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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第3章 決意を新たに
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197 街の散策


 街へ行く途中、領主館や騎士団の場所を案内されつつゆったりと馬車で向かう。

 シベリウスと同じところは自然が多く、緑が広がっている。

 違う点は大きな山脈が続いているところだ。

 この山脈の向こうにレイフォール陛下が治めるゼフィール魔国がある。

 シベリウスと兄弟領と言われるだけあり、何処となくあちらと雰囲気が似ている気がする。

 気候に関しても、こちらは暑いと感じる程だからシベリウスとは全然違う。

 あちらはまだ涼しさが残る。

 似ているといえば、アル伯父様とセイデリア辺境伯の二人は似ていないようで似ている気がするのよね。

 本人達には言わないけれど。

 アル伯父様もだけど、セイデリア辺境伯も確かベティ様の猛烈な口説きに落とされたそうで、今度時間のある時にでもじっくり聞きたい話だ。

 伯父様とセイデリア辺境伯もやはり兄弟領と言われるくらいだから女性から口説かれるところも似たのかしら。

 お茶目な妄想はさて置き、私達は馬車から降りて街を歩く。

 街は活気に溢れ賑わっていた。

 温かいので服装も軽やかでいてグランフェルトでよく見られるデザインもあるけれど、少し変わった服装をしている人もいる。

 よく見れば商人や冒険者のようで中にはゼフィール国出身の人達もいるのが見て取れる。

 シベリウスにはヴァレニウスの人達が多く行き交っていたが、こちらはゼフィール国がお隣なので彼の国の人達が多く見掛ける。

 私は久しぶりの外出とこうして街を歩く事を楽しんでいると、マルクス卿がセイデリアについて軽く説明してくれた。



「エリアス様、エレン様。この辺りは商業区になります。セイデリアでは質の良いルビーが採れますのでその加工品が有名ですよ」

「確かセイデリア側で採れるものと国境を越えてゼフィールで採れる鉱石ではその輝きが違うんだったな。ゼフィール国で採れるものは純度と彩度が高くその輝きも鮮烈だと。此処で採れるものはオレンジや黄色の混じったものや青みがかった濃く明るい物が多く、其々に魅力があるのだろう?」

「仰る通りです。ゼフィールで採れるものはその色味が魔王陛下の瞳に似ている事からそちらが好まれますが、セイデリアで採れるルビーも人気なのですよ」



 確かにレイ様やベティ様の瞳の色はとても色鮮やかな赤い瞳ですものね。

 此処で売られているルビーの色とは違うわ。

 そういえば、レグリス達兄弟の中で髪色はアストリッド嬢とレグリスがベティ様と同じ漆黒だけれど、ベティ様の瞳を受け継いではいないわね。

 皆辺境伯と同じ瞳の色をしている。

 


「何かいい匂いがするな」



 私達が今歩いているのは丁度カフェの前だった。

 果物の匂いと香ばしくて食欲のそそる匂いが漂っている。



「これは焼菓子ですね。旬の果物を使っているので女性にとても人気が出ています」

「ルイスが話していたお菓子ですわね」

「お兄様、今日は帰り際にこのお店に寄っても良いかしら?」

「お土産なら前日でも良いんじゃないか?」

「お土産に買う時はそうしますわ」

「あぁ、エレンが食べたいんだね」



 お兄様は笑いながらそう仰った。

 その通りなんだけど、何だか食いしん坊みたいで恥ずかしい。


 

「先ずはお昼にいたしましょう。この先にあるお店で予約を入れてあります」



 今日の予定はつい先ほど決まったばかりなのに何時予約したのかしら。

 よく予約が取れたわね。

 不思議に思いつつもお腹が空いたので先ずはお昼をいただく。

 二階席が貸し切りとなっていて私達は周囲に気遣うことなくゆっくりとセイデリアの料理を堪能する。

 シベリウスと違って気候が温かいので、それに合わせたお料理だった。

 山菜を使ったサラダにメインは猪肉で少しずつ三種類がプレートで出てきたときは驚いた。

 王宮ではこのようなことは無いので新鮮だ。

 薄切りにしてローストしたお肉をゆずを使ったようはポン酢みたいなものを掛けたものに、ワイン煮込みにこの国では珍しく猪カツにトマトソースが添えられていた。



「これは何だ? 初めて見るな」

「それは猪肉にパン粉をまぶして炒め焼きした料理ですね。共和国でよく食べられているみたいですよ」

「それが何で此処で食べられるんだ?」

「確か、祭りの時に商人たちが領民に振舞った事から此処の料理人が教わり出しているのです」

「やはり王宮にいるだけでは知らない事が多いな」



 お兄様はそう呟きながら料理を堪能していた。

 私にとっては記憶があるので珍しくないのだけれど、この世界では初めて食べるので何だか懐かしい気持ちになる。

 他の皆も触感がいいのとあっさり食べられるのでとてもいい笑顔だ。

 やっぱり皆で食べるご飯は美味しいわ。

 食事が終わり、街歩きを再開する。

 お昼を過ぎて街は更に賑わいを見つつ、少し外れた先には果樹園があり、その奥には畑が広がていた。

 主要の街道を真っすぐ来ているので遠くに見えるだけなのだけれど色んな野菜を育てているとマルクス卿の説明を聞きながら視線を動かすと、長閑な景色と裏腹に街の外れに武装した冒険者達の団体を見つけた。



「何かあったのか?」

「いえ、彼等は今から山の見回りに行くのですよ。舗装された山道でも獣は出ます。それに今は落ち着いているとはいえ魔物が出やすい場所ですから。後は盗賊の牽制も兼ねております」

「シベリウスと同じだな」

「そうですね。普段から見回る事によって異変に気付きやすいですからとても重要なのです」



 いつも見ている森や山が普段と違えば気付きやすいので普段から様子を伺う事は大事な仕事で、それはシベリウスでも同じ事。

 見落とすと大きな災害をもたらしかねないから。



「そろそろ引き返しましょうか」



 この先は山道へ続く道があるだけなので私達は来た道を引き返す。

 見物しながら歩いていると良い時間になっていて、途中で可愛らしいお店をディオが見つけた。



「あれは何かしら?」

「あのお菓子は果物に溶かした砂糖漬けし冷やしたものですね。見た目が可愛いので子供から女性にとても人気です」



 あれってフルーツ飴よね!

 懐かしいわ。

 折角なのでお店に入ると色んな種類の果物飴が綺麗に並べられていた。

 そして内装もとっても可愛らしいくて親子や女性客で賑わっていた。



「果物の種類も沢山あるのね」

「エレン様はどれになさるかお決めになりましたか?」

(わたくし)は苺にするわ」

 


 苺も品種の違う苺が3種類串にさしているのがあり、私はそれを注文する。

 楽しんでいるのは私達だけでなく、お兄様を始め男性陣も選んでいた。

 購入したら外でも座って食べられる場所があったのでそちらへと移動する。

 色鮮やかな果物飴は甘くておいしい。

 お兄様も気に入ったみたいでひとつでは物足りなさそうにしていた。

 エドフェルト卿達も食べていたんだけれど、彼等は容姿が整っているから周囲の女性達からの視線が凄い。

 というかとても目立っていた。



「エレン、どうしたの?」

「あのお二人、とても目立っているわ⋯⋯、と思いましたの」

「あぁ、確かに目立っているな。女性の視線を釘づけにしているのは、まぁ何処に行っても見る光景だけどね」

「確かに、夜会でも未婚の女性陣から迫られていますものね」

「こちらとしては助かるよ」

(わたくし)達が目立つと少々大変ですものね」

「良い隠れ蓑だな」



 お兄様とこうしてのんびり話をしたり、外出する事もシベリウスへ行って以来の事だからとても高揚していて楽しさと嬉しさで溢れている。

 楽しくて仕方がないわ。

 それに側近の皆と一緒だしね。

 私のその楽しさが伝わったのか、後ろからティナ達の会話が聞こえてきた。



「エレン様が楽しそうですわ」

「宮廷では中々お見せにならない姿よね」

「学園でのお姿に近いと思います」

「確かに、ロベルト君の言う通りね」



 会話が私の話ってどうなのかしら。



(わたくし)は別として、皆はどうなの?」



 私だけが楽しんでいても仕方がない。

 だからといって私と同じように楽しいを強要させるわけじゃないけれど、折角だから私の事は別として考えて、其々楽しんで欲しい。


 

「とっても楽しいですわ! 王都にも似た様なスイーツはありますけれど、新鮮さで言えば全然違いますもの」

「ディオったら感想はそれなの?」

「ディオ様は意外に食いしん坊ですよね」

「ロベルト君、その言い方は止めて!」

「私は事実を言っただけです」



 何時の間に軽口が言えるくらい仲良しになったのかしら。

 良いことよね。

 私の思いは杞憂だったと、皆が楽しそうに話しているから安心した。

 お兄様の側近達も軽口を言い合って楽しそうに笑っているから良かったわ。



「そろそろ行きましょうか」


 

 マルクス卿の一言で私達の街歩きを再開した。

 そして私が寄りたいといったお店まで戻って来たので店内へ入り、私は先ず焼き菓子が並べられている所へ行く。

 クッキーだけでなく、間にクリームや果物を挟んだものから種類がとても豊富だった。

 それに見た目もよくとても美味しそう。

 焼き菓子よりもパイの生地にクリームと果物を挟んだお菓子に惹かれる。



「エレン、迷ってるなら全部買ったら?」

「全部買っても食べきれませんわ。勿体ないです」



 あまりに私が迷っているのでお兄様が全種類買おうと言い出してしまった。

 余っても、というか絶対余るけど、お世話になる邸の侍女達に振舞ったらいいとお兄様の提案に乗り全種類購入した。

 店を出て馬車で邸に戻るとベティ様が出迎えて下さった。



「お帰りなさいませ。街は如何でしたか?」

「シベリウスと街並みは似ているが、その特性が違いまた新たな発見もあってやはり王宮で学ぶだけでは駄目だな」

「そうですね。実際に見て学ぶ事は多くあります。いくら勉強が出来ても実情を知らなければ意味がありませんからね」



 ベティ様が仰るとその意味が重い。

 やはり王族出身の方の話はためになる。

 一旦邸の中に入り、部屋へ案内される。

 ベティ様からお話があるようだ。



「明日の予定ですが、シベリウスで森へ実際に行ったとの事ですので、セイデリアの山も一度見て頂きたく、明日は騎士達と(わたくし)も共に参りますのでご安心ください」



 それを聞いたディオの表情が一段と輝いたのが目に入った。

 ベティ様の雄姿が見られるかもと期待しているのがよく分かる。


 

「あれから一年経ちましたがこちらの様子はどうですか?」

「先の事がありますので、今の所は穏やかですわ。魔物はそう多くありませんし獣達も大人しいです。商人達も安心して行き来しております。それはゼフィール側も同様だと報告を受けておりますわ。ただ山が穏やかになると盗賊やならず者達が山の中に現れますので、魔物よりそちらが懸案事項ですわね」

「シベリウスと同じですのね」

「山や森が安全だと分かると暫くそこを拠点として動こうとする単純な輩が増えるのはどこも同じですわね。見回りを強化しても何故か減らないものです」

 


 困ったものです、とベティ様は言うが、表情は全くそんな事なくどう対処しようかと爛々としている。

 明日の予定をお話させて頂いた後、お部屋で少し休み夜の歓迎パーティーへお兄様と一緒に向かった。

 細やかと言っていたけれど、思ったよりも豪勢だった。

 集まっているのは辺境伯の側近達に騎士団の方々も集まっていてお兄様と共に彼らの挨拶を受ける。



「ラーシュ卿、お久し振りですね」

「ご無沙汰しております、エレン様。覚えていて下さって光栄です」



 ラーシュ・パルメ卿とは私が四歳の時に王都のシベリウス邸で一度会っただけなのだけど、あの時の状況が状況だったのできちんと覚えている。



「ステラは意外に顔広いよね」

「意外は余計ですわ。アリシア時代に一度お会いしただけです」

「そうだよね。シアの時に会った人達は階級色んな人がいるよね。もうほんと驚くくらいだよ」



 お兄様はちょっと呆れ顔だ。

 当時の私の年齢と状況を考えたら⋯⋯、まぁ会わないような人達との交流があるので呆れられても仕方がないけれど、前向きに考えるとプラスの要素が多いので呆れはするものの悪い事ではない。



「マティお従兄様、訓練はどうでしたか?」



 私はマティお従兄を見つけたので声を掛けた。


 

「シベリウスとはまた違う訓練の仕方でとても勉強になります」

「今日は見学と少し参加してもらっただけなので、明日から本格的に訓練を始めます」



 そう辺境伯は楽しそうに仰った。

 そんな彼の笑顔を見たマルクス卿は嫌な顔をしていたが、お従兄様は楽しみだといった感じだ。


 

「アレクは大丈夫かしら?」

「はい! レオン兄上じゃなくて僕を送り出して下さったので弱音は吐きません。エレナ様を護れるように強くなります!」



 少し心配になってアレクに声を掛けるが、本人はとてもやる気に満ちていた。

 訓練の内容も年齢や本人の力量に合わせて組まれるのでそこは安心ではあるのだけれど、あの可愛いアレクが段々と頼もしくなっていく。

 あの可愛い従弟が成長する姿を見らるのは良い事だし、私を護れるくらい強くなるなん嬉しくもありちょっと寂しくもある。

 だってね、私が護ってあげたいって思うのよ。

 けど、それが出来なくて少しそう思うのは許してほしい。



「エレナ様、アレクは筋が良いのでこの先の成長が楽しみですよ」

「一年前にはそのように感じなかったのだけれど。貴方が言うならそうなのね」

「彼はアルに似ていますね」



 そうなんだ。

 領で見ていた時はまだそこまでだとは思わなかったけれど、短期間で随分と成長したのね。



「そういえば明日、辺境伯は一緒に行くのか?」

「はい。彼女が同行するので問題ないかと思いますが、念の為に私もご一緒致します」



 てっきりベティ様だけ同行するのかと思ったら辺境伯も一緒に行くのね。

 別に嫌とかではなく仕事の心配をしてのことだけれど、お兄様と私がいるのでこちらを優先させたのでしょう。

 視線を巡らせればディオがキラキラとした眼差しでベティ様を見ているのが視界に入った。

 ベティ様はティナと話をしていてそこにディオが付き添ったいるような形に見えるが、実際はディオがふらふらと惹き寄せられた感じね。

 その様子を見て私が笑っていると不思議に思ったお兄様に話し掛けられた。



「何か面白いことでもあった?」

「微笑ましいというか、ディオの様子が可愛らしくて。それほどベティ様に憧れているのね」



 私の言葉にお兄様と辺境伯がそちらへと視線を向ける。

 辺境伯は見慣れた光景なのか特に反応がなく、お兄様は私と同じような表情だ。


 

「久し振りに見ました。彼女の傾倒者を。彼女が此方に嫁いできた当初は沢山おりましたが、今では憧れだけではなく目標にしている者が多いです」

「憧れから目標とする方へ変わった、といったとこか」

「左様です。彼女の訓練を受けたものは脱落し憧れで終わるか目標になるか、どちらかですね」

「なるほどな」



 ディオがどちらに転ぶか、こんな事を思うのは申し訳ないけれどちょっと気になるわ。

 ディオだったら目標として訓練に励みそうだけどね。



「エレン、先程購入したお菓子がきたよ」

「こうしてきれいに並べられるとより一層美味しそうですわね」

「エレン様はお菓子がお好きだと伺いましたので、ご購入されたものだけでなく別のスイーツもご用意させていただきましたので、ご賞味いただければと思います」



 そう言って並べられたのは目からも楽しめる小さい果物がたっぷりのパフェだった。

 セイデリアで採れた果物をふんだんに使いクリーム、果物、ナッツがきれいな層になっていた。

 折角なので先にそちらをいただく。



「美味しいわ!」



 果物がとても新鮮で瑞々しい。

 メロンの甘さに甘夏の苦みが甘いクリームによく合っていて、そしてナッツを荒く砕いたその食感もとても良い。

 甘すぎないところがなお私好み。

 私が食べ始めてからお兄様をはじめ、ティナ達もパフェに手を伸ばした。



「エレン様は本当に甘い物がお好きなのですね」

「それは否定しないけれど、女性なら好きな方は多いでしょう?」

「確かに」

「美味しくて甘い物をただくと幸せになりますものね」



 私の言葉に何時の間にかベティ様が近くに来て私に同意した。

 次は今日買ってきたお菓子に手を伸ばす。

 サクッとしたパイ生地に苺の甘酸っぱさとヨーグルトクリームの程よい甘さがあっていてこちらもくどくなくて美味しい。

 これはルイスも食べたくなるわね。

 彼女がお土産にと頼む気持ちがよく分かるわ。

 お料理とお菓子を堪能し、話に花を咲かせていると時間はあっという間に過ぎ去った。

 翌日は朝食後に山へと向かう予定を確認し、今夜は明日に備えて早めのお開きとなった。

  

ご覧頂きありがとうございます。


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ありがとうございますm(_ _)m


次話も楽しんでいだけたら嬉しいです。

よろしくお願い致します。

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