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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第3章 決意を新たに
198/273

198 それぞれの課題


 翌日の朝、少し早い時間に出発して私達は山へと続く入口に着いた。

 セイデリア辺境伯夫妻とセイデリアの騎士少数、そしてこちらの冒険者ギルドの人達だ。

 何だかシベリウスで森に入った時よりも物々しい気がする。

 その理由としては、私はあちらの森には慣れていたし人数も少なかったけれど、今回は山に不慣れな側近達も多いので念には念を入れての事だった。

 そして三班に分かれて行動する事となった。

 その班分けはベティ様が行ったのだけれど、その班分けでディオはベティ様と別れてしまいとても残念がっている。

 そのベティ様は私と同じ班でアベニウス卿とロベルト、マイエル卿、セイデリアの騎士四人と一緒だ。

 お兄様は辺境伯とカルネウス卿、ディオ、エンデン卿とセイデリアの騎士四人。

 残りマルクス卿とティナにエドフェルト卿とベリセリウス卿と同じく騎士が四人付いたのだけれど、何だか偏っているような感じもするんだけどね。

 ベリセリウス家の二人が私達から外されたのは意外だった。

 ベティ様はティナが気になっている様子だったからてっきり一緒の班にするのかとも思ったけれど、その予想は外れた。

 その二人はというと、普通に見えるけれど内心とても苛立っているに違いない。

 何となく、その表情が侯爵に似ているからだ。

 表面上はいつもと同じなので他の人には分からないかもしれないが、私とヴィンスお兄様は気付いている。

 今余計な事を言えば面倒な事になりかねないので何も言わないけれどね。

 冒険者達は別で行動するようで、そちらは何時もの事なのかさっと分かれて既に行動を開始しているが、山へ入るにあたり私達は先ず注意事項を受ける。

 

 

「今から山に入るにあたり、全員守っていただきたい事があります。私とベアトリス、そしてマルクスの話をよく聞いて行動し、決して単独行動をしない様に。学園の授業の一環で森に入った事はあるかもしれませんが、森とは全く違いますのでくれぐれも注意してください。宜しいですね?」

「分かった」

「では参りましょう」



 私達は其々違う方向へと向かって進む。

 セイデリアの騎士が先頭でベティ様に続いて私達も付いて行く。

 山を歩くのは森を歩く時と全く違う。

 山道を外れた斜面を歩くので平坦な道を歩くのとは訳が違った。

 ベティ様は私達の事を考えて歩く速度を落として下さり、私達を振り返り様子見て休憩を挟みながら奥へ奥へと進んでいく。

 そして今もまた小休憩を挟んでいる。



「クロムヘイム卿は大丈夫かしら?」

「はい⋯⋯と言いたいところですが、山道と言うのはこれ程きついのですね」



 ロベルトはそう言って足を揉んでいた。

 

 

「歩きなれていない山道の、緩やかな斜面とはいえ、普段使わない筋肉を使って歩いているのでその分疲れも出やすいのよ。エレン様は、まだ大丈夫そうですわね?」

「えぇ。今迄シベリウスの森を歩いていたので、彼よりは平気ですわ」



 私やロベルトは授業で外にはまだ出ないけれど、私は今までの経験があるから苦にはならない。

 だけどロベルトは初めての体験で山道という事もあり早くも疲れを見せていた。

 それも踏まえて私達は一番緩やかな場所を歩いているらしく、その辺が考慮されていて安心できる。



「もう暫く進むと開けた所に出ますので、そこで昼食を兼ねて休憩にいたしましょう」



 今の所はまだ何の異変もなく、どちらかと言うと物見遊山に来ているような感じだ。

 小動物をたまに見かけるが、それがまた可愛らしい。

 歩いて行くとベティ様が仰っていたように開けた場所に出たので騎士達が昼食の準備をし始めたのを見て、私も伝いをしようとするとベティ様に止められた。



「エレン様は此方に。準備は他の者達で事足りますわ」



 誘われたので一緒に横たわっている丸太に座るが、私としては皆と一緒に準備をしたかったのが本音。

 だけど、それよりも何かお話がありそうだったので何も言わずにベティ様が話しだすのを待つ。



「クロムヘイム卿は体力が無さすぎますね」



 そうバッサリと言われてしまった。

 私も彼の体力的な所は初めて知った。

 ロベルトが文系だというのは少しの間一緒に学んできたのと、側近候補の際に渡された書類を読んで知っていたけれど、それにしてもちょっと体力が無さすぎるのでベティ様がそう話すのも理解できる。



(わたくし)も彼と一緒に外で行動するのは初めての事ですので。それに(わたくし)と比べるのはどうかと思いますけれど、そうですね、もう少し体力をつけて欲しいですわ」

「エレン様、欲しい、ではなく、貴女様の傍に控えるならばいくら文官よりの人間だとしても流石にあれではいざという時に役に立ちません。体力を付けさせればよいのです」

「人には向き不向きがありますし、あまり無理強いは出来ませんわ」

「彼も王立学園に通っているのですから、それ相応の体力は必要ですわ。それに体力をつけるという観点で言えば若いのでまだまだ向上します。そうですね、どちらかと言うとエドフェルト卿のようになればよろしいのです」



 という事は、体力はそこそこだけど持久力は期待できない、けれど頭脳短期戦を目指すという事ね。



「いい機会ですので、これを機に鍛えてみても宜しいですか?」

「先ずは彼に話をしてからです。本人にやる気があるならば、その時はお願い致しますわ」



 もしかしたらそれを見る為のこの人選だったのかしら。

 お兄様の側近であるアベニウス卿は騎士の家系だからか本人も体格が良く、体力も有り余っている様子。

 お兄様の側近の皆さんは文系の方もいながらもお兄様の護衛を十分出来る人達が集まっている。

 そもそも私の側近はほんの半年ほど前に決まったばかりなので色んな所が十分でないのは分かっているし、私自身が彼等と一緒の時間を過ごすのがまだまだ足りていないので周囲の人達に助けられている部分が大きいのは承知している。

 


「エレン様、ベアトリス様。どうぞお召し上がりください」

「ありがとう」



 話が一段落したところで丁度昼食の準備が整い、私とベティ様の食事をクロムヘイム卿とセイデリアの騎士が運んできた。



「ロベルト、昼食後に少しお話しがしたいの。食べ終わったらこちらに来てくださいね」

「畏まりました」



 簡素ながらも良い匂いがするわ。

 あっさりとしたスープに野菜を挟んだ硬めのパンだ。

 ロベルトってこういう食事は初めてじゃないかしら。

 ちょっと心配になり食事をとりつつ様子を見ると、普通に食事をしているところを見ると大丈夫みたい。



「エレン様は流石に慣れておりますね」

「シベリウスに五年近くいましたから。こう言っては何ですが、王宮で暮らすよりも身近に感じてしまいます」

(わたくし)もゼフィールの王宮にいる頃はいつも外に出る事ばかりを考えており、両親や兄を悩ませておりました。他国の王室よりもそういった部分は緩いですが、それでも王族としての心構えには煩く言われたものです。それも彼に嫁いでからというもの、毎日が楽しくて仕方ありませんわ」



 王宮や宮廷での暮らしが嫌ではないけれど、たまにこうして外に出たいと思う事はある。

 今は宮廷での執務があるし、復学する事もあって今迄みたいな縛られているという思いを抱く事はない。

 縛られていると言ったら大袈裟だけど、やはり制限があると窮屈に思ってしまうのも事実なわけで、それに耐えるのも一種の修行だと思って胸に閉じ込めていた。

 それはそうと、私はちょっと気になる事をがあり話題を変えた。



「ベティ様は辺境伯とどのような出会いをされたのでしょう?」

「聞きたいかしら⁉」



 いつも冷静なベティ様の声がぱぁっと明るくなり、話したくて仕方が無いといった初めて見る嬉しそうな感情が爆発したと言ったらいいのか、とにかくその様子に驚いて仰け反ってしまった。



「あら、ごめんないさ。つい⋯⋯」

「いえ、大丈夫ですわ」

「で、お聞きになりたいですか? なりたいですわよね? いつでもお話しいたしますわ!」



 その話したさそうな様子をセイデリアの騎士の一人が此方へ慌てて向かってきた。



「ベアトリス様! そのお話はまた後日でお願い致します」

「貴方は聞かなくて結構よ。邪魔だから彼方へ行っていなさい」



 何時もの様子で追い払おうとするが、その騎士、セイデリアでも古参のであろう彼は困ったという風に私にそっと耳打ちしてきた。



「申し訳ございません。この話しになりますと夫人は止まりませんので出来れば違う日にお話し頂きたく、何卒お願い申し上げます」

「勿論です。ベティ様の様子では夜まで止まらなさそうですものね」



 私がそう話すと安心した様にほっとした様子でお礼を言って下がった。



「エレン様?」

「ベティ様、そのお話しは後日お茶会でじっくりお聞きしたいですわ。宜しいかしら?」

「勿論ですわ! こちらに滞在されている間にお茶会を開きましょう」



 ベティ様がお茶会に乗り気なので、その日を楽しみにしているとこちらの話が落ち着いたのを見計らってロベルトが私の元まで来た。



「エレン様、お待たせいたしました」

「お食事はどうでしたか?」

「このように外で食べるのは初めての経験でとても新鮮です。食事はもっと味気ないのかと思っていたのですが美味しくて、話を聞いたりするだけでは分からない事が経験出来て良かったです」



 思ったよりも高評価で良かったわ。

 さて、此処からが本題。



「午前中、此処まで山道を歩いてきたけれど、何か感じたこと、思った事は無いかしら?」



 彼自身が此処まで歩いてきてどう思ったのか、彼の意見を聞きたいので尋ねてみた。



「自分の体力のなさに愕然としました。エレン様がシベリウスでお過ごしで、魔物達と対峙出来る事は知っておりましたが、此処まで歩いてきたエレン様は息ひとつ乱れていないのに、私は息が乱れるどころではありませんでした」

(わたくし)と比べるのはどうかと思うけれど。(わたくし)も周囲の方々を基準に考えてしまっていたから、貴方が此処まで息が切れている姿を見て、少し考えを改めなければと思ったの」

「いえ、エレン様の側近を務めているのですから、もっと体力をつけなければと改めて思いました」



 初めて彼の悔しそうな表情を見たわ。

 悔しそうというのと情けない、といった感じかな。

 


「ロベルト、此処にいる間、基礎体力をつける訓練を受けてみますか?」

「宜しいのですか?」


 

 思ってもみないことを言われたように驚いた彼は、けれどやる気に満ちた瞳をしていた。


 

「えぇ。ベアトリス夫人とそうお話しをしていたの。引き受けて下さるそうよ」



 私がそう言うと、ロベルトはベティ様を見て深々と頭を下げた。



「よろしくお願い致します!」

「エレン様の頼みです。ですが訓練はそう甘くありませんよ」

「望むところです」

「ロベルト、多分貴方が思っているよりもずっと厳しいと思うけれど、大丈夫?」

「エレン様の側近として、恥じないよう精一杯頑張ります」



 本人がやる気ならば応援をしよう。



「ベティ様、彼をお願いしますね」

「お任せください」



 話が纏まったところで、向こうではいつの間にか片づけが終わっていたので私達は山中の巡回を再開した。

 暫く山の奥へと歩みを進める。

 午前中は小動物を見かけたりしたが、奥へと進むにつれて獰猛な熊や猪に遭遇する事が増えた。

 今日は狩りに来たわけではないので暫く眠らせておくぐらいに留めた。



「潜んでいるわね」



 更に奥へ進んだところでベティ様の言葉でセイデリアの騎士達は警戒を強めた。

 確かに、奥に負の気配を感じるが微かでベティ様程は分からない。



「エレン様、周囲に注意してください」



 ベティ様の言葉に、私はロベルトに私の近くにいる様に声を掛ける。

 彼は今自分が一番の足手まといだと分かっているのか、表情を歪ませつつも言う通りに動く。

 自身の事実力が分かってきちんと動けることは凄い事だから私はロベルトを褒める言葉を送った。

 警戒しつつ更に進むと魔物が視界に入るだけで七匹はいた。



「ベアトリス様、如何されますか?」

「捨て置くわけにはいかないでしょう。あれくらいなら容易いわ。エレン様よろしいですか?」

「えぇ、勿論です」



 魔物を見つけて放置はないわ。

 それにベティ様がいるこの班で心配はないでしょう。

 この地に長けた騎士もいる事だしね。

 こちらは全員いつでもいける様、準備は万端だ。

 私はロベルトが近くにいるので後方で援護する形をとる。

 いつも交戦はふいにやってくる。

 魔物達は私達の存在にふと気づいて問答無用で襲ってくる。

 それに対しこらは⋯⋯。



 ――えっ? ベティ様⁉



 驚いた事にベティ様が騎士よりも真っ先に魔物に対して突っ込んでいった。

 その光景はセイデリアでは珍しくもなんともないのか、騎士達は慌てもせず其々対応に入る。

 これが此処での通常運転なのね。



「エレン様、普通夫人自らあの様に突っ込んでいくものなのですか?」



 そう質問してきたのはアベニウス卿だ。

 それはそうよね。

 普通に考えたら驚きの光景だもの。

 ごく普通に考えたらそう言いたくなるのも分かるけれど⋯⋯。



「貴方の中の普通が必ずしも普通とは限らないわ」

「それは、そうですが⋯⋯」

「エレン様は落ち着いていらっしゃいますね」

「慣れていますもの」



 ロベルトがそう質問をしてくるが、目の前にいる魔物達が全てとは限らないのでお喋りよりも周囲に気を配るように注意を促す。



「エレン様!」



 私を呼ぶ声と同時に私は此方に向かってきた魔物に対して攻撃を放つ。

 それ程強くもない相手だったから呆気なく消滅する。

 それを見た二人は驚いていたが、マイエル卿は私の訓練する姿を見ているのでそれ程驚きはない、だけど、気安く動かないでください、と苦言を呈してくる。

 だってね、相手が魔物だからかつい条件反射というか手が出ちゃうんだもの。

 軽口をたたきつつ、こちらにも数匹きたのでそれらをアベニウス卿が切り伏せ、マイエル卿は私の側で魔法で応戦する。

 先程までの驚きの表情がなく、あっさりと倒す姿は流石お兄様の側近だと感心する。

 ロベルトは初めての経験という事もあり、今日は私の近くで皆の動きを見て貰っている。

 それ程強くない魔物達だったので怪我をすることなく終わった。

 周囲が暗くなる前に私達は元来た道を戻る途中に魔物と遭遇するも問題なく対処し、山道の入口まで戻るとティナ達が待っていた。



「エレン様、お帰りなさいませ。お怪我などはありませんか?」

「ないわ。ティナ達も大丈夫そうね」

「はい、何の問題はありませんでしたわ」



 そう答える笑顔のティナとベリセリウス卿。

 だけどその後ろのマルクス卿の表情は引きつっていて、そそくさベティ様に近寄ると何事か抗議をしていた。

 その内容までは聞き取れなかったけれど、ベティ様に窘められているようだ。



「何かあったの?」

「何もありませんでしたよ」



 そう答えるのはベリセリウス卿。

 この二人、怪しいわね。

 何故こんなに爽やかな笑顔なのかしら。

 そして何故マルクス卿はあんなに引き攣った表情をしているのかしら。



「エドフェルト卿、何があったのです?」

「危惧するようなことはありませんでしたよ。ただ、そこの二人がエレン様達から離されたのが気に食わなくて、出くわした魔物達に八つ当たりをしていたことくらいです」




 そんな事してたの?

 呆れて二人を見ると、それが何か? と言いたげな視線を返された。



「ティナ、(わたくし)と離れたからといって、マルクス卿が引くような八つ当たりの仕方はよくないわ」

「相手は魔物ですから、問題ありませんわ」

「相手の問題ではないわ。何故そのような事をしたのかしら?」



 人間じゃなくて魔物相手だからまぁ良かったのかもしれないが、何故八つ当たりするのか意味が分からない。



「エレン様の側から外されたからです」



 その一言だった。

 私の側近だから側から離れる事に対して思う事があるのかもしれない。

 その気持はとても嬉しいけれど、だからといってそんな子供じみたことをするなんてちょっと驚きだわ。

 ティナの落ち着いていて頼れるお姉さんという印象が段々と崩れていく。



「ティナ、エレン様に誤解されているよ。残念ながらお前の気持ちはエレン様に届いていないね」



 ベリセリウス卿はそう揶揄うようにティナに話すけれど、誤解って何も誤解をするような話はしてはいないのだけれど。

 私が何を言っているのかと不思議に思っていると、ティナはベリセリウス卿をひと睨みした後、私に対して一言、鈍すぎます、と呟いた。

 何のことか分からなかったけれど、ティナは我慢を覚えた方が良いと思う。

 そんな事を考えているとセイデリア卿達が戻り、全員が無事に揃った。

 お兄様達も怪我をしていないようで安心した。

 冒険者達は山で一晩明かすというので戻って来ないが、私達は揃ったところで簡単に報告し合い邸へと帰途についた。

 ひと休憩した後に皆の意見や感想を聞き、その後に辺境伯とベティ様から見た意見を聞く。

 皆真剣な表情で話を聞き、質問をしたりと中々貴重な機会に皆にとっても有意義な時間と、良い経験となった。

 

 

ご覧頂きありがとうございます。


ブクマ、いいね、評価をいただき、とても嬉しいです!

ありがとうございますm(_ _)m

励みになります!


次回も読んでいただけたら幸いです。

よろしくお願い致します。



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