と困った出来の悪い子を見るような目で見られてしまったけれど、分からないんだもの。
「貴女が健康で力があると知れば、野心家の者達にとっては都合がいい事でしょう。貴女は王女、女性なのだから。私の言葉の意味は分かりますね?」
「流石にそこまで言われたら理解できますわ」
お母様、それは殆ど答えを話してしまってますわ。
それで分からなければそれこそ叱られてしまう。
お母様が話したのは私が元気に外出出来るようになれば私を使って画策しようとする輩が出てくる事、それは私が女で御しやすいと考える者達がいて、そうした者達とも接する機会が増える為に気を付けなさいという注意喚起だった。
先日お父様から受けた注意と似たような話だ。
「ステラ、今迄は陛下と側近方、そして私達が余計な者達との接触から護っていましたが、これからはそうはいきません。学園に復学すれば自ずと外に出る機会も増えるでしょう。そして私達もそれを安易に止めたりはしません。貴女の考え責任で行動するのです。貴女を側で護るのは近衛であり多くの時間を共にする貴女の側近と影達です。よく考えて行動なさい」
「はい、お母様」
私がそうお母様の忠告を聞き返事をすれば、はっとして少し早口で補足してきた。
「貴女が軽率な行動をするとは思っていないけれど、ステラが気を付けていてもいつの間にか巻き込まれている、という事も考えられるの。決して貴女を信じていないわけではないのよ」
私がお母様達に信用されていないと思ったのか慌てていた。
「お母様、お母様達のお気持ちは分かっていますわ」
「そう」
お母様は安心したようにほっとしていた。
「あっ、そうだわ。貴女にもうひとつ注意すべき事があるのよ」
「何でしょう?」
「学園に登校する時は余程の事がない限りヴィンスと一緒に行く事になるわ」
お兄様と共に行く事で何か注意する事ってあるのかしら。
「鈍いのは相変わらずですね。その鈍さは一体誰に似たのかしらね」
「お母様?」
ぼそっと呟くお母様の言葉は聞き取れず聞き返すが首を振られてしまった。
「何でもないわ。話を戻します。貴女とヴィンスの側近は学園に通うようになるとどのような状況になるのか分かっている事でしょうけれど、ステラ、貴女とヴィンスが揃って行動を共にすれば学園が騒がしくなります。それは理解していますか?」
「それは、私が、今迄療養していたとされる王女が学園に復学、しかも今迄通っていたアリシアが実は王女だったという事で騒がれるの分かっておりますわ」
「それだけではありませんよ」
やっぱり分かっていないと溜息をつくお母様。
あ、これは⋯⋯。
「お母様、申し訳ありません。理解しましたわ」
「本当かしら?」
疑わしい目で私を見てくるけれど、流石に今迄の事があるし、何よりお兄様に似ていると言われているから、客観的に見たら似ているお兄様と一緒だと騒がれる事間違いないわ。
客観的に見れば、だけど。
まだ自分の事だと慣れないわ。
「その様子では少しは理解したみたいね。学園に行けばもっと自覚する事でしょう」
「⋯⋯お母様、楽しんでいらっしゃいません?」
「あら、そんな事ないわ。心配しているのよ」
「ではどうして笑っていらっしゃるのでしょう?」
「ふふっ。貴女が少しずつ自覚しているようで安心したのよ」
笑いを収めたお母様はふと真面目な表情に戻した。
「周囲を収めるのは側近達の役目ですが、貴女も自覚して周囲によく目を配りなさい。そして異性と接するときは細心の注意を払いなさい。理由は分かりますね?」
「はい、お母様。よく気を付けますわ」
私の言葉に満足そうに頷くと、そろそろ夕食の時間となったので、お母様との細やかな時間は終わった。
翌日の午後、私はお茶会へ行く準備を整えているとお兄様が迎えに来て下さった。
「ステラ、準備は出来ているようだね」
「はい、お兄様。お待たせしました」
「そんなに待ってないよ。うん、今日も変わらず可愛らしさが溢れているね。華やかな衣装もいいけど、今日みたいな落ち着いたのもいいね」
「ありがとうございます。お兄様もとても素敵ですわ」
「ありがとう。ではレオン達が待っているからそろそろ行こうか」
ホールに降りるとそこにはマティお従兄様とレオン従兄様が待っていた。
マティ従兄様とは昨日も会っているけれど、レオンお従兄様とは久しぶりに会うわ。
「ごきげんよう、お従兄様方」
「ごきげんよう、ヴィンス様、ステラ様」
「お従兄様達がいらっしゃるとは思いませんでしたわ」
「私達の迎えは二人が一番適しているからね。さ、行こうか」
私達は馬車に乗り込みフェストランド邸へと向かった。
「二人共午前中はお祖父様の所へ行っていたんだろう?」
「はい。お祖父様の元で訓練をつけて頂いておりました」
「相変わらず時間を無駄に使わないな」
「私も久しぶりにお祖父様に訓練をつけて頂きたいわ」
「それで思い出した。言い忘れてたけど、ステラは今後宮の中で、一人で訓練しない様に」
「ステラ様、お一人で訓練されていたんですか?」
「一人ではありませんわ。影の皆にお願いをしていたの」
双剣を使うアステールに主にお願いをして後はその時ついている皆に見て貰っている。
ヴィンスお兄様もご存じなのだけど、どうして止めるのかしら。
「ステラ、これからは私と一緒に騎士団の訓練場を使うんだよ」
「騎士団の訓練場ですか? 私が行ってもよろしいのですか?」
「当たり前だよ。ステラの行動制限は無くなったのだから、騎士団の訓練場でも魔法師団の訓練場でも好きに使っていいんだよ。だけど、慣れるまでは一人で行かない事、必ず私と一緒に行く事、いいね?」
「分かりましたわ」
お兄様の仰る通り、行動制限が無くなったので自由に宮廷を行き来できるようにはなったけれど、騎士団と魔法師団の訓練場は思いつかなかったわ。
魔法師団にはベリセリウス侯爵の指導で何度かお世話になっているけれど、騎士団には初めて宮廷を案内されて以来足を踏み入れていない。
あ、そしたら彼に会えるかもしれないわね。
そう簡単に私からは勿論彼からも声を掛ける事は出来ないけれど、それでも元気でいるなら安心だわ。
「あぁ、そろそろ見えてきましたね」
レオンお従兄様の言葉で窓の外に目を向けると一軒の邸が見えてきた。
フェストランド家王都の邸は何というか、邸自体は思ったよりもこじんまりとしているが、庭がとても広い。
こじんまりと言っても普通に広いのだけどね。
フェストランド家の者達は皆植物を育てる事が趣味なようで、それはラグナル卿もしっかりとその血を引いているようで彼も植物を育てているのだとか。
けど、ぱっと見趣味だけではないわよね、この規模は。
「想像していたよりも凄いですわね」
「あぁ、私も初めてだが、これは是非庭を見てみたいな」
「確かに。此処から見るだけでも素晴らしいですね」
「侯爵邸の敷地に入ってからとてもいい香りがします」
そう、侯爵邸の門をくぐる前からとても爽やかな香りと共にお花のいい香りがしていた。
それもきつい嫌な香りではなくて、ほんのり香る程度のもの。
私達が花の香りに癒されている間に着いたようで馬車が停まった。
マティお従兄様、レオンお従兄様に続きヴィンスお兄様が下りると私に手を差し伸べて下さるのでその手を取り降りると、フェストランド夫人とラグナル卿が出向かえにきていた。
「ようこそおいでくださいました」
「夫人、今日は学園の一生徒、一生徒会に所属するものとして来ているのでそのよに畏まる必要はないですよ」
「畏まりました」
「両殿下、お待ちしておりました」
「会長も、生徒会のお茶会なので学園内と同じ対応でお願いしたい」
「では、そのように。会場へご案内致します」
そう言いつつもラグナル卿、会長は丁寧な対応だった。
お兄様は仕方ないと諦めた表情だ。
今日は天気も良く、庭園がお茶会の会場にしたようで、そちらに案内されると、既に全員が揃っていた。
私達の姿を認めると、全員が立ち上がり私達を迎える。
「会長にも話したけど、今日は生徒会のお茶会だ。学園内と同じで構わない」
お兄様がそう言うと全員揃って顔を上げた。
「さて、改めて皆に紹介しておこうかな。ステラ」
「はい、お兄様」
「皆も知っての通り、エステルが二学年から復学する。そして成績は首席なので一学年の時と同じく生徒会に在籍するので妹をよろしく頼む」
「皆さん、卒業パーティー以来となりますが、その節は驚かせてしまい、またあのような事態になり申し訳なく思っております。私としては今まで通りに接していただきたいですわ。お兄様と同じように接して下さると嬉しいです」
やはり少し戸惑っている様子が見られるけれど、あの時ほどじゃない。
それに、ただどう接して良いのか分からないだけなのかもしれない。
「そうだ。会長、先に伝えておくことが」
「どのような事でしょうか?」
「ステラの側近がこの生徒会に多くいるので、妹の事で何かあれば、彼等が率先して動くのでそれ程会長に負担はかかりませんよ」
「その側近が誰かをお聞きしても?」
「えぇ、勿論ですわ」
私はそう言うと、私の側近を紹介すると会長は特に驚いた様子もなく普通に分かったとそれだけだった。
殆どがシアと親しい者達なので不思議に思う様子も無かったみたい。
「新学年の始まりまで後半月。また変わらず同じ顔ぶれで一年を過ごせる事に嬉しく思います。私は会長を務めさせて頂きますが、皆で力を合わせて運営していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」
ラグナル会長とエドフェルト卿って対照的だけど共通するのはその姿勢だ。
会長は手短な挨拶を終えるとルイスが後に続く。
私の側近を務めている事も相まって、以前よりもずっと堂々としている。
「⋯⋯この一年、よろしくお願い致します」
「さて、挨拶はここまでにしよう」
そうして生徒会のお茶会が始まった。
始まってすぐに女性陣と男性陣に分かれた。
それも決まっていたかのようにすんなりと、といっても生徒会の女性陣は私を含めて五人だけなので少ないのよね。
この中ではウィルマ嬢だけ少し緊張が見える。
「ほら、ウィルマゆっくり話せるわよ」
「ティナ様」
「私に何か話したい事が?」
「い、いえ! あの特に話題はないのです⋯⋯」
「もう、今迄と同じく普通にお話すればいいのよ」
「ディオ様達は殿下の側近で気軽にお話しできるかもしれないけど、私はそうじゃないもの」
「けどシア様の時は普通に話してたじゃない。あの時だって辺境伯令嬢だったのよ」
ウィルマ嬢はそれでも遠慮をしている。
「ウィルマ嬢」
「ステラ様も硬いですわ」
私が彼女に呼びかけると隙かさずティナから指摘されてしまった。
確かにそうよね。
今のは私が悪いわ。
「ウィルマさん、ティナやディオの言う通り、普通にお話しして下さって構いませんわ」
「よろしいのでしょうか」
「ヴィンスお兄様にお話しされるように、同じで構いませんわ。今の私とシアとして過ごしていた時、どちらも私に変わりないのですもの」
私がそう言ってにこりと微笑むとぱっと少し恥ずかしそうにしながらも漸く笑顔を見る事が出来た。
「あぁ、そうだ」
ヴィンスお兄様が唐突に声を上げた。
何事かとお兄様を見ると私に視線を向けた後、此処にいる皆を見渡した。
「生徒会には私とステラの二人いるので殿下呼びはこの際なしで。私の事はヴィンス、妹はステラでいい」
「側近であるクリスティナ嬢達は別として流石にそれは⋯⋯」
「生徒会内だけでいいですよ。ややこしいでしょう?」
「畏まりました。では生徒会内だけという事でヴィンス様の仰る通りに致します」
会長が頷いたので、生徒会内ではお兄様と私の事は愛称で呼ぶようになり、最初は遠慮がちだったけれど、話が弾むにつれて自然と名前を呼んで貰えるようになった。
「忘れる所だった。ステラ様とレグリス君の二人に話す事があるんだ」
「はい」
「一学年の間は学園の環境に慣れるのを優先で生徒会には週に二度だったが、二学年からは時間があるなら生徒会に顔を出す事。五日間誰かしら生徒会室にいるので仕事を手伝うように。今迄の様に地と光曜日は全員揃って報告会を行うのでそのつもりで」
「分かりましたわ」
話を聞けば他の社交会も似た様な感じなのだとか。
一学年の内は先ず学園に慣れる事が最優先で同学年の友人を作る事が目的で、社交会に入れば先輩方が手助けする、という仕組みだ。
勿論勉学も大事だけれど、人脈作りも大事な学園生活のひとつなので自ずとそうなったらしい。
「ステラ様はヴィンス様にこの後の予定はお聞きしていますか?」
「生徒会は学園が始まる数日前から新入生を歓迎する為の準備をする事でしょうか?」
「はい。すでに執務を行っているとお聞きしておりますが、準備に参加は出来そうですか?」
「えぇ、学園の復学に向けて執務の調整はしていますので参加できますわ」
「ありがとうございます」
大分気を使われているみたいね。
よっぽどでない限りは学園に通う学生でもあるのでそちらを優先させるようにとお父様にも言われているし、私もそうするべきだと思っている。
それはお兄様も同じでしょうけれど、今の私を知らないので探りをいれている、といった感じかしら。
それでも最初の頃よりも大分慣れてきたように思う。
シアの頃と同じ、とはいかないけれど、それなりに砕けて話をしてくださるのは嬉しい事。
ウィルマさんも最初のような緊張はなく、他の皆にも言える事で、途中女性同士で集まり過ぎだと他の生徒会の皆とも話をしてかなり打ち解けたので私としても安心できた。
そしてとても楽しいお茶会だった。
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毎日とても暑いので、皆様体調に気を付けてくださいね。





